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あなたまであと一歩/Novel by 六花

あなたまであと一歩

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アイリ、僕はね…白弓という設定が死ぬほど好きなんだ…  /ということで正英霊エミヤ、通称白弓さんを妄想してみました。白弓さんと赤弓さんが座できゃっきゃしながら暮らしてたら超うめぇと思って設定を練っていたはずが気づいたらおかしなことになっていました。「【赤と白】余事介入するよー(^ω^)【選べる2タイプ】」みたいなふざけた冬ちゃんネタを投下するはずがどういうことだってばよ。/表紙お借りしました!

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やっとたどり着いたと思った。いろいろな人に支えられて、この身を手に入れたのだと。
ようやく横に並べたと思ったのだ、その瞬間までは。


衛宮士郎というものがガイヤに連なる英霊になるまでを語るには、遠坂凛という女性のことをまず語らなければならない。
十七の時に懇意にしてから死ぬまでの間、彼女は彼の傍にいた。優秀で完璧で、そして人間的にも美しい魔術師。
十に満たない年より自身よりも他人を優先する士郎にとって、それを多少物騒でも止めてくれる彼女がいたからこそ、アラヤとの契約もせずに済んだ。
というよりもうっかり手を取ろうとしようとすれば肋骨の一本か二本は覚悟しなければならない。ついでに声をかけてきた方にも話し合い(物理)をし、きっちりとお帰りいただく完璧さだ。
それでも士郎はその存在、その力を欲していた。十七の時に見た、あの赤い背中は何度拭ったところで消えるものでもない。
じゃあガイヤ側に行けばいいじゃない、と彼女は言った。近代以降の人間が英霊になることがどれほど難しいのかを知りながら彼女は事もなげに言ったのだ。
もちろん彼とてそれが一番いいことくらいはわかっていた。けれどあえてゼロに近い可能性の方に目を背けていたというのに彼女はそれを成功させるに至った。
どうやって?もちろん話し合いだ。後ろにアラヤと同じく(物理)がつくが。実体の有無はこの際つっこんではいけない。士郎とてそれはわからないのだ。
ただある日彼女がいい笑顔で「話をつけてきたから」と士郎に言った。人生で二度あったそれが普通の話し合いでないことくらいは彼にだってわかった。
やだ、遠坂ってば男前…とときめく前に背筋が冷たくなったのは彼だけの秘密だ。
そういう経緯があり、衛宮士郎というものは死後晴れてガイヤ所属の英霊となった。赤い彼とは違う白の武装をはためかせながら、女って怖い、とつくづく彼は思った。否、それは高校生の時から知っていたけれど。


焼けた空には無数の歯車が回り、乾いた大地には剣が幾万も突き刺さる。
帰ってきた、と思った。十七の時に見たきりだった、自身の心象風景。人生で最も長い間隣にいた彼女が決してそれを使わせることがなかったからか、自分の中に存在しているはずなのに妙に懐かしい。
ガイヤ所属の正英霊となった彼の最初の仕事は、座の一本化であった。彼の人生では結局アラヤと契約するに至らなかった、つまり赤い武装の彼にならない人生だったのだ。そうしてそのまま英霊となった。
つまりガイヤとアラヤに同一の存在であるはずのエミヤシロウが重複して存在することになってしまう。これではいろいろな不都合が発生するため、どちらかに集約しなくてはならない。
凛が話し合い(物理)までしてもぎ取ってきた英霊の座を易々と手放す士郎ではない。一本化というよりは吸収合併をしてやろうと士郎はこの座まで来たのだ。
リフォームが必要だな、と士郎は思った。ざくざくとした土の感覚は慣れ親しんだものではあるが、それにしても暮らしにくい。
ガイヤの英霊なんてそうそう忙しくもないのだろうから、ゆっくりと改革してやろう、と心に決めながら目的の人物を探す。居心地はいいのに、どこか寂しくなるのだ、ここは。
いくら歩いただろうか、その姿を見つけた。赤いそれが、侵入者に対してひらりと舞った。
「――吐き気がするくらい同じ顔だな」
「久しぶりに会ったのに最初にかける言葉はそれか」
久しぶりもなにも、数十年振りに見た顔だ。それでも記憶から色褪せてくれなかった人間が士郎の前に立っていた。
見上げるほどであった身長はいつの間にか同じになっていたらしい。それに士郎は少しばかり喜んで、彼を見ていた。


やっとたどり着いた。やっと、追いついたのだ、あの背中に。


「迎えに来た、アーチャー」
「話には聞いている。私もようやくお役御免というわけだ。その最後が貴様とは腹立たしくもあるが」
仕方があるまい、とアーチャーは鼻で笑う。士郎はその記憶と変わらない様子に少し笑った。
「なんだよ、救いを求めて俺を殺しに来たのに、俺に救われたら迷惑なのか」
「ああ、腸が煮えくり返るようだな。しかし…どこかではそうなると思っていたのかもしれん」
そう言ってアーチャーはゆっくりと微笑んだ。それに士郎は恥ずかしいようないたたまれないような気持ちになり、紛らわせるように天を仰ぐ。
「そうだ、この座もさ、ガイヤ側に移動するから。そうしたらもっと緑を多くして風通しをよくしないとな。まず家を作って…ふたりで住むんだからあの家にしよう」
空は青空に。たまには夜空にして、縁側から月を眺めよう。お前には少し寂しいかもしれないけれど、きっとそのうち懐かしく感じることになるさ。
お前にも手伝ってもらうからな、と士郎が言うと、アーチャーは困ったように口角を上げて笑う。
「ああ、好きにするといい。ここにはお前の白は似合わないだろう」
「なんだよ、随分――」
素直なんじゃないか、と言いかけた言葉が止まる。
「その肌と髪の色を見ればわかる。随分と幸せな人生を歩んだみたいじゃないか、衛宮士郎。英霊になぞならずに転生すればよかったものを、最後まで大馬鹿者だな、貴様は」
眉間に皺をよせ、眉を下げ、口元を緩く上げた、表情。それは、嬉しそうにも見え、照れ隠しのようにも見え、寂しそうにも見え、泣きそうにも見えた。
抱きしめてやらなければならない、と子供にするようなことを士郎は思った。大丈夫だ、と声をかけなければならないような、唐突な義務感。それは予感だったのかもしれない。
「概念武装まで色違いなんてな。間違っても髪なんて上げてくれるなよ、反吐が出る」
いろいろな感情をないまぜにした笑顔をした彼に触れようと士郎は一歩踏み出す。両手を広げ、確かに抱き締められる距離であったのにそれは空を切った。
するり、と自身の身体をすり抜けていく、赤。
「は…」
声が自然に出た。くるりと振り返り、彼が倒れただろう方向を見る。彼は確かに存在していた。
「アーチャー…?」
ゆっくりと呼びかける。アーチャーは地面に倒れ込んだまま、ぴくりとも反応しない。
すり抜けたのは一瞬だったのか、肩を揺することはできたがそれでもその瞼は力なく閉じられたままだ。
何度呼びかけても、何度揺さぶっても同じ。ただ、僅かに息をしていることだけが彼が存在していることを示している。


やっとたどり着いたと思った。
ようやく捕まえたその背中は、するりと彼の手を抜けていった。



剣の丘に立っているのは、ただひとりだけ。



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