現代野球を“見える化”する 最先端のデータ分析と戦略

新たな変化球習得時にオススメの「中間球」と気をつけるべき相性の悪い球種 「相性の悪い球種」がある理由

川村卓

【Photo by Matt Thomas/San Diego Padres/Getty Images】

 データの進化とともに技術・教え方・戦い方が変わる球界の常識&トレンドを筑波大学教授で現役硬式野球部監督でもある川村卓氏がデータから"科学的"に検証。ラプソード・トラックマン・ホークアイとは?初心者に優しい最新機器の活用事情、大谷翔平や山本由伸のすごさとは?

「現代野球を"見える化"する 最先端のデータ分析と戦略」から一部抜粋して公開します。

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ボールの変化量から自分の特徴を知る

【画像提供:株式会社カンゼン】

【画像提供:株式会社カンゼン】

 第1章で説明した通り、トラッキングデータの普及によって、投打ともにさまざまなデータが取得できる時代になった。投手で言えば、ポイントになるのが「球質」だ。球速、回転数、回転軸を見ることが重要と記したが、もうひとつ、ボールの変化量を知ることでパフォーマンスの向上に役立てることができる。

 図6・7は、投手が持つ球種の変化量を示した一例である。中心にある「0,0」は、ボールが回転せずに重力のみが作用した場合に到達する点で、「原点」と表現される。この原点を基準にして、ボールに回転が加わったときに、どのように変化しているのかを視覚的に確認する。

 今では「常識」となったが、ほとんどの投手のストレート(いわゆるフォーシーム)はシュート成分とホップ成分が混ざり合っている。昔から、「シュート回転のストレートは良くない」と言われてきたが、むしろ、シュート成分が入っていないことのほうが珍しい。

 大事なことは、このストレートを軸にしながら、ほかの球種をどう生かすかである。シュート成分が強いのであれば、それをより生かす方法を考えればいい。データを見ながら、ピッチングを作り上げていくことを「ピッチングデザイン」と呼ぶ。

 変化量のもっともわかりやすい事例は、ストレート、ツーシーム、スライダー、カーブなど、それぞれの変化量の間隔が離れている状態だ。ひとつひとつの球種の意味合いが明確になり、打者に対して意識付けができる。仮にシュート成分方向に球種がなければ、シュートやツーシームを覚えて、広がりを作る。球種の距離間が近くなりすぎると、「ストレートを待ちながらスライダーを打つ」といった対策を取られやすくなる。

 このようにボールの変化量を見ることで、今持っている球種をあえて捨てたり、新しい球種を覚えたり、「自分に今何が必要か」を知ることが可能となる。

「中間球」を作ることの重要性

 ピッチングをデザインするときには、球速との関係性も頭に入れる必要がある。わかりやすい事例を出すと、ストレートが145キロ、スライダーが130キロ、カーブが115キロと、おおよそ15キロ刻みで球速帯が変化していくのが一般的だ。

 昨今、MLBのトレンドとなっているのが、意図的に「中間球」を作ることである。ストレートとスライダーの間に、140キロのカットボールを加える。ダルビッシュ投手はこのあたりの戦略がうまく、中間球をとても効果的に活用していた。

 ボールの変化量で見ても、カットボールはストレートとスライダーの間に位置する球種であり、打者としてはとても厄介な存在となる。打ち終わったあとに、「今は何の球?」と違和感を覚えやすい。球種がわからなければ、フィードバックするにも時間がかかる。

 カットボールは特殊な球種で、単体ではあまり効果を発揮しないが、ストレートとスライダーと組み合わせることによって、一気に威力を発揮する。仮に、ストレートとカットボールだけであれば、球速差がほとんど変わらないため、打者はそこまでイヤなボールに感じない。しかし、それよりも5〜10キロほど遅いスライダーを含めた3球種で組み合わせられると、一気に難易度が増す。

 スライダーとカーブの間に、速いカーブを入れる方法もある。イメージとしては、ドロンとしたカーブではなく、縦に鋭く落ちるカーブだ。球速は120キロ前後。これも球速、変化量の観点から「中間球」としての意味が高まり、打者は狙いを絞りづらくなる。

 たとえが古くて申し訳ないが、オリックスで投げていたブランドン・ディクソン投手のナックルカーブは理想に近く、ギュギュッと曲がり落ちる。ナックルカーブは指が長い、かつ曲げている人差し指で強く弾く力が必要で、〝デコピン〞をするようにボールにトップスピンを加える。日本人にあまり馴染みがない投げ方であり、完全に習得するには難しさはある。

 たいていは、オフシーズン中に新しい変化球の改良に取り組み、春先のオープン戦で試していく。トラッキングシステムが広まったことで、「A投手のカットボールを参考にしてみたい」と思えば、球速、回転数、回転軸、変化量の数値を正確に知ることができるようになった。投手は1球1球、自分の球質を計測しながら、A投手の球質に近付けていく。リリース時の手首の角度を何度変えれば、変化量が数センチ変わるのか。仮説を持ちながら検証して、それをまたフィードバックする。この繰り返しである。

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