ボルバルザーク禁止運動の真実を、今話します。
まず最初に。
この記事は、現在の株式会社タカラトミー様を非難するものではありません。
この記事は告発ではなく、僕から皆さんへの謝罪記事です。
20年以上前、「ボルバルザーク禁止運動」に協力して下さった200余名の皆様に、本当ならすぐに伝えなければいけなかったことを、僕が長い間伝えられなかった事を謝罪する記事です。
伝えられなかった理由は、記事の最後に書いていますが、それで許されるものではないと思っています。ずっと胸につかえていました。
また、記事を読むことで、当時のタカラ社に対して憤りを感じる方がいらっしゃるかも知れませんが、どうか控えて下さい。
もう、20年も前のことです。今のタカラトミーさんなら、こんな事は絶対にないと信じます。
ただ、この記事は、当時起こった実話です。
こういう事があった、という昔話として、お読み下さい。
2005年夏。
あの、《無双竜機ボルバルザーク》と《炎槍と水剣の裁き》がついに、1枚制限になった夏。
カードキングダム練馬春日店に僕は居ました。
そんなある日、株式会社タカラの社員さんの訪問を受けました。
(当時はタカラトミーではなくタカラ社)
彼のことをHさんと呼びます。
普通、メーカーの方がお店にいらっしゃるのは「営業」です。
営業のお仕事は、
◯新製品の説明
◯最近の自社の商品動向について、実地で情報を集める事
◯店舗経営者に既知を得ること
です。
なので僕も、Hさんは営業でいらっしゃったのだと思いました。
しかしHさんは挨拶の後、開口一番、
「池田さん、ボルバルザークは1枚制限になりました。もう問題ないですよね?」
と仰ったのです。
いや、問題しかない。
その後の歴史を知る我々は当然知っているのですが、ボルバルザークは1枚制限になっても全く問題なく、猛威を振るいました。
ボルバルが1枚しか入ってなくても、ちょうどアタッカーを出しておきたい5マナ枠で《鳴動するギガ・ホーン》を出し、デッキからサーチして手札に加えることが出来ました。
当然僕は、そのデッキを組んでお客さんたちと研究し、
「まだ問題のある強さのままだ」
「むしろ研究が進んだのと、新しいカードが入ることで更に強くなってる」
と結論づけていたので、Hさんには率直に、
「いいえ。1枚になっても今後も問題であり続けています。」
と答えました。
Hさんはギラリと目を光らせ、自信たっぷりに
「じゃあ池田さん、勝負しましょう。僕はタカラの社内大会で優勝してるんですよ。」
と仰ったのです。
この時になってやっと悟りました。
この人は営業に来たんじゃない。
ボルバルザーク禁止運動の中心となった僕を疎ましく感じ、叩き潰しに来たんじゃないか?と。
「思い知らせてやる!」
という強い意思が伝わってくる視線でした。
誤解の無いように先に伝えておきますが、タカラ社の営業の方は本来、真面目で話のわかる、優秀な方ばかりでした。
バディファイトが発売した頃には、毎週社内でバディファイト大会を開催して盛り上がっていた…とも聞いていますし、僕からすると好感と感謝しかありません。
なので、「この人だけがおかしかった」と思って下さい。
メーカーが、
「カードショップに刺客を送り込んで、小生意気な店長のタマ取ったる!」
なんて漫画みたいな事、やるはずがありません。
間違いなくHさんの暴走でしょう。
さて、僕はどうしたか。
普通の対戦=交流なら良いのですが、この人は明確に、
「うるさい池田を叩きのめして黙らせてやる。ボルバルは1枚になったら問題ない事を解らせてやる」
という意図で来ているように思われました。
なので、ここで勝負を受けたら、まるで本当に漫画です。社としての誇りをかけてのデュエリスト漫画です。
普段アホな動画を作っていましたが、そこは経営者としての常識も、最低限のミリ程度は持っている僕です。勝負なんて子供っぽいことには応じませんでした。
「それより商品の話をしましょう。」
売り場を指し示しながら、普通にデュエマの近況について話をしました。
僕は伝えるべきことを伝えていったのですが、Hさんから今後の展開等の話はでてきませんでした。
という事はやはり、Hさんは「営業」では無かったのだと思います。
正直に言いますと、僕にもHさんと対戦してみたいという気持ちはありましたが、そこで片方が何かを失うようでは、お互いにとって良いこととは思えません。
なので小一時間ほどお話したあと、Hさんをお見送りすることにしました。
しかし。
Hさん、玄関先で立ち止まり、ひとつ貯めてからクルリと振り返って言いました。
「池田さん、やっぱり対戦しましょう!」
俺はこのために来たんだ。逃さんぞ、という決意のみなぎる目でした。
……僕は我慢して、大人として振る舞ったのに。
“戦争”にならないよう、収めようとしたのに。
そんな眼をされたら……たまんねぇじゃねぇか!!
……クッ!俺はもう、知らんぞ!!(狂喜)
デュエマ、スタート!!
第1試合。
Hさんのデッキは水と闇。
アクアハルカスからのクリスタルランサーという正統派ビートダウン。
デーモンハンドとアクア・サーファー各4投(スパイラルゲートも入っていたかも)の、
「ボルバルザークにトリガーで対処して正面から殴り勝つ」
という、Hさんの真面目で正々堂々とした性格がうかがえるデッキでした。
…だけど、これで本当に社内優勝したのか?
一応信じられるレベルだけど、社内に新型ボルバルはなかったのか…?とも思いました。
ビートダウンを浴びせながら、まるで攻撃の気配のない僕を訝しむHさん。
第1試合ですから僕は、あえてボルバルを使わず別のデッキを用意しました。
僕がボルバルの強さに胡座をかいたプレイヤーではないことを知ってもらう、自己紹介の名刺代わりのデッキ、“謎のデッキX”です。
僕はシールドが残り1枚になるようゲームをコントロールしました。
そしてコンボ発動。
シールドに手札から《憎悪と怒りの獄門》(エターナルゲート)を仕込み、《ラッキーダーツ》で破壊。
《憎悪と怒りの獄門》を使用。僕のシールドはゼロ枚なので、Hさんのシールドを全部ブレイク。
トリガーも幾つかあったようでしたが、僕の場にはクリーチャーがいません。
この時点では。
僕「全部のシールドブレイク。トリガー処理良いですか?ではまだメインフェイズなので、クリーチャーを召喚します。
3マナで《襲撃者エグゼドライブ》。攻撃します。シールドがないので本体に攻撃。ゲーム終了です。」(ニンジャストライクの登場は2008年)
Hさんはポカーンとしてました。このデッキに始めて轢き殺された人は、みんな同じ顔をします。
「自己紹介は終わりました。ではHさんのお望み通り、『1枚制限版・ボルバルザークデッキ』で対戦しましょう。」
第2試合。
《ギガホーン》からの《ボルバルザーク》サーチ。《青銅の鎧》《ギガホーン》《ボルバルザーク》3体で攻撃。トリガーは踏みましたが、そのまま押し切って勝利。
第3試合。
繰り返される《ギガホーン》からの《ボルバルザーク》サーチ。
今回はトリガーを2枚踏みましたが、エクストラターンで《ツインキャノン・ワイバーン》をねじ込んで勝利。
(注・当時のボルバルデッキには、《ジャガルザー》採用型も、闇を入れて《無双恐皇ガラムタ》を採用するパターンもありました。)
結果として、2試合とも《無双竜機ボルバルザーク》を出して勝利しました。
呆然とするHさんの表情を見て、僕はスッキリしたかと言うと……逆です。あることに気付いて僕は……ぶっちゃけ、絶望的な気分になりました
その、あることとは、長い間、
「もしかしたら」
「いや、そんなはずはない」
と思い、考えないようにしてきたことでした。
ボルバル禁止運動に皆さんの力を借りながら、ずっと不安に感じていたこと。
「もしかするとメーカーは、ボルバルザークがゲームを壊しているという事を、本質的に理解していないのではないか……?
だとしたら、僕がやっていることは、メーカーにとって『鬱陶しい迷惑』なだけで、何の意味もないんじゃないか……?」
ボルバルの問題が、本当の意味で伝わっていたら、1枚制限ではなく、禁止カードになるかエラッタになっていたはずです。
ですがHさんに勝って、その表情を見て、気付いてしまったのです。
全然、伝わっていなかったんじゃないか?と。
僕は話しました。
「Hさん……僕達は、いやユーザーは皆、コイツ(ボルバル)が出てから約1年半、ずっと、戦ってきたんですよ。
コイツ、マジで何とかならないかなって。
ボルバルがあると、どうやってもボルバルを使うのが最適解になる。ボルバルデッキに勝てるデッキはありますが、それは他のデッキに勝てない。
勝率から考えたら、ボルバルを使うのが最適解で、他に選択肢が事実上無いんですよ。
本当に問題だったから、本当に悩んだから、デュエマを普通に楽しみたかったから、皆の声を届けたいと思って禁止運動までやったんです。
メーカーさんにとっては鬱陶しかったかも知れませんが、決して、嫌がらせでもお祭り騒ぎで浮かれていたわけでもなくて、本当にコイツには問題があったから、真面目に意見を聞いてほしかったんです。
カードゲーマーの浅知恵とか、文句言いたいだけのクレームじゃない。真剣だったんです。
けど、つまり僕達の想いは届いていなかったってことなんですか?
社内優勝したHさんが、ボルバルの強さを正しく理解していなかったという事は、御社内にこのボルバルデッキを使っていた人がいなかったということでは?
だったらつまり、僕達が、ユーザーが、何言っても、そもそも通じてなかったってことなんでしょうか?
僕がやったボルバル禁止運動は、タカラさんにとっては、ただの迷惑だったんですね?
ええ。200通以上のメールを纏めて、御社にお送りしました。
だけど御社からは、一度の返事もありません。
この件について、何らかの連絡を受けたことは一度もなかったんです。
僕は皆さんに申し訳なくて、
『メーカーには無視されました』
なんて言えなかった。
始めてのリアクションが、Hさんが今日、僕に挑戦してきたことですよ。
そんなのって、あんまりです。
Hさんは、1枚制限になったんだから、もう良いだろう?もう文句を言うな、と言いたかったのではありませんか?
良くなかったでしょ。2回ともボルバルで勝っちゃってるじゃないですか。1枚になっても、ダメなものはダメなんです。」
Hさんは何も反論しませんでした。
「何も届いてなかったんですか?」
という問い掛けに、「そんなことはない」と、反論してほしかった。
だけど反論はなかったんです。
帰ります、とポツリと呟いて、Hさんは帰っていきました。
その後姿が、今も目に焼き付いています。薄いブルーの、若々しい背広姿がガックリと俯いていました。
ボルバルザーク禁止運動に力を貸して下さった皆さんへ。
この事を、僕が今まで皆さんに伝えられなかった理由は、
◯僕がカードショップグループの代表だったこと。
◯その立場で、「200通以上の皆さんのお便りは、メーカーに無視された」というと、メーカーへの非難が巻き起こっていた可能性があったこと。
です。
当時のタカラ社さんに配慮しました。
報告が今頃になって申し訳ありません。僕がカードキングダムに居る限り、言えなかったことを、今、報告しました。
ボルバルザーク禁止運動は、当時のメーカーさんには理解して頂けなかったようです。
お便りを送った時には、メーカーさんは、問題の本質を理解していなかった可能性が高い。返事は一度も貰えませんでした。
「池っち店長が頑張ったから、ボルバルザークは禁止になったんだよね!」
と思って、僕を英雄視してくれていた当時の少年達。
ごめん。全力を尽くしたけど、返事がもらえなかったってことは、無視されたって事だと思う。
だから僕達のやったことは、無駄だったのかもしれない。だけど……
言い訳にはならないと思うし、意味があるのかどうかは解らないけど。
一応、勝負には、勝って、証明したよ。
そのうえで、ごめん。みんな。
それとタカラトミーさん。
僕は今も、お返事を待っています。


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