人気投票アンケート結果SS「ジェイスとテオリッタとパトーシェの場合」

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2022-09-19 18:46:11

「あ?」
 その質問を受けたとき、ジェイスは自分の眉間が引きつるのを感じた。
「ザイロの話だと?」
「そうです! 我が騎士について、私に教える名誉を差し上げます」
 テオリッタは胸を張った。いつも偉そうな少女だ。ジェイスにとっては、その根拠のない自信がどこから来るものかまったくわからない。


「ザイロは昔のことをまったく話したがらないので、ジェイスなら知っているだろうと思いました! 噂によれば数々の武勇伝があるとか。保護者として、《女神》として、私には把握しておく義務があります」
「他のやつに聞けよ」
「誰も当てになりません。軍隊にいたジェイスなら詳しいのではないかと」
 当てになるやつがいない。ジェイスは懲罰勇者の顔ぶれを思い浮かべる。たしかに正規の軍人をやっていた頃のザイロを知っているのは、かろうじてベネティムとツァーヴあたりだろうが、あの二人から情報を得る気にはならない。

……それは、お前もか?」
 ジェイスは視線をテオリッタの傍らに移した。
 まるで警護兵のように厳めしい顔つきで、直立している人間がいる。新入りの懲罰勇者だ。パトーシェ。
「私は別に、やつの過去を知りたいわけではない」
「そうか……
「本当だ。なんだその目は!」
「普通の目だろうが」
「テオリッタ様もその目はおやめください」
……
「沈黙しないでいただけますか? 証言してください、私には目的があると!」
 パトーシェが叫ぶように言うと、テオリッタはいまひとつ納得がいっていない顔でうなずいた。
「パトーシェは勝手についてきました。なにか……目的があると、本人は主張しています」
「主張している、ではなく、真実です! ……少し、調べておきたいことがあるだけです。あの男が敵対していた相手や、集団、利益が競合する関係があったような輩について!」

 面倒なことになった、とジェイスは思った。
 やはり用事を済ませたら、さっさと竜房に戻るべきだった。鞍の補修用の器具を取りに来たついでに、食堂になど寄るべきではなかったのだ。何か果物でもニーリィたちに届けてやろうと吟味しているうちに、こんな連中に絡まれるとは。
 思い返せば、パーチラクトの領地でも羊や馬によく絡まれた。彼らの言葉がわかる貴重な「二本足」だから仕方がない。適当に相手をしてやればこいつらの気もすむだろう。
 ただ――

「お前も軍隊にいただろうが、パトーシェ。仮にも聖騎士団長やってた人間のことを知らねえのかよ」
「活動期間がほぼ重なっていない。軍学校を卒業するまでは、ほとんど噂話のレベルでしかなかった」
「なんて噂を聞いてた?」
「人類には現代の英雄が二人いる。その二人のうち、獰猛な方がザイロだと」
 どことなく不満そうな響きがある。ジェイスは深く椅子にもたれかかり、手元のリンゴに齧りつく。
「それだけわかってりゃ十分だろ。他に何を付け加えることがある?」

「違います。もっと、こう……個人的な話というか……人間関係というか……私が知りたいのは、そういうことです!」
 テオリッタは抗議しながら、ジェイスの向かい側の椅子に腰を下ろした。食堂には他の兵士はすくない。懲罰勇者部隊が使う時間帯はいつもそうなる。
「特に、あの……前に仕えていた《女神》とは、どんな感じの方だったのかとか……
「よく知らん。まあ、目立つ二人ではあったけどな」
「目立ちましたか」
「城砦を召喚することができる《女神》だろ。とにかくデカいから、地上の目印としては役に立った。戦い方も派手だったしな……《女神》が城壁をつくって、それをあのアホが聖印で吹き飛ばすとか」

 一度、ジェイスもその光景を空中から見たことがある。
 吹き飛んだ城壁に潰されて、魔王現象がなぎ倒されていった。それが中央戦線を支え、魔王現象の足が止まったところで、右翼から第十一聖騎士団が突っ込んで終わらせた。そういう戦いだった。

「恨まれてたって話で言えば、恨んでたやつはそりゃ多いだろ。あいつの性格はたぶんもともとあんな感じだ」
……そうか。例の事件があって、あのように捻くれた可能性を考えていたが……
「それはない」
「私もないと思います」
 ジェイスが断言すると、テオリッタも訳知り顔でうなずいた。ひどく自信がありそうだった。
「だって、ザイロですよ」
「それもそうですね……では、敵対する相手は特定できないほど存在したということか」
「俺は人間どもの力関係なんて知らんから、他を当たれ。ただ、強いて言うなら、聖騎士志望のやつらだろうな」

 ザイロが聖騎士を拝命したのは、その戦闘能力と軍事的技術によるところが大きい。
 ジェイスにはよくわからないことだが、家格や神殿に対する貢献度によって聖騎士を目指していた連中からは、相当に恨まれただろう。ただ、そういうやつらは真実を理解していない――聖騎士はただ能力によってのみ選ばれる。この十二人の役職だけは人間の間でも特別であるようだった。
 血統や根回しはほとんど意味をなさない。そういうことをわかっていない者は、ザイロを恨んだかもしれない。その程度ならジェイスにも理解できる。ただ――

「なんであんなに聖騎士になりたがる連中が多いのか、俺にはわからんけどな」
「それは当然でしょう。《女神》に仕える栄光ある立場ですよ! 尊敬しなさい」
「知るか。俺にも話が来たことがあったが、あんなクソ忙しいだけの仕事は御免だな。いちいち部下を指揮しなきゃならねえし、もう人間どもを引率するのはうんざりだ。頼んだことの半分もできねえし、すぐ疲れるし、第二王都を襲撃したときには仕方なかったが、あれを仕事にするなんて――
「待て。なんだと?」
 パトーシェの片眉が吊り上がった。どうやらそれが、この女にとって『驚き』の意思表示らしい。

「ジェイス、貴様、いまなんと言った? 貴様に聖騎士就任の話があったのか?」
「そう言っただろうが。アホか?」
「ど、どの《女神》だ?」
「ああ――その頃宙に浮いてた第四か、しつこく退任の要請してる第七だったか」
「断ったのか!」
「当たり前だろ」
 そもそも自分にはニーリィがいる。《女神》に構っている暇はない。的外れで押しつけがましい依頼だった。
 ただ、いくらか青ざめた顔で、パトーシェとテオリッタは顔を見合わせた。

「風と雲を召喚する第四聖騎士団に、獣の戦団を率いる第七聖騎士団……いずれも竜騎士との相性はいい。空中戦力をはるかに増強できる。それは事実ではあるが……よりによってジェイスに就任依頼をするとはな」
「あ! そういえば」
 テオリッタが納得いかないといった顔で腕を組んだ。
「ジェイスも有名だったのですか?」
「ええ。一応は軍人として、名前は聞いたことがありました。たしかに……この男と少しでも個人的な付き合いがなければ、多大な戦果を上げる軍人として判断されるでしょう。そして個人的な付き合いが誰とも発生しないことにより、この男のこういう内面も一切わからないわけですから」

 失礼なことを言われている気がする。
 だが、人間どもの評価など知ったことではない。ジェイスは残りのリンゴを噛み砕き、腰をあげた。もう十分つき合った。
「もういいだろ。食事時間が終わる、お前らもさっさと兵舎に戻れ」
 ち、ち、と舌を鳴らして手を振る。パーチラクトにいた頃は、これで羊や馬もある程度納得して戻ったものだ。しかし、人間と《女神》はどうも物分かりが悪いらしい。羊や馬の方がまだマシだ、とジェイスは思った。

「待ってください! まだあんまり聞けていませんよ。ジェイス、あなたの話はしばしば予想外の事実が出てきます」
「そうだ。まだ隠していることがあるなら言っておけ。ザイロの他の人間関係、特に軍の内部での話など――
「あいつの話なんて」
 隠していることなどない。そもそも知ろうと思ったことが無い。
 いや――そういえば、あの男に関して妙な連中から接触を受けた気がする。なんという貴族だったか。ザイロ・フォルバーツをやたら目の敵にしている《詩華の会》とかいう人間どもで――あのときは、しつこかったので何人か殴り倒した記憶がある。
理由はあの男が会への参加を拒否したとか、どうとか……そういう話を……
(いや、どうでもいいな、本当に)

「帰る」
「待て、いま沈黙したのがすごく気になるぞ! 言え!」
「ジェイス! 面倒くさくなると沈黙するのはあなたの悪い癖ですよ!」
 パトーシェと《女神》が騒いでいたが、心の底から面倒になってきた。まったくもってザイロ・フォルバーツという男は、平穏なジェイスの生活にろくな影響を及ぼさない。


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