面倒くさい士弓
2ページありますが、続いてないです。
私が書くと、毎回士郎さんはアーチャーさんと話すために色々と頑張ってますね。
たぶん、テムズ川的な話がもっと見たいっていう私の願望があわられてるんでしょう、きっと。
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面倒くさいアーチャー
「お前は悲しい奴だな」
目の前の男に突然こんな言葉を言われた時の俺の心境を10文字以内で述べよ。
「いみがわからない」
誰だってこう言うに決まっている。何かの話の流れで言われるならまだしも、あいにく俺たちは黙々と洗濯物たたんでいた。本当はいろいろと話したかったけれども、目の前の男、アーチャーに無駄口叩くなと一喝されて、渋々家事に没頭していたのだ。ここまではいつもと変わらない日常。1つだけ違ったのは、ふと思い出したように先ほどの言葉を呟いたアーチャーの存在である。
俺には一喝しておきながら自分は爆弾を放り込む男の心境を10文字以内で述べよ。
これは難問だ。きっと1日考え抜いてもわからない。だから、次の洗濯物へ伸ばしかけた手が止まって、数秒間フリーズしても誰も文句は言えないはずだ。いや、1人だけ文句を言う奴がいた。
「間抜け面をさらしてないでさっさと手を動かせ」
これだから自覚の無い爆弾魔は困る。本気で意味がわからないのだから少しは考える時間をくれよ。だいたい悲しい奴ってなんだ?
「えっ、もしかして俺罵倒されたのか?」
「罵倒ではない。ただ日々たまっていたお前への不満がつい口に出ただけだから安心しろ」
「安心できる要素が1つも無いんだが。もう少し詳しく説明しろよ」
「詳しくか・・・。簡単なことだ。身長、体格、魔術、戦闘、どれをとってもお前が私に勝るものは無い。しかも、お前にとって私は未来の自分。これだけそろってなお、私を好きだと、あまつさえ抱きたいというお前のその神経。呆れを通り越して哀れみさえおぼえる」
「・・・・」
「悲しい奴だ」
「2回も言うな!」
「聖杯戦争中に頭でも打ったか?それなら手遅れにならないうちに病院に行っておけ」
「頭は打ってない。怪我は全部セイバーのおかげで治ってるし、病院に行くは必要ない」
「なら、おかしかったのはもとからか?それはまずいな。いい薬がないか凛に相談してみるか」
「いい加減にしろよ、テメェ」
どうしてここまで言われなきゃならないんだ。それも好きな奴に!
告白したのは1か月前。なんて言おうかあれこれ悩んで、やっと勇気を振り絞って言った「好きだ」という短い告白を言い終わる前に「諦めろ」という短い返答をされた。そりゃ断られるくらいは予想がついた。鼻で笑われる覚悟もしていた。でも、最後まで言わせろよ!たった3文字に被せてくるなんて相当だぞ!あまりの仕打ちに納得できず、それから毎日隙さえあれば告白。それに対するアーチャーの「諦めろ」という食い気味の即答。家事の合間に話しかけても、口よりも手を動かせだのなんだの責められて、思い出すだけで涙がこぼれそうな日々である。それを踏まえると俺は悲しいというよりかわいそうな奴なのかもしれない。
「結局何が言いたいんだ」
「未来ある若者に年長者からのアドバイスだ。お前のことを考えて言ったのだが伝わらなかったか?」
「喧嘩売ってるようにしか見えなかったぞ」
「人の好意を受け取れないばかりか疑ってかかるとは。お前に対する評価を改めねばならんな」
よくもまあ、そんな白々しい態度がとれたもんだな。それに俺のことを考えるなら発揮するのはここじゃない。俺の告白を最後まで聞くとか、俺の告白に対して「諦めろ」以外の返答をするとか、俺の告白をもっと真剣に考えるとか、これ以上は長くなるから割愛するが色々とあるだろ。とりあえず俺に対する評価は後で教えてください。
「俺の頭を本気で心配しているのなら疑って悪かったな。でも、俺が悲しい奴だとかお前が決めることじゃない」
「未だ自分の姿が見えていないお前の為に私が教えてやっているんだ。感謝してほしいくらいだな」
余計なお世話だ。恨むことはあっても感謝することは絶対にない。というかいつもはすぐに流すくせに今日はやけに絡んでくるな。ふと思う。こいつ何でこんなに必死な感じなんだ。
「お前が好きだ。何を言われようが告白をやめるつもりはない」
「私のことは諦めろ。それ以外の返答をするつもりはない」
「そこまで頑なに諦めろっていう理由を言えよ」
「・・・言っただろう。お前のことを考えた結果だ」
「嘘つけ。とにかく!諦めさせたかったら俺が納得するだけの理由を言え。どうするかはそれを聞いてから俺が決める」
「それまで絶対に諦めてやんねー」と宣言し、アーチャーの目を見つめた。全てを受け止める覚悟はできている。『お前が嫌いだからだ』なんて言われたら、もう何も言えなくなってしまうがそれはそれで、納得はできる。理由も教えてもらえずただ「諦めろ」としか言われない現状をどうにかしたかった。思ったよりも子供じみた自分の言い方に目の前の男もさぞ呆れているだろうと思っていたが、予想に反して、アーチャーは真剣な面持ちでいた。
「嘘ではない。お前の未来を壊したくはない」
「アーチャー?」
「私は、俺はお前と共に歩むことはできない」
「えっ・・・」
「お前はきっと真っ直ぐではなくても、前へ進んでいくのだろう。・・・私には無理だ。この身はこの先沈んでいくだけ。理想への畏怖と憎悪。それと同じくらい憧憬と執着。これらを抱きしめて生きていくにはこの荷物は重くて仕方がない。どちらかを捨てたいのにどちらも手放せない。いつかこの重みによって沈んで沈んで沈みきって、底で起き上がれず溺れ死ぬのだろう」
「私といるとお前まで沈むぞ。認めたくは無いがお前は俺だからな。私が感じていること、思っていることが、お前に影響を及ぼしてもおかしくはない。だから、早々に諦めろ」
「一緒に沈む気があるのなら止めないが、」
俺を思ってくれている君が悲しい。
いつかぼろぼろになって、ぼろ雑巾のように底まで沈んでいく君の未来が悲しい。
「・・・俺はお前の悲しい姿は見たくないな」
そう言って、アーチャーは微笑んだ。伸ばした手を俺の頭の上に置きくしゃっと撫でる。そして、それ以上話すことはないというふうにアーチャーは再び洗濯物をたたみ始めた。
初めて見た微笑みが綺麗で、俺の頭を撫でた手があまりにも名残惜しげに離れていくもんだから、俺はすぐに言葉を吐くことができなかった。それでも、言葉にするより先に心は、それは違うと、それは間違っていると叫ぶ。だって、俺はアーチャーにお前のことを諦めなきゃいけない理由を聞いたんだ。今のじゃ答えになってない。それはお前が俺のことを諦めなきゃいけない理由じゃないのか。
腹が立つ。ムカつく。勝手に言いたいことを言って、自分だけ納得したように笑っているところとか、俺のことを考えているようで全然わかってないところとか、
「誰が一緒に沈むなんて言った」
「・・・そうか。それはよかった。私の杞憂ならそれでいい」
安心したような顔しているくせに、声には少し、ほんの少しだけ震えているところとか。突き放したくせにいざ自分が突き放されるとそうやって傷ついて。傷ついているのに心の中では安堵していて。ああ、これで私のせいで不幸になる者はいないのだと、もう誰も悲しませないでいいのだと、そういうことを本気で思っている。本当、めんどくさい奴。
こんなめんどくさい奴、諦めきれるわけないだろ
アーチャーの手首を取り、勢い良く立ち上がる。せっかく俺とアーチャーが綺麗にたたんだ洗濯物がぐちゃぐちゃになったがそんなことはどうでもよかった。そのまま手首を握った右手を高くあげれば、座っていたアーチャーの体も立ち上がる、・・・立ち上がると言っても正座している状態から立ち膝になったぐらいで、俺の身長と力ではこれぐらいが限度だった。
「勘違いするな。俺はお前と溺死するなんてごめんだ。でも、お前が沈んでいく姿を黙って見ているつもりはない。お前が沈んだら、沈んだ分以上俺が上に引っ張りあげればいいだけだろう!」
「確かに身長は低いし、筋肉はついてないし、魔術も戦闘もまだまだで頼りないだろうけどな。俺はお前なんだろう。努力すれば全部全お前ぐらいにはなるはずだ。いや、お前よりも長生きして、もっと鍛えてお前を超えてやる!」
「今はこれしかお前のことをすくいあげることができないけど。見てろ、少しずつでも引っ張りあげて無理やりにでも隣を歩かせてみせるからな」
お前が俺を見て悲しいと感じるように、俺もお前を見ていると悲しくなるんだよ。
悲しくて
哀しくて
かなしくて
・・・愛しい
今の俺には悔しいがお前を物理的にも精神的にも、引っ張り上げるだけの力は無い。それでも、俺の理想を捨てたくないし、手放したくもなかった。それと同じように、お前が抱いているものを、捨てろとも手放せとも言えない。というか気が済むまで抱いていろ。
俺は、理想抱いて溺死するつもりはない。だから、俺の理想も、お前の理想も、抱いているもの1つもこぼさず丸ごと引っ張り上げてやる。それがダメならお前が言うその重い荷物を半分よこせ。そうしたらその軽くなった分浮上するかもしれないだろ。
だいだい、お前は俺の理想なんだからもうちょっとしゃっきとしてろよ
「お前、自分が長生きできると思っているのか。俺以上に生き急いでいるくせに」
「ふんっ、俺は絶対に早死にしないぞ。お前みたいなめんどうな奴おいて死ねるか」
「・・・お前は本当に悲しい奴だな」
「そういうのはその顔どうにかしてから言うんだな」
耐えたように引き攣っている顔を指摘すると今にも泣きだしそうに歪んだ。泣けよもう。あげていた右手を下ろす。そして、今度は手首をつかむのではなく、アーチャーの左手に絡ませた。離れないようにぎゅっと握ると、戸惑ったように視線を彷徨わせて、躊躇いながらも弱弱しく握りかえされた。握られることに慣れていない手がこいつの人生をあらわしていて悲しくて、何よりも愛おしくて。この先何があろうともこの手だけは離したくはなかった。