春先はSNSに「学童落ちた!」という投稿が目立つようになります。2026年もX(旧ツイッター)には途方に暮れる保護者の声がいくつも投稿されていました。
【グラフ】「放課後児童クラブ」の登録児童数は増え続け、25年は前年より5万693人も多い過去最多の157万645人となった
「待機児童」や「小1の壁」「小4の壁」という単語もあちこちで目にしたり耳にしたりするでしょう。いずれも学童保育に関連深い言葉です。
待機児童はかつて保育所で大問題となり、16年には「保育園落ちた日本死ね!」が流行語に選ばれたほどでした。ところが今は保育所の待機児童数より学童保育の待機児童数の方がはるかに多人数です。
こども家庭庁のまとめで、保育所の25(令和7)年4月1日時点での待機児童数は2254人と前年比313人減でした。これに対し学童保育では同年5月1日時点で1万6330人の待機児童数でした。
前年から1356人の減でしたが依然として待機児童数は多く、中でも小学4年生の待機児童数は5589人と最多で、これが「小4の壁」の実態です。
小1の2人に1人が学童保育を利用
学童保育で待機児童になると、下校後や夏休み等の期間に自宅でこどもが留守番を強いられ、防犯面の不安や生活規律の問題が保護者を追いつめます。結果、保護者の退職や正規職から非正規職への転職を余儀なくさせるキャリア形成中断を引き起こします。
女性(母親)が正規職をあきらめ収入が減る非正規職に転じることが多く世帯所得の減少に直結します。人材育成にコストを投じてきた企業側にも損失です。待機児童は百害あって一利なしです。
国は待機児童の解消を掲げて14(平成26)年策定の「放課後子ども総合プラン」と18(平成30)年策定の「新・放課後子ども総合プラン」で5年ごとの対策を進め、24(令和6)年からは「放課後児童対策パッケージ」を毎年策定して対策を講じてきました。
その間も待機児童問題は解消せず「放課後児童クラブ」の登録児童数は増え続け、25年は前年より5万693人も多い過去最多の157万645人となりました。
小学1年生の2人に1人、小学生全体でも4人に1人が学童保育を利用している計算となります。
待機児童はひとえに量的整備の遅れによるものですが、急激な少子化への警戒と、学童施設を増やしても低賃金重労働の業務が敬遠されて事業者が職員を確保できない現状から、自治体も公設学童施設の整備に乗り気ではない傾向があり、待機児童数が高止まりする要因の1つと考えられます。
筆者はかつて数十に及ぶ学童施設を運営する法人トップとして学童保育運営に携わり、さまざまな生活パターンの人が学童保育に入所するのを見てきました。
学童保育は以前こそ「フルタイム勤務の保護者で、公務員や医療従事者、大企業の勤め人」の世帯が利用するイメージでしたが今やすっかり様変わりし、保護者が非常勤パート職員や就学中といった方でも利用申請をするようになっています。
女性の就業率が右肩上がりで上昇を続ける中で、保育所にすんなり入所でき、こどもを預けて働いたり看護や介護をしたりする生活パターンを確立している子育て世帯は迷うことなく学童保育も利用します。
「こどもを預けて親が働く」生活の構造が当たり前になり、自治体による整備もそれなりに進展したことで、以前は「あってよかった学童保育」だったものが今や「あって当然の学童保育」になっています。
小1の壁・小4の壁まったく存在しない地域も
学童保育の制度と目的を正確に説明できる人は少数でしょう。児童福祉法には「放課後児童健全育成事業」と定義されていて、就労等で留守の保護者のこどもを「適切な遊び及び生活の場」で健全に育成することが目的です。
この事業を実施している場所が放課後児童クラブであり、学童保育(所)は放課後児童クラブの一般的な名称(ただし自治体で定める条例や要綱などで学童保育所と表記していることはある)です。
放課後児童クラブではない学童保育所もあり、いわゆる「民間学童保育所」と呼ばれる、習い事が中心で送迎サービスも充実している、月額5万〜10万円程度の高価格帯の施設がそれにあたります。
しかし本来の学童保育は「こども自身が通いたいと思える居場所」であって、遊びを通じてこどもが自ら主体性や自己肯定感等の非認知能力を伸ばしていく場所といえます。学童保育の職員はこどもの活動を援助、支援するのが仕事です。単なる見守りの仕事ではありません。
学童保育は放課後児童健全育成事業として1997年に法定化されるまでの間、ずっと法定外の事業として保護者が自発的に、あるいは地方自治体が補助金を出したり運営を引き受けたりして独自に発展してきました。
その結果、地域によって学童保育の内容や性質がさまざまに異なる現状をもたらしました。
入所についても「待機児童を出しても施設定員を厳格に守る」地域と「弾力的に定員超過で入所させて待機児童を出さない」地域や「放課後全児童対策事業で待機児童を発生させない」など異なる取り組みとなっています。つまり、小1の壁も小4の壁も全く存在しない地域があるのです。
待機児童を出さないために必要なのは…
学童保育の現場は、待機児童問題にどう対応しているのでしょう。埼玉県北本市内を中心に学童保育所を運営しているNPO法人うさぎっ子クラブ理事長で学童保育コンサルティングも行っている青柳恭義氏が説明します。
「待機児童を出さないために必要なのは場所。狭隘化が問題となっていた学童について24年度からは廃校を利用して施設の分割を行いました。送迎が必要な児童は自前でバスを購入して毎日運行しています。外遊びを多く取り入れ、狭い室内に子どもたちを押し込めないように工夫しています。
外遊びには若手の支援員の力が欲しいところですが、卒室生をアルバイトで採用する流れを作り、若手の確保をして外遊びを充実させています。共働きが当たり前の時代、待機児童を発生させないことが第一の支援と考えています。行政側にも予算捻出の努力をしていただいていますが、職員の工夫と努力で乗り切っているのが現状です」
子育て世帯は待機児童にどう対処すればいいのでしょう。筆者は「こどもが小学生になる前に待機児童を出していない地域に居住することが最善」と勧めていますが、転居もままならない場合はどうでしょう。
高市早苗首相は企業活力によるこどもの居場所づくりを掲げていますが、それが実を結ぶには数年かかるでしょう。
いま待機児童で困っている子育て世帯には低学年のときだけでも民間学童保育所を利用したり、ファミリー・サポート・センターに申し込んだり、または複数の習い事を組み合わせることでしのぐしかないのが実情です。
「日本版DBS制度」への対応は?
学童保育が直面する課題は待機児童だけではありません。「日本版DBS制度」への取り組みが急務です。
これは26年12月25日に施行されるこども性暴力防止法によるもので学童保育は「認定事業者」となることで日本版DBS制度を実施することになります。
日本版DBS制度の諸課題に詳しい鈴木愛子弁護士は、「学童保育はその歴史的経緯から、運営が保護者等によるボランティアによる例も存在するほか、国の調査で約2万6000のクラブ数に対して事務等のバックヤードを担う職員数は約6100人と、事務員のいないクラブが多数派という実情があります」と学童保育の脆弱な構造を挙げます。
そして「こども性暴力防止法は、前科という究極の機微情報を民間に渡し、児童対象性暴力等の『おそれ』がある者はこどもに接する業務に就かせない(解雇ではなく、配置転換が基本)との防止措置を事業者に求めます。
しかし多くの学童保育には適切な犯罪事実確認には必須の事務員もいなければ、支援員等として雇った職員の配置転換先もない。認定事業者になった後の情報管理や労務管理への対応が困難な学童保育が多い」と指摘します。
「学童保育は市町村が実施する、公金が投入された社会的インフラであり、日本版DBS制度の認定取得を自治体に求める世論が強くなることは確実です。こども性暴力防止法の施行は、学童保育のインフラとしての重要性と制度基盤の脆弱性のアンバランスさを社会に突きつけるものになるでしょう」(鈴木弁護士)
日本版DBS制度そのものはこどもを性暴力から守る重要な制度ですが、その実務上の対応が学童保育においては構造的に困難なのです。国にはこの制度の円滑な適用のため学童保育の世界に丁寧な案内をする必要があるでしょう。
(萩原 和也 : あい和学童クラブ運営法人 代表理事)