Skip navigation
日本の医師所得の今後

要約

日本の医師所得は今後、複数の構造的要因が同時に圧力をかけることで、総体として下降傾向に向かう高いリスクがあります。病床数11万床削減(2027年度まで)と医療費1兆円抑制、人口減少による医療需要の低迷、国民健康保険の財政逼迫に対する診療報酬圧縮、医師数の増加傾向が重なり、勤務医・開業医の両者において収入減少圧力は避けられない見通しです。


詳細

1. 病床数削減の方針と時間軸

政府決定内容:

  • 2027年4月までに全国の病院病床11万床を削減する方針が、2024年6月に自民党・公明党・日本維新の会の3党で合意

  • 削減対象:一般病床・療養病床 5万6,000床、精神病床 5万3,000床

  • 削減により、医療費が年間1兆円削減されると試算

背景と影響:

  • 現在全国に約150万床が存在する中での大規模削減

  • 地域医療構想の下で「新地域医療構想」へのシフト(2026年度以降)

  • 削減対象となるのは「必要病床数を超過している」と判断された地域の病床


2. 人口減少と医療需要の見通し

厚生労働省の推計:

  • 全国入院患者数:2030年まで増加、その後減少に転じる

  • 全国外来患者数:2025年まで増加、その後減少に転じる

  • 2040年を見据えると、医療需要は顕著に減少

    • 急性期・回復期の医療ニーズは減少傾向

    • 高齢化により介護・療養需要は増加するが、医療機関での稼ぎ口としては限定的

人口動態:

  • 生産年齢人口(15~64歳):2020年~2040年で1,295万人減少

  • 65歳以上の医療圏の197圏域では、65歳以上の患者数が2040年に向けて減少

医師所得への影響: 患者数が減少する中で診療報酬が現状維持~わずかな増加に留まれば、総医療費の伸び率が鈍化し、医療機関の経営が圧迫される。病院の医師給与は経営状況に直結するため、勤務医の給与抑制圧力が高まる


3. 国民健康保険の財政状況と医療費

医療費の現状(2024年度):

  • 国民医療費は過去最高の48兆円超(2024年)

  • 75歳以上が医療費全体の初めて4割超を占める

  • 国民健康保険(個人負担者が多い):10.2兆円(医療費全体の21.3%)

診療報酬改定と医療費抑制:

  • 2024年度診療報酬改定では、医療費抑制200億円が明記された

  • ベースアップ評価料は創設されたが(2024年度2.5%、2025年度2.0%)、その他の改定率や効率化で相殺

  • 2026年度診療報酬改定では「本体部分」(医師技術料など)が+3.09%と決定されたが、これは全体の医療費伸び率の中での配分に過ぎない

医療費適正化計画(第4期:2024~2029年度):

  • 後発医薬品の使用促進、効果の乏しい治療の削減、化学療法・がん検診等の効率化が重点

  • これらの施策により診療報酬ベースでの医療機関への支払いは相対的に圧縮される傾向

医師所得への影響:

  • 診療報酬が全体として低位に抑えられる中では、医療機関全体の営収が伸びず、給与原資が限定的

  • 特に開業医は2024年度改定で6割以上が減収を実感(医療DX推進による施設投資負担増もあり)

  • 公立・民間病院の勤務医も、経営難に直面する医療機関からの給与カットは避けられない可能性


4. 医師数の推移と供給計画

医師数の現状と増加トレンド:

  • 全医師数:2022年度約34万3,000人(過去最高)

  • 毎年3,500~4,000人程度増加(2020年度より地域枠を中心に臨時増員)

  • 医学部総定員:2024年度9,403人(全国)、将来的には2027年度以降の適正化を検討

医師需給推計(参考値):

  • 過去推計:「2024年頃に約30万人で均衡」(中位推計)

  • 新推計方針:労働時間短縮(週60時間程度に制限)、7%のタスク・シフティング等を前提とすると、医師が余剰になる時期が前倒しされる可能性

地域枠・キャリア形成プログラムの浸透:

  • 地域枠出身医師の義務年限終了後の離職傾向も指摘

  • 医師少数地域への派遣では、派遣医の給与は通常より低い傾向

医師所得への影響:

  • 医師総数が増加する一方で、患者数(医療需要)は減少すれば、医師1人あたりの診療量が低下

  • 診療量低下 → 医療機関の営収減 → 給与削減の圧力

  • 特に若手医師の初任給や昇給ペースが鈍化する可能性が高い


5. 医師所得の現状と決定要因

現在の医師所得(2024年度):

  • 勤務医平均年収:約1,200万円(全体)

    • 男性:約1,449万円

    • 女性:約1,039万円

  • 開業医(診療所院長)平均年収:約2,652万円(病院勤務医の約1.8倍)

診療報酬が給与に与える影響:

  • 勤務医の給与は医療機関の経営状況に連動

  • 病院が赤字経営に転じれば、ボーナス削減や基本給カットが実施される

  • 2024年診療報酬改定により、医療機関経営は逼迫

    • 病院の約30~40%が経常赤字(厚労省推計)

    • 診療所の約6割以上が減収を実感

働き方改革による所得圧縮:

  • 2024年4月より医師の時間外労働が制限開始(年1,860時間超制限)

  • 当直手当、時間外手当の削減が見込まれる

  • 医師の約3割が「収入減少の影響を受けそう」と予測(民間調査)

開業医の経営環境悪化:

  • 診療報酬改定で診療所の算定項目が削減

  • DX投資(医療事務作業効率化システム等)の費用負担が増加

  • 患者数減少地域での経営難


6. 医師所得低下の複合シナリオと予測

シナリオA:緩和的シナリオ(楽観的)

  • 診療報酬がGDP成長率と同程度改定される

  • 病床削減による医療機関の経営効率化が進む

  • 医師給与:年1~2%程度の実質低下(インフレ調整後)

  • 結果:勤務医給与1,200万円→ 10年後1,050~1,100万円程度

シナリオB:中位シナリオ(最も可能性が高い)

  • 診療報酬の改定率がインフレ率を下回る(1~2%圧縮)

  • 病床削減と医師数増加により、医師の分配原資が縮小

  • 医療費抑制政策が継続・強化される

  • 医師給与:年2~4%程度の実質低下

  • 結果:勤務医給与1,200万円→ 10年後900~1,000万円程度

シナリオC:悲観的シナリオ

  • 医療費削減目標(1兆円)を達成するため、診療報酬がマイナス改定に転じる

  • 病院経営の急速な悪化により、大量の医療機関が統廃合

  • 医師余剰が顕在化し、医師間での報酬競争が激化

  • 医師給与:年4~6%程度の実質低下

  • 結果:勤務医給与1,200万円→ 10年後600~800万円程度


7. 診療科別・勤務地別の所得格差拡大

診療科による差別化:

  • 「医療費削減の対象外」となりやすい診療科(精神科、透析、リハビリ等)への志願者集中

  • 外科、産婦人科等の「採算性の低い」診療科は給与が相対的に低下

  • 高度医療・先進医療を扱う大学病院等では給与維持される可能性

地域差の拡大:

  • 医師少数地域での給与維持・増加(赤字補填の可能性)

  • 医師過剰地域での給与低下(競争原理の下で)

  • 都市部勤務医と地方勤務医の給与格差がさらに拡大


8. 開業医と勤務医の格差動向

開業医の今後:

  • 患者数減少により、診療所の廃業が加速する可能性

  • 残存開業医の給与レベルは維持される傾向(患者数の多い都市部に集中)

  • 医師数増加により、新規開業の難易度が上昇

勤務医との格差:

  • 現在:開業医が勤務医の約2.2倍の給与

  • 予測:この格差は縮小する可能性が高い(開業医の経営が悪化する一方、勤務医給与の下降スピードは若干緩和される)


統合的な予測:「医師所得1/3化」の可能性

業界で指摘される**「医師給与が1/3になる未来」**という言説は、以下の前提による極端なシナリオです:

  1. 医療費削減が継続・強化される

  2. 診療報酬が大幅に圧縮される

  3. 医師数が急速に増加する

  4. 患者数(医療需要)が大幅に減少する

  5. これらが同時並行で進む

現実的な予測(中位シナリオ):

  • 10年間(2024~2034年)で名目給与が10~20%程度低下

  • インフレを考慮した実質低下は20~30%程度

  • 「1/3化」まで極端には至らないが、医師所得の相対的な魅力度の低下は確実

  • 特に若手医師(初任給2,500~3,000万円の期待値)の失望感が高まる可能性


医師所得低下への対抗要因(若干の希望)

  1. AI・自動化による業務効率化 — 診療報酬ベースでの支払いが維持されれば、医師の実労働時間短縮により相対的な時給が改善

  2. 高度医療・先進医療への投資 — 先制医療、精密医療、デジタル医療への診療報酬加算

  3. 地域医療構想の定着による経営効率化 — 不採算部門の削減により、残存医療機関の採算が改善される可能性

  4. 国家財政の改善 — 社会保障費の増加スピードが鈍化すれば、医療費削減圧力も緩和される可能性


References


 Outline

日本の医師所得の今後

要約

日本の医師所得は今後、複数の構造的要因が同時に圧力をかけることで、総体として下降傾向に向かう高いリスクがあります。病床数11万床削減(2027年度まで)と医療費1兆円抑制、人口減少による医療需要の低迷、国民健康保険の財政逼迫に対する診療報酬圧縮、医師数の増加傾向が重なり、勤務医・開業医の両者において収入減少圧力は避けられない見通しです。


詳細

1. 病床数削減の方針と時間軸

政府決定内容:

  • 2027年4月までに全国の病院病床11万床を削減する方針が、2024年6月に自民党・公明党・日本維新の会の3党で合意

  • 削減対象:一般病床・療養病床 5万6,000床、精神病床 5万3,000床

  • 削減により、医療費が年間1兆円削減されると試算

背景と影響:

  • 現在全国に約150万床が存在する中での大規模削減

  • 地域医療構想の下で「新地域医療構想」へのシフト(2026年度以降)

  • 削減対象となるのは「必要病床数を超過している」と判断された地域の病床


2. 人口減少と医療需要の見通し

厚生労働省の推計:

  • 全国入院患者数:2030年まで増加、その後減少に転じる

  • 全国外来患者数:2025年まで増加、その後減少に転じる

  • 2040年を見据えると、医療需要は顕著に減少

    • 急性期・回復期の医療ニーズは減少傾向

    • 高齢化により介護・療養需要は増加するが、医療機関での稼ぎ口としては限定的

人口動態:

  • 生産年齢人口(15~64歳):2020年~2040年で1,295万人減少

  • 65歳以上の医療圏の197圏域では、65歳以上の患者数が2040年に向けて減少

医師所得への影響: 患者数が減少する中で診療報酬が現状維持~わずかな増加に留まれば、総医療費の伸び率が鈍化し、医療機関の経営が圧迫される。病院の医師給与は経営状況に直結するため、勤務医の給与抑制圧力が高まる


3. 国民健康保険の財政状況と医療費

医療費の現状(2024年度):

  • 国民医療費は過去最高の48兆円超(2024年)

  • 75歳以上が医療費全体の初めて4割超を占める

  • 国民健康保険(個人負担者が多い):10.2兆円(医療費全体の21.3%)

診療報酬改定と医療費抑制:

  • 2024年度診療報酬改定では、医療費抑制200億円が明記された

  • ベースアップ評価料は創設されたが(2024年度2.5%、2025年度2.0%)、その他の改定率や効率化で相殺

  • 2026年度診療報酬改定では「本体部分」(医師技術料など)が+3.09%と決定されたが、これは全体の医療費伸び率の中での配分に過ぎない

医療費適正化計画(第4期:2024~2029年度):

  • 後発医薬品の使用促進、効果の乏しい治療の削減、化学療法・がん検診等の効率化が重点

  • これらの施策により診療報酬ベースでの医療機関への支払いは相対的に圧縮される傾向

医師所得への影響:

  • 診療報酬が全体として低位に抑えられる中では、医療機関全体の営収が伸びず、給与原資が限定的

  • 特に開業医は2024年度改定で6割以上が減収を実感(医療DX推進による施設投資負担増もあり)

  • 公立・民間病院の勤務医も、経営難に直面する医療機関からの給与カットは避けられない可能性


4. 医師数の推移と供給計画

医師数の現状と増加トレンド:

  • 全医師数:2022年度約34万3,000人(過去最高)

  • 毎年3,500~4,000人程度増加(2020年度より地域枠を中心に臨時増員)

  • 医学部総定員:2024年度9,403人(全国)、将来的には2027年度以降の適正化を検討

医師需給推計(参考値):

  • 過去推計:「2024年頃に約30万人で均衡」(中位推計)

  • 新推計方針:労働時間短縮(週60時間程度に制限)、7%のタスク・シフティング等を前提とすると、医師が余剰になる時期が前倒しされる可能性

地域枠・キャリア形成プログラムの浸透:

  • 地域枠出身医師の義務年限終了後の離職傾向も指摘

  • 医師少数地域への派遣では、派遣医の給与は通常より低い傾向

医師所得への影響:

  • 医師総数が増加する一方で、患者数(医療需要)は減少すれば、医師1人あたりの診療量が低下

  • 診療量低下 → 医療機関の営収減 → 給与削減の圧力

  • 特に若手医師の初任給や昇給ペースが鈍化する可能性が高い


5. 医師所得の現状と決定要因

現在の医師所得(2024年度):

  • 勤務医平均年収:約1,200万円(全体)

    • 男性:約1,449万円

    • 女性:約1,039万円

  • 開業医(診療所院長)平均年収:約2,652万円(病院勤務医の約1.8倍)

診療報酬が給与に与える影響:

  • 勤務医の給与は医療機関の経営状況に連動

  • 病院が赤字経営に転じれば、ボーナス削減や基本給カットが実施される

  • 2024年診療報酬改定により、医療機関経営は逼迫

    • 病院の約30~40%が経常赤字(厚労省推計)

    • 診療所の約6割以上が減収を実感

働き方改革による所得圧縮:

  • 2024年4月より医師の時間外労働が制限開始(年1,860時間超制限)

  • 当直手当、時間外手当の削減が見込まれる

  • 医師の約3割が「収入減少の影響を受けそう」と予測(民間調査)

開業医の経営環境悪化:

  • 診療報酬改定で診療所の算定項目が削減

  • DX投資(医療事務作業効率化システム等)の費用負担が増加

  • 患者数減少地域での経営難


6. 医師所得低下の複合シナリオと予測

シナリオA:緩和的シナリオ(楽観的)

  • 診療報酬がGDP成長率と同程度改定される

  • 病床削減による医療機関の経営効率化が進む

  • 医師給与:年1~2%程度の実質低下(インフレ調整後)

  • 結果:勤務医給与1,200万円→ 10年後1,050~1,100万円程度

シナリオB:中位シナリオ(最も可能性が高い)

  • 診療報酬の改定率がインフレ率を下回る(1~2%圧縮)

  • 病床削減と医師数増加により、医師の分配原資が縮小

  • 医療費抑制政策が継続・強化される

  • 医師給与:年2~4%程度の実質低下

  • 結果:勤務医給与1,200万円→ 10年後900~1,000万円程度

シナリオC:悲観的シナリオ

  • 医療費削減目標(1兆円)を達成するため、診療報酬がマイナス改定に転じる

  • 病院経営の急速な悪化により、大量の医療機関が統廃合

  • 医師余剰が顕在化し、医師間での報酬競争が激化

  • 医師給与:年4~6%程度の実質低下

  • 結果:勤務医給与1,200万円→ 10年後600~800万円程度


7. 診療科別・勤務地別の所得格差拡大

診療科による差別化:

  • 「医療費削減の対象外」となりやすい診療科(精神科、透析、リハビリ等)への志願者集中

  • 外科、産婦人科等の「採算性の低い」診療科は給与が相対的に低下

  • 高度医療・先進医療を扱う大学病院等では給与維持される可能性

地域差の拡大:

  • 医師少数地域での給与維持・増加(赤字補填の可能性)

  • 医師過剰地域での給与低下(競争原理の下で)

  • 都市部勤務医と地方勤務医の給与格差がさらに拡大


8. 開業医と勤務医の格差動向

開業医の今後:

  • 患者数減少により、診療所の廃業が加速する可能性

  • 残存開業医の給与レベルは維持される傾向(患者数の多い都市部に集中)

  • 医師数増加により、新規開業の難易度が上昇

勤務医との格差:

  • 現在:開業医が勤務医の約2.2倍の給与

  • 予測:この格差は縮小する可能性が高い(開業医の経営が悪化する一方、勤務医給与の下降スピードは若干緩和される)


統合的な予測:「医師所得1/3化」の可能性

業界で指摘される**「医師給与が1/3になる未来」**という言説は、以下の前提による極端なシナリオです:

  1. 医療費削減が継続・強化される

  2. 診療報酬が大幅に圧縮される

  3. 医師数が急速に増加する

  4. 患者数(医療需要)が大幅に減少する

  5. これらが同時並行で進む

現実的な予測(中位シナリオ):

  • 10年間(2024~2034年)で名目給与が10~20%程度低下

  • インフレを考慮した実質低下は20~30%程度

  • 「1/3化」まで極端には至らないが、医師所得の相対的な魅力度の低下は確実

  • 特に若手医師(初任給2,500~3,000万円の期待値)の失望感が高まる可能性


医師所得低下への対抗要因(若干の希望)

  1. AI・自動化による業務効率化 — 診療報酬ベースでの支払いが維持されれば、医師の実労働時間短縮により相対的な時給が改善

  2. 高度医療・先進医療への投資 — 先制医療、精密医療、デジタル医療への診療報酬加算

  3. 地域医療構想の定着による経営効率化 — 不採算部門の削減により、残存医療機関の採算が改善される可能性

  4. 国家財政の改善 — 社会保障費の増加スピードが鈍化すれば、医療費削減圧力も緩和される可能性


References