腕を失ったトレーナーとライスシャワー
昔似たようなことを経験しました。
事故処理をしていたら後方から突っ込まれてガードレールで切断という事故です。
その時失ったのは腕ではなく首でしたが…
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空を覆う灰色と足を鈍らせる大地を気にもせず3200mの芝を走り終えた漆黒のウマ娘は地下バ場で待つトレーナーの元へ駆け寄った。
「勝ったよ!お兄さま!」
「ああ、しっかり見てたよ」
そう言ってトレーナーは左手を上げた。
その仕草を待ってましたとばかりにライスシャワーは頭を差し出す。トレーナーはその小さな頭に手をそっと置き優しく撫でた。
「よしよし。偉いぞ」
「えへへ……」
この光景を見る者は皆一様にこう思うだろう。まるで親子のようだ、と。
しかし当人達はそんな事など気にする様子もなく、互いに満足するまで触れ合っていた。
しばらくすると、トレーナーはゆっくりと手を離す。
ライスシャワーは、撫でられた頭を大事そうにさすりながら言った。
「ありがとう、お兄さま。ライス次のレースも頑張るね!」
「そうだな、頑張っていこうな」
そうして2人は並んで帰路につく。
その道すがら、ふと思い出したようにライスシャワーが尋ねた。
「ねぇ、お兄さま」
「どうした?」
「お兄さまはなんでライスとずっと一緒に居てくれるの?」
「なんだいきなり」
唐突な質問に、トレーナーは少し面食らう。
だがすぐに気を取り直し、落ち着いた声で返答をした。
トレーナーにとって、それは当たり前のことだったからだ。
「まあ俺はライスの担当だからな、ずっと一緒にいるさ」
ライスシャワーはその答えに目を丸くすると、嬉しそうにはにかんで、トレーナーの腕を抱いた。
トレーナーもそれを受け入れ、彼女の頭に手を置く。
「長距離走って疲れただろ?ちょっと車呼んでくるから腕を放してくれないか?」
しかし彼女は離れようとしない。むしろ強く抱きついてくる。
「仕方ないな……」
トレーナーは困惑した表情を浮かべるが、すぐに諦めたように笑うとそのまま二人で並んで歩いた。
成仏してクレメンス