元賢王()はマスター候補生である
それでも我はあの頃の地獄を忘れられない
賢王様になってしまった元一般人の話
需要が無くとも書きたかっただけの話です。
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人類最古の文明の地、ウルクにて一人の男がいた。深淵を覗き見た者、すべてを見た千里眼の持ち主、かの王こそ王の中の王!かつてウルク民たちにとって暴君であった『英雄王』は、唯一無二の友を失たことで死を恐れ旅立った。それから長い時が過ぎ、不老不死の旅から戻った男は変貌していた。暴君であった性質はなりを潜め、民のために政を行う『賢王』へとなっていた。
神々は(特にイシュタルなどは)王の様子を覗き見、一体全体何が起きているのかと考えた。そして、魂を見極めた結果、あれは間違いなくかつての暴君が持つ魂であり、他の何物でもないという判断を下した。もちろん臣下や民たちも変貌した王を一時は偽物かと怪しんだが、神々からの言葉によって王を優れた君主として再び仕えていく。それほどまでに帰還した王は変貌していた。
かつは傲岸不遜という言葉がぴったりだった振る舞いは、民を慮るものとなった。自身の悦を追うための気まぐれな采配は薄れ、冷酷な判断を行うも民を慈しむそんな君主となった。
そんな賢王となった王にはいくつか悪癖があった。一つは過剰労働。それは帰還してからいくらかの年月が経過した頃から始まったもの。半神の身であるから耐えられてはいるが、普通の人間であるならばとっくの昔に冥界へ向かうほどの仕事をこなしていた。しかし、臣下たちがいくら進言しようとも、王は決して休むことはなかった。
そしてもう一つ挙げられるのは、突如眠りこけてしまうこと。王は突然眠りに落ちることが多かった。それが政務を行っている時でも移動している時でも変わらない。唐突に眠ってしまう。当初、家臣たちは王が働き過ぎていたからではないかと考えていたが、これは王が持つ千里眼の弊害だった。
王の千里眼は『平行世界を含めた全ての未来』を見通す。その力は王が望まなくとも現れ、夢の形として未来を見せた。そして王はその目でもって一つの終わりを見た。人類悪が一柱によって国が滅び、自身以外のすべてが燃え尽きる様子を見た。
王はその未来を見てこう思った。
「あ、ここFGOの世界ではないか。というか我、賢王様か」
千里眼によって未来の可能性を見た男は、自身の前世のようなものを思い出していた。それは、今自身が存在する世界がゲームとなっていた世界だった。さて、ここで一つ思い返してみよう。賢王として存在している場合、一体どういった未来が待っているのか。答えは人類悪による国の危機。決して避けることができない事象に対して、王はひたすらにわが身を削って抵抗していた。
それを今、王となった男ができるのかといえば、能力的には可能だ。何せ肉体は元の存在と同じものであり、なおかつ3分の2が神。何十年と使い続けた記憶があるため、今更扱いに困るなどはない。しかし、問題は精神的な部分だった。
男は王の記憶と経験は持ち得ているものの、現代の一般人としての記憶を取り戻した今、あのような状況を耐えきれるのか。正直主人公が来ることは知っているため持ちこたえはするが、原作よりも疲弊しているに違いないというのが男の考えだ。
古代最古の王の魂と現代市民の魂が持つ心構えと度胸を比べるなよ、ということだ。
「シドゥリ。暫しの間人払いをせよ」
それを誰よりも理解している男は、家臣たちの目を盗んでため息をついた。
「まったく、こんな重荷を抱えるならば、前世なんぞ思い出したくもなかったわ。タイミングも遅すぎる。せめて我として生を受けた時から思い出せていればよかったのだが」
自身の精神はどう足掻こうとも原作の賢王には届かない。滅びを知りながらそれを受け止める覚悟が足りない。しかし、それでも間違いなく滅びはやってくるのだから。そう考え男は覚悟を決めた。せめて主人公が来るまでは持ちこたえ、被害を原作の状態にまで抑えよう。かの賢王が最良だと判断したものであるのに、基が凡人であった自身がより良い状況などに持ち込めないのだから。
「頼むぞ、主人公。我等が持ちこたえているうちに、間に合えばよいのだが」
それがフラグであったのかもしれない。
主人公たちは間に合わなかった。国は燃え上がり、民は皆死んだ。召喚したサーヴァントたちも皆消失し、男も魔力は底をつき全身に傷を負っていた。
「あぁ、間に合わなかったのか。所詮この身は紛い物という訳か」
一人生き残っていた男はそう小さく呟いた。覚悟を決めたあの日からすで長い月日が経っていた。そしてついに主人公が現れるであろうその日、主人公が訪れることはなかった。国の被害は甚大で抑えきることはできず、数週間後のこの時、国と民は王を残して死に絶えた。
血を流しすぎたために朦朧とする意識を保ちながら、男は戦う。しかし、すでに自身の限界を悟っており、あと数分も持たないと判断していた。そして持ちうるすべての財を使い殲滅しながらも、人の身をもつものとして必ずやってくる限界を迎える。
足から力は抜け、手から魔杖と魔導書は取り落とされた。全身を襲う痛みはそれら以外に対する触角を麻痺させている。そのまま体は前へと倒れ、地に伏すかと思ったその時だった。
「大丈夫ですか!?」
生きている人間の声がした。そして誰かに支えられたかのように身体は地面へと落ちることはなかった。ゆっくりと目を開ければ、そこにいたのは
「先輩!この人は生きています!早く助けましょう!」
「もちろんだよ!だからとっとと敵を片付けちゃおう。兄貴、王様、エルキドゥ頼んだ!」
待ち望んでいた主人公だった。
何だこれは。
思わずそう思う。
国は滅び民たちが死に絶えたこの時になってやってくるのか。それならば我がより長く持ちこたえてさえいれば、民たちは助かっていたのか。
自身を支える者の顔に手を伸ばす。これの名は……確かそう、藤丸立香。どうやらこの世界の主人公は女らしい。橙色の髪は朧げにしか見えない視界であっても簡単にとらえることができた。
「大丈夫ですか?ここで一体何が……?」
「……藤丸立香」
名を呼ばれ驚いたのか、体が揺れる。しかしその驚きに対して付き合ってやる余裕など持ち合わせていない。何せすでに瀕死の身。動揺を抑える時間を与えることさえできない。
「何故今頃やって来たのだ。もう国は亡びたというのに」
そう言った瞬間、顔のすぐ近くを金色の何かが通りすぎた。
「貴様、我でありながらその様な戯言を口にするか」
正体は英雄王が放った攻撃であったらしい。しかし今はもうそんなことはどうだっていい。何せ時間が無いのだから。
「黙れ」
英雄王の周囲を通る軌跡を描くように魔杖による攻撃位置を調節する。今更攻撃がかすろうと問題ないだろう。死にゆく身の上故、怒りによる一撃など怖くはなかった。そしてそのまま怒りと諦観に任せ、本来の賢王であれば決して口にしない言葉を発する。命が尽きる瞬間くらい、本来の自分を出しておきたかったのかもしれない。
「何故今になってやって来た!貴様らがもっと早く来ておれば、少なくとも500の民たちは助かっていた!」
血反吐を吐きながらもそう告げれば、面白い位に主人公の目が揺れた。かの英雄王の成れの果てがこのような事を言うとは思ってもなかったのだろう。そして間に合わなかった自身を責めているのだろう。その様子に少しだけ溜飲が下がり、同時に罪悪感を抱いた。八つ当たりであると男自身も分かっていたからだ。
そしてそのまま意識が途切れたのが、最初の世界。
がばりっとベッドから身を起こす。息は荒く全身から汗をかいていてとても気持ち悪い。一人しかいない部屋の中で、暫くの間自分の吐く息の音だけが聞こえていた。
そこはカルデアのマスター候補生に与えられた部屋の一つ。その部屋の持ち主とされた人物は銀の髪に紅玉の瞳。そして何より整い過ぎて恐ろしさを感じさせるほどの美貌。その青年の名をギルバード・ベイロン。欧州の魔術師であり、アインツベルンの遠縁でもあるという。
青年は招集期限前日に訪れ、説明だけを受け何の訓練もしないまま、レイシフトをすることとなっている。そうであってもBチームへと配属させられることが決定している青年は、この地にいる者たちの中でも屈指の才能を持つ天才であると評価を受けている。そしてそれを証明することができることが容易なくらいには経験を積んでいた。
ようやく息も落ち着いてきた青年は顔に手を当てて、ゆっくりと息を吐く。そして苦しそうな顔をして一言だけ呟いた。
「……また、あの時の夢か」
青年は今生を受ける前、一国の王だった。世界最古の王と称された青年は、今では前世の魔術師の真似事をしていた経験を活かし、一人の魔術師として暮らしている。そしてもたらされたカルデアへの招集命令。今生でもFGOの世界から抜け出せていないと悟った青年は、期限ぎりぎりまで粘ったものの結局カルデアに来ることになった。
「そろそろミーティングの時間か」
ベッドから立ち上がり、近くにかけてあった霊装を身に着ける。魔法陣を織り込んだ服に目元を隠すデザインの仮面。必ず来ると知っている爆発に備えた装備もしておく。これからまた人理修復の旅が始まる。
「今度は一度で終わればいいな」
部屋の扉を開けると近くから人の声がする。恐らくマシュとレフ教授、そして主人公が話しているのだろう。どうやら今回の主人公は女らしい。遥か昔に目にした橙色を思い起こしつつ、青年はそちらの方向へと歩いて行った。
数百回の失敗した世界と一度の成功を経た王の紛い物。
そんな青年は、主人公と共にどの様な物語を紡ぐのだろうか?