【1/13インテ大阪無配】印可の行く末
1/13インテ大阪で配布しておりました無配ペーパーのweb再録。
士弓ペーパーラリーillust/72445496に参加させていただいたものです。
会期途中で終了しまして、ラリーのものなのに申し訳なく……。お手にとっていただけて嬉しかったです。
企画の景品交換チェックに衛宮のはんこが捺印されるとのことで、それが意味あるものになったらいいな、という一枚でした。
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※ふんわり時空の士弓主従設定
「ありゃ、不在票だ。アーチャー、今日はいなかったのかな」
主従関係を結んでいようが、一つ屋根の下に住んでいようが、夕飯の有無や当番に問題がなければ基本自由行動にしている。いくら従者でも立派な英霊なわけで。一から十まで把握しておきたいというわけでなし、英霊にもプライバシーは必要だろう。遠坂あたりが聞いたら一言といわずなにか飛んできそうだが、セイバーも買い食いに興じたりサッカー小僧に交じってスポーツに励んだりしているのだ。アーチャーだって買い物や用事があるのだろう。そりゃあ、もう少し日常を話してくれてもいいかなとは思うけども。
自分の知らないところでレッドの兄ちゃんやら波止場のアングラーやら二つ名が増えていくサーヴァントを思った。
ともあれ、そんなことが何件かあって。しかしながら宅配便なんてお歳暮を過ぎれば滅多にないので忘れていた日常の一コマだった。いやまあ、懸賞に応募した藤ねえの宛先がなぜかうちで俺になっていたりもするのだが。
主に実家の事情だろうが、将来の幸運値がEかもしれない主の家で大丈夫なのだろうか。なんだかんだ、彼女の強運の方が勝ちそうではある。大抵、夕食後にごろごろしている時にめくっていた雑誌などを見せながら許可を取りに来るので、知らないうちにというわけではない。ときに本当に当選したりするものだから、時間指定もなくこういうこともある。それがそのまま土蔵の容量を埋めたりもする。人が増えた分、肉とか野菜の懸賞品だとありがたいのだが。
バイト帰り、仕込みの残り物を賄いとしていただいてきた。冷蔵品を然るべき場所に収めていると、抜かりなく居間のこたつのスイッチをいそいそと点ける藤ねえ。実に遠慮のかけらもない。末席に増えた同居人もこのくらいしてくれてもいいのに、とすでに部屋を暖めているストーブを見て思う。
帰宅予定時間に合わせてつけてくれたのだろう。本人はどこにいるのやら。屋根にいなかったのは確認済みだ。
残業帰りの藤村大河先生と出くわしたのがつい先ほど。あったかい士郎のお茶が飲みたいな~、とのことで今に至る訳だが、ストーブ上の薬缶は湯気をあげているのですぐにでも提供できそうだ。ついでに自分の分も入れてしまおう。
「士郎~、机に回覧板置きっぱなしだよ。ふむふむどれどれ」
呼んでおきながら勝手にクリップボードをめくっている。藤村の家にも回っているだろうに。
「大体昼間のうちに若いのが必要事項だけ抜いて回しちゃうし? 遅くなると町内会の役員さんが大変じゃない」
「わかってるよ。今日……はもう遅いな、明日回しに行くから。次は隣の、えーと」
「ねえね士郎、月末に市民会館で餅つき大会だって」
「うちでも年末やったけどさ、やっぱり搗き立てがいいよな」
世帯ごとの確認印の欄が空白だったので、引き出しを開けてハンコを探す。いつもなら玄関で済ませてしまうだけに、あまり使われない小さな貴重品がなかなか見つからない。ここにあるのも三文判だが、特注になる苗字なだけに家のなかとはいえ紛失すると後が面倒になる。
それにしても。居間にあったってことは受け取った、もしくは郵便受けから回収したやつがいたはずなんだが。
「あんこにきな粉に辛みもち! おいしかったな~。あっ、アーチャーさん今日もお邪魔してまーす」
「冷凍してある伸し餅でバターもちにするのももおすすめだ。またの機会にふるまおう」
廊下の冷気と共に探していた認印が差し出された。
「なんでアーチャーが持ってるんだ?」
「先日、自室で使って置いていっただろう」
そういえばクラスメイトのバイト先に臨時に入ることになり、急遽履歴書を作成したのだったか。
「助かった。でもさ、今日は家にいたんだろ? 見たところ重要な項目もなかったし、回覧板くらい」
「家主はお前だからな。勝手に持ち出すのはよくないだろう」
「そうだけどさ」
またこれだ。
「けど? はて、勝手に印章を触るような礼儀知らずだと思われていたとは心外なのだが」
勘違いされているような、こいつの場合わざとのような。
「あー……そういえば伝えてなかったか。玄関にそういう時用の三文判があるからさ。使ってくれていいんだけど」
「そうか。覚えておこう」
アーチャーがこういう言い方をするときは、絶対に使わないやつだ。もっと、踏み込んでくれてもいいのに。藤ねえの前でもめるのもいらない心配を掛ける。ただでさえなんの勘が働くのか、すでに「うちのひと」認定をされているのだ。追いすがるような文句をごくんと飲み込んで頷くにとどめた。
「不在票?……ついさっきだ。入違っちまったか」
あれ以来そういった機会がなかったのだが、俺が帰ってくるまでやつも帰宅しない生活になっていたのでむべるかな。
衛宮、を象徴するものを使いたくないのだろう。でも、それはあまりに俺の気が済まなかった。
ひとまず手元に目を落とす。
「郵便局の現金書留……って雷画さんか。お年玉はもういいって言ったのに」
出したものを引っ込める道理のない人達だから、今年は事前に申し立てをしていたのだが。時期をずらしてこの手とは、流石に想像がつかなかったし、新年の挨拶で言及がなかったものだから油断していた。それを知らない藤ねえは喜んでもらっていって使い切ったらしいが、反面教師。弟分である俺くらいはしっかり締めていかないと。
ぺらりと裏返して再配達の手順をみながら玄関に手を掛ける。
「ただいま」
「……おかえり」
最近きいていなかった挨拶が目の前に。これは言ってくれるのに。
エコバッグを抱えていたので出迎えに来たわけではないだろうが、そもそも結界の知らせでもなく、呼び鈴が押されるまでもなく、人の気配が読めるのがサーヴァントってものだろう。
「アーチャー。言っておくけどさ」
この際だ。
「うちのものとして表に出たくないなら止めない。それでも。アーチャーは今は俺の家族なわけだし、そういう遠慮はいらないんだ」
「……それは、マスター命令か?」
聞くようでいて、俺が弱い言い方をする。そのまま通り過ぎようとするアーチャーの腕をつかんだ。
「衛宮士郎として頼んでるんだ。止める資格はなくても、俺はアーチャーがもっと俺に関わってくれたら嬉しい」
「はッ、どの面下げてこの姓を使えというんだ」
「いいじゃないか。おまえは最期までじいさんとの約束を果たしたんだ。きっと、切嗣だって気にしない」
「どけ、夕方のセールに遅れる」
ひと振りでほどかれる手に、また距離を感じてしまう。
「あっ、おい! 待てって」
ぴしゃりと戸が閉まった。
バイクの音と、呼び鈴。受け取りに向かえば、聞き覚えのある話し声。
「少しお待ちください」
やはり先ほど頼んだ再配達だろう。そして、買い物を終えたアーチャー。玄関口へ俺を呼びに来るだろう彼を、待ち構えた。
ん、と向こうが口を開く前に突き出してやった、それ。眉間にしわを増やしても動かない目の前の男の掌に、ようやく使用感のにじむようになった三文判を握らせた。驚いたように引く手を、今度は握って離さない。
これからずっと、俺が俺で生きていく限り、理想を失わないでいるかぎり、一緒にいるのはあんたがいいんだ。果てに至っても、その名──理想だけは砕けなかったあんたが。だから、これはあんたが使っていい。使って、ほしい。
黄昏の逆光で表情は見えなかったけれど、目の前で確かに捺されたその朱色の円は、鮮やかに存在を主張していた。