「お、わっ!」
首を薙ごうとした鎌をすれすれでかがんで躱す。そのまま、反動で体を倒すとごろごろと地面を転がって距離を取った。
起き上がった自分に向かって、なおも追い縋ろうと蠢く足は剥き出しの骨でできていて、それがムカデのように縦列している様子に生理的な恐怖が沸き起こるのを士郎は奥歯を噛んで押し殺す。
距離が開いたことで、まるでファンタジー漫画かRPGゲームのモンスターのようなその異様な全身を目が捉える。
全長は2メートル以上はありそうなその全身は、全てが骨でできていた。
だが、その姿は骨格標本で見るような既存動物のそれではない。
色々な動物の様々な部位の骨を無理やり繋ぎ合わせてムカデのような形を象り、その頭部分には角の生えた髑髏を据えているという歪な造形をしていた。
でたらめに継がれたその足は、本来ならまともに関節が動くようには見えないのに――そもそも筋肉も腱もないのだ――素早くおぞましい動きでこちらに迫ってくる。
何より脅威なのは、その腕(に当たるらしい一番前の足)の鎌状になった部分で、鋭利に研がれたエッジで獲物の首を正確に捉えて振り下ろしてくるのだ。
「投影開始!」
詠唱とともに愛剣を両手に投影し握り込む。
「アーチャー!」
同時に背後で共に戦っているはずの相棒を呼ぶ。
「あと1分保たせろ」
返ってきた言葉はそっけないもので、それに思わず振り返ろうとして、
「士郎!前!」
警告に視線を戻せば、予想以上に早い動きでモンスターが眼前に迫っていて、その鎌を横薙ぎに振るおうとしていた。
だが、今までと同様、狙いは自分の首で、それが分かっていれば、タイミングをはかって双剣を合わせる事はそう難しくは無かった。
ガギン、という音とともにパッと火花が散り、一瞬だけ地下迷宮の暗い玄室を照らした。
そう、ここは地下迷宮の中だ。
時計塔の地下に迷宮があるというのは、伝統的に受け継がれていた噂の一つだったが、それが単なる噂ではなかった事を今回身を持って証明する羽目になってしまった。
――こんな形で確かめたくはなかったし、モンスターまでいるなんて聞いてないぞ!
口の中でひとりごちて、鎌の二撃目を身を捻ってかわしながらその刃の横腹を打って軌道を逸らす。
鎌が跳ね上げられた事で体が開いたのを見逃さず、一歩深く踏み込むと、骨の密集した部分へ右手の莫耶を突き込んだ。
がつん、という硬いものを突いた感触はあるが、それだけだった。
ダメージを与えられた様子もなく、ガシャガシャと骨を打ち鳴らしながら、何事もなかったかのように体勢を整える姿に、再び後ろに飛び退って距離を取った。
止めていた息を吐き、ゆっくりと呼吸を繰り返す。
体が重い。
この迷宮に来て3、4時間は経っているだろうか。
戦闘もこれで4戦目、しかも今回は2体同時に出現した。
飲まず食わずの連戦で、さすがに疲労が誤魔化せなくなって来ている。
残存魔力も心もとない。
長期戦を見越して、アーチャーはできるだけ魔力を温存する戦い方をしてくれているが、サーヴァントを現界させているだけでも、魔力は徐々に目減りしていくのだ。
それでも、厳しい状況に文句一つこぼさず戦っている相棒の存在を思って、士郎は顔を上げて口を引き結んだ。
目の前の骸骨モンスターは耳障りな音をさせながら動き回り、今にもまた飛びかかって来そうだ。
気がつけば、背後で戦っているはずのアーチャーの気配が確認できなくなっていた。だが、振り返って確認する余裕はない。
どくん、と嫌な予感がせり上がり、「振り向きたい」という衝動が強くなる。
まさか!そんなはずはない、と必死で打ち消すも、指摘された1分はとっくに過ぎている。
「ア」
「待たせたな」
名前を呼ぼうと口を開きかけた瞬間、すぐ間近で声がかかり、びくりと肩が跳ねた。
だが、すぐに安堵のためその力が抜ける。
「……遅いぞ」
緩みそうになる口を誤魔化すように抗議の声をあげて横目で見れば、ちらりと向けられた目線と士郎のそれが一瞬交差した。
その目がそのまま自分の全身を走査し、目立った怪我がないのを確認して僅かに和らいだのを士郎は見た。
ああ、こいつも自分を心配してくれていたのだ、と気づいた途端、なんとなくむず痒いような温かいような感覚が胸の奥に滲む。
「――文句は後で聞こう。急所を割り出すのに手間取ってな……。後は任せろ」
その手のひらでぽんと士郎の背中を叩くと、アーチャーは地を蹴って跳び上がった。
よく耐えた、呟きのような小さな称賛はかろうじて士郎の耳に届いた。
そこからはあっという間だった。
アーチャーは空中で体をくるりと回転させ、天井を足で蹴ると、モンスターの背面へ上空から斬りかかった。
そして、首の付け根、人でいう延髄の部分に双剣を叩きつけた。
パキッっという何かが折れるような音が響き、次の瞬間、あやつり糸が切れたように体を構成していた骨がガラガラと崩れて地面に散らばった。
「終わり、か?」
戻ってくるアーチャーに問えば、ああと頷く。
「後ろ首に礼装が埋め込んであった。おそらくアレを動かすためのものだろう。そいつを破壊したからな、流石にもう動かんだろうよ」
「そうか……」
「それよりも、あれを見ろ」
目線で示された先には、いかにも“宝箱”然とした箱が台座に据えられていた。
どうやら玄室のモンスターを倒すと現れる、または認知できる仕組みになっていたのだろう。
「うわ、これはまたあからさまな……。開けろってことだよな」
「だろうな」
まるでゲームのような、という印象は間違ってなかった。
ここはおそらくゲームの世界を模した場所なのだろう。
そして、もしかしたらと思っていた予測が、確信に近いものに変わっていく。
つまりこの事態の元凶が誰かという事に。
「フラットめ!戻ったら首に縄つけてロードに突き出してやる!」
そも、ここに来る直前まで自分たちは時計塔の現代魔術科の棟にいたのだ。
遠坂凛の用事でロード・エルメロイII世の居室を訪れたはずが、気がつけばこの迷宮に立っていたというわけだった。
そのフラットとは、エルメロイ教室の生徒の中でも古参であるフラット・エスカルドスの事で、ずば抜けた魔術の才を持ちながらも性格的にいろいろと難のある若い魔術師だった。
そして、これくらいの規模の迷宮やモンスターなら本当に作れてしまうだろうと思えてしまうほどの、掛け値無しの天才なのだ。
そう、彼ならロードの居室と迷宮の入り口を空間操作で繋げるなんてことも可能だろう。
悪戯か、何かの実験か、自分たちがそれに巻き込まれたのは間違いないだろう。
「罠の類はなさそうだが、なんらかの魔術がかけられているかもしれん。そこまでは私には読み取れん。……開けるか?」
「開けない手はないだろ」
宝箱を解析したアーチャーが問うてくるのに、力強く頷くと士郎は箱の蓋に手をかけた。
「ばっ」
ぎょっとして押し留めようとするが間に合わず、士郎は無造作に蓋を開く。
幸いにも、宝箱は爆発したり、毒矢が飛び出したりすることもなかった。
「だから、貴様は、なぜいつもそんな無防備にだな、」
「鍵?」
主人の無謀に苦言を呈しようとしたアーチャーは、そのマスターのあげた怪訝そうな声にそれを中断した。
箱の中を見ている士郎の頭越しにアーチャーも覗き込んだ。
「……確かに鍵だな」
箱の底にポツンと一つ鍵が入っている。
ありふれた形のくすんだ色のそれは真鍮製のようだ。
「でも、どこのだ?鍵のかかった扉など」
首をひねるアーチャーを、はっと閃いたように士郎が振り仰いだ。
「あそこじゃないか!?」
「あそこ?」
「最初にいた部屋に開かない扉があっただろ?ほら、俺たちが入ってきた扉だよ」
「入ってきたって、あれは元はロードの部屋の、そうか!一方通行だとばかり思っていたが、その鍵を使えば」
「ああ、うまく行けば、これでここから脱出できるかもしれない」
「その可能性は高いな。見たところこの部屋から先はなさそうだ。戻ってみよう」
「この扉だ。鍵、差し込んでみるぞ」
二人は最初の玄室に戻ってきていた。
頷くアーチャーを確認し、手に持った鍵を鍵穴に差し込み回せば噛み合う感触がして、カチリと小気味良い音をさせて鍵が開いた。
「よし!」
「待て。またモンスターが出ないとも限らん、私が先行する」
ドアノブを回す手を押さえると、庇うようにアーチャーが先行して扉を開いた。
ギイ、と軋んだ音をさせて扉が開いた瞬間、くらりと眩暈を感じて士郎は思わず目を閉じた。
すぐに開いた目には、アーチャーの体ごしに見覚えのある雑多な部屋が見えた。
「ここは……?」
「どうやら無事に戻れたようだな」
アーチャーは先に一歩踏み込むと振り返って士郎を待つ。
続いて士郎も部屋に入り、その横に並んだ。
「ただいま、だな」
「ああ」
二人で顔を見合わせると小さく笑い合う。
「……おかえりなさい」
ふいに下方から潰れたカエルのような声がして、二人してぎょっとする。
慌てて目を向ければ優雅に足を組んで座り、にこやかに笑う美しい女性の姿があった。
「お疲れ様、士郎。それにアーチャーも」
「と、遠坂!?」
二人を見上げているのは、士郎の師匠であり、アーチャーの元マスターの遠坂凛だ。
そして、その尻の下で椅子がわりにされているのは一人の金髪の青年だった。
士郎はその青年を知っていた。
「フラット!?」
それは、さっき迷宮で士郎が名前を挙げたこの状況の元凶と目される青年だった。
フラットは、膝と両手と額を床につけた状態で蹲っている。
それは、日本でいう土下座の形で、しかもその上にのっしと遠坂凛が座っている事で、士郎は大体の事情を察してしまった。
「ちょっとしたお使いのはずが、あなた達一向に戻らないじゃない?いい天気だし、デートでもしてるのかとも思ってたんだけど」
「デっ!?」
「セイバーに聞いたら、今日はアーチャーにランチを作ってもらう約束をしてたって言うから……」
士郎がアーチャーに目で問えば、是と頷く。
「これはおかしいと思って来てみれば、案の定よ」
聞けばこの部屋の前で挙動不審な態度を取っているフラットを見かけて、ピンと来て問い詰めてみたらあっさりと白状したのだと言う。
「クリスマスのサプライズのつもりだったんだ……」
経緯はこうだ。
フラットはたまたま、ここの地下でかつてキメラを研究していた魔術師の工房の跡を発見した。そこは閉じられた空間になっていて、おそらくまだ誰にも発見されていないようだった。
そこで彼は閃いた。
ここを地下迷宮に仕立てて、ゲーム大好きな教授に体感型RPGを楽しんでもらおうと。
幸いにもキメラの材料だった生物の骨はふんだんにあるから、これを流用してモンスターに仕立てよう。
完成後、教授が部屋に入ろうとしたら迷宮に転移させる術式を仕込むつもりで、その実験をしている最中、たまたまこの部屋を訪れた士郎達にそれが発動してしまったのだ、と。
「呆れて言葉も出ない……」
ため息とともに士郎が零せば、土下座したままのフラットが苦しげに絞り出した。
「モウシワケゴザイマセン……」
「あの、遠坂?そろそろ降りてやれよ。フラットの顔色がなんかやばい……」
当事者である士郎の取りなしに、渋々といった表情で凛は立ち上がった。
うへぇ、と情けない声をあげながらフラットが体を起こすのを、同情を込めて見ていた士郎の額を凛は指で小突く。
「あのね、あなたが一番の被害者なのよ、分かってる?下手すれば地下のモンスターに殺されて、今ごろ野ざらしになってたかも知れないのよ?」
「本っ当~にすまなかった、シロウ!」
「え、あ、いや、もう良いって。こうやって無事だった訳だし……」
深々と頭を下げるフラットに対し、迷宮での宣言がすっかり頭から消え去ってしまっている士郎の様子に、隣のアーチャーの表情が険しくなっていく。
口を開きかけたアーチャーを、指を立てて制して凛はにこりと笑いかけた。
そして、士郎に向き直ると諭すように語りかけた。
「いいえ、良い訳がないでしょう?こちらは大事な弟子を殺されかけたのよ?この責任はきっちりと、確実にこの子の“教授”に取っていただく事にするわ。いいわね、フラット君?
という事で、私はロードのお帰りをここで待つから、あなた達はもう帰って休みなさい」
「え、いや、なら俺たちも……」
「いいえ、帰りなさい。これは師匠からの命令よ」
「でも」
「でも、はなしよ」
「遠坂、俺はこうして大丈夫だったんだから、責任とか」
「士郎」
静かに自分を呼ぶ声には、有無を言わさず士郎を黙らせる力がこもっていた。
そこでようやく、今回の事で凛が本気で怒っている事に気がついた。もちろん、士郎だけでなくアーチャーを危険に晒された事についてもだろう。
「――分かった。遠坂に任せるよ。でも、その、お手柔らかに、な」
「それは相手次第ね」
さらりと長い髪をかきあげて不敵に笑う師匠に、士郎は思わずロード・エルメロイⅡ世の健闘を祈らずにはいられなかった。
「それより士郎。あなたこそ、自分の今の姿を鏡で見てみなさいな。ひどい様子なのは、むしろあなたの方よ。アーチャー、あとはお願いできる?」
「任された。ほら、行くぞ」
頷くと、アーチャーは士郎の手を取り、戸口に向かって歩き出した。
「え?お、おい……!」
有無を言わさずに引きずられていく士郎を、凛は楽しげに見送る。
「セイバーの昼食なら私が用意しておいたから気にしないで良いわよ。のんびりしてらっしゃい」
凛の言葉に、ひらりと手を振って返すと、アーチャーはそのまま士郎の手を引いて立ち去った。
「さて、と。さっきの言葉通り、私はここで少し待たせてもらけど、良いわよね」
にっこりと向けられる笑顔はとてもチャーミングなものだったが、なぜか背筋が寒くなるフラットなのであった。
「おい、アーチャー!おいって!」
抗議を続ける声が聞こえないかのように、アーチャーは士郎の手を掴んだまま、ずんずんと歩いている。
「帰るんじゃなかったのか?」
一体どこに向かってるんだよ、とぽつりとぼやいたのが聞こえたのか、急にアーチャーが足を止めた。
彼が足を止めたのは、男性用トイレの前だった。
「トイレ?お前が?」
「……馬鹿言ってないでさっさと入れ」
「いや、俺も今は別に……」
「鏡だ」
は、と聞き返すのにイラついたように、構わず手を引かれトイレ内へ連れ込まれる。
「凛も言っていただろう。そら、自分の姿を見てみろ?」
トイレ内の壁に据え付けられた姿見に映った自分の姿を見て、士郎は思わず絶句する。
今まで気がつかなかっただけで、着ている服は汗と埃と泥、そして自身の血でどろどろに汚れていた。
さらに体の方もあちこち切れたり、擦りむいたりして血が滲んでいる。
「うわ、これは、なかなかに、うん……」
自分の惨状に苦笑いするしかない。
コックをひねる音に続いて水音がしたのに目をやれば、アーチャーがタオルを濡らしているところだった。
士郎の目線に気づくと軽く絞ってから手渡して くれた。
「ん、サンキュ」
一度顔全部を覆うようにして拭い、あとは鏡を見ながら目に見えるところを清めていく。
何度か新しいタオルに交換しながら、目立つ傷は時折アーチャーが治癒術で塞いでくれた。
「うん、こんなもんかな」
何とか外を歩いても不自然でないくらいまでにはなったようだ。
服以外は。
「こりゃ捨てるしかないな。間に合わせでいいから何か着れそうなものを投影してくれないか?……アーチャー?」
返事がないのを不審に思って顔を向ければ、壁にもたれて俯いているアーチャーの姿にギクリとする。
「お、おい!?お前もどこか怪我を、って、ああ、そっか、魔力……」
駆け寄る士郎の声に、アーチャーがゆっくりと顔を上げる。
「大丈夫か?」
「――見ての通りだ。少し寄越せ」
「ああ。……個室行くか?」
「いや、近くに人の気配はない。ここでいい」
「分かった」
頷くと、士郎はアーチャーの顔に自分のそれを寄せていく。
もともと、パスからの魔力供給効率の悪いこの主従は、こうして定期的に直接的な魔力供給を必要としていた。
それは、皮膚や粘膜の接触だったり体液の交換を手段とするものだった。
つまり、手繋ぎやハグやキスやセックスだ。
傍目にはほとんど恋人同士の営みにしか見えないそれを、いちいち説明するのも面倒くさく、またサーヴァントの存在をおおっぴらにできない事情もあり、さらに、余計な詮索を避けられる効果もある事に気付いてからは、敢えて否定もせずにいるのが現状だった。
事情を知っている限られた人間が凛だったが、そのためか先ほどのような揶揄を二人に気安く言えるのもまた彼女だけだった。
もちろん、二人の間にあるのは恋愛感情などではない。かといって、ただの主従の関係だけでもなかった。
ただ、こうして共に居れる今を得難いものとして、それをできる限り守りたいと互いに想っているのだった。
「お前にも色々無理させちまったみたいだな。ありがとうな、アーチャー」
「は、今更、だ。良いから、さっさとこい」
背中に回った手を合図に、士郎はその顔を引き寄せると口づけた。
緩く開かれた口に舌を差し込めば、応えるように温かくぬめる舌が絡みついてくる。
最初低く感じられるアーチャーの舌は、すぐに士郎の体温と同化して同じ温度に、いやそれ以上に熱くなっていく。
唾液と粘膜接触による魔力の譲渡行為は、サーヴァントであるアーチャーだけでなく、士郎にも直接的な快楽をもたらした。
角度を変えながら舌を深く絡め、互いの口腔を行き来すれば、ともに息が上がっていく。
これが、単に呼吸が苦しいだけが理由ではない事は、兆し始めた下半身の状態から明らかだ。
はぁ、と息をつき、
「アーチャー」
と士郎が切なげに名前を呼べば、鈍くけぶる目でアーチャーが見つめ返してくる。
そして、無言のまま目を伏せると、アーチャーはその場に跪く。
ジ、という音がして、ジッパーが降ろされる。
学舎のトイレで、というシチュエーションと、この先への期待に鼓動が早まっていく。
ごくり、と唾を飲み込む音がひどく大きく聞こえた気がした。
そして、ズボンの中にアーチャーの手が差し込まれたその瞬間、
「ぐぅ~~」
盛大に士郎の腹が鳴った。
ぴしり、とアーチャーが固まる。
「うわ!いや、あの、これは……」
士郎は、何か言い訳をと口を動かすが、焦ってしまって上手い言葉が見つからない。
と、うずくまったままのアーチャーが、ぶはっと吹き出した。
「ははは、いやはや、なんてタイミングだよ、マスター。本当にお前と言う奴は……」
見上げた顔は怒るというより面白がっていて、その意外さに士郎はきょとんとしてしまう?
「?」
「いや、そうだな、お前も昼食はまだだったな。オレばかりがっついて悪かった」
アーチャーは立ち上がると、すっと虚空をなぞるようにしてその手を差し出した。
見れば、士郎が今着ている服と同じものが一揃いその手に載っていた。
「そら、そいつに着替えろ。まずは遅い昼食といこうじゃないか」
「あ、ああ」
もそもそと着替える士郎を急かす事なく、アーチャーは窓から外を見ている。
「本当に良い天気だな」
「うん?ああ、そうだな。さっきまであんな暗いところにいたのが嘘みたいだ」
「全くだ」
ふと、何かを思いついたようにアーチャーが士郎を振り返り、にやりと笑って言った。
「せっかくの休日だ。凛が言っていたようにデートと洒落込もうじゃないかね、マスター?」
End