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SCC28ペーパー再録/Novel by ちくわぶ

SCC28ペーパー再録

6,844 character(s)13 mins

版権元:Fate/stay night
注意:腐向け(士弓) 獣化

5/3スパコミで無料配布だった、士郎を猫にしただけの士弓ペーパーです。
一応こちら(novel/10622461)の続きになります。
お越しくださったみなさま、ありがとうございました。

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『士郎が猫になったー?!』
 電話の向こうでの凛の叫びが、傍から聞いているだけの私にまで届いてくる。セイバーは大声の直撃を食らっていたが、少し眉をしかめて受話器を離しただけでやり過ごすと、「ええ、オレンジ色のペルシャ猫です」と冷静な声で応答した。
『んん……? ペルシャ猫? アーチャーじゃなくてどうして士郎が? まさかわたしのせい?』
「いえ。状況を見るに、アーチャーのせいかと」
 じとり、と碧眼が睨みつけてくる。
 確かに直接的には私が要因だが、元を正せば小僧が余計なことばかりするせいだ。……と、これはすでに述べた抗議であり、セイバーには全く聞き入れられなかったので黙っておく。
『うーん。よくわからないけど、とにかく私の家にいるのよね? 今から向かうから待っててちょうだい』
 その後二、三言交わして電話を切ったセイバーが、はあ、と余り似合わぬ溜息を吐いた。片腕に抱えていた猫を両腕で抱え直す。
「……セイバー。そろそろそいつを下ろしたらどうだ」
 猫が猫とは思えぬくらい体を固くさせている様子を見かねて口を挟む。が、完全に私を敵視しているセイバーはキッと眦を険しくして、
「そのようなことを言って、シロウをどうする気です? 今はこのように小さな体なのだから、凛が来るまでは私が守ります」
「そんなつもりはない。おそらく今の体勢では、君の……」
 胸が当たっている。もっと言うと、谷間に頭を埋めるような形になっている。
 ――そう伝えればよかったのだが、流石の私も口に出すのは躊躇われた。今のセイバーが相手だと、愚弄しているのかと逆上されてもおかしくない。
「……その。それでは居心地が悪いのではないか」
 結局言葉を濁して指摘してみた。猫は我々の会話を理解しているらしく、体は硬直させたまま、か細く鳴いて同意している。
「ネコ科の動物の抱き方は心得ています。勝手なことを言わないでいただきたい」
「君も十分理解しているはずだが、それは猫ではなく衛宮士郎だぞ? なにもそう過保護にする必要はない」
「彼をこうした張本人が何を言う!」
 私から庇うようにより胸に抱え込むせいで、猫の硬直が悪化した。ほとぼりが冷めるまで、まともな会話はできそうにない。
 まったく。衛宮士郎も同じ目に遭わせれば溜飲も下がると思ったのだが、こうもセイバーに噛みつかれてしまうと気が晴れない。
 ……まあ、少々行き過ぎた報復をしてしまったような自覚はある。霊薬に対するサーヴァントと人間との抵抗値の違いを考慮しなかったのも、私に非があるといえなくもない。
 元凶である私に対して助けを求めて鳴くくらい切羽詰まっているらしい衛宮士郎を無視しながら、一つ溜息を吐いた。どうせ凛がうまく対処するだろうし、今は針のむしろに甘んじよう。



「きゃーやだなにこれ! 士郎かわいい!」
 調査のためにセイバーから凛に譲渡された衛宮士郎が、明らかに調査目的ではない手つきでもふもふと撫で回されている。
 ……彼女は一度仮眠を取ってきたのではなかったか? 何か見覚えのあるハイテンションのままなのだが。
「ふっわふわのさっらさらだわ……。アーチャーのおっきさもよかったけど、抱え込めるサイズというのもなかなかいいじゃない。なるほどねー、レジストに失敗すると本物の猫に近くなるんだ」
 ジタバタと暴れ回る猫を獣医師さながらの手際で押さえ込みながら、凛がしみじみと頷いている。こちらはセイバーと違って私への叱責をするつもりはないらしく、期せずして得られた人体実験の結果に満足そうにしていた。
 例によって哀れそうに鳴いている衛宮士郎の言い分を黙殺しながら、「それで?」と私は水を向けた。
「君の見立てでは、この猫はどれくらいで元に戻りそうかね」
「んー、とりあえずあなたと同じで半日様子見ってところじゃない?」
「今から半日といいますと、戻るのはちょうど夜明けごろでしょうか。桜はともかく、大河への説明に困りましたね……。シロウのお好み焼きがどうしても食べたいようだったのですが……」
 沈鬱そうに言うセイバーに、「ふーん」と相づちした凛は膝上の衛宮士郎の手(猫的には前足)を捕まえながら、演技がかった口調で、
「そうよねー、衛宮君の料理上手の手は今こんなだし。お好み焼きだなんてわたしも桜も普段のレパートリーにないから、藤村先生のご期待に沿えるものを作れるとは思えないわー」
 ふにふにと肉球を弄びながら、セイバーへの同意に見せかけて私へ圧力をかけてくる。そんな凛の裏の意図に気づいている様子のないセイバーは、再度「困りました……」と呟いて無自覚に私を批難してきた。
 ついでに両前足を持ち上げられている猫も困り声を上げているが、それはともかく、私は凛からの言外の要求を却下した。
「藤村大河も子供じゃないんだ、こいつ一人帰らなくても夕食くらいなんとでもするだろう。私は作らんからな、凛」
「あら、作ってあげたらなんて言ってないけど。ま、無理強いはしないわ。桜が一人で夕飯を作る羽目になってかわいそうだけど、ええ、わたしが手伝ってあげればいい話ですから。サーヴァントの不始末をカバーするのもマスターの務めですし?」
「……余計なことをしたのは認めるが、元を正せば君の作り出した霊薬が全ての元凶なんだからな」
「けどわたし、士郎に飲ませろなんて一言もお願いしてないもの」
 ペルシャ猫を撫で回しながら正論を返される。
 諸悪の根源にいまいち反省の色が見えないのにはもう少し文句をつけたいところであったが、この場でしてもセイバーが余計な口を挟んでくるだけだろう。開きかけた口を閉じると、壁に身を預けて沈黙することにした。
「しかし、見事なまでの猫よね。喉元撫でるとごろごろ言うんだけど、このまま半日で身も心も野生に返っちゃったらどうしよう」
「シロウに限ってそのようなことはないと思いますが……。しかし、先ほどからずっとか細く鳴いているのが気になります。凛が撫ですぎるからでは? もう調べるところがないのでしたら、私が面倒を見るので戻していただきたい」
「そんなはずないわよ、お金に余裕がなかったときこのテクニックで野良猫手懐けて使い魔にしてたんだから。ねー、気持ちいいわよね、士郎?」
 私が黙り込むと、ソファーに腰掛ける少女たちの興味はすっかりオレンジ色の猫の方へ向かったらしい。もとが衛宮士郎ということを忘れているとしか思えない扱いに、ますます猫が困惑の声を上げている。
「でも確かに、ずっとなんか鳴いてるわよね。何が言いたいのかしら、わたし猫語はわかんないからなー」
「凛、もう一度貸してください。私はシロウのサーヴァントですから、何かわかることがあるかもしれません」
 やいのやいのと言葉を交わす二人の声と猫の鳴き声を聞きながら、私は紅茶でも煎れようと台所に向かった。少し遠くなった居間の会話をサーヴァントの聴力で捉えながら茶道具を揃えていく。
「ほら、セイバーが持っても変わらないじゃない」
「むう……そんなはずは……。いったいどうしたというのです、シロウ? アーチャーは私があとで懲らしめておきますから、心配はいりませんよ」
「夕飯の心配かしら? さっきも言ったけど私が手伝いにいくから大丈夫よ。あなたの分の食事は――あ、アーチャーに買ってったやつの残りがある。ほら、これで夜と朝ごはんは揃ったわよ」
「嫌そうにしていますが……。獅子なのですからもう少し野性味溢れるメニューの方がいいのでは? 生肉とか」
「いや、生肉は駄目でしょ。今のは私でも拒否してるってわかったわよ。別にキャットフードでいいじゃない、なんでか士郎ちょっといいやつ買ったみたいだし。食べなきゃもったいないわよ」
 沸騰した湯をポットに注ぎ、茶葉を十分に蒸らし、温めたカップ二人分とともに盆に並べ、居間に舞い戻ってもまだ進展しない(どころか悪化している)会話を見かねて、呆れ混じりに口を挟んだ。
「服を着たいのだろう、そいつは」
「服ぅ?」
 素っ頓狂な声を上げた凛の膝の上で、猫の耳がピンと立った。
「犬ならともかく、猫に服ってあんまり聞かないけど……。動きにくくない?」
「それでは君は動きにくいからといって裸のまま異性の膝の上に乗る趣味でもあるのかね」
「ないわよ!」
「そういうことだ。ナリはそうでも心までは野生に返っていないそうだからな。どうせ一晩もすれば戻るんだ、放っておいてやったらどうだ」
「ぐ……。アーチャーはああ言ってるけど、どうなの士郎? さっきから服が着たいって言ってたわけ?」
 にゃあ、と大きめの鳴き声が上がった。さらに猫はようやく撫で回すのを止めた凛の魔の手から抜け出すと、私の足下に駆け寄ってくる。
「むう。悔しいですが、これは確かにアーチャーの言うことが事実のようですね」
「なによ。アーチャーってば士郎が何を言いたいかわかるわけ? 猫語翻訳機能とかついてるのかしら」
 追加でにゃあにゃあ鳴きながら私の足をタップしまくる猫の必死な様子に、二人は一応の納得を見せたらしい。
 もちろん私に猫語翻訳機能など搭載されていないが、ではなぜわかったのかと追求されると『わかるから』としか言いようがなくて不愉快なので、あえて否定はしないでおく。代わりに、足にまとわりついてくる猫の首根っこを掴んで持ち上げて、その隙に投影した布をひっ被せた。
「人間に戻ったとき窒息せんように解けやすくしてある。あまり動き回るなよ」
 着せ終わったので放り投げると、普段の愚鈍な衛宮士郎では絶対にできないような機敏な体捌きで綺麗に四つ足で着地した。心はともかく身は完全に猫である。
 最低限胴体を覆って軽く結んだだけの布だが、猫は着心地を確かめるようにしばらくグルグルと動き回ると、満足したのかまた一声にゃあと鳴いた。……一応お礼を述べているつもりらしいので受け取っておく。
「えー。見た目は相当不格好よ、それ。元の方がふわふわでかわいかったのに」
 このアクシデントを面白がっているとしか思えない凛の文句に、衛宮士郎は猫語で果敢に反論を試みている。
(筆者注・以下、猫士郎の台詞はアーチャーによる意訳)
『あのなあ。このペルシャ猫の毛並みがいいのは俺もわかってるけど、俺は猫である前に俺だからな!』
「かなりの威嚇を受けていますよ、凛」
「おかしいわねえ、撫でるの完璧だったと思うんだけど、わたし。ね、気持ちよかったでしょ? こんなの味わえるの今だけなんだからもう一回撫でられたいと思わない? おいでおいでー」
『気持ちいいから嫌なんだよぉ……』
「凛、尻尾を隠し込むあの行動は猫が恐怖を抱いているときにするものです。やはり撫で方がまずかったのではありませんか? シロウ、私にもう一度チャンスを。先ほどは落ち着いて愛でることができませんでしたが、私の技術の方が凛より優れていることを証明してみせます」
『証明しなくていいから、セイバー。そんなに猫が好きなら今度里親募集を探してきてやるから、俺のことはもう放っておいてくれ……』
「ほーら、セイバーだって嫌がられてるじゃない」
 私の煎れた紅茶には見向きもせずに、聞いているだけで疲れる会話が交わされている。……これを会話と認識できているのは私だけという事実にもまた頭が痛む。
「……セイバー、凛。もういい時間だ。桜君が夕飯の支度をしているというのなら、そろそろ帰った方がいいのではないか」
「え? ――あ、ホントだ。のんびりしちゃうと全部桜が作っちゃうわね」
 時計は六時前を指している。ここから衛宮邸までの距離と間桐桜の手際のよさを考慮すれば、今すぐ出なければ夕飯の準備には間に合わないだろう。
「それじゃ、しばらく居間は貸したげるから。人間に戻ったら感想教えてちょうだい」
 行儀悪くも義理堅く紅茶を一気に飲み干した凛は、衛宮士郎にそう言い残すと、セイバーの背中を押して玄関へ向かいだした。
「ま、待ってください。シロウを置いていくのですか?」
「連れてくわけにもいかないでしょ。藤村先生もいるし、半端なタイミングで戻っちゃったらどうするのよ?」
「それはそうですが……」
「アーチャーのことならわたしがレイライン越しにきつーく言い聞かせておくから大丈夫! ほら、早くしないと夕飯に間に合わなくなるわよー?」
「う、うう……。ええい、アーチャー! シロウを頼みましたよ!」
「待て、そも私はこいつの面倒を見るつもりは――」
 咄嗟に言い募ったが、少女たちを隠すように、廊下への扉が自重で閉まる。
「――ないのだが。……はあ。面白がっているな、凛め」
 遠坂邸はどこも重厚な造りをしていて、扉一枚隔てるだけで廊下の声はほとんど聞こえなくなる。逆に言えば、居間からの声も廊下へはほとんど届かないということだ。供給線を使って意見供述できなくはないが、他人を弄んで遊んでいる最中のマスターに何を言っても無駄であるのは重々承知している。
 やれやれと息を吐いて気を取り直すと、ティーカップの片付けに取りかかった。
「……おい、寄ってくるな。蹴り飛ばされたいのか」
 あかいあくまと騎士王が去るとようやく私に文句をつける余裕を取り戻したのか、何やら不平を垂れながらつきまとってくる猫に舌打ちを落とす。やはり鳴き声の意味が理解できるなどとバラさない方がよかった。折角手助けをしてやったのに、恩の売り甲斐のないやつだ。
「元を正せば、貴様が私の気を害したのが悪い。――何? 害していたに決まっているだろうが、たわけ! 撫でられてすぐに腹を見せる貴様と違って、私は霊長類としての自覚と矜持を維持していたんだ。喉が鳴るのは勝手にだ、勝手に。――そうだ。おまえが余計なことをしなければ、別にこんな目に遭わせる気は――。
 …………はあ。やめよう」
 あまりにうるさいので言い返してしまったが、猫を相手に真剣に話しかけるのも馬鹿げた話だ。冷静になると途端にひどい徒労感に襲われて会話が面倒になった。
 どうせ放っておけば元に戻るのだ。凛が帰るまでは適当に過ごさせておけばいいだろう。下らない口論を一方的に打ち切って、私は以降口を閉ざした。



「……驚いた。すっかり仲良くしてるじゃないの、あんたたち」
 猫じゃらしを片手に、逆の手にビデオカメラを構えて撮影を図る私を目にして、凛が嫌味でもない感嘆の声を上げた。
「誤解だ、凛。これはこいつの無様な姿を記録に残し、末代までの晒し者にして嘲笑い続けるための準備に過ぎない」
「いや、どう見ても愛猫の動画を撮る飼い主の図なんだけど……」
 むう。残念ながら凛には猫じゃらし如きに陥落している衛宮士郎の姿の面白さが伝わらないようだ。
 まだ撮影を開始して十分程度しか経過していなかったが、主人の帰還だ。あらかたの証拠は捉えたので、録画を終了し凛へと向き直った。
「おかえり、マスター。夕食の準備はないが、向こうで済ませてきてあるのだな」
「ええ、私はね。士郎の分は……、? あれ、珍しい。アーチャーも何か食べたの?」
 居間には食事の痕跡すらないが、匂いか何かで漂う食後の雰囲気を感じ取ったらしい。脱いだコートを私に預けながら、凛は鼻を鳴らして目を丸くしている。
「それも誤解だ。作ったのはこいつの食事だよ」
「士郎の? なぁに、アーチャーってばわざわざ作ってあげたんだ」
「遠坂家当主として豪華絢爛な生活を営む君は知る由もないだろうがね、マスター。キャットフードは人間にはおいしくないんだ」
 これはもちろん今回の騒動に対しての苦情であるが、凛は「あはは」と笑って流すと、
「もう霊薬もなくなっちゃったしこれきりよ。ほら、紅茶煎れてちょうだい」
 猫の本能に負けた事実に落ち込んでいた衛宮士郎を拾い上げ、優雅にソファへ腰を下ろした。
 ――ペルシャ猫が妙な布を纏っているのは減点だが、それ以外は実に様になる絵だ。街を裏から牛耳る女当主さながらである。
「……これは心からの忠告だがね、マスター。君はきっと碌な死に方をしないぞ」
「ふふ。確かに、猫にされたまま死ぬのは嫌よね。ちゃんと調合のレシピは封印しとくから安心して」
 嫌がりながら喉を鳴らすという器用な真似をする猫の顎を撫でる凛はご満悦な様子で、反省の色は窺えない。
 ただ、レシピの封印は嘘ではないだろう。
「……はあ、了解した。此度の君の類い希なる道具作成の技術を称して、とびきりの紅茶を献上するとしよう」
 最低限の言質を取ったので、これで今回の事件はおおむね解決ということにしておこう。
 衛宮士郎からのSOSを黙殺して、私は主人の要望を叶えるべく、キッチンへと足を向けた。

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