キャスターさんといっしょ
『いっしょ』シリーズに異色の人登場。といっても実はこの人を一番最初に思いついたんだよね、というキャスターさん。
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その日は珍しく午前中に商店街へと出かけた。理由は10時のタイムセールのためだ。衛宮邸は無駄に、そう無駄に人間が多すぎる。私も含め食べなくとも、まあセイバーは別だが、問題ないサーヴァントが半数だと言うのに皆揃いも揃って食事を摂る。これは家主の衛宮士郎の方針であるので店子である我々にはどうしようもない事なのだが、そのために圧迫される財政をあれこれやりくりするのは自分と、何故か私だということを疑問にも思わない衛宮士郎にもかなり責任があると思う。ので、そのその緊張感溢れる家計簿の数字をどうにかするため安く手に入るものは手に入れるに限る。そういう訳でお1人様2つまでの食用油1リットルと薄力粉1キログラムをそれぞれ2つ、それから3000円以上お買い上げのお客様に限り1パック30円というとんでもない値段のLサイズ玉子をとりあえず確保した所で、珍しい人物を見かけた。いや、実は珍しいわけではないのかもしれない。基本的に私は夕方に買い物に出ることが多いので時間的にすれ違っていたのかもしれない。とにかく、私にとって、このスーパーマーケットという場所で見かけるには珍しい人物はそれはもう真剣に惣菜の陳列コーナーを見ていた。その姿が余りにも真剣そのものだったので、私はほんのちょっとした出来心でその背中に声をかけてしまった。
「夕飯に並べるつもりなら夕方に来たほうが揚げたてが手に入るぞ」
「ひぃっ!」
前屈みになって惣菜のパックを見つめていた背中は突然かけられた声に驚いた様でそのまま陳列棚に突っ込みそうになっていた。
「英霊ともあろうものが注意力散漫だな、キャスター。いや、葛木メディアと呼ぶべきか?」
「キャスターで結構よ!」
最近は若奥様業も板についてきたらしいと又聞きの又聞き当たりで聞いた葛木メディアこと、キャスターが目を吊り上げて吼えた。ただ、惣菜がいくつか入った店内用買い物かごを持っていては威力も半減の半減くらいだが。
「何をしているのよ、アーチャー!」
「見ての通り、君と同じ買い物だが。君は特にセール品狙いと言うわけではないようだな」
「セール・・・・?ああ、だからさっき人だかりが出来ていたのね」
知らなかったわ、と本当に知らなかったらしい顔で先ほどまで人だかりが出来ていた辺りを眺めた。多分彼女は新聞の折り込みチラシを目を皿にしてチェックするという行為をした事がないだろう。それもそうだ、彼女は世が世なら王女で王妃にまでなった深窓の令嬢もいい所である。まず、買い物かごを持ってスーパーマーケットで惣菜を検分する事などなかっただろう。まあ、彼女の生きた時代にはもちろんスーパーマーケットなどというものはなかっただろうが。
「見た所惣菜ばかり買っているようだが、最近は家事をしているのではなかったのか?」
「だっ、誰に聞いたのよ」
「なに、風の噂だ」
情報源を言った所で特に何が出来るわけでもないだろうが、こちらにとばっちりが来ては面倒なので適当にはぐらかしてみた。とは言っても彼女がその気になればこの程度、簡単に割れるに違いないだろう。なんと言ってもその魔術と知略で英霊にまで上り詰めた存在である。
「どいつもこいつも、だから射手は嫌いなのよ」
「私の矢にはキューピッドの様な効果はないぞ、爆発はさせられるが」
それに恨むならキューピッドよりもその親である女神アフロディテと、それを頼んだヘラとアテネの2人の女神、それからギリシャ神話に登場する結構な数の神々の大半と、・・・・・・キリがないな。
「とにかく、何の用?私はアナタ達と馴れ合う気はなくってよ」
「いや、別に私もそのような気があったわけではないが」
「が?」
「そのかごの中身を見て若干君のマスターの健康状態を心配した。それこそ出すぎたことだな、邪魔をした」
何も本当に惣菜だけを食卓に並べていることもないだろうし、思い出しはしないが今回の召喚で数度見ただけの葛木はそう迂闊なことをしそうな人物でもなかった。多分キャスターとの食事以外のどこかで栄養分を調整しているだろう。
「ま、待ちなさい」
すでに歩き出していた私のシャツをキャスターは慌てて掴んだ。掴まれた気配で歩を止める。ふと、この光景はキャスターが柳洞寺に住む葛木の若妻のような存在だと知っているものから見れば浮気現場に見えはしえないだろうかと、一瞬だけ思った。そんな愉快な話題提供は是非とも避けたい。
「もう用はないのだろう?離したまえ」
「・・・・・・・からないのよ」
「は?」
「だから、料理のやり方が分からないって言ってるのよ!」
惣菜売り場の前で、かごの中に見事に惣菜しか入っていない、神話の時代の王女は真っ赤な顔で告白をした。そうか、そういう理由もあったかと今更ながらにかごの中の惣菜の意味を知った。衛宮邸に出入りする女性の中で料理が出来ないのにやりたがるという存在がいないものだからその可能性を失念していた。・・・・・・・・藤村大河は一応、お好み焼きだけならまともに作れるし他の物は作ろうとしない。一応。
「理由は分かった。分かったから服を離してくれないか、そんなに掴まれると皺になる」
多分もうすでに皺になっているであろう服をキャスターはやっと離した。
「つまり、料理が出来るようになれば問題ないのだろう?」
「そんなこと簡単に言うけれど、いちょう切りとか飾り包丁とか全く意味不明の言葉ばかり書いてあるのよ?!どうやって分かれと言うのよ!」
「・・・・・君は、基本を覚える前に応用をやろうとしているようだな」
「だ、だって、宗一郎様に食べていただくのに、下手な物は出せないじゃないの」
そう言ってキャスターはとうとう俯いてしまった。ああ、これはもう、見る人間が見れば痴情のもつれで別れ話辺りがこじれている現場そのものである。商店街のスーパーマーケットの、それも惣菜売り場の前ではあるが。
「・・・・・・・・・・・私で良ければ料理を教えよう、簡単で見目の良いものを選んで」
つまりは、キャスターも桜やその他の女性と変わらない恋する女なのだ。・・・・・我がマスターの名を入れなかったことに他意はない、本当に。
「その代わりと言っては何だが、ひとつ私から頼みがあるのだが」