第290話 美雪、始まりの場所で

―美雪視点―


 何もできない自分の無力感と虚しさを感じて、外に出た。

 近くの場所を散歩することは、近所の人の目があるから、あえて電車で遠出する。

 住み慣れた街は、エイジとの思い出が詰まっていて、今は直視できない。エイジとたくさん歩いた道、デートしたお店、遊んだ公園。本当に大事な思い出が、今では凶器のように自分の心を突き刺しに来ている。


 時間が経てば経つほど、彼を失ったことの大きさを実感してしまう。少なくとも一年前までは、私にはエイジしかいなかったはずなのに。


 去年の自分がこの状況を知ったらなんて言うだろう。自分自身を許せなくなってしまうだろうなと思う。


 変わりたい。こんなダメな人間から変わりたい。エイジはずっと私のために手を差し伸べてくれていたのに。それなのに、裏切ってしまった。一番やってはいけないことをしてしまった。


 私は彼が横にいてくれる幸せに慣れすぎてしまっていたのだろうか。

 

 無意識に、エイジの誕生日に私たちが出会ってしまった場所に来てしまった。

 あの時の自分に嫌悪感すら感じる。何もできなかった。すべてが変わってしまうことが怖かった。自分の仮面が壊れることが怖かった。だからあの日、私はエイジに謝ることもできなかった。


『どうしたんだ、美雪? そんなにこいつがよかったら、好きにしろよ。ここで終わりにしたっていいんだぞ。俺と別れるか、こいつと別れるか。どっちを選ぶんだ?』


 あの日の言葉を思い出してしまう。浮気の事実をエイジに目撃されてしまったこと。そして、身近な人にまた捨てられてしまうという怖さに脅えてしまった自分がいた。お父さんと同じように、また捨てられたくない。そういう依存みたいな感情が出てしまった。


 でも、今ならわかる。そんなことは言い訳だと。最初からエイジを裏切るべきじゃなかった。そんな当たり前のことにもあそこで気づけなかった私は最悪の人間だと思う。


 捨てられたくない。もう誰にも捨てられたくない。

 そう思っていたのに、自分から大切なものを捨てていたなんて……そのせいで、自分から何もなくなってしまったなんてね。本当にバカだと思う。


「何もなくなっちゃったね」

 誰に告げるわけでもなく、ひとりごとが虚しく消えていく。


「みゆき?」

 後ろから震えた声が聞こえた。こんなところに私のことを知っている人がいるわけがないと思って振り向くと、蒼白な元親友が立っていた。


「律、なんでこんなところに?」

 彼女は見たこともないくらい悲しそうな顔をしていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【12月27日、3巻発売‼】人生逆転~浮気され、えん罪を着せられた俺が、学園一の美少女に懐かれる~ D@12月27日、『人生逆転3』発売! @daidai305

作家にギフトを贈る

いつも応援本当にありがとうございますm(__)m 励まされております。
カクヨムサポーターズパスポートに登録すると、作家にギフトを贈れるようになります。

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ