サーヴァントのなつやすみ。
ファイル整理していたら懐かしいものが出てきたので出してみました。
多分いつだかの夏コミにだしたコピー本。
サーヴァントたち(+藤ねえ)の夏休みです。
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**夏休みのはじまり**
天気のいい朝だった。
学校は既に、夏休みという名の長期休暇に入って久しく。そろそろ学生達も、自堕落な生活習慣が身に付いた頃だろうか。
まだ太陽が地表を焼き始める前の、涼しげな風が心地良い時間。
そんな、さわやかな空気に相応しい、柔らかな笑顔をその少女は浮かべていた。
「アーチャー。後のことはよろしくね」
しかし、『最高にご機嫌です』という表情なのに、右腕の令呪もうっすら輝いているのはどうしてだ。
脅しか。
ついでに玄関の向こう。門の外から少年……つーかあの小僧の呼ぶ声が聞こえてくる。
他にも数人の少年少女の気配を感じた。どうやら今回の同行者は複数らしい。
「……凛」
際限なく苦渋をにじませた顔で、少女の名を喉から搾り出すが、既に彼女の心は玄関の向こうに行っていたらしい。
「じゃっ。行ってきまーす!」
こちらの言葉を最後まで聞くことなく、少女は膨らんだ旅行かばんを肩に掛け、軽やかな足取りで玄関を飛び出していったのだった。
***
「へー。友達と二泊三日で海に」
「ずいぶん前から計画していたらしい。私が知ったのは今朝のことだが」
どうしても眉間に皺がよっていくのを、アーチャーは指で揉み解しながら呟いた。
「まったく……反対するとでも思ったのかね。あの年頃の娘の考えることはわからんよ」
その言葉に、ランサーはニヤニヤと笑いながらアーチャーを見る。
「なんか、年頃の娘を持った親父みてえだな」
「あんな大きな娘を持つほど、私の年は行ってないぞ」
むう。と口を尖らせて反論するが、その一方でランサーの言葉に思うところもあったようだ。
「……そうだな。保護者のような気分になっているのは否めん。以前はもっと、精神的には同世代より私の年代に近いものを感じていたのだが……今ではすっかり市井の女子高生だよ。あんな調子で、来年からの倫敦でやっていけるのやら」
やれやれ。と息を吐いたアーチャーに、ランサーは軽く笑って出された湯飲みを手に取った。
「そりゃあアーチャー。逆だぜ」
「逆?」
アーチャーが首をかしげると、じっと話を聞いていたセイバーがうなずいた。
「そうですね。
凛は、魔術の道を究めるために、幼少期に経験するべき多くの体験を、取りこぼしてきたように思います。
迷いが無い分、他の同年代のものに比べて、大人びて見えたのでしょう。シロウにも同じことが言えますが……。彼には、タイガや他の大人が居ましたし。
以前に比べて最近の凛やシロウは、人柄に幅が出てきましたよ」
私は今の二人のほうが好ましいです。
一見、凛より年下に見えるが、実際は十分に経験を踏んだ騎士は、そう締めるとにっこりと微笑んだ。
確かに、かつての凛や士郎なら『友人との旅行』という楽しみ自体、自分には必要ないものと切り捨ててしまったに違いない。
アーチャーは、今朝の凛の顔を思い出す。
期待に胸膨らませた少女の瞳は、星のように輝いていた。
……あんな表情の彼女を、自分はかつて見たことがあっただろうか?
自分は、あんな風にわくわくした顔を、したことがあっただろうか?
「……なるほど。そういうものか」
近すぎて見えないものがある。
アーチャーにとって、遠坂凛と衛宮士郎は、常にそういう存在だった。
しかし既に、『彼ら』はかつての自分達とは違う存在だ。
それを、アーチャーは改めて気づかされた気がした。
「…………ところで」
アーチャーは、ふと部屋を見回した。
「ん?」
「何でしょうか?」
ランサーとセイバーは、きょとんとした顔でアーチャーを見上げる。
「なぜ、私はここに居る?」
凛が出て行った後呆然としていたら、なぜか二人が現れて、促されるまま衛宮の屋敷に移動して朝食を二人に食べさせ、ついでに食後のお茶をしつつ今朝の事を愚痴ってしまっていたのだが。
一体どうして自分はここに居るのだろうか?
気分が落ち着いてくると、なぜかひどく不条理な状況であることに、気が付いてしまったり。
二人はアーチャーの言葉にうっという顔になり、一瞬互いの顔を見合わせたが、すぐに笑顔で説明した。
「シロウが、自分が居ない間はアーチャーに世話になるようにと言っていたので。今日から三日間よろしくお願いします」にっこり。
「いやー。嬢ちゃんと坊主から、旅行に言ってる間お前の相手してくれって頼まれてさあ」にかっ。
二人のチャーム機能付き笑顔は、少なくとも一般人ならこれでごまかせる高レベルのものです。
でもアーチャーは、一般人出身なのにごまかされてくれませんでした。
「ウソつくな――――!!!!」
思わず、ちゃぶ台をひっくり返しそうな勢いで突っ込んでくる。
「いやいやいや。ウソなど付いていませんよ!?」
「そうそう! そんな親友を疑っちゃいけねえなあ!」
「だったらこちらの目をまっすぐ見ろ! っていうかいつ親友になった!!」
「剣を交えた時から心の友ってっ言うだろー!?」
「いわね――――!!!」
「落ち着いてくださいアーチャー。マスターが居ない間くらい、休暇を楽しむ気持ちになるのも良い事ですよ」
「君らの世話をするのが休暇なのか!?」
「……………………気にしたら負けです!」
「気にするわ!!!!」
そんな騒ぎが屋敷の外に漏れ出した頃。
銀紫の髪を揺らしながら、ライダーが開きっぱなしの玄関から、奥のほうを覗き込んでいた。
その手には、慎二に持たされた手土産の包みがひとつ。
そして着替えの入った旅行カバン。
「皆、居るようですね。では勝手に失礼します」
勝手知ったるなんとやらで、さっさと上がりこむと自室に向かう。
桜が今回の旅行に出かけて行った後、臓硯と慎二はライダーに、たまには心の洗濯が必要だと、手土産を持たせて送り出したのだ。(誰の心の洗濯かは、敢えて伏せるよ!)
「……お昼は冷やし中華が良いんですが」
ライダーの希望が叶ったか判るのは、これから数時間先のこと。
つづく。