女神と国王の夕べ

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2021-05-29 18:16:19

「《女神》による慰問?」
「そうだ」
俺が聞き返すと、ノルガユは真面目くさった顔でうなずいた。

「難民たちの心を慰めるため、《女神》テオリッタにお姿を現していただきたいのだ」
また突拍子もないことを考えるものだ。そういうことは行政室や神殿にでも任せておけばいいというものだが――さすが自分を国王だと思っている男は違う。

「《女神》御自らの手で配給を行い、言葉をかける。それで心が救われる者もいるだろう」
「まあ、それはそうかもしれないが……
あまり問題になるような活動ではない。懲罰部隊が、自主的に奉仕活動に立候補するのだ。推奨されこそすれ、罰則の対象にはならない。

「ええ。私は構いませんよ!」
テオリッタは意気揚々と片手をあげた。
それはそうだろう。人前に姿を見せて称賛される。それこそ《女神》の本懐というものだ。

「この偉大な私が姿を見せることで、皆さんに元気を与えられるなら。喜んでノルガユの願いに答えましょう」
「おお、さすがは《女神》」
ノルガユは感動したようだった。
「そのように快諾いただき、恐縮の極み。余の統治を末代まで嘉していただきたい」
「統治の方はよくわかりませんが、人々のためです。あの、炊き出しをするのですよね? エプロンとかつけた方がいいですか?」
「いえ、《女神》に料理をお願いいただこうとは思っておりません。そのような些事は人にお委ねください。――というわけだ、ザイロ」

ノルガユは俺を見た。俺はその意図を図りかねた。
「ああ?」
「貴様も聖騎士として付き従うのだ。調理も担当してもらう」
「俺が? ……テオリッタ一人でも料理できるよ、炊き出しくらいいけるって」
……以前、パトーシェ・キヴィアにこの責務を任せたことがあった」
急にノルガユは声を低め、俺に顔を近づけた。小声で話しているつもりらしいが、基本の声がでかいのでたぶんテオリッタにも聞こえている。

「やつの料理の腕から逆算して、普段料理を行わない《女神》に調理をお任せするわけにはいかん」
「ああー……そういう?」
「聞こえていますよ、ノルガユ! 無礼です!」
テオリッタは胸を張り、俺とノルガユの間に割り込んだ。
「いまや私も立派に料理できます。パトーシェに教えてあげる立場なのですから!」
そうしてテオリッタは自分を指差す。
「この私にお任せなさい!」

――後の話になるが、この会話を偶然通りがかったパトーシェが耳にして、ひどく落ち込んだという。


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