2026/2/11

【危機対応】費用は5億円!?「第三者委員会」設置で知っておくべきポイント

SNSなどによって世論が大きなうねりとなって押し寄せてくるいまの時代、企業の「危機対応」は、事業の継続にかかわる重大なポイントになっています。

ある日、突然やってくる“危機”に、企業としてどう向き合えばいいのか。フジテレビ、小林製薬、旧ビッグモーター、旧ジャニーズ事務所……近年の事案を振り返っても、学ぶべきことは多いでしょう。

公認会計士として長年、企業のコンプライアンス・危機管理にかかわってきた大久保和孝さんに、実際の事例をもとに“企業を守る”ための具体的なヒントを解説してもらいます。
INDEX
  • なぜ第三者委員会が必要になるのか
  • 「内部調査委員会」か「第三者委員会」か
  • 設置の要否とタイミングをどう考えるか
  • 調査体制の設計とコストのコントロール
  • 枠組みを決めるのは会社側
(写真:Rawpixel / gettyimages)
📍【「依頼する企業側」の視点で整理すると…】

今回は、第三者委員会の設置ノウハウについて、とくに「第三者委員会を設置せざるを得ない状況に追い込まれた企業」が、第三者委員会とどう向き合い、どう対応していくべきかという観点から整理してみたいと思います。

これまでも述べてきたとおり、第三者による調査を行う際には、あらかじめ押さえておくべき観点がいくつもあります。本稿では、そのなかでも「依頼する企業側」の視点にフォーカスして論じます。

なぜ第三者委員会が必要になるのか

企業不祥事などの問題が発生したときに「第三者委員会を設置する」というのは、日本に特有の対応スタイルのひとつです。
当事者だけでは問題の解決や説明について、社会的な信頼が得られないと判断されるときに、会社から独立した利害関係のない第三者による検証を行うことで、信頼回復を図ることが狙いです。
第三者委員会を検討するにあたって、まず整理しなければならないのは、
「ステークホルダーは誰で、その人たちは何を求めているのか」
という点です。ここを曖昧にしたまま走り始めると、設置目的も活動内容もぼやけてしまいます。たとえば、典型的には次のような違いがあります。
・消費者問題の場合
食品安全や建築物の安全性など、専門性が高く一般の消費者には理解しにくいテーマでは、「社会から信頼されている専門家」によるお墨付きが求められます。安全性に直接かかわるテーマでは、とくにその傾向が強くなります。
・会計不正の場合
資本市場や監査法人との信頼を失ったケースでは、まず監査法人が納得できるレベルの調査・検証が不可欠です。そのため、会計・監査の専門性と独立性を備えた第三者委員会の設置が求められます。
同じ「第三者委員会」といっても、設置の目的や期待される役割は事案によって大きく異なる、という点を最初に押さえておく必要があります。
(写真:Pressmaster / gettyimages)

「内部調査委員会」か「第三者委員会」か

第三者委員会の設置にあたって、「痛くもない腹を探られたくない」と躊躇する企業も少なくありません。ここで知っておきたいのは、「第三者委員会」と一口に言っても、その性格や位置づけは百社百様だということです。たとえば、次のような選択肢があります。
●専門家による「内部調査委員会」として非公表で設置するのか
●会社から完全に独立した「第三者委員会」とするのか
●調査結果を公表するのか、社内利用にとどめるのか
これらは、事案の性質とステークホルダーの期待を踏まえて決める必要があります。そして、情報がいつどこから漏れるかわからない時代ですから、
「指摘されたときに説明できる状態になっているか」
という点が非常に重要です。その意味で、第三者による専門的な調査を行い、いざ公表が必要になったときに、すぐに説明できる状態にしておく、という使い方もあります。
大事なのは、「公表する・しない」そのものではなく、問題が生じたときに後手に回らず、適時適切に対応しているかどうかです。本稿では、内部の専門家調査委員会も含めて「第三者委員会等」と総称して論じます。
(写真:kiddy0265 / gettyimages)

設置の要否とタイミングをどう考えるか

第三者委員会等を設置するかどうか、またいつ設置するかは、企業を取り巻く状況や事案のステージによって変わります。代表的なパターンを挙げると、次の通りです。
・社会的信頼を揺るがしかねない事案で、公表の是非をまだ判断できない段階
まずは非公表の内部調査委員会として立ち上げ、将来の開示も視野に入れて調査を進める、という選択肢があります。
・すでに報道などで大きく取り上げられ、対外的な説明が強く求められている事案
当初から第三者委員会として、対外公表を前提に設置する必要性が高いでしょう。
いずれの場合にも、世間や社外専門家からあおられた結果として場当たり的に決めるのではなく、「誰が何を求めているのか」を冷静に整理し、設置目的と立ち位置をはっきりさせておくことが肝要です。
たとえばフジテレビのケースでは、当初から第三者委員会の設置目的や立ち位置が十分に整理されないまま走り始めた印象は否めません。その結果、委員会の活動が当初の趣旨から逸脱してしまったのではないか、という受け止めもあります。
逆に、第三者委員会を設置せずに内部調査で済ませ、公表もしなかったために批判を浴びるケースもあります。また、社長や取締役にかかわる問題の場合、社外取締役(とくに監査等委員)を中心に、第三者的な立場で調査を行うかたちもあります。
最終的には、事案のインパクトと内容、会社とステークホルダーの関係を踏まえたうえで、「第三者委員会等」の必要性を判断していくことになります。
(写真:webphotographeer / gettyimages)

調査体制の設計とコストのコントロール

第三者委員会を設置するときに、依頼する企業側が最初に直面するのが、
・調査体制をどう組むか
・コストをどうコントロールするか
という問題です。
【基本となる調査体制】
一般的な構成は、次のようなイメージです。
●第三者委員会の委員(委員長+複数の委員)
●委員の下で調査を実務的に担う調査チーム

・補助の弁護士、公認会計士などの有資格者
・データフォレンジック(デジタルデバイスに記録された情報の回収と分析調査)を担当する専門会社 など
昨今の第三者委員会では、メールやログなどのデータフォレンジック調査がほぼ必須になっており、この部分がコストの大きな要因になります。そのため、「第三者委員会に丸投げしない」ことが重要になります。
多くの企業は、不祥事に直面すると心理的に「まな板の鯉」になりがちで、委員の言いなりで体制が組まれてしまうことがあります。しかしその結果、売上50億円前後で利益もさほど出ていない会社であっても、第三者委員会費用だけで5億円を超えるといったことも決して珍しくありません。
(写真:tadamichi / gettyimages)
【運営事務局とフォレンジックの費用】
もっともコストに影響するのは、「運営事務局」と「データフォレンジック」です。
●委員報酬
委員個人への報酬は、時間単価×作業時間で、多額であってもある程度の上限がありますので、概ね見通しが立ちます。
●運営事務局
問題となるのは、運営事務局によるコストです。たとえば委員4人程度に対し、事務局に10〜15人の弁護士・会計士などがアサインされることもあります。これらをすべて高い時間単価の有資格者だけで回そうとすると、報酬総額は数千万円〜数億円規模に膨らみます。
本来、有資格者でなくても対応可能な作業まで資格者が担当していないか、事務局の構成は妥当かどうか。依頼側としても、委員とよくすり合わせる必要があります。
●データフォレンジック
フォレンジックは「やろうと思えばいくらでも広げられる」領域です。やればやるほど費用も膨らみます。だからこそ、調査対象を必要最小限に設定することが不可欠です。調査の過程で必要に応じて範囲を広げることはあっても、スタート時点で無限定に広げないことが重要です。
また、フォレンジック会社は限られているとはいえ、相見積もりを取ることでコストが10分の1程度に下がるケースもあります。事案の性質に合った専門性を持つ会社を選びつつ、相見積もりは必ず取るべきです。
なお、こうした体制を調整するためにコンサルティング会社が入ることが多いですが、利益相反の観点から、調査対象範囲を決める立場にある委員が所属する会社に発注するのは避けるべきです。利益相反にならないよう配慮しつつ、適切なコンサルティング会社に発注することが重要です。ここは「費用を払うのは会社」である以上、毅然とした態度で委員会と向き合うべきポイントになります。
さらに、たとえば会計不正だからといって、必ずしも会計事務所系に限定する必要はありません。第三者委員会側でリスクシナリオや想定ケースをしっかり整理できていれば、実績のあるコンサルティング会社であれば、必要な調査は十分に実施できます。
(写真:imaginima / gettyimages)

枠組みを決めるのは会社側

第三者による調査は重要ですが、無制限に費用をかけていいわけではありません。調査費用が膨らみすぎて会社の存続自体が危うくなるのは本末転倒です。
だからこそ、
・誰のために、何のために第三者委員会を設置するのか
・公表か非公表か、その方針とタイミングをどうするのか
・調査体制とコストをどう設計し、どうコントロールするのか
といった「枠組み」を、設置する側の企業が主体的にデザインしていく必要があります。
ひとくちに第三者委員会といっても、事案の性質やステークホルダーの構図によって、最適な設計や付き合い方は大きく異なります。本稿で整理したのは、そのなかでも「設置する側の企業」が最低限、押さえておきたい基本的な視点のうち、第三者委員会の「枠組みのつくり方」に関する部分です。
次回は、この枠組みを前提に、委員の人選や会社側の体制、調査の進め方という、より運用に近い論点を取り上げたいと思います。