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聖人陵辱/Novel by かさぎ修羅@冬コミ日と22b

聖人陵辱

4,519 character(s)9 mins

Fateから。セイバーが陵辱されるんだからアーチャーだって陵辱されたっていいじゃない。(ぇぇー

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 窓の無い暗い部屋だった。恐らくは地下室なのだろう、そこに佇んでいた男は思った。
 佇んでいた、というのは厳密には正確ではなかった。彼はこの牢獄に鎖で繋がれていた。
 男は何も言わない。ただ、何も言わずに耐えている、ように見える。男の目は自ら閉じていた。世界を拒否するかのように。ただ、目を閉じていても光は通される。明るさを感じて、彼は目を開けた。
 女だった。極上の部類に入る女。ただし悪い意味で。
「ごきげんよう、アーチャー」
 裏切りの魔女と呼ばれた女は、目の前の男に優しく微笑んだ。
 その笑みの薄っぺらさが見え見えで、なんだ詰らん、とアーチャーは思った。その顔で葛木宗一郎も落とされたのか、と思われたが実際は違うようだ。まあ、そんな事はどうでもいい。今自分がやる事は唯一つ。ただしそれは心には出さない。目の前の魔女に目的を悟られまい為だ。少しでも心の思いを出せば、魔女はそれを使って自身を服従しに掛かるだろう。
 不意に、自分の右頬が熱くなった。斬られたのだ。恐らくはキャスターの放った不可視の刃で。
「……相変わらず、嫌な顔ね」
「そりゃどういたしまして」
 傷が増えた。キャスターの顔が曇る。
「詰まらないわね……この程度の拷問は覚悟していた、というの?」
「当然だろう? 今まで敵だったものがいきなり味方に付いたのだ。信じる方がどうかしている」
 鼻で笑うアーチャーの顔がまた裂ける。だが表情は変わる事が無い。それが余計にキャスターを苛立たせる。
「……答えなさい、アーチャー。何故私たち、いえ、私に与したの?」
 ふむ、と一呼吸置いて、アーチャーはわざと言った。
「……貴女が美しいから、つい魅了された、というのはどうだ?」
 そんな事がありえるはずなかろう、という皮肉をたっぷりと塗した笑みをつけて。
「ふざけないで!」
 横一直線に、アーチャーの顔が斬られる。
「……信じられない。信じられるものですか! 貴方みたいな男がどうして信じられるというの!」
「それは、残念だな。師から女性に優しく、と言われて出来る限りそう心がけているのだが」
 血まみれの顔を不敵に歪ませる。
 不意にアーチャーの傷が全て消えた。傷痕も何も無い。まるで時間を引き戻されたかのように。アーチャーが不可思議な顔をしていると、突如その頬に一本の赤い線が走った。
 流石に顔を歪ませるアーチャー。
「ふ、うふふふ、うふ、ははははは、そう、そうよ! 貴方は貴方みたいな男は無様な泥が似合うのよ! 汚らしい!」
 キャスターの声が部屋に反響する。
「……ああ、だからどうした?」
 ぽつりと呟いたその言葉に、今度はキャスターが驚く。
「だからどうした、と言った。泥だ。泥だとも。この身はとうに汚れているとも! 綺麗事を言い続けて、泥に塗れてきたとも」
 アーチャーが淡々と叫ぶ。その事を、いつまでも後悔している。傷だって身体中にある、心だって磨耗した。最後は、まっくらで独りぼっちだった。
 今も思う。何故自分はこんな道を選んでしまったのか。と。
「そう」
 キャスターが口を開いた。片手をアーチャーの顎に添えて、顔を近づける。ああ、似てる。
 アーチャーはキャスターに対して、そう感じた。

 ああ、似ている。
 私とこの弓兵は似ているのだ。キャスターは、何かしら感じていた。
 先ほどから見続けていた心の扉から覗かせた彼の本心は、ほんの僅かだけ彼女に彼の生涯を見せていた。
 だから。
「貴方は汚らわしいわ。とてもとても」
 踏みにじってやった。目の前にあるのは、つまりは私のようなものなのだ。自ら汚れた私、周りから汚された私、彼の記憶が、自分に投影される。
 気持ち悪い。ああ、とても気持ち悪い。自分じゃないのにまるで自分が裏切り続けられたような感触。もう味わいたくはなかったというのに。
 ふん、とアーチャーは興味なさげに笑った。まるで、鏡に映った自分が、自分を笑ったかのように思えて仕方がなかった。
「あくまで言うつもりはないのね?」
 キャスターの必死の最後通牒を。
「ああ。何、言うのが恥ずかしいのだ。勘弁してほしいな」
 最後の最後までニヒルに返す。ああ、こういうところは見上げたものだ。だが気に食わない。後悔させてやる。いいや、そんな暇もなく、潰してやろう。
 キャスターが睨んだ。
 それが、始まりだった。
「む?」
 アーチャーの顔が、わずかに歪む。
 もう、遅い。さあ、卑しい人間に成り下がるといいわ……!


 そして、男は泣いた。
「あ」
 目の前に映し出される光景。泣き顔。
「う、ああ」
 泣き顔。泣き顔。泣き顔。
「あ、ああーー! う、あ、ああ、ぐ、あーーーー!」
 泣き顔泣いている傍によって涙を拭こうとする途端赤く頬が染まる俺の手にナイフああ

 死んだ。

「うあああーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
 泣いている助ける助けられない出来ない初めからそんなものけれど俺にはそれしか出来ないそれすら出来ない畜生ちくしょうちくしょうちくしょうーーーーうーーーー、あ。

 アーチャーが無様に暴れだした。鎖ががちがちとかみ合いみっともない音を叩き出す。
 涙を流し、よだれを垂らして、まるで理不尽な暴力をぶつけられた子供のような顔をして、おおよそ英霊とは程遠い醜態を晒し続けていた。

 それでも
 あのとき、きれいなものをみた。
 それは、―――塗り潰される怒号爆撃血と硝煙吹き飛ぶ手と足と目と撒き散らされる血終わりを探す終わりなんてない何で何で畜生とまれやめろやめろよそんな事して泣くやつがいなくなるはずがないんだ。

 うわごとのように呟いている。取り返しのつかない過ちをしでかした子供が泣きながら親に許しを請うように。ごめん、ごめんなさい、ごめんなさい。
 キャスターは、耳を塞ぎたくなった。

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめん――

 しかし叫び声が反響する。まるで彼の、幾多もの後悔が積み重なるようで。

 だが、切り捨てた。
 そんなのは正義じゃない、と自分が言う。
 だが多くを助けられる、と自分が言う。
 小さい子を泣かせていい正義なんて、あってたまるか!

 裏切られたのだろう沢山の者に。それは私と同じだ。

 けれど。
 泣き顔は、もう、見たくなかったから。
 でも、救っても掬っても掬っても、その顔は、何故か血まみれで泣いているんだ。
 拭っても、拭っても、取れないんだ、血の匂いが。火の匂い、肉の焼ける、いやなにおい。
 ねえ、教えてくれよ。何で? 助けてくれよこいつらを。なあ神様がいるんだったら。
 俺なんかどうなってもいい。だって何もないんだから。がらんどうな何も出来ない人形が生きて、こいつらみたいな泣き顔のまま死んでいく子供がいていいはずなんてないんだ俺なんて何回殺されてもいいんだだからだからだから、
 助けてくれよ。
 なあ。
 なあ!
 なあ! 見ているんだろおまえら!
 運命なんて言葉作りやがったドアホウ!
 こんなクズなシナリオを書きやがった神様!
 どうせおまえらはにやけているんだろうなあ!
 さぞ滑稽なんだろうなあ!
 たかいたかいところからバカみたく笑ってるんだろうなあ!
 畜生、畜生、畜生ぉーー!

 ……それでも、
 滑稽でも、いい。
 あんたらの上で操られる人形でもいいさ。
 俺を好き勝手いい様に扱えばいいさ。倒せばいい。殺せばいい。壊せばいい。
 もう、なにをされても構わない。だから。

 俺を、守護者にしてくれ――。

 その叫びを最後に、彼は、英霊となった。

 その叫びを最後に、彼は、頭を垂れた。
 全ての罪を背負って貼り付けにされた聖者の如く。
「……」
 違った。
 結局、この男は自分とは違う。私は裏切られた、そして周りを恨み始めた。
 だが、彼はどこまでも自分のみを憎み続けている。どこまでも辛い道を、誰も望んでいないのに、自ら突き進んでいる。その道に破滅しかないと知っていても。
 聖人のよう。彼女はそう思った。
 汚らわしいだなんてとんでもない、酷く酷く純粋で(宗一郎とはまた別の意味で)故に絶望して、それでも誰かを守ろうとした、大馬鹿もののキリスト、のなり損ない。
 ただそれでも、キャスターには、まぶしく思えた。
 ――術を解いた。これ以上されたら耐えられない。アーチャーではなく、キャスターが。
「寝起きは、どうかしら。アーチャー?」
「……昔から、女性が叩き起こす朝というのは、ロクな事がなかったりするもんなんだがなあ」
 呆れた。あれだけの酷いものを見せたというのに。流石に守護者というのは伊達ではないということか。
「ひどい夢を見させてくれたな」
「あら、怒った?」
 その問いに、キャスターは後悔した。

 アーチャーは、嗤っていた。

「ありがとう――」
 ぞくり、と背筋が震えた。
 酷く、寒々しい。
「ああ、ああ……、とても最悪の気分だ。思い出した、地獄を思い出させてくれた。本当に感謝している。…いや、キャスター。これは本当の意味で感謝をしているんだ」
 キャスターは震えていた。相手は鎖に繋がれている。やろうと思えばすぐに殺せる。
 だと言うのに、殺せない。猛獣が牙を出して威嚇している、いや、威嚇なんてしていない。

 彼の目は―――
「思い出したさ…俺の存在理由を」
 ――まるで、悪魔に魅入られた聖人のようで。

 恐ろしい。と。
 キャスターは、アーチャーに恐怖していた。
「貴方」
 キャスターは、震えながら言った。
「おおばかものね」
 何を今更、とアーチャーは鼻で笑った。

 そうとも。
 それを清算する為だけに、俺はこの世界に卑しく留まっているのだ。
 その為には、どんなことでもしよう。どんな屈辱でも受けよう。
「ありがとう、キャスター」
 礼を言った。自分でもびっくりするぐらいに自然に言った。
 返答は、激しい衝撃だった。
 そのままキャスターの姿が掻き消える。今度はこの怪我は自力で治すしかないようだ。
「は――」
 ついていない。
 ついていないと今まで何度も思ったことはあったが。
「どうやら、今回は際目付けに運が悪いようだな……」
 だが。
 これで、終わる。終わらせる。
 教会に、狂った聖人の笑いが響く。

 そうだ。
 たとえ何も変わらなくても。
 ――俺は、俺を殺して、全てを清算させてやる。

 アーチャーは、笑いつづけた。泣きながら、笑いつづけた――。



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