それは涙が出るほど綺麗な蒼だった【小話】
ふと思いついた小話。真名バレあり。座に還ったアーチャーの元に不思議なポストが出現した。そこから始まるちょっとした、それでいて運命の出来事です。
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聖杯戦争、繰り返しの四日間、それらを終えて座に戻り、記憶を記録として処理した守護者エミヤ。
その記録はどれを取っても意味のあるもので、記録として得た情報であっても、本体のエミヤにとっては、とても心を震わされるものであった。
「・・・忘れたくないな・・・この摩耗していく身で、どこまで覚えていられるか・・・・・」
ポツリと呟いた。
己を最初に殺した男。全霊を掛けて、魂を削りながら刃を交えた男。とても大切にしていた赤い女の子を、己の身と引き換えに救った男。
全て同じ男、英霊クー・フーリン。鮮烈な蒼と朱を携え己の赴くままに潔く座に還った男。
畏敬し憧れた男と繰り返しの四日間、否、奇跡の四日間とも言える時間を共に隣で過ごした。それは本当に奇跡、有り得ないことであった。
『愛し、恋し』と囁き合い、いつか終わりが来ることに『寂しい、悲しい』と心で泣いた。
決して約束したわけではない、約束なんて出来ないのだから。記憶が記録に成り下がれば、いつか風化し脆く崩れ消え去っていくのだ。
しかし、そんな理屈を綺麗にぶち破ったのはやはりクー・フーリン、その男であった。
「アーチャー、オレはこの現界でだけで、終わらせたりなんてしねえ。記憶も記録も、そんなちっぽけな枠に嵌めるのは真っ平ごめんだ。」
そう言った男は眩いほどの蒼を携えて、真撃に朱でアーチャーを貫いた。
「オレはお前の本体ごと全てを手に入れる。覚悟して座で待っとけよ!」
満面の笑みで綺麗に笑った顔も、とても蒼が良く栄えていた。
いつもの様に岩に腰を降ろし、代わり映えしない己の座をただぼんやりと見つめる。殆ど光の入らないくすんだ空、その空さえも覆い尽くさんとする巨大な歯車。地面には数え切れないほどの剣が至る所に突き刺さっている。
しかし、目を瞑れば瞼の裏に鮮明な蒼と朱が蘇り、知らず知らずのうちに、エミヤの口元は笑みを作っていた。
本人はそれに気付いているのかどうだか。
「ああ、良かった。まだ覚えている・・・とても美しい、出来ることならもう一度この目で・・・ふ、馬鹿なことを」
その願いは最後まで紡がれることはなかった。言の葉にしてしまえば己を覆い尽くす勢いで欲が襲い掛かってくる。
とてもじゃないが耐えられない、あまつさえ発狂してしまうかもしれない、そんな恐怖にエミヤは口を噤んだ。
緩く頭を振り、そっと目を開けた。
「・・・・・はて?私の座にこんなモノは無かった、否、無いはずなのだが」
そう言って頭をこてりと傾け顎に指を這わせる。
今エミヤの目の前には、到底この場にそぐわないモノがあるのだ。うん、うん、と頭を捻っても理解が出来ない。ならば、とエミヤは立ち上がりその前に立った。
「うむ、ポストだなこれは。しかし何故ここに・・・」
そこに在ったのは何の変哲もない唯の赤いポスト。前かがみになり目線を合わせ、じーっと見つめる。そしてグルグルと目の前のポストの周りを確認するように一周した。
「ふむ、やはり唯のポストだな」
また前かがみになり、その赤に誘われるように、そっと蓋を開けた。ぐぐっと顔を近付けて中を覗いても、真っ暗で何も見えなかった。
一応確認のつもりで安易に手を差し入れてみれば。
「・・・む?何だ、何かあるぞ」
エミヤの指先が何かに触れた。輪郭を辿るように指を滑らせてみれば、乾いた布のような感触。その布らしきモノを内側から押し上げる硬い粒のようなもの。
そっと指で摘んでポストからそのモノを取り出し、空いている掌に乗せて目視で確認した。
それは何のこともない、麻の小さな袋、絞りが付いていてその中にころりとした何かが入っていた。
絞りを緩め小袋をひっくり返し、掌で中から出てきたモノを受け止める。
「・・・・・種?否、どんぐり、か?」
ころりとするそのフォルムは馴染みのあるもので、どの時代にもありそうなものだった。中身はある程度わかった、だがこれをどうしたものかとうんうんと頭を捻ったエミヤ。
生憎この座には液体と呼べるものは無く、仮にこのどんぐりもどきを荒れた土に植えたとする、栄養も無ければ水も無い。
「期待はしないが植えてみるか」
そう呟いたエミヤは一際ひらけていて何もない場所に5,6粒あったもどきを植えた。
この荒んだ殺風景な景色に彩りを差すとは思ってはいないが、できることなら目を楽しませる色が付くことを願って、土を盛った掌に願いを込めた。
「出来ることならばキミが自由に育める事を祈ってるよ」
座に時間の概念があるのかどうかわからない、どれだけ虚空を眺め続けたのかわからない。
コツ、と音がした。確信は無かったエミヤだがふと赤いポストに視線を向けた。
背筋をピンと伸ばし立ち上がりポストの前に立つ。おもむろに蓋を摘み上げ中に手を差し込めば、確信が実体化した。
また同じように麻の袋が入っていて、先のどんぐりもどきとはちがった苗が入っていた。
「ふむ、奇妙なものだ。こんな所に種やら苗を送り込んでくるなんて」
そう言いながらもイソイソと、苗を植えに前と同じ場所に足を向けたが、目の前にある光景にポカンとした顔で立ちすくした。
「これは・・・・・」
期待はしていなかったがほんの少しは期待していた、この荒れた地に芽吹く彩りを。
先に植えた土からは生き生きとした新緑の色が顔を出していた。しかも既にエミヤの膝丈まで成長していたのだ。
その場に膝を付き柔く瞳を細めその色を見つめた。そっと手を伸ばすも寸出で指先が止まる、この汚れてしまった手で触って良いものか戸惑ったのだ。
それほどにこの色はこの場にそぐわない生の色をしていた。何度か掌を開いたり閉じたりを繰り返したが、意を決し撫でるように指の腹でそっと撫でた。
「・・・ほぅ、脈を打っているかのようにキミは生き生きとしているな」
溜息のような、ホッとしたような息を吐きその彩りと生を堪能したエミヤは、先程入手した苗を植えた。
突如現れた赤いポストにはその後も定期的に種、苗などが届きそれを植える。通常より早い成長をみせる彩りは、虚無の時間を過ごし摩耗し続けるエミヤの心を優しく包んでいった。
そんな時間も守護者のエミヤから取り上げるように終わりを告げる。また摩耗の時間が始まる、守護者としての仕事、この彩りともしばしの別れ。
一度振り返りその色をしっかりと瞳に焼き付け、赤い外套を翻し座を後にした。
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- 月城 紗弥July 20, 2023