トレーナーの若気の名残
トレーナーがえぐめのピアス付けて、耳を大事にしているウマ娘たちがそれを見てドン引きする話です。
最近書いたウマ娘小説がホラーホラーと言われているので、普段のとは違う作風のやつを書きました。
こんなに多くのウマ娘を一作品に登場させたのは初めてで、キャラの口調が変かもしれません。
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――きっかけは、些細なことだった。
そのトレーナーは髪が長く、耳が隠れていた。なので彼の耳を見たことのある担当ウマ娘は少なかった。
そのきっかけとは、トレーナーが耳を掻くために髪をかきあげた時だった。
偶然その場に居合わせたウオッカが髪の隙間から目にしたのは、耳に開けられたピアス穴。それを見たウオッカは目を輝かせて、トレーナーに問い詰める。
「トレーナー! あんたピアス付けてたのか!?」
「え? あぁ、これか」
――ピアス、それはウオッカのような「カッコいい」を求める者ならば誰しも憧れる物。特にそのいかにも悪っぽいっという感じが、彼女の趣味にクリーンヒットしたのだ。
対しトレーナーは、特に躊躇いも無くその穴を見せる。それによって、ウオッカの目の輝きは更に増した。
「まぁなんだ、若気の至りって奴だな」
「クゥーかっけぇ! いいよな人は、ピアス付けられて」
「いや、ピアス付けてるウマ娘はいるだろ? フジキセキとかエアシャカールとか」
「皆が皆して簡単に付けられるわけじゃねーんだよ、家庭の事情もあるがウマ娘にとって耳はデリケートだからな、基本反対されちまうんだ」
ウオッカにそう言われ、確かに耳にピアスを付けたウマ娘はいるがトレセン学園の生徒以外で見たことが無いことに気づくトレーナー。
ウマ娘の耳は、感情と直結していると言っても過言ではない程に動く。ピアスといった耳飾りより耳覆いをしている娘の方が多い。
そんな耳に穴を開けたりするのは、世間一般的に良しとはされていないのだろう。考えてみれば、ピアスを付けている生徒は一癖も二癖もある娘ばかりのような気がする。
「それよりもトレーナー、ピアス付けてたんならまだ持ってるのか!?」
「まだ持ってるが……見たいのか?」
「おう! 明日付けてきてくれよ!」
仮にもトレセン学園という一つの学校に勤める者が、ピアスを付けるなどあってはならないことだろうが、ウオッカに期待の眼差しを向けられて、断れず言葉が詰まってしまう。
「んー……しょうがないな、明日付けてくる」
「よっしゃ! 忘れんなよトレーナー!」
そう言ってウオッカが立ち去った後で、トレーナーはヤレヤレと言った感じで溜息をつく。
ピアスに憧れるなんてまだまだ子供なんだなと、ちょっと和やかな気分で今日の分の仕事を終わらせ、帰宅した。
ウオッカに言われた通り忘れないように、今夜のうちから何処かに閉まっていたピアスを探すトレーナー。意外にも早く見つかったところで、改めて本当に明日付けていっていいものかと悩んでしまう。
(結構えぐめのなんだよなぁ……コレ)
トレーナーが自分で語っていたように、そのピアスのデザインはまさに"若気の至り"だった。傍から見れば耳が串刺しになっているのではないかと思われてしまう程、過激なデザインだった。
しかも複数個、ウオッカは気づいていなかったがトレーナーのピアス穴は耳たぶだけではなく他にも多くあった。
「……まっいいか、ままよままよ」
しかし若い頃にこんなピアスを付けていた影響か、このトレーナーは少々楽観的だった。
このピアスで、面白おかしい阿鼻叫喚が生まれるとも知らずに――
そして次の日トレーナーは、約束通り数年ぶりのピアスを付けてトレセン学園へと向かうのであった。
「――どうだ、ご要望にお応えして付けてきたぞ」
――翌朝、トレーナーは運よくウオッカと出くわし、早速彼女の希望通りピアス付きの耳を見せる。見やすいように髪を耳の上に乗せて。
対するウオッカの反応は――絶句、言葉も出なかった。
肌色を彩るように点々と付けられたヘリックス、串刺しの如く貫通するポスト、etc。
こういったピアスを見慣れていない、特に耳の構造が違うウマ娘が抱く感想は"痛々しい"以外何も無かった。
てっきり一つ、多くて二つかと思っていたウオッカ。しかし想像以上のハードル越えに小さく悲鳴を漏らしてしまう。
普段カッコつけてはいるが彼女だって中等部の生徒、ついこの間まで小学生だった女の子がこんな物を見て目を輝かせるわけがなかった。
簡単に言うとビビっていた。
でも、それを悟られるのは良しとしないのがウオッカというウマ娘。
「……な、なんだよ! 思っていたよりも地味じゃねーか!」
「そうかぁ? 結構えぐいやつかと思うが……」
「ぜ、全然! 俺からすればまだ地味過ぎだぜ! もっとシルバーのやつ付けるとかよ!」
「マジ? 最近の子ってこれでも足りないくらいなのか」
そんな彼女の強がりが、トレーナーに変な認知を与えてしまう。
――人とウマ娘の耳は、構造的にも位置的にも役割的にも、あらゆる面で異なっている。
そんな両者が抱く"耳の在り方"が、同じであるはずがない。
(こ、こえ~~!! マジはこっちの台詞だぜ、痛くないのかなぁアレ!?)
ウオッカは震えていた。正直悲鳴を上げたかった。確かにピアスという存在には憧れていたが、人のピアスとはここまで過激なものなのかと。
声が震え、足が震える。彼とのトレーニングで培った根性で、それを隠す。
「じゃあ今日はずっと付けっぱにしとこっかな。ここで外すと無くしそうだし」
「え、あ……それがいいと思うぜ!」
この時、彼女が変に強がらず彼を止めていれば、あんなことは起きなかったかもしれない。
しかしウオッカは、この場後にするトレーナーの背中と耳をずっと見つめることしかできなかった。
素晴らしい