ロシア・ウクライナ戦争と日本の安全保障 |國民會館 読み込まれました

武藤記念講座

Muto Memorial Lecture

国際政治

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回武藤記念講座要旨

2025年6月7日(土)13:30~

ロシア・ウクライナ戦争と日本の安全保障

東京大学先端科学技術研究センター准教授 小泉悠氏

1.「ロシア・ウクライナ戦争」前史

 私が生まれた1982年当時、ソ連はアンドロポフ政権でした。彼はKGB書記長からソ連の書記長になった人物で、アメリカが本気で核戦争を仕掛けると思っていました。もし彼が判断を間違えていれば第三次世界大戦で人類が滅亡していたかもしれません。ところが2007年、私が大学院を卒業した頃の世界は随分のどかでした。91年にソ連が崩壊し、ロシア自体がボロボロとなり米ソ対立がなくなったからです。中国は経済発展をしていたものの、まだ軍事的にアメリカを脅かす存在ではなく、北朝鮮も06年に初めて核実験を行った段階で脅威ではありませんでした。しかしこの十数年で世の中が大きく変わりました。08年、ロシアはソ連崩壊後初めてジョージアと戦争をしました。5日間でしたがロシアは軍事力を使う国であると注目を浴びました。また14年2月にはウクライナで革命が起こり、プーチンの支援していたヤヌコヴィッチ大統領が失脚すると、ロシアはクリミア半島を一気に占領してしまいます。テレビ局やラジオ局をロシアの特殊部隊が占領し「キエフで革命が起きた。奴らはナチスの再来で、ロシア系住民は殺される」と偽情報を流し、電撃的に3週間でロシアのものにしてしまいます。同じ年、ドンバス地方にもロシアは軍事介入します。最初はロシア帝国やソビエト連邦にノスタルジーを持つ人達が紛争を起こし、勝手に人民共和国を作ってしまいます。その後ウクライナの治安部隊が反撃すると、ロシアの正規軍が入っていったわけです。つまり14年にロシアはウクライナで2つの戦争を起こしました。ロシアはこの頃から力を行使して現状を変更するという大きな転換があったように思います。本来世の中は経済的合理性で動いているのですが、ロシアは14年、22年にウクライナ侵略という暴力を使う古典的な戦争で世界の中心に出てきたわけです。 

2.この戦争の3年間の帰結

 ロシア・ウクライナ戦争は22年2月24日に始まり、今年の夏で3年半となります。あの村が取られたとか、ウクライナ軍がこの辺を押し返したと言って、何となくスポーツ試合のようですが、現実は殺し合いをしているわけです。大勢の人達が巻き添えで亡くなり、今年1月時点で民間の犠牲者は1万2300人です。またそのうち650人が子供です。しかしこれは氷山の一角でロシア軍の進撃過程や占領地域では物凄い人が死んでいるわけです。今回真っ先にロシアの攻撃対象となったマリウポリ郊外の衛星画像では、お墓が半年間で物凄く広がっていることが分ります。さらにブルドーザーが溝を掘っていてこのように埋葬しないと間に合わないぐらい大勢の人が死んでいるわけです。また今回の戦争では非人道的行為のオンパレードです。ロシアに非協力的な人達の拷問や性的暴行をロシアは組織的にやっています。一昨年秋にはジュネーブ条約違反にあたる占領地域での徴兵制で、この地域の若者をロシア軍に入れウクライナ人と戦わせています。さらに今プーチンは国際刑事裁判所から逮捕状が出ています。これは2万件超の子供の連れ去りという罪が認定されているからです。つまりこの3年3か月の戦争の向き合いとして、勝敗以前に「こんな非人道的なことをしてはならない」ということです。ロシアのやっていることは人間として受け入れられない、許し難いものだということです。

 また日本に直結した問題としても、隣のサハリンの首都ユジノサハリンスク(旧豊原)の郊外で、戦場で亡くなった人達のお墓が急増し、氏名が分かっているだけでも1千人余りが亡くなっています。つまり北方領土の国後、択捉、歯舞、色丹の人達も亡くなっているわけです。さらに去年から北朝鮮がこの戦争に参加し、1万人余りが派遣され、約1/3が亡くなったと言われています。先日の5月31日にはウラジオストック近郊のロシア海軍歩兵部隊基地がウクライナ軍の特殊部隊の攻撃を受け、戦場が日本の近くに及んできています。 

3.この戦争はなぜ起きたのか?

 この戦争はしばらく続くのではないかと思います。その理由は、この戦争の目的です。「戦争論」の著者、クラウゼヴィッツは「戦争は純粋な暴力闘争ではなく、政治的行為であり、政治的な目的の程度により、暴力がどこまでエスカレートするかが決まる」と言っており、プーチンはどの程度の政治目的を賭けて戦争を始めたかということです。既にロシア軍はウクライナ国土の約2割(10万㎢)を占領していますが、肝心のプーチンは停戦すると言いません。つまりプーチンの戦争目的は土地や資源が欲しいのではないような気がします。彼は戦争前から「ウクライナがロシアでなくなったことが気に食わない」と言っています。

 歴史的に、ウクライナとロシアは一体だった時代が長くあります。10世紀末のキエフ大公国は今のウクライナを中心に、ベラルーシやロシア西側辺りの地域で、ロシア人、ウクライナ人、ベラルーシ人共通の先祖のような国です。またロシア帝国時代はウクライナがロシアの一部となり、その領土を引き継いだのがソビエト連邦です。つまりウクライナは17~20世紀末までロシアの一部でした。そして91年、ソ連崩壊でウクライナが独立するわけです。この時ロシアでは「ウクライナとベラルーシは同じ兄弟民族であり、独立することは止めてほしい」という議論が物凄くありました。それはロシア文化やロシア人の精神性を考えると、最終的にウクライナに辿り着くからです。日本で言えば京都や奈良に相当するわけです。

 プーチンはこの戦争を始める前、21年7月に「元々ロシア人とウクライナ人は共通の先祖がいて、そこから紆余曲折を経たが、基本的にはウクライナ人はロシア人と同じ民族である。つまりウクライナはロシアの一部でありウクライナ人という民族はいない。ウクライナ人はロシアの辺境を守る防人という意味だった」という論文を発表しました。プーチンはこの時点でウクライナの侵攻を決めていたと思います。さらに論文では「レーニンとスターリンが作ったソビエト憲法の構造に問題がある」と言うわけです。つまりソビエト連邦とは15の主体性を持つ社会主義共和国が同盟を組んでいるという建付けであり、憲法上、ソビエト連邦から脱退できることになっています。プーチンはこれが問題であると言うわけです。つまり第一の誤りは、ソビエト連邦公認でロシア人とウクライナ人を別民族にしてしまったこと。第二の誤りは、各ソビエト社会主義共和国はそれぞれ主権を持っており、ソビエト連邦から独立出来ることです。この憲法規定が69年後に大爆発を起こし、ウクライナがロシアから離れたと主張しているのです。

 14年にウクライナでヤヌコヴィッチ政権が崩壊した時からプーチンは「ウクライナはネオナチ国家である」と言っています。ヤヌコヴィッチ政権の崩壊は市民革命ではなく、アメリカがネオナチに起こさせたクーデターだと言っていて、不当な連中がキエフに居座りロシア系住民を虐殺していると言うわけです。しかしこれは明らかに間違っています。またウクライナが核兵器を開発している、あるいはウクライナにアメリカの化学兵器研究所が33か所もあると言うのですが、そんな根拠もありません。またウクライナがアメリカの軍事拠点になりロシアが脅かされると言いますが、こんな話で普通戦争を始めません。ウクライナがNATOに入ることにアメリカは否定的ですしEUの国々も逃げ回っています。今回の戦争でスウェーデンとフィンランドがNATOに入りましたが、フィンランドとロシアの国境は1,340キロもあるわけですし、それでロシアが戦争を起こすことはありません。

 要は最後は「ウクライナは本来ロシアの一部である」という話に行きつくような気がします。プーチンがこの戦争に賭けているものは相当大きくて少しの成果で妥協する気はないと思います。実際にプーチンが言っている戦争目的は、ウクライナの非ナチス化、非軍事化、中立化の3点です。非ナチス化とは2014年以前に戻す。つまり親露派の大統領に替えて、ロシアの言うことを聞く国に戻すということです。非軍事化とは軍隊を解体することです。中立化とはNATOの非加盟とロシアに対する全ての国際訴訟の取り下げや、全ての制裁の解除です。つまり事実上ロシアの属国になるという話です。しかしウクライナ側は絶対嫌だと言います。ウクライナはロシアに占領された土地を全部取り返すまで戦争をやるとは言っていません。しかし変な停戦の仕方をして一時的に戦闘が止まっても、プーチンは目的を達成するまで止める気がなく、5、6年後に再び攻めてくるので、ロシアの再侵略抑止を伴った停戦でなければならない、というのがウクライナ人の言ってきた話です。 

4.この戦争を終わらせられるのか?

 23年夏以降、ウクライナは反転攻勢作戦が失敗し、ロシア軍を追い出せないことは明らかです。むしろ戦場ではロシア軍が主導権を取り、占領地域は広がり続けています。さらに北朝鮮軍が参戦してきました。しかし戦場で勝つことと戦争に勝つことの間には微妙な違いがあります。相手国の首都を占拠しても相手の抵抗意思を破砕しないと戦争には勝てないわけです。つまりロシアは戦闘には勝っていますが、戦争に勝ってないと思います。去年1年間でロシアの占拠したウクライナ国土は全体の約0.7%で、戦争が始まって以来最も遅い進撃ペースです。今年5月以降は進撃ペースが上がってはいますが、せいぜい1.5%のペースです。どう考えてもこの1~2年でロシア軍がウクライナの国そのものを滅ぼすような勝ち方は出来ないと思います。 

5.減り行くロシアの備蓄戦争

 これまでのロシア軍の損害は、アメリカ国防省の推定で17万人が死亡、BBCとロシアメディアの合同調査では25万人が亡くなったと推定しています。さらにその3~4倍の重傷者がいると推定できますので、少なくともロシア軍の死傷者は50万人、多ければ百数十万人という計算です。ロシア国民は1億4千2百万人ですから物凄い死傷率です。また画像で確認できる戦車の損失も4千両以上です。陸上自衛隊の戦車の保有総数は4百両弱ですから、日本の戦車部隊の10個分が無くなったという凄まじい損害です。ロシアは年間3、4百両の戦車を製造する能力を持っていますが全く足りません。衛星画像では、去年秋頃から保管している予備戦車が相当無くなっており、おそらく残り2年ももたないだろうと見られており、今のような規模での戦争は続けられなくなると思いますし、経済的にも戦費が物凄く膨らんでいます。これまで軍需で景気が回復した部分がありますが、今年に入り明らかに経済が失速しています。また人手がないと言う問題もあります。そして制裁により手に入るべきものが手に入らず、売れるものが売れず、戦時経済の歪みが出てきています。この戦争を丸4年は続けられると思いますが、丸5年続けることは相当苦しいと思います。一方ウクライナも勝てません。これからもロシアにじわじわ浸食され、放棄せざるを得ない都市も出てくると思いますが、ただ国は滅びることはないと思います。もう1、2年でロシアは息切れしますので、そこまで耐えることがウクライナ側の戦略だと思います。プーチンの政治目的から戦争は終わりそうにありませんし、軍事的にも戦争がすぐに終わるという感じがしません。 

6.トランプなら停戦させられる?

 唯一、戦争を止める方法は政治の力です。純粋な軍事的論理やプーチンの野望に別の力が割って入らないと、早期にこの戦争が終わることはないと思います。その意味で、今年1月20日のトランプ政権成立に大きな期待がかかりました。トランプは多少滅茶苦茶かもしれませんが「とにかく停戦するのだ」と言っており、新しい動きが生まれるのではないかと期待されました。皆が公然と停戦の話をするようになったことはトランプの政治家としての力だと思います。しかしトランプが甘かったことが2点あります。1つは今の占領地域を与えればプーチンが満足するだろうと思っていたことです。しかし全然止まりません。もう1つはウクライナが小国なので、アメリカとロシアが一緒になれば言い値で戦争を止めると見くびっていたことです。当初のトランプ政権は傲慢で、勝手にプーチンと電話会談をし、「ウクライナはNATOに入れない。占領地域もロシアに与える」と言い、ウクライナに対して「軍事援助を停止し、情報も与えないので、諦めて戦争を止めなさい」と言うわけです。これがトランプの言う早期停戦だったわけです。しかしこれはウクライナからすると停戦ではなく降伏です。つまりロシアと一緒に降伏を強要するアメリカに、ウクライナが媚びを売る必要はない。今年2月28日のホワイトハウスでの口論はそういうことでゼレンスキーが反発したわけです。

 ロシア人は果てしなく耐える民族ですが、ウクライナ人は大きな理不尽に直面すると反発するわけで、ゼレンスキーがトランプに屈せず帰ってきたことを評価する声が多かったと思います。ウクライナは益々苦しくなるのですが、国は滅ばないわけです。結局3月以降トランプは軍事援助や情報援助も再開し、ロシアに「いい加減にしろ」と言うようになります。ただアメリカ議会が超党派で「ロシアから石油を買った国に500%の関税をかける」という話になると、トランプはブロックするわけでどうもトランプはプーチンと徹底的な対立を避けようとしていると思います。トランプは停戦の役割を果たす気がないし、プーチンの戦争の目的からして、この戦争は簡単に終わらないと思います。また軍事的な決着も簡単にはつかないので、しばらく戦争は続いていくと思います。今ロシア軍は春の大攻勢を始めたところで、11月ぐらいまでは大規模な軍事作戦が続けられます。それを越えると泥濘期に入り、大規模な野戦ができなくなりますので、その頃まではロシア軍は戦争を続けます。真剣な停戦交渉が始まるかどうかは、秋まで様子を見ないと分かりません。

                                   以 上                                        

[質疑応答]

質問1 日本の安全保障について、どのようにお考えですか。

回答1 この戦争が日本の安全保障に教えていることは多いと思います。先ず将来の安全保障環境を予測することが本当に難しいということです。私の生まれた頃は第三次世界大戦を心配し、院生時代はテロや核不拡散あるいは人道的介入や平和構築の研究が21世紀型のリアルな安全保障だと思っていました。ところが20年が経つと再び古典的な消耗戦を見るわけです。一方でドローンや認知戦など、少し前まで考えつかなかった戦争の様態が起こっています。テクノロジーの進歩や人間社会の変化は予測しがたく、今見えているものの延長上で考えても当たらないということです。日本の安全保障を考える上で、今見えている脅威にしっかり対処することも大事ですが、現在の想定をはるかに上回る脅威や、斜め上の方向から来る脅威にも備えなければいけないということです。全部に対処することは難しくても、ある程度能力を持つという事です。平時には無駄と言われますが、緊急事態が起こると、それが余裕に変わるわけです。冷戦後、アメリカも日本もヨーロッパも無駄をどんどん切り捨て、有事における対応能力を相当削っている気がします。しかし逆に、あらゆる危機に備えていれば安心かというと、これも問題です。例えば北朝鮮は二千万人の人口ですが、百万人の人民軍を持ち、核兵器や弾道ミサイルを持っています。これが我々の理想とする安心・安全な国かというと、そうとも言えないわけです。安全保障の観点では、そこに価値観が入ると思います。私達がどのような生活や経済を守りたいのかということです。これを抜きにミサイルや戦車の話だけをすると、果てしなく暴力の論理に飲み込まれていきます。私が日本の安全保障に対して提起したいのは、「どういう日本を守りたいのか」ということです。我々が実現したい現実を議論することが安全保障を考えることに他ならないと思います。

質問2 ウクライナの「クモの巣作戦」を見て、今後安価なドローンに移っていくと思うのですが、ロシアはこのような新しい技術開発についていけるのでしょうか。

回答2 この戦争での新しい戦い方と、それにロシアがついていけるのかということですが、安全保障や軍事に関わる全ての人間がこの課題を突き付けられていると思います。戦い方を考える上でドローン抜きには考えられず、また重厚長大なハイテクシステムではなく、コモディティ品の組み合わせだったりするわけです。今後自衛隊も相当頭を柔らかくして、スタートアップ企業の最先端技術を取り入れる必要があります。平時の役所の論理だけでやると問題です。次世代の戦争を抑止する能力を持つところまでやれるかどうか、もう少し頭の切り替えが必要だと思います。先日幕張でDSEIの3回目の大規模な展示会がありましたが、今最新の軍事技術を一堂に介するイベントを行うことは1つ手です。またアメリカ軍などは前線に特殊部隊を入れ、ランド研究所や海軍分析センター(CAN)の人達はウクライナに相当入っています。

 また、ロシアが技術開発について行けるかという事ですが、これまでもついていけてないと思います。イノベーションインデックスの指標でロシアは世界第59位で、先進国グループから外れています。ロシアは70年代以降エレクトロニクス革命に完全に乗り遅れて、さらにコモディティ品がIT化によって高度化してくると、ロシアは対応できません。しかしいろんなコモディティ品を組み合わせることはできるのですが、今は西側から完全にシャットダウンされています。いろんな抜け穴から手に入れていますが物凄く割高で、遅く、サポートが受けられず、中国のイノベーション力に頼るしかないわけで、ますます中国依存が高まっています。ただアメリカに牛耳られてきた世界よりも中国中心の世界の方がロシアは居心地が良いと思います。民主化しろとは言わないし、インターネット空間を国家が全部管理することでも気が合うわけです。ITU(国際電気通信連合)の規範づくりでもロシアと中国はいつも共闘関係にあり、中国の作る秩序の方がよいとロシアは思っています。

質問3 プーチンはこの戦争中に何のために幼児誘拐をしたのでしょうか。

回答3 ロシアは幼児誘拐を組織的に行っています。学校を丸ごと拉致しますので物凄い人数です。その子どもたちをロシアの児童養護施設のようなところが引き取り、ロシア人として教育をするわけです。この誘拐の女性責任者が去年5月の内閣改造で、プーチンの補佐官に任命されています。よくやったと認識されているのだと思います。プーチンはウクライナをロシアの一部だと思っているのでウクライナ人をロシア化したいのだと思います。小さい子供達が2万人以上も連れ去られ、3、4歳の子供達はすぐにロシア人になってしまいます。また最近プーチンは「ロシアのウクライナ部分との和解は不可避」と言っていて、ウクライナ人の子供達を正しくロシア人に育てるという発想でやっていると思います。

質問4 プーチンの野望をロシア国民はどう思っているのでしょうか。国民の生活が疲弊し  ても不満がないのでしょうか。

回答4 今ロシアは軍需景気で景気が若干上向いていますし、死んでいる人は誰かということが問題です。つまりモスクワで赤紙を受け取った中産階級の人達は誰一人戦争に行かないわけです。戦争で亡くなった人を二人知っていますが、一人は元国後島の副市長です。元陸軍将校の予備役で、志願して戦争で亡くなったと聞いています。もう一人は貧しくて、昔刑務所にも入ったことがあったという人です。このような人が戦争に行くわけで、真面目で、赤紙どおり戦争に行くのは貧乏人ばかりです。今国防費を平時の4倍ぐらいに増やしており、一番お金がかかるのが兵士の募集です。軍隊の月給は50~60万円と大盤振る舞いです。ロシアの平均世帯月収は6万円ですから、月収の10倍になるわけです。しかも地方自治体から見舞金が200~300万円出ますので、これで貧乏人が戦争に行くわけです。モスクワやペテルブルグの都市住民にはテレビの向こうの戦争であり、自分達の生活や命が脅かされていないわけで、なおかつ軍需景気で景気が良かった。この戦争を批判しているのは一部のインテリだけです。またインテリの中にもロシア帝国を復活する野望に取りつかれたインテリはプーチンを支持しているので、戦争が終わらないわけです。しかし今年に入り経済が明らかに悪くなり、去年の12月には都市住民にも戦争に行くよう住宅ローンの免除という政策が出て来ました。普通のサラリーマンを勧誘の対象にしたのは兵士が足らなくなっているからです。そうした中で北朝鮮が人民軍1万2千人を送ってきたのは相当有難かったはずです。今後もいろんな方法を使ってプーチンはこの戦争を維持し続けるだろうと思います。ただあと1年~2年は兵士の補充が出来ると思いますが、この先ロシアの産業構造は滅茶苦茶になると思いますのでプーチンは長期的な禍根を残したと思います。

質問5 プーチンが亡くなればロシアは変わるのでしょうか。

回答5 変わらないと思います。1953年にスターリンという強力な独裁者が死ぬわけですが、ソビエト連邦は崩壊するわけではなくて、とりあえずベリヤ、フルシチョフ、ジューコフなどが集まって集団指導体制をつくるわけです。その後ベリヤが粛清され、カガノーヴィチなどのスターリンの親衛隊を左遷して、フルシチョフ体制に移行することになるわけです。多分プーチンが亡くなった場合も同じシナリオになると思います。                                                     

                                 完

以上は東京大学先端科学技術研究センター准教授の小泉悠先生の講演を國民會館が要約し、編集したものです。文章の全責任は國民會館にあります

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