ぐいぐい来るΩ弓と来られても困るα槍
novel/15907575
↑続き書いた。どっちも女々しい。〜片想いから両想いへ〜R-18になってしもた
現パロで大学生な2人
オメガバース
槍視点
私の性癖に都合のいい世界を構築したのでお好きな方は握手しましょう!
(※キャラとか設定とかガバガバ。なんでも大丈夫な方向け)
書きたいところまで書いたら続きがえっちくなりそうだったのでその直前で切りました。えっちいシーンは私にはハードル高かった。
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「きみは私の運命だ!今日こそ私と番になってくれ!」
周りの視線もなんのその。白い髪をオールバックにして爽やかな笑顔で同じような事を言われたのが丁度ひと月前くらいだろうか。何度言ったかも忘れた同じ答えを今日も返す。
「だから、俺はお前と運命の番な自覚も無いんだっつの……それどころかお前がΩに変わったのも分かんねぇくらいなんだぞ?気のせいだろうからいい加減諦めてくんねぇ?」
通常であればαの俺はΩの匂いに多少なりとも気付く。しかし目の前のこいつからは昔から変わらず何も感じない。
元々βだったこいつは後天的にΩになったらしいが、正直、言われても気が付かないほど何も感じない。そんな相手に運命の番だと言われても納得なんてできないだろう。
「気のせいではない!諦めもしない!だから番になるだけでいいと言っているだろう!運命の番だぞ!普通とは比べ物にならないほど相性が良く番になれば他のフェロモンに悩まされる事も少なくなる!他にも受けられる恩恵は多々あるし良いじゃないか!ほらちょっとがぶっとするだけだろう!」
「近い近い近いやめろこの野郎!ほんといい加減諦めやがれ!」
ずいずいと近づく顔を押しのける。
どうしてこうなったのか。そもそもこいつとは特別仲が良かった訳でもない気がするのだが。
ただ昔から学校が同じで、たまにクラスが同じになる事があっても話す事は少ない、本当にただの顔見知り程度の相手だったはずだ。
大学に入って数ヶ月ほど経った頃だろうか、偶然廊下で見かけて、ああまたこいついるんだな、なんて考えてたら突然「番になってくれ!」ときた。それから事ある毎に付きまとわれる。意味が分からん。
「それでもαかランサー!運命のΩが噛んでくれと言っているんだ!ほらさっさと噛め!」
「だーかーらー!噛まねぇし番わねぇっつってんだろ!もうさっさと帰れ!」
最近の恒例と化したこのやり取りに周りも、ああまたやってると慣れた視線を送っている。けれど決して助けようとしてはくれないのも、このひと月で分かっている俺は今日はどうやってこの男を追い払おうか考えるのだった。
──────
「はぁ〜〜〜〜毎日しつけぇな……ほんと何で俺なんだよ……」
「良いではありませんか。貴方、今特定の相手がいる訳でもないのでしょう?もう軽く番ってみては?」
項垂れている俺にとんでもない事を言い出したのは、長い髪を上の方で束ねた長身の女、ライダー。友人と言っていいのかは疑問だが、それなりに親しく話す間柄だ。
そんな関係なものだから、今のように適当な事を言われる事も多々ある。
「そんなノリで一生もんの決断ができるか!第一よく知りもしねぇやつとなんか番えるかよ!」
「ならば私が教えて差し上げましょう。彼の料理は絶品ですよ!」
声がした方を見れば後ろの席で弁当を広げている女、セイバーがいる。よく俺のバイト先に顔を出すもんだから話すようになった。
さっきまでいなかっただろう。いつの間に来やがった。
「ああ?お前アイツと知り合いだったのか?アイツの飯なんて食ったことあんのかよ」
「特別親しいというわけではありません、それこそあなたと彼の関係と同じくらいです。しかしですね、以前私が空腹で行き倒れていた所を助けて頂いたのです!彼は自分のお弁当を私にくださいました。あの時ほど食事が幸福だと感じた事はありません」
胸に手を当てて感慨にふけっているセイバー。
この細身でありえないほどの量を食べるこの女にとって、空腹はそれこそ死活問題だったのだろう。
しかしこのご時世に行き倒れるとはどういう状況なんだ、と突っ込めば面倒な事になりそうなのでやめた。
未だに意識がどこかへ行ってしまっているセイバーを無視して弁当箱を覗き込む。普通よりもでかい弁当箱の中は見栄えも良く、とても美味そうなおかずが並んでいた。
「なぁ、じゃあこれもアイツが作ったのか?」
「ええそうです。毎日ではありませんがあれからというもの、彼は時折こうしてお弁当を作ってくださるので……って、ああ!ランサー貴様!」
葱の入った玉子焼きをちょいと摘んで口の中に放り込んだ。
「お、うまっ!」
ふわふわで少し甘く、葱が良いアクセントになっていてとても美味い。そしてとても俺好みの味だ。
「へぇ、アイツ料理なんて出来たんだな。めちゃくちゃ美味いじゃ……」
弁当に釘付けだったから気が付くのが遅れた。顔を上げると、わなわなと体を震わせてこちらを睨む鬼がいた。
「アーチャーの……アーチャーのお弁当……私のお弁当……」
やばいやばいやばい!弁当が気になっててこいつが異常なまでに食い意地張ってるのを忘れてた!このままじゃ俺が死ぬか俺の財布が死ぬかだ!
助けを求めてライダーの方を見ると既に影も形も無かった。
逃げ足早ぇ!
「あーっと!セイバー飲みもん無いんじゃねぇ!?茶でも買ってきてやるよ!」
そう言って廊下にダッシュする。後ろから呼び止める声が聞こえてきたがすぐに聞こえなくなった。
ははっ、かつて陸上部最速と呼ばれた俺をなめんなよ!
「うげっ」
自販機までの廊下を走っていると先程ようやく追い返したばかりの男と出会い、目が合ってしまった。
一難去ってまた一難かと思っていると、目を逸らされ、あろう事か走り出して逃げられる。
「はぁ!?ちょ、おい!待て!」
とっさにその背中を追う。すると、振り向きこちらを向いたアーチャーがぎょっとした顔をして走るスピードを上げた。
俺から逃げようなんざいい度胸してんじゃねえか!
自分も速度を上げて距離を縮めていく。気付けば外で、人も少ない場所まで来ていた。ここなら一気に追いつける。
「オラァ!観念しろや!」
「うわぁ!」
飛びついたせいで二人して地面に転がった。
「いっ!何するんだ!」
「お前が逃げるからだろー」
「追いかけられる理由の検討がつかないのだが……」
言われてみれば、そういやなんでこいつ追いかけてんだ?理由といえばただ逃げたから追いかけただけだ。
「……逃げたら追いたくなったんだよ」
「キミは野生動物か?」
「んな事言ったらお前だってなんで逃げたんだよ」
「うぐっ……」
沈黙。
どちらも明確な理由を言えないまま数秒。ふと、先ほどの事を思い出した。
「そういやお前、料理なんてできるんだな。セイバーのやつの玉子焼き食べたんだが美味かったわ」
「へ?あ、ああ、食べた、のか?……そ、そうか……美味しかった、か」
あ、笑った。
口元は必死に耐えているのだろうが、目元が笑みを隠しきれていない。本人は隠せていると思っているのだろうが雰囲気で喜んでいるのがばればれだ。
隠さなくても、普通に笑えばいいのにな。
「そ、そうだ!なぁキミ、セイバーと一緒にいただろう?これを渡してくれないか?お弁当と一緒に渡すはずだったんだが忘れてしまってな」
鞄から出して渡されたのは水筒。なるほどセイバーが飲み物を持っていなかったのはいつも飲み物も一緒に渡されるからだったらしい。
「んぁ?ああ、別にいいが、自分で渡したらいいじゃねえか」
「えっ、あっ、いや、私は……そう!これから予定があるんだ!急がなくてはいけないからキミから渡してくれ!それじゃあ!」
そう言って水筒を押し付けられる。
服についた土埃を払うと、あっという間立ち去ってしまった。
「……なんだあいつ」
さっき来た時はいつも通りだったのに、今のアイツはいつもと違うというか、少し変だったな。
初めて見るアーチャーの態度や表情が頭から離れなくて、その場でしばらく水筒を弄んでいた。
──────
「おーいランサー、外にお客さんだぞー」
「客?」
キッチンに入っていた俺を店長が呼ぶ。仕事中でも店長を通して俺を呼べる奴なんざ限られてるものだから嫌な予感しかしない。
表に出ると嫌な予感は的中していた。
「なんですかランサー。そんなにあからさまに嫌な顔をしないで頂きたい」
「いやそりゃ無理な話だろ……」
そこにいたのはセイバーだ。数時間前まで会っていた人物でもある。
アーチャーに水筒を託された後、セイバーの元に行くとすっかり弁当の中身は空だった。どうやら俺は長い時間空けていたらしく、おまけにセイバーの機嫌もなおっておらず、水筒の中身を一気飲みしたセイバーに購買に拉致された。
そして見事に俺の財布はすっからかんになったのだ。
そんな相手と時間を空けずに再び会えば嫌な顔にもなるだろう。
「まあいいでしょう。あなたにお願いがあって来たのです。これをアーチャーの家まで届けて頂けませんか?」
差し出されたのは昼に見た弁当箱の入った包み。
「…………は?…………はぁ!?なんで俺がそんな事しなきゃいけねぇんだよ!そもそも俺アイツの家なんて知らねぇぞ!?」
「そこをなんとか頼まれてください。いつもは学校にいる間に返しに行くのですが今日はアーチャーが捕まらなくて、私はこれから外せない用事があるのです。アーチャーの家の住所は教えますから」
「いやいやいや、んなもん明日でもいいだろ?今日じゃなくたって……」
「それが、彼は明日から一週間ほど来ないらしいのです。予定があるとかで、なので今日のうちに返したい。ランサー、どうか」
ずい、と包みを押し付けられる。その目は絶対に断らせないとでも言わんばかりの気迫を感じた。
そしてぼそりと一言。
「…………アーチャーの玉子焼き」
「わかった!わかった持ってくから!だからもうそれでチャラにしてくれ!」
食い物の恨みは恐ろしい。身をもって体感した日だった。
──────
小さな紙切れを頼りに、あまり来たことの無い街を歩く。
この住所だとこのあたりだろうか。じきにアーチャーの住んでいるアパートも見えてくるだろう。
「はぁ……なんでこんな事してんだ俺……」
肩を落として盛大に溜息をつく。
いったい俺が何をしたってんだ。
だが運が悪いのは割とよくある事なのでまだいい。問題はこれから行く所がアーチャーの家だということだ。
毎日のように俺の所に来ては運命だの番になれだの言ってくるアイツを、その度になんとかして追い返しているのだ。今日も来ていたから、一日に二度もなんとかしなければいけないと思うと憂鬱だった。
「まあこれ渡すだけだし、さっさと帰ろう」
でも今日は、いつもと様子が違ったんだよな。
「っと、ここか」
目的地に着いたことで思考が霧散する。
そこには白を基調とした中々に綺麗なアパートが建っていた。部屋の番号を見るとどうやら二階の一番奥の部屋らしい。
階段を登る間に素早く退散できるような台詞を考える。しかし、この小さなアパートではすぐに扉の前まで来てしまってあまり意味はなかった。
「……あ〜、どうにでもなれ」
ピンポーン
部屋のチャイムが鳴る。そう待たずに扉の向こうから反応があった。
「はい、どちら様ですか?」
アーチャーの声。てっきり扉が開くと思っていた俺は返事をするために近付いた。
「あー、アーチャーだよな?ランサーだ。ちょっと届けもんがあったんだが……」
「えっ!?ランサー!?」
ガチャガチャと鍵の開く音、勢い良く扉が開いた。
「うお危ねぇ!」
「ランサー!?本当にランサーだ!ど、どうしてこんな所に!?」
危うく扉に激突するところだったがすんでのところで躱した。文句を言ってやろうかと思ったが、出てきた人物を見て黙り込む。
いつも上げている髪を下ろして、少し緩めの、いかにも部屋着という服装で、なんというか、いつもより幼く見えた。
「お前、髪下ろすとすげぇ印象変わるのな」
「あ、わ、わあぁぁ!」
バタン!と閉まる扉。静まり返って数秒すると、ガチャリとほんの少しだけ開いた。隙間から覗いているのがなんだか可笑しい。
「きゅ、急に来るなんて聞いていない……どうして私の家知ってるんだ……」
「ふはっ、悪ぃ悪ぃ、ほらこれ、弁当箱。セイバーのやつがどうしても今日返したいっつってな。あいつ用事があるからって俺に押し付けたんだよ。住所もあいつに聞いた」
「ああ、そうだったのか。それはすまなかった、ありがとう」
少ししか開いていなかった扉をしっかり開けて、今度こそ包みを渡した。
「まさかキミが届けてくれるとは思わなかったよ」
「あぁ、ちょっといろいろあってなぁ」
ははっ、と乾いた笑いが込み上げた。あの事は終わったんだ。忘れよう。
「じゃあ渡したからな、帰るわ」
「ああ、ご苦労さま」
引き止められることも無く、予想よりも呆気なく会話が終わって思わずその場に留まってしまう。
望んでいた事のはずなのに、どうしてか疑問の方が大きくなる。余計な事はするなと言う自分を押しのけた。
「なぁお前、もしかして体調悪いのか?」
「……っ、どうし、て?」
「いや、なんでかは分かんねぇんだけど、何となくそう思ったんだよ」
そう言うとアーチャーは徐々に俯き、弁当箱の包みを抱えて、ついに蹲ってしまった。
「おい!大丈夫か!?」
「大丈夫……大丈夫だから……なんでもないから……きみは帰ってくれ」
「そんなんで大丈夫な訳ねぇだろ!……ちょっと邪魔するぞ」
勝手に玄関に上がり扉を閉める。
こんな見るからに無理をしていそうな人間を置いて帰れるほどの性格はしていない。
アーチャーの抱えていた包みをひったくって床に置き、引っかけていたサンダルを脱がせて自分も靴を脱いだ。
腕を肩に回して支え立たせる。触れた所が何処も熱い。熱があるのだろうか。
「ランサー、ランサー……大丈夫だっ、て」
「わかったわかった。とりあえず寝るとこまで運ぶぞ」
アーチャーの言葉を半ば無視して寝室を探す。部屋数は少なかったのですぐに見つかった。
ベッドや机、クローゼットなどの必要な家具くらいしかない、少々殺風景な部屋。
ベッドに近付きアーチャーをゆっくりと横たえる。少し息が荒く、元々の肌の色で気が付かなかったがよく見ると顔も赤い。
「熱あるんじゃねえの?すげぇ熱いぞお前」
額に手を当てるととても熱い。
アーチャーはふるりと震えると、手を伸ばして俺の手を退けてしまった。
「違う、違うんだランサー……ただの……っ、はっ、発情期……ヒート、なんだ……風邪とかじゃないから……大丈夫だから……」
その言葉にピシリと固まってしまう。
Ωのヒートはいつもよりフェロモンのバランスが崩れる。その分αにも影響を及ぼすものだが、俺は相変わらず全く気が付かずにその可能性に至らなかった。
ヒート時期の己など見られたくはなかっただろう。
「悪い、気が付かなかった。とりあえず戸締りはしてくから、なんかあったら連絡しろ。俺の番号書いとくから」
自分の電話番号を書いていく。
ふと、アーチャーの様子がおかしい事に気付いた。
「は……ははっ、やっぱり、きみは……っ、何も、感じないんだな…………ふっ……ほんとに、俺が……っ、勝手にキミのことを、運命の……番だなんて、思い込んでるだけ、なのかもなぁ」
ヒートだからではないだろう、歪む顔に震える声。
潤み零れ落ちそうな瞳を腕で隠される。
いつものこいつとは全く違う姿や言動に何も言えずにいると、俺に背を向けて自身を抱きしめるように丸くなった。
「いつも、そうだ……おれはいつも、キミの匂いに、くらくらする……っ、くらいなのに、きみ……は、気付かなくて、気のせいだ……って」
震えながら己を抱きしめる手に力がこもるのがわかる。その姿が痛々しくて、なんとかしてやれないかと無意識に手を伸ばしてしまう。
「……ずっと、っふ……ずっと好きだった、から、おめがになったとき……もしかしたらって、思って、しまったから……っ……あるふぁの、きみと、番えるんじゃないかって……」
伸ばした手はどこにも触れること無くピタリと止まった。
ずっと、ずっとと言ったかこいつは、Ωになった時?ってことはΩになる前から?そんな素振りはなかったはずだ。だってろくに話した事もないのだから。
「男でも、おめが、ならって……そんなこと、かんがえて……ひっ……だから、きみのにおいが、特別だったから……運命だって、思って……嬉しくて……でもやっぱり……おれの都合のいい……ぐすっ……思い込みっ……なんだろう、なぁ……」
泣きの混じった声、諦めの混じったその言葉に何かが湧き上がってくる。
「きみの……いうとおり……っう……気のせいなん、だろう……迷惑をかけて、すまない、もう、キミのこと、運命だなんて言わ」
「突然押しかけてきて番えっつって、んで突然やっぱりいいですってか?」
目の前の背中がビクリと跳ねる。
思った以上に低く出た声に自分でも驚いた。俺は今怒っているんだろうか。自分の感情のはずなのに何かが渦巻いているような感覚でよく分からない。
先ほどよりもさらに身を縮めてしまったこいつをなんとかしてやりたいと思う自分もいる。
どうしたものかとため息をつくと、丸くなった背中が再び跳ねた。
失敗した、自分の行動を反省しながら、これ以上刺激しないようにゆっくり話しかける。
「すまねぇ、調子悪い時に話す事じゃなかったな……無理矢理上がり込んで悪かった、今日は帰るわ。…………帰る前になんか、して欲しい事あるか?」
覗き込むように顔を見ても枕に埋められ隠されてほとんど見えない。
しばらく待っても返事はない。それもそうだろう。俺は変わらず何も感じないが、どうやらこいつは俺のフェロモンにあてられているらしい。ヒート中に番でもないαが近くにいるのは辛いんじゃないだろうか。
「じゃあ俺、帰るからな。鍵はかけて郵便受けにでも入れとくから」
「さい、ご……に……」
小さな声で呟き、ころりと体をこっちに向けた。ヒートによる生理現象で目元は濡れ、頬は火照って息も荒い。抑えられないのであろう情欲が滲むが、悲しげな、苦しそうなその表情はきっと、俺がさせているんだろう。
「少し……すこしで、いいから、……っ、抱きしめ、て……くれないだろう、か……きみのにおいに、つつまれて、みた、く……」
段々と尻すぼみになる言葉と伏せられる顔。ぎゅっと瞑られた目から涙が溢れて流れる。
「いや、なんでも、ない……かえってく……れ?」
気付いたら、ベッドに乗り上げていて、体の間に腕をねじ込んで、脚を絡めて頭を抱え込み、隙間なんてできないくらい、強く強く抱きしめていた。
「え、なに……なにを、あ、え……うぁ」
肩口で混乱したような声が聞こえるが無視する。
とても熱い体温が自分に移っていく。
どうして抱きしめたのか分からない。帰れと言われたのだからそのまま帰ればよかったのに。そもそも自分は普段、こいつに迷惑していたはずだ、心配なんぞしてやる理由もない。
なのに、抱きしめてやりたいと思った。
こいつが帰ってくれと言った時、無意識なのかもしれないが俺の服を摘んだ。少し動けば離れてしまうほど、本当にささやかに。
言葉とはちぐはぐなその行動は、もしかしたら本能的なものなのかもしれない。だったら俺のこれも、本能的なものなのだろうか。だがそんなもので片付けるのは、何故か嫌だと思った。
「ら、らんさ……ぁ……っ、はっ……離して、くれっ……」
「んだよ、してくれって言ったのはお前だろ?」
「ちがっ……だい、じょうぶ……だからっ……きみがこんなこと、する必要はない……っ!だから離し、て」
必死に俺を引き離そうと手足を動かしているが、全く力が入っていないから少しの隙間もできない。しかしあまりにも必死に抵抗するものだから、言い出したのはそっちだろうと少し腹が立ってより深く抱え込んだ。
「……っあ!……んっ、はぁ……」
太腿にあたる硬い感触。腕の中の身体が跳ねる。そしていつもより高く艶めいた声。
「お前、これ……」
体を少し離して顔を覗けば、さっき流れ落ちたはずの涙が再び瞳いっぱいに膜を張っている。
ああ、また泣かせた。
「いつもは!こんなにならないのにっ……!薬を飲めばヒートなんて分からないくらいなのに……きみが……っ!きみの匂いでいっぱいでっ!……っ……触られたところが……ぎゅってされたところが熱くて!」
とうとう溢れてしまった涙を指で掬うと、さらに顔を歪めてしまう。そんな顔をさせたい訳ではないのに。
その手を払われて子供のように嫌々と首を振り、両腕で顔を隠してしまった。
「頼む、帰ってくれ……これ以上……キミに、こんな姿を晒したく、ない……今まで、すまなかった……もう会いにも……っ、行かない、から……だからこれ以上──」
嫌いにならないでくれ
小さな小さな声。聞き逃してもおかしくないその言葉が、不思議とはっきり聞こえた。
腹が立って、悲しくなって、優しくしたくて、もう自分でもわけが分からない。抑えられない。
両腕を強引に剥がしベッドに縫い付けて覆いかぶさる。驚きに目を見開いた顔。薄く開いたその唇に口付けた。
「んっ!?……ふっ……ん……んぅ!」
無理矢理割り開いた口の中は、とても甘かった。
歯列をなぞり、舌を絡め、口付けを深く深くしていくと甘さが増す。
あちらの方が高かった口の中の温度がやがて同じくらいになった頃にようやく唇を離した。
「はぁ……んっ、ぁ……はっ……」
濡れた唇、蕩けた瞳、乱れた呼吸。
どれもこれもが俺の欲を刺激する。どうしようもないほどに。
そして口の中に残る甘さと、それと同じような甘い匂い。
「はぁ……は……なん、で……えっ?……ら、ランサー?」
首元に顔を埋めて肺いっぱいに息を吸った。
ああ、確かにこれは、くらくらするな。どうして今まで気が付かなかったのか。これは、こいつが俺を運命だと言ったのも頷ける。
「なあ、これから俺、多分お前に酷いことするからさ。許さなくていいから、後で殴りに来てくれよ」
返事を待たずに貪るようなキスをした。