プロデューサーが結婚して絶望したアイドル達だけど、プロデューサーが離婚して復活したアイドル達の話【序章】
二週間前から今更はまったシャニマス作品を書いてみました。
生存報告も兼ねた突発投稿となりました。
たぶん続かないです。
後は本当のシャニマスファンの方に委ねます。
T@kumi:ツイッター(twitter/pad_takukore)
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その日は、私たちがアイドルになって2年の月日が経ったとある冬の日の出来事だった。
空は雲一つない晴天の日差し。
社長の号令で私たちとはづきさんが一つの部屋に集められると、そこにはプロデューサーが恥ずかしそうに頭を掻きながら私たちを迎えていた。
一体なにがはじまるのだろう。私たちはわからず首をかしげていたけど、プロデューサーの表情からそれは決して悪い話ではないのだろうとわかった。
…………そう、プロデューサーからしてみれば悪い話じゃなく。
私たちからしてみれば、人生最悪の話だった。
「この度お……じゃない。私は結婚することになりました」
それから先の話はあまり覚えていない。
プロデューサーが一通り挨拶を終えた後、社長と一緒に部屋を出て行った。
覚えているのは終始幸せの絶頂のような笑顔……今まで見たことない。私がW.I.N.Gで優勝した時でも見せたことがない……幸せそうな笑顔だった。
時が止まったようだった。
誰かもわからない、小さな小さな嗚咽が私たちの時を動かした。
そしてその音でようやく頭が理解した。
私は……私たちは……失恋したのだと。
それからの私たちには心にぽっかりと大きな穴ができたように空虚な日々が続いた。
昨日までは冬の凍てつく寒さも、今日これからのことを考えると心が温まるようだったけど、今では体を内側から凍らせてくる。それを今まで溶かしていた炎も、今はその面影すら見えもしない。
プロデューサーが結婚したという事実は確実にアイドルを変えてしまった。
例えば、八宮めぐる。
天真爛漫で人懐っこく、誰にでも明るく積極的に話しかける元気さが売りの彼女は、今も明るく振舞って、周りを盛り上げようとしている。
でも、ふと我に返ったように明るさがなくなる時がある。すると彼女は何も言葉を発さずに座り込み、誰にも見られないように顔を膝に埋める。
今まで恋愛がわからなかった彼女が、失恋して初めて恋に気づいてしまった。今の彼女にとって『恋愛』とは『失恋』と同義なのだ。
次に、杜野凛世。
誰が見てもわかるプロデューサーのことが大好きなアイドル筆頭だった彼女。
もともと表情の変化が乏しい子だったけど、失恋してからは鉄仮面のように表情に変化がない……といえば少し齟齬がある。
まったく笑わなくなってしまったのだ。今まではプロデューサーの言葉一つで一喜一憂していた彼女なのだが、今ではプロデューサーの言葉にも表情の変化が見られない。
でも、彼女は今でもプロデューサーのことを諦めていない。それだけはわかる。
隙があれば彼女はプロデューサーの横に居座る。それも必ず右隣。
まるでプロデューサーの隣にいるのは自分だと言わんばかりの佇まい。しかし、決して左には座らない。そしてプロデューサーの左手を決して見ようとしない。それは、彼女がプロデューサーの結婚を受け入れない意思表示なのだと思う。
最後に、大崎甜花。
今まで自分のことすらままならない彼女だったけど、あの日を境に彼女は自立した。もちろんいきなりできるわけではなく、不慣れでたどたどしいけど、彼女は妹の甘奈や同じグループの千雪にも頼らずに、独り立ちしようとしている。
そういうと彼女の成長で片が付くのだけど、本音はたぶん、プロデューサーに頼りたくない彼女の反抗。プロデューサーの結婚に反対する彼女の静かな意思表示。
ならば、彼女の家ではどうなのだろうかと疑問が残る。だから、妹である甘奈にそれを訊ねようと思った。
でも、できなかった。
甘奈は、そんな甜花の姿にすら見向きもせず、ハイライトの失った瞳でプロデューサーのことを睨みつけていたからだ。
その睨む瞳の先はプロデューサーか、それとも叶わなかった彼の隣の場所なのか……。
それ以外にも大なり小なりアイドルに変化が起きた大時間。
その傷はふさがるわけでは決してない。
今でも泣くアイドルたち。プロデューサーへの態度がぎこちなくなったアイドルたち。プロデューサーへの想いを捨てきれないアイドルたち。その態度は様々だ。
そんなことを気づいていないのか、気づかぬふりをしているのか、今までと変わらない態度で接してくるプロデューサー。
噛み合わない両者にも、不思議と大きな溝はできずに、時間はゆっくりと過ぎていった。
プロデューサーの結婚報告から、一年が経過した。
プロデューサーに変化が見られたのは、秋から冬になる手前頃だった。
明らかにプロデューサーに元気がない。頭を抱えている時間が多い。どことなく、私たちに接するときも空元気のような無理をした笑顔を張り付けていた。
私たちが「どうしたの?」と尋ねても、プロデューサーは「なんでもない」の一点張り。
はづきさんや社長に聞いても、ごまかす素振りを見せずに「わからない」というだけだった。
そして、今から4日前の木曜日。
プロデューサーが休んだ。有休とのことだった。
有休消化率0.5日のプロデューサーが有休をとったこと自体が珍しいことなのに、なぜか私たちには突然の有休に異様な胸騒ぎがした。
以前からプロデューサーは突然元気がなくなったり、ある一点をじっと見つめたまま動かないこともあったから。
私の不安が正解とも言うように、プロデューサーは次の日も休んだ。
そのまま、土、日と私の休みも過ぎて、月曜日になった日も、朝事務所に顔を出すと、はづきさんからプロデューサーが午前休をとったと知らせがあった。
この4日間で嫌な予感は不安となり、それはやがて焦りとなった。
早くプロデューサーに会いたい。
その気持ち一心のまま時間は過ぎた。
午前の事務所についてから4時間ちょっと。
時間が過ぎるのが、とても長く感じた。
午後一時の少し前、プロデューサーは事務所へ来た。
でもその表情には生気がなく、目も虚ろに、挨拶もなく自分の席に座った。
私や他のアイドルが声をかけようとしても、プロデューサーの負のオーラに怖気づいて、声をかけることができない。プロデューサーの隣の席のはづきさんもまた同じだった。
やがて、社長が部屋に現れてプロデューサーを呼ぶと、二人で部屋を出て行った。
事務所には異様な沈黙。誰も声を発することができず、私たちはお互いにアイコンタクトをしても、首を振って沈黙が続いた。
一時間も過ぎず、社長が戻ってきた。
プロデューサーは帰らせたとのこと。
皆が社長に問い詰める。プロデューサーはどうしてしまったのかと。
社長は渋ったが、やがて諦めたように一つため息をついて静かに言葉を発した。
「……彼が離婚したとのことだ。理由は、奥さんの浮気で……すでに届出も提出したとのことだ」
とても異様な雰囲気だった。
プロデューサーへの不安と心配。
元奥さんがプロデューサーを裏切ったことへの怒り。
そして、再び舞い降りたチャンスに酔いしれる喜び。
いろいろな感情がぶつかり合って、私たちは表現し難い顔をしていたと思う。
なおも、社長は言葉を紡ぐ。
「彼は今……精神的にとても弱っている。誰も信用ができないとも言っていた。……だから、何とか彼に以前のような覇気を取り戻すため……君たちにも協力してほしい」
社長の言葉に私たちは力強くうなづいた。
もちろん、プロデューサーが元気になってほしいのは私たち全員の本望。そのために全力を尽くすのは当然のこと。
でも……それでも少し期待してしまう。
プロデューサーが、今度は私にあの時の感情を向けてほしいと。
私たちはひっそりと笑った。
幸せになれないのはプロデューサーの宿命なんだな