mistake(前篇)
fateにハマって三か月。ネタばかり先行して現在三つの話を書いてる途中ですが、そろそろ一つは書き上げないとなあとは思ってます。
夏も近いし。夏は苦手の季節なので。
しかし、今はほんとにアーチャーの話を読み続けたい気分で、本もどんどん増えていってる状況。読んでて楽しいですv
さて今回は相変わらずの凜のうっかりで子供の身体で召喚されたアーチャーの話。
身体は子供、頭脳は大人・・なアレとなってます。
設定は最初のアニメ版をもとにしてますが、内容はかなり変えていきます。
楽しんでもらえたら幸いv
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目を射るような光と共に現れたそれに、まだ年若い魔術師は翠がかった瞳を驚きに見開いた。
あ…という形に開いた唇をそのままに彼女は呆然となって固まってしまう。
彼女の前には召喚魔法陣があり、この夜、万全の態勢でサーヴァント召喚に挑み、詠唱を唱え終えたと同時に最高の出来だと自画自賛したくらいであったが。
「なんなのよ、これはあぁぁぁぁ!?」
パニック状態に陥った彼女は、いったい何を間違えたのかと自身に問いかける。
聖杯戦争には欠かせないサーヴァントの召喚には魔術師としての能力と、そして召喚したいサーヴァントに関係する触媒が必要だった。
だが、かつてサーヴァントを召喚した筈の父親の遺品の中からはその触媒は見つけられず、後見人にはせっつかれ、こうなったら自分の魔力だけで召喚してやろうじゃないの!と意を決し今夜もっとも魔力が高まる時間を狙って召喚を試みたのだが──
「・・・・・・」
彼女の召喚に応え魔法陣上に現れたサーヴァントは、己を見て顔を青くしたり赤くしたり、果ては悲鳴じみた声を上げてガックリと項垂れるのを見て眉をひそめた。
ぐるりとまわりを見回し、彼女の他に人間がいないことを確認し、ならば彼女が己を召喚したマスターかと改めて見直す。
マスターと思われる彼女は、項垂れたまま置物のように動かない。
まだほんとに若い、おそらく十代だろう。
彼女がいったい何に対して落胆しているのか。
見ただけでは召喚されたサーヴァントのクラスがわかる筈もないから、落胆の理由にはならない。
となると……
サーヴァントは、ふと視界に入った自分の手に鋼色の瞳を瞬かせた。
両掌を上に、そして、肩を見、そして、床までの距離を測って、なるほど…と彼女を驚かせた理由に思い至った。
何故かわからないが、今回の召喚では自分の身体はかなり小さくなっているようだ。
彼は眉間に深い皴を寄せながら小さく息を吐く。
「動揺している所すまないが、君がマスターか?」
そうよ!と彼女は顔を上げ、キッと彼を睨みつけた。
悪いのは全部おまえのせいだと言わんばかりの彼女の表情に、彼はやや肩をすくめる。
そこで、ようやっと自分が八つ当たりしていることに気づき、一度大きく深呼吸した。
「…ごめん。悪かったわ。あんたを召喚したのはわたしなんだもんね」
やはり触媒なしのサーヴァント召喚には無理があったのだ。
彼女は、現れた時と同じ姿勢で立ったままのサーヴァントを観察するように眺めた。
身長は自分より低い。
前髪を撫で上げた短い白い髪に褐色の肌。
赤い外套が目に鮮やかだ。
薄い鋼色の瞳は大人びて見えるものの、頬の丸みや整っているがその顔立ちはやはり幼く。
膝上までの黒いパンツに黒のブーツ。
膝が出ている所が子供っぽい。
どう多く見積もっても中学生くらいにしか見えない。
サーヴァントは、一番力のあった年齢で現れる。
まさか、こんな子供の頃が全盛期だったとはあり得ないだろう。
いったい自分は何を喚んでしまったのか。
「契約を結ぶ前に誤解を解いた方がいいようだな、マスター」
「誤解?」
「君にとって不本意だろうが、私にとってもこの姿は不本意なものなのだよ」
どう見ても子供なのに、話し方はまるで成人した男のようだ。
「不本意ってどういうことよ?」
「私はこれまで成人した身体で召喚されていたということだ。こんな子供の姿はおそらく初めてだな」
あ、やっぱり・・・と彼女はガクリと首を落とし、両手で頭を抱えた。
そうよね、こんなこと普通はあり得ないわよね。
失敗したのだ。完璧に!
なんでよ?あんなに宝石一杯使って、詠唱も完璧にやったのに!
何が悪かったっていうのよ!
はあぁぁと彼女は息を吐き出した。
「なんか疲れたわ……」
寝る、と彼女はくるりと背を向けた。
階段に足をかけようとして、ああと思い出したように振り返る。
「言っとくけど、外には出ないでね。家の中でなら自由にしてていいから」
「了解した。おやすみ、マスター」
マスターである少女の姿が見えなくなると、子供の姿のサーヴァントはゆっくりと歩いて召喚陣を出た。
そして、もう一度自分の姿を確認する。
全体の姿は鏡でもないと確かめられないが、腕や足、そして身体の筋肉のつき方は成長途中。
もとの鍛えられた姿は見る影もなく──
「やれやれ…とんだマスターに当たったかな」
原因はどう考えても、自分を召喚したあの少女だろうが、しかしこんな召喚のされ方は異例だ。
他に何か原因がなかったのか、と彼は考えるがすぐに答えが見つかる筈もなく。
どちらも不本意だからと、今更リセットと言うわけにもいくまい。
ふむ、と息を吐くと、彼は階段をのぼっていった。
廊下は薄暗かった。
夜明けまではまだ間があるので、一通り家の中を見てしまおう、と彼は思う。
ただし、人の気配のある部屋は除いて。
目が覚めると、既に部屋の中は明るくなっていた。
今日は土曜日なので目覚ましはセットしていない。
軽く欠伸をもらし身体を起こす。
「……だるい。召喚でかなり魔力持ってかれたからなあ」
昨夜のことは夢だと思いたい。
だが、こうして魔力を失っているということは、やはり自分はサーヴァントを召喚したのだ。
「十時…かあ」
枕元の時計を見て、そこでようやくハタとあることを思い出す。
そういえば──
「やだ!時計!狂ってたんじゃない!」
たしか、一時間早くなっていたはずだ。
家の中にある時計全部!
面倒くさくて、リビングの時計だけしか直してなかった。
だから、地下室の時計がさしていた午前二時は、実際は午前一時だったというわけで。
きゃあぁぁぁ!と彼女は顔を覆いながら声なき悲鳴を上げた。
やっぱりわたしのミスじゃない!
触媒もなく、魔力も完全ではなく、それでよくサーヴァントが来てくれたもんだ。
これって、奇跡ってもんじゃない!
不満なんか口にしたら、それこそバチが当たるというもの。
……なんか、もう言っちゃったような気がするけど。
ベッドから離れ、着替えをして髪を整えると、彼女は部屋を出た。
あのサーヴァントは今どこにいるだろう?
外には出るなと言っておいたが、令呪による絶対命令ではないから拘束力はない。
彼も、子供の姿で召喚され不満だと言っていたし。
その原因は間違いなく自分なのだ。
はあ~~と彼女はため息を吐いた。
「大きなため息だな。疲れはまだとれないかね?」
大人のような口調だが、高い少年のような声をかけられた彼女が顔を上げると、あのサーヴァントがリビングに向かう廊下の壁にもたれて立っているのが見えた。
「一晩たったら大人になってたら良かったのに……」
「そんな都合のいい話はないな」
少年のサーヴァントは呆れたような表情で彼女を見る。
そうよねえ、と彼女はサーヴァントと共にリビングへ入った。
「紅茶でいいかね?」
え?とソファに腰を下ろしかけた彼女の前にカップがソーサーごと差し出された。
白い湯気がゆらゆらと揺れている。
「あんたが淹れたの?」
彼女はカップに口をつけ一口飲んでみた。
「美味しい……」
「朝食も用意している。こちらで食べるなら持ってくるが?」
「朝食って…あんたがあ?」
サーヴァントが紅茶を淹れるのだってびっくりなのに、朝食の用意って──
ああ、もしかして、私がよんだのって、使い魔は使い魔でも英霊とは別のものとか言うんじゃないでしょうね。
「まだ聞いてなかったけど、あんたのクラスは?セイバー?」
「…いや」
「じゃあ、アーチャーね。まだ召喚されてないクラスはセイバーとアーチャーだけだもの」
そうだ、と目の前の少年が頷くのを見て彼女はホッとした。
良かったあ。ちゃんと英霊だった。
「ほんとはセイバーを狙ってたんだけど、まあ、あんたがアーチャーで良かったかも。他のサーヴァントを相手に接近戦は到底無理そうだし」
「言ってくれるな、マスター」
アーチャーである少年は苦笑を浮かべた。
「確かに体は子供だが、力は何も変わっていない。大人の身体と同じ戦い方はほぼ可能だ」
「あら、そうなの?」
「自分で解析して確かめた」
「ふうん。でも、弓の騎士なんだから、狙撃でしょ?肉弾戦をやるわけじゃないんだから」
アーチャーは目を数回瞬かせると、ふっと笑い何も言わなかった。
「ところで、あんたどこの英霊?」
「それを答えなければいけないか、マスター?」
「当然でしょ。これから聖杯戦争に参加するのに、自分のサーヴァントがどんな力を持っているのかわからなければ戦えないじゃない」
「・・・・」
「ちょっと!まさか言いたくないってんじゃないでしょうね?」
「この姿で真名を答えるのはいささか抵抗がある」
「はあぁぁ?何言ってんのよ」
「プライドというものだよ、マスター」
アーチャーの返答に顔をしかめた彼女だったが、そもそも自分のうっかりが原因であるので強く出ることができなかった。
ずっと大人のサーヴァントで戦ってきたのなら、今の子供の姿は英雄としては屈辱かもしれない。
それで名を名乗れじゃ、本人が言うように抵抗があるだろう。
「まあいいわ。あんたにはあんたの戦い方があるだろうから無理に聞き出すことはやめておくわ」
「感謝するマスター」
「凛よ。私の名前は遠坂凛」
「凛。私はサーヴァントアーチャー。君をマスターと認め、君のために力の及ぶ限り働こう」
アーチャーは右の拳を胸の前にあて、そう静かに告げた。
◇◇◇
週明けの月曜日、校門をくぐった凛は、嫌な気配を感じて顔をしかめた。
重い空気。気持ちが悪い。
なんなのよ、これ!
『アーチャー、聞こえてる?』
凛は短く息を吐いてから、ゆっくりと歩を進め、屋敷にいるアーチャーに向けて念話で話しかけた。
今の所学校に危険はなく、アーチャーには街の監視を頼んでおいたのだが、まさか学校内がこんな状況になっているとは予想外だった。
金曜までは何も異常はなかったのに。
『聞こえているが、どうした凛?』
『学校に結界が張られてるわ。それも、素人が張ったみたいな未熟な結界。気分が悪いったらないわ』
『そちらに向かおうか』
『いえ、いいわ。結界を張った魔術師が学校にいるとしても、こんなのわたしの敵じゃないわ』
『魔術師は問題なくとも、そいつにサーヴァントがついていれば危険だ、凛』
『そうね……未熟な魔術師でも、サーヴァントは喚べるんだわ』
もっとも、素人みたいな魔術師では強いサーヴァントを召喚することはできないだろうが。
が、能力が低いサーヴァントでも、人の身にとってはやはり危険な存在だ。
『サーヴァントの気配、感じる?』
『ここからでは無理だな。学校まで行けばわかるかもしれないが』
凛は少し考える。
アーチャーはサーヴァントの中でも強い三騎士の一人。アーチャーが敵サーヴァントを感知すれば相手も気づくかもしれない。
学校に人がいる中でサーヴァント同士の戦いが起きるのは極力避けたい。
それに、アーチャーの攻撃は弓だから、敵の前に姿を見せない方がいい。
まあ、敵もあえて目立つことはしないだろうから、生徒たちがいなくなる放課後までは問題はないだろう。
『大丈夫。あんたは、とりあえず学校周辺を探っておいて。何かあれば連絡すること』
『了解した』
張られた結界は気分が悪いが、今は放っておくしかない。
全く──誰よ!こんな稚拙なもん張ったのは!
とりあえず、午前中の授業では何も起こらなかった。
この様子では、午後の授業も大丈夫だろう。
(問題は、人がいなくなる放課後ね)
学校近くで起こった殺人事件で、まだ犯人が捕まっていないということで、当分は全てのクラブ活動は休止となっているから、学生は早く帰宅する。
日が暮れる頃には学校内は無人に近くなるだろう。
凛は猫柄の巾着袋を手に一人屋上へ上がって行った。
屋上に出ると、いつもの場所に腰を下ろし、持ってきた巾着袋から弁当箱を取り出す。
いつもは登校途中、気に入りのパン屋でサンドイッチを買うのだが、今日は手作り弁当だった。
家を出る時、アーチャーに手渡された時には、マジで驚いた。
サーヴァントが手作り弁当?
確かにアーチャーを召喚してからのこの二日間、朝と夜の食事はあいつが用意してくれた。
あいつ、なんで料理できるの?
今は買い置きしてる食材で作ってくれているが、他にいろんな食材を買ってきたらどんなものを作ってくれるだろうか。
あ、ちょっと期待しちゃう。
凛は、口元に笑みを浮かべながら弁当箱を開け、そして目を丸くした。
可愛い俵型おにぎりに卵焼き、彩のいい野菜の煮物にウインナー、そして甘辛く味付けされた肉と塩ゆでされたブロッコリーが綺麗におさめられていた。
あいつ……もしかして和食もオッケーなの?
見た目は日本人には見えないし、といって、西洋人でもなく、中央アジアあたりの人間かと思ったのだが。
となると、どういった英雄なのだろう?
「無理には聞かないとは言ったけど、やっぱり気にはなるわね」
それに、あいつの顔、なんか誰かに似てる気がする。
「にしても、あいつ……」
凛は箸でウインナーを摘みあげ眉をしかめた。
「なんで、タコさんウインナーなんて知ってんのよ?」
放課後、生徒たちの帰宅を促す放送が流れ、生徒たちは次々と学校を出て行った。
教室に残っていた生徒も教師が追い出し、教室の戸に鍵をかけていく。
日が落ちる頃には学校内に人の気配はなくなりシンと静まり返った。
教師に見つかることなく学校に残っていた凛は、正体のわからない魔術師が残した結界の陣を一つ一つ潰してまわっていた。
たいした結界ではないが、この結界の影響を受ける生徒がいないとは限らない。
潰しておくのが無難というもの。
歩き回るうちに学校の裏庭まできた凛は、ふう、と息を吐いた。
あたりは暗くなっていたが、満月のおかげで明かりの少ない裏庭もわりと明るかった。
時計を見ると、いつのまにか七時を回っている。
アーチャーからは何も言ってこないし、今日は何もないかな、と凛が思ったその時、突然背後から声をかけられ、彼女はギクッと肩を震わせた。
「よお。あんた、一人かい?」
バッと凛は振り向く。
だがそこに人の姿はなく、だが目の前の木を見上げると太い枝にしゃがみ込む男の姿があった。
月明かりに照らされた男は、青い髪に赤い瞳、青い戦闘服に、右手に持った赤い槍を肩の上にのせていた。
どう見ても普通ではない。
「あんた、サーヴァント?」
「おうよ。それがわかるあんたは、魔術師だよな?」
「わかってて声かけたんでしょ。槍を持ってるってことは、ランサーね」
「そうそう」
青い男は楽しそうに笑う。
「わかりやすくていいだろう。で?お嬢ちゃんのサーヴァントはなんだ?」
「………」
「隠さなくてもいいだろが。あんたの手の令呪見たらお嬢ちゃんがサーヴァント持ちだってのはわかんだぜ。待っててやるから、早く呼べよ」
「なんで、わたしがあんたの言うこと聞かなきゃなんないのよ。呼ぶ呼ばないは、わたしの勝手でしょ」
「この状況でそんな強気を言うかあ?お嬢ちゃんは俺の敵だから今すぐ殺してもいいんだぜ」
「だったら、声なんかかけなきゃいいでしょ!」
おいおい、とランサーは呆れたように息を吐き出した。
「ほんと、気の強い嬢ちゃんだな。声かけずに殺しときゃ──良かったってか!!」
木の枝から飛び降りたランサーの槍が凛を襲う。
だが、赤い槍の先が凛に触れる前に鋭い一撃によって弾かれた。
「なに!?」
突然の殺気にランサーが飛びのくと、凛をかばうように赤い影が立ちふさがった。
サーヴァントか?
だが、はっきりと姿を見せた英霊は、ランサーが予想していたのとはかなり違っていた。
赤い外套を身に着けた白い髪の男。
いや、男といっていいのか。
右手に黒い剣を持ったそいつは、えらく小柄で、どう見てもまだ子供だった。
サーヴァントがこんなガキって、アリか?
「てめえ、その嬢ちゃんのサーヴァントか?」
それに応えず、フンと鼻を鳴らす相手に、ランサーは眉をしかめた。
あ、こいつ生意気そう。嫌いなタイプかも。
「バカ!なんで来たのよ!」
「マスターの危機に飛んでこないサーヴァントなどいないだろ?」
「あんたはそういうタイプじゃないじゃない!姿見せてどうすんのよ!」
「どうするって……サーヴァントはマスターの命令に従うのみだが」
凛は目を瞬かせた。
「言ったわね!じゃあ、あんたの力見せなさいよ!」
アーチャーはキュッと口角を上げた。
「了解した」
「おう、やろうってか。ま、初めからそのつもりだったんで、俺としては構わないんだがね。俺は女だろうがガキだろうが容赦しねえぜ?」
「・・・・・」
フッと笑ったアーチャーの姿が次の瞬間高速で移動した。
はっきり言って、凛には目の前のアーチャーが消えたようにしか見えなかった。
気づけばアーチャーの黒い剣とランサーの赤い槍が激突する音が響き渡っていた。
「聞き忘れたが、てめえはなんだ?剣を持ってるがセイバーって感じじゃねえな」
「なんだっていいだろう。貴様にとっては、殺し合いができればいいのだろうが」
「そりゃそうだ。ガキのくせにわかってんじゃねえか」
ランサーの槍が、アーチャーの剣を薙いだ。
その衝撃の強さに剣が破壊され手から離れる。
だが、その手に再び剣が出現し、ランサーの槍を受け止めた。しかも、反対の手に白い剣が現れるのを目にし、ランサーは目を瞠った。
「二刀使いか?てめえ、いったいなんだ?」
「私は君のような有名人じゃないから、どんなに考えてもわからんよ」
「ガキのくせして、生意気な口ききやがる。だったら、さっさと死にな!」
ランサーの持つ魔槍が赤く燃え上がった。
◇◇◇
はあぁぁ、とため息をつきながら居間のソファに座り込んだ凛の目の前に赤い宝石のついた鎖が揺れた。
「……ああ、拾ってきてくれたんだ。ありがと」
凛はアーチャーの手から赤い宝石を受け取った。
「そこまで──自分の魔力を削られてもやらなければならなかったことか?」
え?とアーチャーの顔を見上げ、ああと凛は頷いた。
「だって、あの子の悲しむ顔を見たくないもの。わたしには妹がいるの。彼は、妹が好きな男の子。助けられるなら助けなければ。だって、彼に気づかなかったわたしのミスだから」
「あの男が学校に残っているなど、君にわかる筈はなかったろう」
「そうだけど……いいわ、もう。わたし寝るから」
「では、私は屋根の上で見張りをしておく。ゆっくり休みたまえ、凛」
「ありがとう。じゃあ、頼むわね」
凛が居間を出て行くと、アーチャーは霊体化して屋根の上まで出た。
鷹の目を使って周辺を探るが、異常はない。
凛があの学校の生徒だということはランサーにはわかっているだろうから、身元はすぐにバレるだろう。
ランサーのマスターの正体を確かめられなかったのは残念だった。
だが、もう一度だけ奴と会う機会がある。
さて、どうするか…とアーチャーは考えた。
凛は衛宮士郎の命を助けられ安心しているが、目撃者を見逃すほど奴は甘くない。
これは既に決まっていることだ。
ランサーの姿を見た瞬間、アーチャーの中であの時の記憶が蘇った。
全てではないが、大まかな成り行きはわかる。
彼女が──召喚される。
それをこの目で見ることは許されないだろうが、姿を見ることに問題はないだろう。
アーチャーは遠坂邸の屋根を軽く蹴ると、夜の街に向けて駆けて行った。
衛宮士郎の家がアーチャーの視界に入った時には、もうセイバーが召喚されており、ランサーと戦っていた。
やはり予想した通り、衛宮士郎が生きていることを知ったランサーが再度殺しにやってきて、召喚されたセイバーと鉢合わせたのだろう。
「セイバー!」
衛宮邸から外に飛び出してきた少年の姿を認めたアーチャーは眉間にしわを寄せた。
繰り返される光景。
今の自分にとって、それは記憶ではない筈なのに、まるで、昔撮った映像を見直しているような気分だ。
衛宮邸より、まだ五百メートル離れたマンションの屋上にいたアーチャーは、手の中に黒い弓を投影した。
反対の手に矢を投影し、弓につがえる。
セイバーの手から繰り出される見えない武器の攻撃を己の槍で受け止め、かわすランサー。
見た目は小さな少女のようだというのに、一撃が重い。攻撃も早く、連打をくらっているような感じだ。
チッ!とランサーはいつの間にか受け身が多くなってしまっている己に舌打ちする。
「セイバー!」
衛宮士郎の声には反応せず、攻撃の手を緩めないセイバーだったが、彼の足元に数本の矢が打ちこまれると、ハッとしたように一瞬だが動きを止めた。
その隙を狙ってランサーは、前を向いたまま数メートル後ろに跳び退り、そのまま霊体化した。
セイバーは逃げたランサーを見ただけで追うことはせず、彼女の関心はマスターである少年に矢を打った敵に向いた。
「士郎!怪我はありませんか!?」
「あ…ああ、大丈夫」
足元の地面に刺さった矢は、光の粒子となって消えた。
「え?これって……」
ポカンとした顔で消える矢を見た士郎だが、心配そうに自分を見ていたセイバーの表情が突然険しくなったのに、えっ?というように目を見開いた。
こちらに駆けて来る足音が聞こえてきた。
「そこにいるのは衛宮くん?どうしたの?大丈夫!?」
「えっ、遠坂?どうしたって、おまえこそどうして──」
あ、彼女は知り合いだから心配ない、と士郎は警戒するセイバーを宥める。
凛は士郎の無事な姿を見て、ホッと息をついた。
次に、士郎を守るように立つ金髪の美少女を見て、彼女は顔をしかめた。
「彼女、サーヴァントね。衛宮くんが召喚したわけ?」
「え、うん…よくわかんないけど」
「ってことは、衛宮くんも魔術師だったわけね」
「遠坂もか?」
「あんたのクラスは、セイバー?」
セイバーはコクッと頷いたが、凛に対する警戒は緩めない。
「あなたは、アーチャーのマスターか?」
凛はパチパチと目を瞬かせた。
「なんでアーチャーだってわかるの?」
「さきほど、士郎に向けて矢が打たれた。弓を使うサーヴァントはアーチャーしかいない」
「なっ……アーチャー!今すぐここに来なさい!」
凛の声に応じたように、赤い影がぼおっと浮かびあがった。
驚く士郎の前に、赤い外套を着た小柄な少年が現れる。
「アーチャァァァ、あんたね~~!」
凛は少年の白い頭を右手でガッと掴んだ。
「どういうことよ!やっぱりあんた、気づいてたのね!なんで、わたしに言わないのよ!」
「凛。私が優先すべきことは、マスターである君の体調だ。疲れている君をこんなことに引っ張り出せると思うかね」
「こんなことって何よ!言いなさい!ランサーなんでしょ?あいつが、性懲りもなく衛宮君を襲ったのね!」
「ランサーって、槍もった青い奴?なんで遠坂が知ってるんだよ?」
「衛宮くんは、どこまで知ってるの?」
質問に質問を返され、士郎はう~んと唸った。
「セイバーって、彼女のことだろ?で、そっちがアーチャー…だっけ?これって何?」
「・・・・・」
ああ……なんにも知らないってことね。
凛はふか~くため息をついた。
なんで、何にも知らない人間のとこにセイバーがくるわけ?
わたしは喚べなかったのに!
自分のミスは棚上げで凛は悔しがった。
士郎は、何がなにやらという困惑した顔で凛の答えを待っている。
「とりあえず、話は家の中でしないか?」
「あ、そうね。じゃ、お邪魔するわ」
いつまでも外にいて誰かに見られても困る。
「凛、私は外に──」
「駄目よ。あんたも来なさい、アーチャー。だいたい、なんで、衛宮くんを狙ったのよ?」
「それは、あのバカが、戦っているサーヴァントに近づこうとしたからだ」
スパン、と凛の手がアーチャーの白い頭をはたく。
「あんた口が悪いわよ!」
「遠坂…そんなに怒らなくても」
自分のそばにいる、サーヴァントだという金髪の美少女も小柄で若いが、凛のサーヴァントだというアーチャーはもっと幼くて、どう見ても十二か三にしか見えなかった。
そういえば、学校でランサーと戦っていたのはこの少年ではなかったか。
彼もセイバーも、あのランサーと呼ばれた男も人間とは思えない動きで戦っていた。
実際人間ではないのだろう。
いったい、自分は何に巻き込まれてしまったのだろう……
士郎は、凛とセイバー、アーチャーを家に招きいれた。
今夜は藤ねえがいなくて良かった。
もし来ていたら、言い訳に困ってしまったところだ。
三人を居間へ案内した士郎は、とりあえずお茶をとキッチンへ向かおうとしたが、凛に却下された。
「そんなのはいいから、まず話を聞きなさい、衛宮くん」
「え…でも」
「茶は私が淹れる。貴様はここに座って凛の話を聞け」
「うわっ!!」
背後に立ったアーチャーにいきなり足をすくわれ、士郎は悲鳴を上げた。
盛大にひっくり返って尻餅をついた士郎を振り返りもせず、アーチャーはキッチンへと歩いて行く。
士郎は同世代の中では背が低い方だが、アーチャーはその士郎の肩くらいしかない。
それで、あっさり転がされるなんて、どうなんだと落ち込みたくなる。
小学生に負けたような気分だ。
だが、相手は人間ではないし。
セイバーはアーチャーに危険を感じていないのか、士郎が転ばされたのを見ても動かなかった。
「衛宮くん、アーチャーに嫌われた?」
「……みたいだけど、覚えが(ないんだけど)」
「あいつ、結構嫌味いうし、小言も多いけど、ほんとに嫌いなら鼻もひっかけないから、まあ、気にすることないわよ。とにかく座って。お茶出しはアーチャーにまかせときゃいいから。あいつ、そういうの得意だし」
「そうなのか?」
士郎は痛む腰をさすりながら、座卓を間に凛と向かい合うように座布団を引き寄せて座った。
凛が士郎に聖杯戦争の説明をしている間、アーチャーは人数分のお茶を淹れる準備をした。
薬缶で湯を沸かし、急須と湯呑を戸棚から取り出す。
今の身長はだいたい中学に入った頃のものだから、キッチンで作業するのに、さほど困難はない。
トレイの置き場所も、お客用の煎茶がある場所も意識せずにさっさと取り出せた。
士郎は、説明している凛から顔を離せないので、キッチンに立つアーチャーの様子には気づいていない。
気づいていれば、初めて来た場所で迷いもなく物を出すアーチャーに首を傾げたろう。
「聖杯戦争に参加できるのは七人の魔術師で、それぞれ一人のサーヴァントを呼び出すの。聖杯が願いを叶えるのは一人だけ。その一人を選ぶためにあるのが聖杯戦争」
「選ぶってどうやって?」
「魔術師が召喚したサーヴァント同士が戦うのよ。敗れればサーヴァントは聖杯に取り込まれ、そして最後に残ったサーヴァントのマスターが願いを叶えてもらう」
「勝敗はどうやって決まるんだ?」
「どちらかが死ぬまでに決まってるでしょ。サーヴァントは死ぬまで負けは認めないから。決着はそれしかないわよ」
「死ぬまでって……」
士郎は、少し間を開けてキチンと正座している金髪の美少女を見た。
「セイバーも?」
そして、トレイにのせた湯呑を座卓の上に置いていくアーチャーを見た。
ご丁寧に茶托にのせている。
「……ありがとう。置いてる場所、よくわかったな」
「貴様の物のしまい方は単純だからな」
皮肉を忘れないアーチャーは、見かけはまだほんの子供だというのに。
マスターの望みのために殺し合いをするというのか。
「遠坂。アーチャーに殺し合いさせるのか?俺たちより子供なのに」
「衛宮くん。サーヴァントを見かけで判断しちゃ駄目よ。あなたも見たでしょ。セイバーがランサーと戦っているとこ」
「・・・・・・・」
「彼らの力は、わたしたち人間とはまるで違うのよ。たった一騎でも、街一つ破壊することも可能なんだから。それに、アーチャーは本来子供じゃなく大人のサーヴァントだし」
「え?そうなの?」
士郎は、目を丸くしてトレイを持ったまま凛の斜め後ろに座ったアーチャーを見た。
「えっと…多分。ちょっとアクシデントがあって、小さく召喚しちゃったけど、ちゃんと大人よ(多分)」
え?え?アクシデントって?
「そういうことってあるのか?」
普通はないな、とアーチャーが答えると、凛は黙れというように睨んでからコホッと軽く咳をし話題を変えた。
「衛宮くんが召喚したセイバーは、サーヴァントの中では強いけど、一番の問題は衛宮くんが魔術師としてはど素人だってことよね」
凛は湯呑を持ち上げ、コクンとアーチャーが淹れたお茶を飲む。
「あら、美味しいじゃない。あんた、紅茶だけじゃなく日本茶も淹れられたのね」
自分の前に置かれた湯呑に口をつけた士郎は、あれ?と目を瞬かす。
これって、来客用の?
食事の時とか普段飲むお茶は見えるところにおいてあるが、来客用のお茶は戸棚の中にしまってある。
それをわざわざ探して淹れたのか?
「ほんと、美味しいです」
セイバーが嬉しそうな笑顔で茶を啜っている。
うん。確かに美味しい。
もらいもののいいお茶なのだが、自分ではこんなに美味しく淹れられない。
(あいつ……)
自分の分は淹れずに、じっとマスターである凛の後ろに控えているアーチャーに士郎が視線を向けると、フッと鼻で笑われた。
確かに子供にしては態度が大人びている。
凛が言ったように、アーチャーは大人の身体で召喚されるのが普通だったのかもしれない。
「さて。じゃあ行きましょうか」
お茶を飲みほした凛が腰を浮かせた。
「どこへ?」
「教会よ。そこに、今回の聖杯戦争の監督役を務める男がいるの。神父だけど」
「神父?神父が魔術に関わってるのか?」
「だから、似非?あいつと顔を合わせるのは嫌だけど衛宮くんが聖杯戦争に参加することを伝えとかなきゃ。顔合わせも必要だし」
「顔合わせって」
「あのね、戦うのはサーヴァントだけど、マスターであるわたしたちに危険が全くないということはないのよ。その辺のことを含めてあいつに聞けばいいわ。一応助けてはくれるし」
「けど、もう遅いし明日じゃだめなのか?」
「早い方がいいわ。ランサーだけじゃなく、他のサーヴァントが襲ってくる可能性もあるし。だいたい、わたしと衛宮くん以外のマスターの正体だってわからないんだから」
「……わかった」
凛に押し切られた士郎は、ハアッと息を吐き出した。
士郎は家の戸締りをしてから、凛とそして二人のサーヴァントと共に教会へと向かった。
教会までは歩いて行ける距離ではあるが、帰りはやはり遅くなるだろう。
凛はアーチャーがついているから心配ないとは言うが。
士郎は、サーヴァントについて、まだよくわからなかった。
聖杯を手に入れるために戦うという英霊。
既に死んでいる英雄の霊だというが、見た感じは生きている人間と少しも変わらない。
セイバーも、そしてアーチャーも。
士郎を襲ったあのランサーという男もまた生身の人間のようだった。
なんでこんなことに──
ふいに凛の足が止まった。
後ろを歩いていたサーヴァントの二人が彼らの前に出てくる。
え?と凛の視線の先を見ると、暗がりから二つの影が近づいてきていた。
奇妙な影だった。
小さな影と、とてつもなく大きな影。
「下がってください士郎」
セイバーが士郎を庇うように彼の前に立つ。
街灯の明かりが二人の姿を映し出した。
小さな影は、まだ幼い少女だった。
長い銀髪の愛らしい少女だが、彼女と共にいる者は誰の目から見ても異質だった。
ニメートルを軽く超える黒い巨人。
バーサーカー。
己のサーヴァントを有する二人の魔術師は、その岩のような肉体を持つ黒い巨人に言葉を失った。
あまりにも危険すぎる存在。
「こんばんは」
銀色の少女は、ニッコリ笑った。
「セイバーとアーチャーのマスターね。わたしはイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。見ての通りバーサーカーのマスターよ」
「アインツベルン!あんたが…!?」
凛は驚きの声を上げる。
まだ事情がわかっていない士郎はアインツベルンが何を意味するのかわからないが、それでもこんな幼い少女が聖杯戦争に参加していることに驚いた。
どう見ても十歳かそこらだ。
「今夜はね、お兄ちゃんがセイバーを喚んだからご挨拶にきたの」
少女の視線は士郎に向いていた。
「初めまして、お兄ちゃん。ずっと、お兄ちゃんとお話したかったの。けど、今夜はリンもいるから、それはまたの機会にして、今夜はご挨拶だけにするね」
イリヤスフィールはニッと笑うと、自分のサーヴァントに命令を下した。
「やっちゃえ、バーサーカー!」
バーサーカーは吠えるような声をを上げると、巨大な岩の剣を振り上げた。
「セイバー!」
士郎が反応するよりも早くセイバーの見えない剣がバーサーカーの剣を受け止めた。
セイバーは、そのまま攻撃に移りバーサーカーの剣と打ち合う。
巨体に反し、バーサーカーの動きは早い。
セイバーは少しでも敵を士郎のそばから離そうと、攻撃の手を緩めなかった。
気づけばセイバーとバーサーカーの姿は公園の木々の中に消えていた。
「セイバー!」
「待って、衛宮くん!」
サーヴァント同士の死闘に近づくのは危険だが、言っても聞きそうにないと判断した凛は走りながらアーチャーを振り返った。
「アーチャー!あんたはセイバーのフォローに回って!」
凛の命令にアーチャーは頷くと霊体化して姿を消した。
セイバーとバーサーカーが戦っている公園内が見下ろせる高台にまできたアーチャーは、鷹の目を使って状況を見た。
健闘はしているが、やはりセイバーが押され気味だ。
バーサーカーはサーヴァントの中でも破壊力は最強といえるだろう。
しかも、アレはおそらく名のある英雄──
アーチャーは黒い弓と矢を投影したが、右手にある矢を見て眉をひそめた。
「これでは足止めにもならんか」
アーチャーはいったん矢を消すと、今度は剣を改造したような形の黒い矢を投影した。
と、アーチャーは身体がぶれるような感覚を覚え目を細めた。
これは……?
もしかしたらと思うが、今は解析している余裕はない。
──凛…
アーチャーは、己の身体ほどある大きな弓に黒い矢をつがえると、限界一杯まで引き絞った。
◇◇◇
「アーチャー!あんた、いきなりアレはないでしょう!?間に合わなかったらどうするつもりなのよ!」
アーチャーが放った矢は凄まじい爆発を引き起こした。前もって退避するよう言われたとしても、一歩間違えればまきぞえになっていた。
もっとも危なかったのは士郎とセイバーだ。
幸い巻き込まれずに無事だったが。
とはいえ、士郎は怪我をし、セイバーと共に衛宮邸に運んだ後、凛はアーチャーと共に遠坂邸に戻った。
そして、今アーチャーに文句を言ってるわけだが、あまり効き目はないようだ。
「一度はバーサーカーを殺せたろう?まあ、それだけだったが」
そう。バーサーカーは爆心地にいた形なのに、しばらくしたら起き上ってきたのだ。
「ヘラクレスはその身に受けた神の祝福により、殺されても蘇生する。それは英霊になっても変わらないようだ」
凛は目を大きく見開いた。
「ヘラクレス……あの化け物、ギリシャ神話の英雄ってわけ!?」
なんなのよおぉぉぉ!
あんなの、いったいどうやって倒せばいいわけぇぇ~?
「といっても、永遠に蘇生し続けられるわけじゃないから、倒せなくはない」
「一回倒すだけでも大変だと思うけど。何か方法があるの、アーチャー?」
「要は殺し続ければいいということだ。方法はある」
「どんな?」
ソファに座っていた凛はやや疲れた様子でアーチャーの顔を見上げた。
本当に疲れて身体が怠い。
そんな覚えはないのだが、かなり魔力を消耗した感じだ。
アーチャーはそんな凛の傍らに、腕を組んで立っていた。
「宝具を使えば勝機はなくもない」
「宝具って、あんたの?」
「宝具らしきものといった方が正しいか。私は、英霊といえるほどご立派な存在ではないからな」
「けど、それを使えばバーサーカーに勝てるのね?」
「可能性はあるというだけだが、一つ問題がある」
「何?」
「今の身体では使えないということだ」
なっ!
「何よ!今のって、子供の身体ではってことなのっ?」
そういうことだ、とアーチャーが答えると、凛は、ああ~~と呻いて頭を抱えた。
「それじゃどうしようもないじゃない!」
やっぱり、うっかりミスったわたしが悪いってわけ?
「方法があると言ったろう、凛」
なに?と凛は顔を上げた。
「もう一度自分に解析をかけてみた。で、幸いなことに、凛、君は優秀な魔術師で、魔力も豊富だ」
「だから?」
「一時的にだが、元の姿になれるかもしれないということだ。君の魔力をかなり使うことになるかもしれないがね。しかも、宝具を使うとなればなおさらだが」
「それってどのくらい?」
「サーヴァントを二人抱え込むくらいか」
「わかったわ。じゃあ、今ためしてみて」
「今すぐにか?君は疲れているだろう」
「たいしたことないわ。どうせ、家にいるし、ぶっ倒れたら部屋に運んでくれたらいいから」
勿論、その時は学校を休むつもりだ。
士郎もあの状態では明日学校には行けないだろう。
アーチャーは苦笑した。
「君の強引さは呆れるほどだな」
凛は当然と言う顔でニンマリ笑う。
「どこでためす?」
「そうだな…私が召喚された地下であれば、君の負担も少しは軽くなるだろう」
「わかったわ」
凛は立ち上がると、先ほどまでの疲れを見せることなく部屋を出て地下室に向かった。