美術鑑賞についての覚書

Public 1796views 6 21 864
2021-05-28 16:07:29

「ザイロくん。陛下が呼んでいますよ」
「嘘をつけ」
俺は即座にベネティムの嘘を見破った。
この手口にはもう慣れた。この男はノルガユから命じられた無理難題を、俺にたらい回しにしようとする。
そういうとき、こういう切り出し方をするのだ。

「ほ、本当ですって。呼んでるんです。どうも美術館に行きたいらしくて……
「お前がそのお供を命じられたんだろ。で、かったるいから俺に持ってきた」
「いえ、違います。様々な雑務が溜まっているので、今日の私は都合が悪いだけです」
「なんでお前はそれを真顔でスラスラ言えるんだよ」
ベネティムの面の皮の厚さにはいつも呆れる。絶対に面倒くさいだけだ。

「だってお前、美術とかにぜんぜん興味ないだろ」
「ええ、まあ……その……まったく理解できなくて。陛下のおっしゃってる中期古典がどうとか、微妙主義のベントマイアがどうとか……
……美相主義のヴェンクマイヤーのことだろ。抽象画の革命家」
「ザイロくん、詳しいですね」
「有名だからな。中期古典じゃ最高峰だろ、目が飛び出るくらいの金額がつくぞ」

この辺の名前を知らないあたり、ベネティムは本当にまるで興味がないらしい。
絵の金額のことを口にしても、少しも感心したような反応を示さない。

「私はよくわからないんですよね……陛下の言う絵とか建築とか」
「お前、趣味とかないのかよ。ゴシップ関係の三流新聞読むぐらいか? ジェイスでさえたまに笛とか吹いてるぜ」
「いえ、それだけってことはないですよ……私も捷球の試合は見に行きますし」
「ホントかよ?」
捷球というのは、ボールを使った競技の一種だ。屈強な連中がボールを持って駆け回り、ぶつかり合うという派手なもので、中央ではかなりの人気がある。わざわざ金を払ってチームを養っている貴族もいるくらいだ。

「初耳だな。で、どのチームのファンなんだ?」
「ザイロくん、忠告しておきますが、気軽にその話題は出さない方がいいですよ。まずは会話の中で探るべきです」
「なんでだよ」
「最悪、戦争になりますからね」


Press the Nice button to this post.


© 2026 Privatter All Rights Reserved.