文化祭 帰り道 提案
打ち上げが終わった帰り道、俺は絢さんを送るために二人で夜道を歩いていた。
そういえばもう何度も送ってるし、駅から絢さんちまでの道のりも覚えちゃったなー。
うちから絢さんちまで結構距離離れてるから、毎回は無理だけど。
「あー、楽しい1日はあっという間に終わるねー!」
ぐぐーっと伸びをする絢さん。
「確かに。ていうか、コスプレしたり接客したり、出店覗いたりお化け屋敷行ったり、舞台観劇したり打ち上げ行ったり、めっちゃ目まぐるしい1日だったもんな」
「それなー。もう今日はぐっすり眠れそー。ていうか、明日朝稽古終わったらバイトまで寝て過ごす!」
「それ、そんな自信満々に言う事かよ」
力強くだらける宣言をする絢さんに俺は苦笑した。
まあ、時々はダラダラする時間も必要だもんな。
俺は明日普通に午前中から仕事あるけど……。
「でも、今日舞台観てさ、モチベーションはめっちゃ上がってるよ!」
「お、それはよかった。明日は平日より少し長めに稽古できるし、みっちりしごくとするかな」
「バッチコイだよ!」
絢さんは胸を張り、どんと胸を叩いた。
俺が誘った観劇だけれど、絢さんにとっても得るものがあったみたいで観に行ってよかったな。
俺としても色々参考になったし。
プロの舞台には何度か立たせてもらったことはあるけれど、それは完璧なセットに演出が揃っていて、役者は演技に集中することができた。
でも、アマチュアの舞台はプロの舞台と比べて、セットも演出も足りないところはあるし、演者も芝居だけに集中することはできない。
でも、それをどう工夫してどう魅せるのか。
足りないなら足りないなりにどうするのか。
それを見せてくれただけで、俺にとっては収穫だ。
もし絢さんがアマチュアの劇団に入ることがあって、何かしら相談された時に少しは助言できると思う。
あとは……。
街灯に照らされた道。
絢さんの家までまだ少し距離がある。
俺は足を止めて口を開いた。
「あのさ絢さん、そろそろ事務所や劇団のオーディションについても真剣に考えていこうかって思ってるんだけど、君はどう思ってる?」
「え、オーディション? 私が?」
「そう、君が」
絢さんはいきなり立ち止まって振られた話に呆気にとられていた。
正直、絢さんの演技の実力は初めて見た時よりも格段に上がっているとは思うけれど、まだまだ役者一本でやっていけるほどではない。
だから、オーディションはまだ先の話と思っていたけれど、今日の舞台やミスコンの話で考えが変わった。
「えっと、突然なんで? 私にはまだ早いんじゃ……」
「そう思ってた。でも、芸能界で生きたいなら人前で自分を魅せる経験を積むべきだと思ったんだ。今は俺の前で、俺としか芝居をしていない。でも、この先演技の道を歩むのなら、色んな人と芝居して、色んな人の前に立つことに慣れていくべきだと思う」
「そう……だよね。でも、オーディションなんてそんな頻繁にやってるわけじゃないよね?」
「大手の事務所や全国規模のオーディションだとそうだね。だから今のうちから準備をしておこうよ」
「準備?」
そう、準備は大事だ。
自分が入りたい事務所の所属タレントの傾向や、オーディションでどういう課題があったのか。
それを調べて挑めれば、他の受験者よりも多少はアドバンテージを得られる。
「とりあえず、自己PR。自分は何が得意なのか、何が趣味なのか、どういう人間なのか。それをはっきりと自覚しておく。意外とふわふわっとしてるんだよねそういうの」
「あー、確かに……。特技だと私はバスケがあるけど、趣味とかどういう人間なのかって何となく……って感じかも」
「あとはオーディションを受ける事務所のタレントと、その出演作品や番組を調べる。事務所によって求めてるタレントって違うからね。だから事務所によって、自己PRの内容を変える必要もある」
事務所次第でオールマイティなタレントがほしいのか、バラエティ重視なのか、演技や歌といった技術重視なのか、ルックス重視なのか変わってくる。
そしてオーディションを受ける際に事務所の色に合わなければ受かる可能性は低い。
「ということは複数パターンの自己PRを用意しておかなきゃいけないってことだよね? そしてその為には自分ができることとか実績を増やす必要がある。だからその為の準備ってこと?」
「そう。特に絢さんは実績はないに等しいからね」
「それは……うん」
「だから俺からちょっと提案があるんだけど……その前に座れる場所探そうか。立ち話もなんだし」
俺と絢さんは少し歩いて、近くのコンビニのベンチに腰を下ろしたのだった。
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