インタビュー

ロス五輪で始まる女子種目への遺伝子検査 多様性を包摂する意義とは

聞き手・稲垣康介

 2028年ロサンゼルス五輪から女子種目に出場する全選手に性別テストを実施すると国際オリンピック委員会(IOC)が26日に発表した。

 遺伝子検査によって「生物学的に女性」と認められる必要があり、出生時に男性に割り当てられたが、女性を自認するトランスジェンダー選手は女子種目に参加できなくなる。

 成城大の山本敦久教授(スポーツ社会学)に、今回の決定について聞いた。

 「驚きを禁じ得ない。IOCは2021年に『公平で、包摂的、そして性自認や性の多様性に基づく差別のない枠組み』という進歩的な宣言を出した。だが今回のIOCの方針は、トランプ米大統領が志向する排他的なジェンダーの政策に寄り添っている。2年後にロサンゼルス五輪を控え、大会が混乱しないための忖度(そんたく)だと勘ぐってしまう」

――21年の宣言では大会の参加資格基準について、「性自認、身体的外見および/または性の多様性に基づき、アスリートを組織や制度として排除することのない方法で、公平に制定され、運用されるべきだ」という配慮がありました。

 「トランスジェンダーの人々や性の多様性がある人々のニーズや脆弱(ぜいじゃく)性を考慮する、つまり性の多様性への尊重があった。でも今回はそれを全て投げ捨ててしまっている」

――遺伝子検査についてはどんな意見を持っていますか?

 「IOCは性分化の起点になるとされる遺伝子、SRYが含まれているかを調べるとしている。これを生物学的な性別を分ける証拠のように使うことには異論も出ている。スポーツ界の性別判定のための強制的な遺伝子検査について、今年2月に国連の人権専門家たちが、人権上の懸念を表明する共同声明を出した。特定の遺伝子のみを根拠に一律の排除を行うことへの警鐘を鳴らしている」

――一方で、元男性のトランスジェンダー選手の参加については、競技の公平性の観点から不満に思う女子選手がいるのも事実です。

 「筋肉量などで優位な可能性のある元男性のトランスジェンダー選手の参加を不満に思う女子選手がいるのは理解できるし、私自身、誰もが納得する解決策は思いつかない」

 「ただ、スポーツはグローバルに可視化される存在。今回の決定は社会生活の上でも、トランスジェンダーに対する深刻な差別を生み出しかねない。五輪が持つ世間への影響力に、IOCは謙虚であるべきだ」

 「スポーツをたしなむことが貴族階級の白人男性の特権だった時代を経て、スポーツは労働者、あらゆる人種、そして女性も包摂することで発展してきた。多様性を包摂することで繁栄してきた歴史を、トランスジェンダーの事例でも生かしたい。それこそが、社会におけるスポーツの価値を高めることにつながる」

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この記事を書いた人
稲垣康介
編集委員
専門・関心分野
スポーツを「窓」に日本、国際情勢など社会について考察すること
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    井本直歩子
    (元競泳五輪代表・途上国教育専門家)
    2026年3月28日11時54分 投稿
    【視点】

    どこかで線引きをしなければならない現状において、誰もが納得する正解は今のところ見つからないのかなと思っています。しかし、医学的な観点、エリートスポーツの現状、オリンピック憲章、子どもや社会への影響、政治面での圧力や忖度を鑑みても、疑問点があります。 一つは、力や持久力を争う競技と比べると、射撃やアーチェリーなどいわゆる「精密 (précision)」が競われる競技は、今回のルールは必要なのかどうか。まだまだグレーな部分が多い論議だけに、ここまで締め付けるのは時期尚早で、逆に差別意識が色濃くなります。せめて今回は除外することで、印象は違ったと思います。 もう一点は、DSDの扱いです。トランスジェンダーとDSDは論点が明確に違いますから、DSDを遺伝子検査で判断することは多くの議論があり、この点ももう少し丁寧に区別して示すことで、差別的なメッセージは弱められなたのではないかと思います。 もちろん、他にもプライバシー・人権について、完全に否定されている感はあり、一律検査の実施可能性など、多くの疑問は残ります。やはり政治的な圧力や忖度を感じざるを得ません。

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