目にゴミが…入っただけなんですが
「マスター!!ちょっとこのコスメ使ってみてよ」
「え?何それ」
「すっっごくまつ毛が伸びるの!」
「いや、俺のまつ毛伸びても…メイヴちゃん使わないの?」
「私はほら、今が完璧だから」
「メイヴちゃんサイコーっ!」
「ふふ、流石ねマスター」
事の発端はここである。
ーー✩.*˚ーー
ちょこっとだけネタバレ?要素あります。
本当に掠り程度ですが、2部のカルデアでの話です。
設定等はガバガバですので、広い御心で見て頂けると幸いです。
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「痛っ」
マイルームにて次のレイシフトどうしようかな…なんて考えながらシステムウィンドウをポチポチやってたところ、悲劇。
最近、「男もスキンケアする時代よ、マスター」なんてメイブちゃんに言われ、色々やられてるうちにバッサバサになったまつ毛。
それの謀反である。
「あー取れない!」
ボロボロ出てくる涙が止まらない。
鏡を見るが、視界の前が滲んでよく見えない。
そんな最悪なタイミングに、扉が開く音がした。
プシュッと軽快な音と共に自動ドアがスライドする。
「マスター!!おっはよ…ぉ?」
扉の方を振り向くと、ぼんやりした視界の先にピンク頭がふわふわ揺れている。
「おはよ、アストルフォ」
目をゴシゴシと擦りながら返事をする。
「マスター」
「ん?」
コツコツと床を歩く音が近付く。
「何があったの?何をされたの?誰に!?」
「え??アストルフォ?」
グッと頬を両手で挟まれる。
「嫌な事言われた?僕が懲らしめてくるから教えて」
「いや、何も無いけど」
アストルフォは、「ふーん」と言うと俺の頬から手を離す。
「マスター、僕用事を思い出したから行くね!ばいばーい」
「あ、うん。バイバイ?」
くるりと踵を返すと、スタスタ歩いて出ていった。
嵐のようだ。
「…嫌な予感しかしない」
彼が出ていった扉を見て、俺は呟いた。
ーー✩.*˚ーー
「やっと取れたーっ!!」
視界の悪い状態でのまつ毛との戦いに勝利した俺は、気が付けば目が真っ赤になっていた。
「目の周りがヒリヒリする…」
氷で冷やすか、と医務室へと向かった。
途中、何人かのサーヴァントに遭遇したが皆口を揃えて「何があった?」と不機嫌そうに聞いてきた。
「皆、様子がおかしい」
今日は何か予定があったかなぁ…と思案するが思い付かなかった。
いつも明るいみんなの機嫌が悪いのは少し気になる所ではあるけれど、心当たりが無いのではどうしようもない。
とりあえず、置いておくことにしよう。
「ふちょー、氷ください」
医務室の扉を3回ノックしてから開く。
「氷?何に使うので…」
「おい、その顔は何だ」
俺に振り向いた医者と看護師のコンビが固まる。
「???」
分からず、とりあえずニコリと笑ってみる。
「なんという事なの!!」
明らかに婦長がギリッと歯を噛む。
え、ここも不機嫌??
困ったように笑い返せば、アスクレピオスがやれやれと額に手を当てた。
「マスター、此方へ来い」
「はい」
アスクレピオスの前に置かれた椅子に座る。
「何があった」
またこれだ。
何が何だか分からない…
「何も無いよ??」
本当に心当たりがないのだ。
何で皆にそう聞かれるのかも分からない。
「正直に話せ。患者の個人情報を保護するのは当然の事。心配は無い」
「えーと…」
困って俺の斜め後ろに立って控えているナイチンゲールに目を向けるが、「マスター」と言うだけで促されているようだった。
「何かって具体的に何?」
質問を質問で返すのは良くないと分かっているが、これしか方法が思い付かない。
アスクレピオスは、ゆったりと腕を組んで背もたれに寄り掛かる。
「言いたくないか?」
「言いたくないも何も…」
俺は一生懸命に思考を巡らす。
何かしたっけなー…
「マスター、これを」
小さいアイスノンを婦長から受け取って、漸く目を冷やせる。
と、ふと思い付く。
「もしかして、俺がここに来た理由?」
医者は頷く。
「何だ、それならまつ毛が目に入って…それが取れなくてさ。涙止まらないし、擦っちゃって赤くなるしで」
説明してるのに、医者は段々不機嫌そうな顔付きになる。
何で??
「ごめんなさい!そうだよね!目を擦ったら逆効果だよね!?」
愚患者と怒られるかなー、と思って謝るがじっと俺を見たままため息をつかれた。
「どうしたの?」
「いや、いい」
アスクレピオスは、やれやれといったように肩を竦めた。
「お前はそんなやつだからな」
少し寂しそうにそう言った。
「用事が済んだなら帰れ」
先程と違って、いつもの医者に戻ったアスクレピオスは俺を追い出すかのように、しっしと手を振る。
「ありがとう、先生、婦長」
2人にぺこりとお辞儀をして医務室を出た。
扉が閉まる瞬間、盛大な舌打ちが聞こえた気がしたが気のせいだと思うこととする。
ーー✩.*˚ーー
「お腹空いたなー…」
医務室から出て、マイルームに戻るかどうか迷っていたら、腹の虫がぐーっと主張する。
「うん、食堂行こっと」
今日は誰が食堂担当だったかな…と考えながら食堂へと向かう。
途中でへシアンロボと遭遇し、すれ違いざまに尻尾でもふもふされた。
珍しい事もあるものだ!
ルンルンで食堂に辿り着いた。
「あら、マスター」
厨房から顔を覗かせたのは頼光だった。
「頼光さん!こんにちは」
俺はカウンターテーブルに着く。
「今日のご飯は何?」
「今日は…」
近付いてきた頼光ママの目が見開かれる。
「あらあら、まあまあ!マスターどうしたのです?」
優しい声色で言われるが、目が笑っていない。
「どうしたって…目?」
頼光は頷く。
「これは、目にまつ毛が入ったのが取れなくてさ。擦っちゃって」
はは、と笑う俺の頬に手が添えられる。
「そうですか。しかし、母に嘘を吐く必要はありません。さぁ、誰に嫌な事をされたのです?こっそり母に教えてください、マスター」
…漸く俺は気が付いた。
これ、かなりヤバい状態である。
「いや、本当だって!誰にも何もされてないから!頼光ママのご飯食べたいなー」
そう言うと、ぱん!と手を叩いて「そうでしたね」と厨房へと戻って行った。
「なるほどなー…これはマイルームに引き篭るしかないか」
やっと事態を理解した俺は過保護なサーヴァントたちを思ってため息が出た。
カルデアのスタッフが嫌いなわけでないはずなのだが、如何せんマスター至上主義なサーヴァントが多いのだ。
自分で言うのもあれだけど…
多分、原因はカルデアが崩壊したせいだ。
あの日、俺を残して座に還った事を後悔したと様々なサーヴァント達に言われた。
何故自分があの場に居なかったのか…マスターの居場所を守る事が自分の使命であり、マスターが幸せになる事が願いであった…と。
カルデアが仮に崩壊していなかったにしろ、俺は魔術協会に招集が掛けられていた。
多分、英霊召喚の為の聖遺物にされる所だった。
その事も何処からか聞いたみたいで、俺以外の人間不信というか…過保護に更に拍車を掛ける結果となったのだ。
そして、ボロ泣きして真っ赤になった目の俺。
しかも、最初に見られたのが通称走る拡声器アストルフォである。
広まるよね…
「さぁ、マスターの大好きなオムライスですよ!熱いので気を付けてくださいね」
頬杖をついてぼーっとしていた俺の目の前に、湯気の上がるふわとろオムライスが差し出される。
デミグラスソースの香りに、お腹が鳴る。
「ゆっくり食べてくださいね」
くすくすと笑いながら頼光ママは目を細めた。
「ありがとう!いただきます!!」
オムライスにスプーンを差し入れると、チキンライスの香りがふわりと立ち上る。
「んー!美味しっ!」
もぐもぐ頬張る。
お世辞とか無しにホントに美味しい。
「おう!坊主!美味そうなもん食ってんな!」
「あ、兄貴ズ!」グスッ
身体が温まったせいか、鼻水が…
あ、この状況ヤバい。
「おい、マスター」
「むぐっ」
オルタニキに顎を掴まれ、グイッと首を回された。
「痛い、痛い」
ぐずぐずの鼻を啜りながらオルタニキを見上げる。
「誰だ」
「ん?」
オルタニキの尻尾が不機嫌に揺れる。
その横で、他のクーフーリン達が各々の槍やら杖やらをこれみよがしに手にしている。
「誰がお前を泣かせた」
ギロリと殺意のこもった視線が周囲のスタッフに向けられ、「ひっ!」と小さな悲鳴と共に蜘蛛の子を散らすように誰も居なくなった。
スタッフの皆様、大変申し訳ない…うちの狂犬達が。
もう、これは収まりがつきそうにない。
「アヴェンジャー!!そろそろ助けてよ!見てたんでしょ!?」
うわーんと巌窟王を呼ぶ。
どうせ俺の影にずっと居たんでしょ?
するとクハハと笑いながら、ぬっと出てきた。
「何だ」
オルタニキが明らかに不機嫌な声を出す。
「マスターを離してやれ、クーフーリンオルタ」
巌窟王は煙草の煙をゆっくりと吐く。
ちっ、と舌打ちをしたオルタニキから解放される。
槍ニキとキャスニキはカウンター席の俺の両隣を陣取る。
「で?何があった」
またこの質問だ。
俺は助けを求める様に巌窟王を見る。
彼は未だ肩を小さく揺らして笑っていた。
「笑い事じゃないってば…」
俺は巌窟王の脇腹を小突く。
クハハと声を出して彼は笑った。
「だから、一体何だってんだ」
クーフーリンズが少し苛立ったように言う。
「いや、俺から説明する。どうせマスターが言ったところで、英霊達は信じないからな。クハハ」
「笑ってないで早く!」
「いや、すまない。マスターは目にまつ毛が入っただけだ」
巌窟王の言葉にクーフーリンだけでなく、厨房から様子を見ていた頼光ママまでもがキョトンとする。
「ちょうどボロ泣きしてた所をアストルフォに見られたんだよ」
俺も補足する。
「ライダーが誇大したんでしょ?」
はぁ、とため息が口から逃げる。
「何だ坊主!!虐められた訳じゃねぇってか」
槍ニキが声を上げて笑った。
キャスニキは俺の頭をこれでもかとぐしゃぐしゃに撫で回す。
「俺、何もされてないから大丈夫だって」
もみくちゃにされながら俺は言った。
「何だ、そうだったのか!僕はてっきりマスターを虐めた奴が居るのかと思った!」
「そういう事か。ま、何も無いに越したことはないけどな」
「しかし、やっと泣いてくれたと思ったのだが…」
わらわらと食堂に英霊達が現れる。
「え…どういう事???」
どうやら、霊体化して俺の様子を伺っていたらしい。
どんどん実体化して、食堂には溢れんばかりのサーヴァントの群れ。
「ごめん、マスター君」
「ダヴィンチちゃん?」
英霊達の中から、ダヴィンチちゃんが1歩前に出た。
「私達は、君の幸せを第一に考えているんだ。どんなに辛くても、苦しくても、君は絶対に弱音どころか泣く事をしない。マスターは良い意味で凡人だけれど、その心の在り方は決して凡人じゃない。だから、いつか壊れてしまうんじゃないかって気が気じゃないんだ。だから私たちは些細な君の変化にだって敏感なんだ」
ダヴィンチちゃんはまだ赤い俺の目元に触れる。
「でも、マスターが泣いてたって聞いた時は少し安心したんだ。この過酷な状況で、君が少しでも辛いとか苦しいって思いをやっと吐き出してくれるのかと思って。でも、理由を聞いても誤魔化されてると思って…だから、内部に君を悪く言う奴が居るのかと疑ったんだ」
しゅんとしている英霊達を見渡す。
ダヴィンチちゃんの言葉に、誰一人異を唱える者はいない。
「え、それってめっちゃ俺、愛されてんじゃん」
自分で言っておいて、顔が熱くなった。
正直に嬉しかった。
「当たり前です!我が子を嫌う母が何処に居ましょうか!」
頼光ママが半泣きで詰め寄る。
「今度こそ、後悔したくないんだ。マスター」
誰からともなく言われた言葉に皆が頷いた。
「皆さ、勘違いしてない?」
俺の発言に一斉に此方に視線が集まる。
凄い迫力だ。
「俺、別に弱音を吐いてない訳でも辛いのを我慢してる訳でもないよ。だって、俺が挫けそうになった時、必ず誰かが俺の前に立って盾になってくれるじゃん。護ってくれるじゃん。だから、平気なんだよ。言葉にしなくても、皆がちゃんと俺を見ててくれるから何度だって立ち上がれるんだよ。それはここのスタッフさんも同じ。マイルームにいっつもお菓子の差し入れが置いてあるんだよ」
誰か彼かがいつも側にいて、寧ろ1人になる時間が殆ど無いくらい見守られているのが事実。
そして、俺もまたその事に安心して、1人になりたいと思わなくなってた。
「俺、いっつも皆に励まされて護られてるんだよ?気付いてなかったの?」
そう言って今日1番の笑顔を見せると、ママサーヴァントは泣き崩れ、兄貴姉貴サーヴァントと子供サーヴァントにはまたもやもみくちゃにされ、パパサーヴァント等などは感激したのか目頭を押さえたり、「はっ」と鼻で笑ったりしてた。
こんな事があるから、俺には不幸になる暇さえないのに。
そう思った。
しかし、まさか目にゴミが入っただけでこの大騒ぎ。
ちょっと次は勘弁して欲しいかもしれない…と思った事は俺だけの秘密である。
おわり。
やだ·····本当に自分が泣いてしまいました💦凄い素敵な話しです✨✨