政府が米増産方針から転換…「仕方ない」「減らしたくない」農家の思い複雑【食糧法改正案が閣議決定】
「米価の安定のためには仕方ない」「需要のある魚沼コシは減らしたくない」-。コメの「需要に応じた生産」を明記した食糧法改正案が閣議決定された3日、石破茂前政権の増産方針からの転換に対し、県内農家は複雑な胸中を口にした。コメの供給不足に備え、政府が新たに打ち出した「民間備蓄制度」の導入については、実効性のある制度とするためのルール作りを求める声が上がった。 【表】食糧法改正案の要点 「需要に応じた生産」は過剰在庫を回避し、米価の下落防止につながる。県内有数の穀倉地帯、新潟市西蒲区の巻地区で23ヘクタールを作付けするコメ農家の長谷川智行さん(49)は「民間在庫が積み上がる中、米価が下がることは覚悟している。そうした情勢も踏まえ、価格の安定に向けた取り組みは大切だ」と一定の理解を示した。 ただ、改正案では「生産調整」の文言が削られたものの、実質的な減反は続く。周囲には独自の販路を築くなど経営努力を重ねてきた生産者もいる。長谷川さんは「農家が自分で売ることで、つかんできた需要もある。さまざまな立場がある中、ひとくくりにしてしまうことには違和感を覚える」と困惑する。 約40ヘクタールを作付けする南魚沼市の「ひらくの里ファーム」の青木拓也社長(36)は「魚沼コシはふるさと納税の申し込みも多く、生産量は減らしたくない。今の販路を維持できる制度にしてほしい」と望む。 「需要に応じた生産」では何が起きると想定されるのか。コメの販売に詳しい流通経済研究所(東京)の折笠俊輔常務理事(43)は「国内市場の需要だけ見れば、生産の縮小につながる。国内消費を増やし、輸出や飼料向けの需要を増やしていくことが重要だ」と指摘する。 改正案ではコメの供給不足に陥った「令和の米騒動」を踏まえ、一定規模以上の民間事業者に対して保有を義務付ける「民間備蓄制度」を導入するとした。 昨年、備蓄米が放出された際に精米を請け負った野上米穀(長岡市)の野上茂会長(76)は「昨年は備蓄米が小売店に並ぶまでに時間がかかった。普段から流通にかかわる民間業者が備蓄を持てば、いざという時にスムーズに対応できるだろう」と受け止める。 一方、県内のある集荷業者は「長期保管できる低温倉庫は不足している。保管料のほか、輸送費や精米場所の確保も課題になり、国によるコストの補塡(ほてん)やルールづくりが必要だ」と訴える。 民間備蓄制度ではJAグループも一定の役割が求められそうだ。県農協中央会(JA県中)の伊藤能徳会長は「行政、生産者、関係団体が一体となって需要に応じた生産に取り組み、需給の安定を実現することを期待する」とコメントした。