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The Works "心の臓つらぬくステップ" is tagged "槍弓".
心の臓つらぬくステップ/Novel by ダッシュ

心の臓つらぬくステップ

1,591 character(s)3 mins

天才ダンサーな槍×彼の後ろで埋もれているはずだったバックダンサー弓。ダンスで戦いまぐわう二人が表現できてれば書き手本望です。
ひかみさん(user/14131910)への捧げ物をご好意でこちらにも掲載させていただきました!
ピアソラのタンゴがテーマでした。私もこれを機に聞いたのですが、ものすごいかっこよく情緒あふれる名曲ばかりなので、みなさん是非是非!

平成最後の最後に新たな性癖の扉を開けてくれたこの二人に明日からもどんハマりかとは思いますが!!
長編も少しずつ書き溜めてますので、これからもおつきあいくだされば幸いです。
よろしくお願いします〜

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これは、売り言葉に買い言葉の成れの果てだ。
見物人など誰もいない、真夜中のレッスン室。スピーカーから流れ出るは、リベルタンゴ。スタッカートの嵐にタップ音が混じって、そこそこ広い室内を満たしていく。

(ーーあぁ、なんてうるさい)

アーチャーは、自分の腰を掴んで離さない目の前の不届きものを睨みつけた。
ランサー。今や世界中で知らないものなどいない大人気ダンサーである。アイリッシュスタイルのタップダンスをメインに、どんなに踊りでも舞台でも瞬く間に己のものにしてしまう天才。
アーチャーが所属する舞踏団が今回の公演のために呼んだ大物ゲストーーただのバックダンサーであるアーチャーにとっては、背中を眺めるしかできなかったはずなのに。
その男は、今吐息が触れそうなほど間近にいる。正面を向いて、赤眼を爛々と燃やし。にぃと持ちあがった唇からは、牙のように犬歯が剥き出しになっている。
獲物をこれから貪らんとする、獣のように。

(色気も旨味もないといったのは、そっちのくせに)

いつものように一人練習していたアーチャーは、何故か早々にこの男に見つかってしまった。
深夜の練習も、自分なら構わない。
いかんせん、アーチャーには才能がなかった。周りについていくためには、人の倍も何倍も練習しなければならないのだ。
けれども、この男は違う。天賦の才がある。人を惹きつけてやまない魅力がある。
なのに、当たり前のようにシューズを持ってレッスン室に現れたランサーは、アーチャーを見て盛大にため息を吐き出した。

「なんだ、それは。色気も旨味もない。クソつまらん」
「……誰だって、あなたから見たら華なんてあってないようなものさ」
「はぁ? お前ダンサーのくせに自分の踊ってるところ見たことねぇのかよ」

そこからは、ひたすらひどい口喧嘩の応酬だった。相手の勢いに呑まれぬように言い返すのに必死で、正直何をいったのかすらも覚えていない。
気がつけば、何故かアーチャーのダンスが童貞くさいなどとあまりに下世話で不名誉なことを言われていた。「セックスどころか恋愛すらしたことねぇんだろ」と揶揄されて、とうとうアーチャーの方がキレた。ふざけるな、俺とて経験くらいあるさ。なんなら、タンゴは一番の得意分野なんだぞとーーいま思い返せば、こう言うところがランサーのいう童貞くさいというやつだったのだろうが。
ならば、とランサーが不意にアーチャーの手を掴んだ。もう片方の手は、不躾にも腰にまわる。流しっぱなしの練習曲が切り替わってーーあぁ、なんてことだ。ピアノのイントロであの曲だとわかってしまった。
タンっとランサーが足を踏み出す。アーチャーが辛うじて後ろに下がる。ランサーが、鼻で嗤う。真紅の眼がちろりと光る。
これは、挑戦だ。正しく振りあげらた拳を、アーチャーは受け止めなければならない。それは、曲がりなりにもこの天才ダンサーにずっと憧れを抱いていた男の、なけなしの意地であった。
ダンス界の若き英雄を睨みつけながら、今度はアーチャーが前に出る。
流れるようにステップを踏む、二人の足が絡む。気に喰わない男をハイヒールで踏みつけるような無様は、アーチャーには許されてない。であれば。存外に熱い体温に怯む己を叱咤して、アーチャーは自らグッと腰を彼に寄せる。
怒り、悲しみ、絶望ーーそして、ままならない恋情。
タンゴの始まりは、そうした世の理不尽への憤りを叩きつけるものであったという。
アーチャーは自分の中に湧きあがるあらゆる衝動のままに、足を高く跳ねあげた。こちらの心の臓を射抜かんとするランサーの視線をはねのけるように。
負けてたまるか、喰われてたまるか。
ーーいつの間にか、アーチャーの口の端も笑みの形に歪む。

「……ほんと、たまんねぇな。お前は」

ランサーが口づけをするような近さで、そう囁いた。

Comments

  • そー
    May 1, 2019
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