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「暑い……」
荒い息とともに零せば、
「修行が足りん未熟者め」
と間髪入れずに返された。
む、と声の主に目をやれば、こちらに向けた広い背中に玉の汗が浮いているのが見えた。
褐色の滑らかな肌に現れては滴り落ちるそれは、未だ整わない呼吸と相まって、こいつの体は少なくとも暑さを感じているのだと俺に示している。
ーーお前だって暑いんじゃんか。
喉まで出かかった文句を飲み込み、そういえば喉が渇いたなぁとぼんやりと思う。
汗で貼りつく前髪を搔き上げるついでに上向いた目が、窓際に吊るしてある風鈴を捉えた。
冷涼感を錯覚させるはずの、透き通ったガラスに描かれた金魚のモチーフやその下にぶら下がった青い紙、何よりその最たる効果を産むはずの澄んだ音は今はすんとも聞こえず、それに恨みがましい思いを抱いてしまうのは今は許されたい。
何と言っても暑いのだ。
ただでさえ蒸し暑い夏の日中に窓を閉め切り、男二人密着して激しい運動をして、暑くないわけがない。
ぽたぽたと顎を伝って落ちる汗は、全く止まる様子がない。
ふと気配を感じて目を向ければ、アーチャーが同じように風鈴を見上げていた。
いつもより僅かに寄った眉間の皺に、こいつも同じように感じているのだと分かって、なぜか少し嬉しくなった。
緩む俺の顔を訝しげに見るアーチャーに、にっと笑いかけると立ち上がり、締め切っていた窓を開ける。
途端に吹き込んだ風が、風鈴を揺らして、ちりんと澄んだ音を立てた。
(終わり)
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