【上方落語メモ第1集】その三

時 う ど ん


【主な登場人物】
 喜六  清八  うどん屋A・B

【事の成り行き】
 インスタント麺は日本を代表する食文化だそうで、年間消費量も馬鹿にな
らない数字が出てるようです。コンビニエンスストアの隆盛で、鍋で煮るタ
イプよりカップ麺のほうが主流だと聞きますが本当なのでしょうか。

 ここ数年カップ麺とは遠ざかっていますが、うちの冷蔵庫の中には常時冷
凍うどんがストックされていて、ちょっと小腹の減ったときに重宝してます。
この冷凍うどん、初めて出合った時には軽い文化ショックを受けました。

 それまでのインスタント麺といえば、いくら本物に近いといえども本物に
は程遠く、ゆやインスタント属カップ麺科うどん目、ラーメン目。頭の中で
全く別物というスイッチを入れてから食していたように思います。

 ところがこの冷凍うどん、冷凍蕎麦、冷凍ラーメンはそれぞれ、うどん属
冷凍科でして、しっかり本物の味を残してるんですねぇ。その上、何が嬉し
いって1食あたり\100を切るのがすごいやないですか。中途半端に名の売れ
たうどん専門店より美味いと感じる時があるのは、一番食したいときに食せ
るから……、グルメ、食通よりこれが何より。(1996/07/27)

             * * * * *

 え~、しばらくのあいだのお付き合いでございます。

 「ひと声とみ声は呼ばぬ卵売り」面白いことが言ぅてございますねぇ。ひ
と昔前はみな、あのなんでございますよ、物を皆さん方が、お商売の方が売
りに来たのでございますねぇ。

 前と後ろのカゴにそれぞれの品物を入れまして、朸(おぉこ)天秤棒といぅ
やつでこぉ差し担いにいたしまして、大きな声、いわゆる売り声、立て前と
いぅやつをあげまして売りにまいったもんでございます。

 どぉいぅもんですかこの、売り声がふた声に決まっておりましたそぉでご
ざいます「ひと声と、み声は呼ばぬ卵売り」卵屋さん「たまごぉ~、たまご」
ふた声でございます。面白いもんでございますねぇ「たまごぉ~、たまご」

 ひと声で終わるかな、と思うと終わりません。必ずあとに「たまごッ」と
いぅのが付くのでございます「たまごぉ~、たまご」面白いもんでございま
すねぇ「たま……」何べんやってもおんなじですけどね。

 ふた声に限ったもんで、なぜふた声かと申しますと「ひと声と、み声」は
具合が悪いんでございます。ひと声で「たまごぉ~ッ」「どぉ~れぇ~ッ」
玄関番が出てまいります。

 み声も具合が悪い「え、たまごたまごたまご」「たまごたまごたまご」後
ろから誰か追いかけて来るのかな? といぅよぉな具合が悪いですね。ふた
声に限ったもんでございます。

 花屋さん「花ぁ~、はな」綺麗なお商売「花ぁ~、花の苗」綺麗なお商売
でございますねぇ。大根屋さん「だいこ、だいこ」「だいこ、だいこ」大根
屋さん「だいこん」とは申しません「だいこ」と申しますね「ん」の字ござ
いません、欠如いたしておりますね。

 どこへ行っているかと言ぃますとゴボウのほぉへ回っているのでございま
すねぇ「ゴボウ」は「ごぼう」とは申しません「ごんぼ、ごんぼ」「ごんぼ、
ごんぼ」ゴボウは「ごんぼ」と申します。

 大根の「ん」の字が、お友だちのゴボウのほぉへ応援に回っているのでご
ざいます。なぜ応援するか? と言ぃますと、ゴボウ単独では売り声になり
にくい「ごぼ」「ごぼ」「ごぼごぼごぼ」沈んでしまいます。

 「さ~おだ~けぇ~~……」呼吸の練習をしているわけですね、どれぐら
い出るかいなぁと思てやったんですが、あんまり出んもんでございますが。
これは竿竹屋さん、ひと声だけでございますね。これは別の趣向でございま
す。

 物の形、形状、シェイプを表わしたもんでございますねぇ。竿竹といぅも
のは細長ぁ~がいもんでございますから、細長ごぉ~引っ張りまして「さ~
おだ~けぇ~~」長けりゃ長いほどええんやそぉで、長い竿竹一ぺん買ぉて
みよかいな、といぅよぉな気がするのでございます。

 面白いもんですね。竹の子屋さん「たけぇのこぉ」竹の子その形に下から
「たけぇのこぉ」「たけぇのこぉ」マッタケ屋さん「ま~たけぇ」マッタケ
は上から「ま~たけぇ」ウソかホンマか知りません。

 こうもり傘の修繕「かぁさぁ~、こぉ~もりがさの、はりかえ」一ときは
こうもり傘の修繕によくやってまいりました。今はもぉ何でも使い捨てでご
ざいます。あれは一ぺん傘を広げまして傘のところから柄のところ、最後柄
の曲がったところまでを表わしたもんやそぉでございますねぇ「かぁさぁ~、
こぉもりがさの、はりかえ」

 印肉屋さん、今は何とかネームいぅてね、ペチャペチャやるわけですが、
昔は印肉といぅものに判をなにしてチョンと捺したもんでございますね。あ
の印肉の詰め替えによくやってまいりましたね「イン~ッ、にくのつめかえ」
「イン~ッ、にくのつめかえ」押さえつけたもんでございます。

 磨き砂屋さん、まだ洗剤のありません時代、磨き砂ですね、おじさんが小
さな車押しまして「みがぁ~きずなぎゃょぎゃょぎゃょ」ジャリジャリになっ
てます、面白いもんでございます。

 これが四季によっても違うのでございます。夏の売り声といぅものは何と
のぉ、のぉ~んびりといたしまして、聞ぃてる者の眠気を催すのが夏の売り
声の特色でございます。聞ぃていると眠たぁ~くなってくる。

 「よ~しや、すだれは、いりまへ~ん」「ござぁ~や、ねござは、いりま
へ~ん」寝茣蓙やみな半分寝てしまいますのです。代表的なのはと申します
と金魚屋さんでございますねぇ。前と後ろのタライにぎょ~さん金魚を入れ
ましてね、朸・天秤棒といぅやつで差し担いでございます。

 「きんぎょ~えぇ~~、きんぎょぉ~~~」「きんぎょ~えぇ~~、きん
ぎょぉ~~~」夏の風物詩、無くてはならんもんでございますね。あの立て
前でもって、前と後ろのタライの水を抑えているのやそぉでございます。

 タライにはいっぱい水が入っておりますので、えぇ加減に歩きますといぅ
とそれががぶって表へ溢れますからな、あの立て前でもって納めているのや
そぉでございます。

 「きんぎょ~えぇ~~、きんぎょぉ~~~」(両腕を広げてユラユラ)前
と後ろのタライの水が……、(両腕を広げてユラユラ)中で金魚が……

 夏の炎天下でございます。お日ぃさんが(頭を突き出して、上から日射の
手つき)照り付けております。家ん中は生暖かぁ~いところへさして、涼しぃ
風がサァ~ッと吹いてくる、風鈴がリリリ~ン、それでのぉても眠(ねぶ)とぉ
なってるところへ遠くのほぉから、この金魚屋さんの声が聞こえてまいりま
すといぅと、自然と頭が細こぉ前へ動いて、終いにはゴトォ~ンと寝てしも
たそぉでございます。

 それでのぉても眠とぉなってるところへ、遠くのほぉから「きんぎょ~え
ぇ~~、きんぎょぉ~~~」(前かがみになって、体は前後に揺れている)
「きんぎょ~えぇ~~、きんぎょぉ~~~」(前かがみになって、体は前後
に揺れ、段々前へ倒れ、やがて高座の床にオデコをゴツンッ!)

 落ちるタイミングが難しぃ。

 これを起こしに来るのが氷屋さんです。カチワリ「うぇ~ッ、かちわりや、
かちわりや、かちわりやッ、どいてくれどいてくれッ」反対にやるとおかし
なもんやそぉでございますねぇ。あの金魚屋さんが氷屋さんのよぉに大きな
声で「きんぎょ、きんぎょきんぎょ」金魚みな、ゴツン・ボコン・ゴツン。

 氷屋さんが金魚屋さんのよぉに「こぉ~りぃ~や、こぉりぃ~、つめぇ~
たぁ~い、こぉりぃ~~」「氷屋、一杯おくれんか「あかぁ~ん~、とぉけ
たぁ~」みな融けてしまいます。

 反対に冬の売り声はと申しますとうどん屋さんでございます。真冬真夜中、
北風がヒュ・ヒュ・ヒュ~ゥ~ッ、吹いておりますよぉな寒ぅ~い晩に、遠
くのほぉからこのうどん屋さんの声が聞こえてまいりますといぅと、寂しぃ~
よぉな、悲しぃ~よぉな、そしてどっか暖ったか~いよぉな、何とも言えん
気持ちがいたしましたそぉで。

 ♪うどぉ~~んえぇ~ ♪そぉ~やぁう~~~

■歩け歩け●歩いてるやないか■もっと早よ歩けちゅうねん●そない早よ歩
かいでもえぇやないか、寒っむぅ~。清ぇやん寒いなぁ、けどオモロかった
なぁ■昔から「ひやかしは郭の一の客」ちゅうたぁんねん。オモロイに違い
ないわい。

●ホンマやで、明日の晩もまた行きたいねぇ■行ったらえぇやないか●あり
がたいこっちゃ、寒っぶぅ~。清ぇやんわいいつも思うんやけどね■何思う
ねん?●こぉしてやねぇ、おっ月さんの冴えてる晩はいつもより寒ぶいよぉ
な気がするんやけどねぇ。

■アホなこと言ぅな、お月さんが冴えてるよって寒いのんと違うやないか。
世間が冷えるよって、それだけお月さんが冴えて見えんねやないか。そこん
とこ、はっきりしとかんとどんならんぞ●あ、そぉ。面白いこと言ぅたねぇ。
お月さんが冴えるさかい世間が寒いんやなしに、世間が冷えるよって、それ
だけお月さんが冴えて見えるんかいな。

■そぉやがな●な~るほど、こんなんよぉ聞ぃとかなあかんねぇ。ほな何や
ねぇ、芋を食べるさかい屁ぇが出んねやなしに、屁が出るさかい芋食べんね
んねぇ■……、わけの分からん理屈言ぅな。そんなんを屁理屈言ぅねん覚え
とけ。そらそぉと、お前腹減れへんか?●昼から何ぁんも食べてへんねん、
泣きそぉなぐらいペコペコや。

■何ぞ食おか、うどん食ぅか?●嬉しぃなぁ、この寒ぅい晩に熱ぅいうどん
が食えるやなんて、こんなありがたいことあれへんがな■よっしゃ、ほな食
お。持ち合わせあるか?●え?■銭あるかっちゅうねん?●ちょっと待って
てや……、あんまり無いけれどねぇ、ひぃふぅみぃよぉいぃむぅなぁやぁ、
八文あるわ。

■何が?●八文あるちゅうてんねん■八文てどんな八文や?●どんな八文て、
八文やがな■たったかい?●立ったも座ったも寝転んだも八文や■つまり八
文か? おいおい、えぇ年した男が八文ぐらいの銭、後生大事に持ってるて
なこと情け無いわい。そこらへバ~ッとばら撒いてしまえ。

●偉そぉに言わんでもえぇやないか。偉そぉに言ぅて、お前何ぼ持ってんね
ん?■お前らとおんなじよぉにすなよ、無い無い言ぅたかてシュシュ~ッと
ひぃふぅみぃよぉいぃむぅなぁ……、七文出てきたやないか●七文てどんな
七文や?

■どんな七文て、七文やがな●たったか?■立ったも座ったも寝転んだも七
文や●おんなじよぉに言ぅな、つまり七文やろ■つまり七文や●お前、年は
何ぼになるねん?■偉そぉ言ぅな、こっちかせ……●二人合わせて十五文で
はしゃ~ないがな■十五文でうどん食お。

●うどんは二八の十六文やで。十五文では一文足らんやないか?■何を言ぅ
てんねん、それぐらいのことはこっちに任しとけ●一文足らんねんで?■任
しとけちゅうねん●それにしたって、一杯しか食われへんがな、どぉすんね
ん?■半分わけにせなしゃ~ないやないか、贅沢言ぅてられへんわい……。
ちょ~どえぇ、向こぉにうどん屋荷ぃ出しとぉる。

■うどん屋、一杯おくれんか★へ、お越しやす。すぐにいたしますで■まぁ
待っとけ。わいが先に半分食ぅてちゃんと残しといたるさかい……。でけた?
早いやないか、ありがたいやないか。この寒っぶぅ~い晩にやで、熱っつ~
いうどんがシュシュ~ッとすぐに出来るやなんて、それだけでもゴッツォ~
(ご馳走)やで。おっきありがと。

■長いこと待たされるん、かなんわい(ふッふッふゥ~、ずゥ~~~~)えぇ
ダシ使こてるやないか。うどんちゅうのんは粉ぉが少々悪ぅても、ダシが肝
心や。ホンマもんのダシ使こてるやないか、ありがたいやないか。

■(ふッふッふゥ~、ずッ、ずずゥ~~)ん、なかなか、うどんも腰がある。
腰があるとこへさしてツルッとしてる、ありがたいこっちゃねぇ「こしつる」
ちゅうやっちゃ(ふッふッふゥ~、ずッ、ずずゥ~~)結構けっこぉ(ずッ、
ずずゥ~~ ずッ ずずゥ~~)……

■引っ張りないな、いま食いかけたとこやないか。分かってるがな、恐い顔
すな。いま食いかけたとこや、半分なったら残しといたるがな。俺も男や、
嘘言わへんがな(ふッふッふゥ~、ずずゥ~~)……、引っ張りなっちゅう
ねん、お汁(つゆ)がこぼれてしもたら何にもなれへんやないか。見てみぃ、
うどん屋のオッサン、顔見てニタッと笑ろてるやないか。

■えぇ男が一杯のうどん、引っ張り合いしてるてな、アホなことすな。残し
といたるっちゅうねん(ふッふッふゥ~、ずッ、ずずゥ~~)……、怒っこ
るで、しまいに。食いたいのんか? 何ちゅう顔してんねんヨダレ垂らして。
情っさけないやっちゃなぁ~……、食いたけりゃ食たらえぇがな。

●食ぅわい、食ぅがな。お前らずっこい、ずっこい、先いきやがってからに、
何ですか……? 清ぇやん何ですか? これ八文のうどんですかい?■せや
ないか●……、せやないかて、うどんが二筋ほど泳いでるだけやないか■子
どもみたいな声出してんと早いこと食てまえ●く、食わいでか……

●せやから引っ張ってんのに(ずッ、ずずゥ~~)し、しまいやぁ。汁ばっ
かりやがな(ずッ、ずずゥ~~)もぉしまいやがな■泣き声出さいでもえぇ
やないか。鉢返しとこ★おっき、ありがとさんで。おかわり付けまひょか?
■いやもぉえぇ、銭が細かいんで手ぇ出してもらいたい。

★さいでやすか、ありがとぉさんでございます■いくで、一つ二つ三つ四つ
五つ六つ七つ八つと、うどん屋いま何ドキや?★確か……、九つで■十ぉ、
十一、十二、十三、十四、十五、十六と★へっ、おおきありがとさんで。

■出といでや●うぉ~~い、清ぇやんちょっと待って、待って~。清ぇやん
えらい嘘つきやなぁ■何が嘘つきや?●せやないか、お前十五文しか持って
ない言ぅて、ちゃ~んと十六文持ってたやないか■何を言ぅてんねん、十五
文しか持ってへん●そぉかて、うどん屋のオッサンにちゃ~んと十六文渡し
てたがな。

■お前、気が付かなんだんか? アホやなぁ、よぉ聞かんかい「一つ二つ三
つ四つ五つ六つ七つ八つ」までいって「うどん屋、いま何ドキや?」て、ト
キ聞ぃたやろ「確か九つで」言ぅさかい「十ぉ、十一、十二、十三、十四、
十五、十六」と、こぉいったんやないか。

●えぇ? 何やて「一つ二つ三つ四つ五つ六つ七つ八つ」までいって「うど
ん屋、いま何ドキや?」て、トキ聞ぃたら「確か九つで」「十ぉ、十一、十
二、十三、十四、十五、十六」ほぉ~……「九つ」オッサン数えよったんか。
なぁ~るほど、こらオモロイ……、わいもあした行ってやったんねん。

■あけへんあけへん、お前らに出来るかいな。こら息と間ぁのもんや、お前
らみたいなボヤ~ッとした人間に出来るかいな●何言ぅてんねん、お前に出
来てわいに出来んことないわい。わいやったる、さいなら~ッ。

 アホが帰りまして、あくる日になりますといぅと嬉しぃもんで、小銭袂に
入れて宵の口からうどん屋探して歩いとぉる。

●夕べはオモロかったがな「いくで、一つ二つ三つ四つ五つ六つ七つ八つ」
までいって「うどん屋、いま何ドキや?」ちゅうたら「確か九つで」「十ぉ、
十一、十二、十三、十四、十五、十六」ありがたいなぁ~、一文ぐらいごま
かしてもどぉ~ちゅうことないけれどもや、シュッシュ~ッと事運ぶと気持
ちええやないか。

●清ぇやん言ぅとったなぁ「こら息と間ぁのもんや……」せや、言ぃよった
通ぉ~りに言ぅたったらえぇねん。通ぉ~りに言ぅたったら、おんなじ息と
間ぁになるんやがな。こんなことに思い及ぶやなんて、わいもなかなかしっ
かりしてるわい。どこぞにうどん屋は……、あんなとこに荷ぃ出しとぉる。

●うどん屋、一杯付けてんか★しばらくお待ちを……●ホンマやでうどん屋、
ホンマやで、ホンマやでうどん屋、ホンマやでうどん屋★喧しぃなぁ、どな
いしたんで?●どないした? この寒っぶぅ~い晩にやで、この寒っぶぅ~
い晩に★きょうはだいぶに、暖ったこおますで。

●そぉ、きょうはだいぶに暖ったかいけれろもですねぇ、きのうは寒ぶかっ
たやろ★きのうは寒むおました●せやろ、あんな寒っむぅ~い晩にやねぇ、
シュッシュ~ッと熱っつぅ~いうどんが出てくるちゅうのは、ありがたいこっ
ちゃけれろも……、まだでけへんのんか? 湯ぅが沸いとりませんでした?
そらそっちにも色々都合があるわい。

●シュッシュ~ッと出てくるのんもありがたいけれろも、しばらく待たされ
て「早いこと食いたいなぁ」と思てるとこへ出てくるのんもありがたいもん
や。何なと思わなしゃ~ないわい。まだでけへん? もぉ間もなく? そら
そやろ、だんだん出来ていくわい。だんだん出来ていかんことには噺前に進
まんわい。

●でけた……? でけたでけた、おっきありがとぉ。ホンマやでうどん屋、
言ぅとくけどうどんてなもんはダシですよ。粉ぉは少々悪ぅてもダシですよ。
お前とこみたいに結構なホンマもんの(ふッふッふゥ~、ずゥ~~~)ウッ、
塩辛らぁ。からいダシやなぁ……、湯ぅまわしたら二杯分飲めるなぁ。

●ダシはからいけれどもや、粉ぉがしっかりしてるわい。腰があるとこへさ
してツルッとしてる(ふッふッふゥ~、ずッ、ずずゥ~~)ん、ぐにゃ……、
グニャグニャやねぇ、うどんのお粥(かい)さんやねぇ。まぁ、このほぉが腹
当たりがやらこぉてえぇやろ、結構ぉなこっちゃ。

●(ふッふッふゥ~、ずッ、ずずゥ~)グニャグニャやがな……(ずずずゥ)
かっらぁ~……、引っ張りな、引っ張りな、何ちゅう顔してんねんやらしぃ
やっちゃなぁ★……? あんた何言ぅてなはんねん? 大丈夫ですか? 他
にどなたも……●やかまし言ぃな「息と間ぁ」のもんじゃ、ダ(黙)~ってぇ。

●(ふッふッふゥ~、ずッ、ずずゥ~)グニャグニャやがな……(ずずずゥ)
かっらぁ~……、引っ張りなや、お汁(つい)がこぼれるやろ。うどん屋のオッ
サン顔見て笑ろてるぞ……★笑ろてぇしまへんで、わて。どっちか言ぅと気
色悪ぅなってまんねんで……、誰か通らんかいなぁ。

●ダ~ってぇ、息と間ぁのもんじゃ(ふッふッふゥ~、ずッ、ずずゥ~~)
グニャグニャやがな(ずずゥ)かっらぁ~……、引っ張りなっちゅのに、そ
ない食いたいのんか? 食いたけりゃ食ぅたらえぇがな「食ぅがな、食ぅが
な、食わいでかい」★何言ぅたはりまんねん、誰ぁれもいてはれしまへんや
ないか、大丈夫でっか?

●何かい、このうどんが八文かい?★ほかのことゴチャゴチャ言われてもよ
ろしぃですけど、値ぇだけはハッキリさしときまっせ。十六文でっせ、八文
てなうどんおませんで●やかまし言ぃなちゅうねん……、こんなうどん残し
やがって、うどんが二筋ほど泳いでるだけやないか。

★あんたが食べなはったんやおませんか●(ずッ、ずずゥ~~)汁ばっかり
やないか★せやから、あんたが食べなはったんや●このからい汁、みな飲ま
なあかんのかぁ(ずッ、ずずゥ~~)かっらぁ~……、もぉしまいやないか
★あんたが食べなはってん。

●オッサン、鉢返しとこ……、夕べと一緒や。オモロなってきたなぁ。うど
ん屋、何か忘れてないか?★何でんねん?●ひと声かけて「おかわり一杯付
けまひょか」いぅやっちゃ。言ぅてもらわんとどんならん★忘れとりました、
言わしてもらいまひょ。おかわり付けまひょか?

●要らんいらん★い、い、言わしなはんな●夕べとちょっとも変われへん。
うどん屋、銭が細かいんでちょっと手ぇ出してんか★おっき、ありがとさん
で●いくで、うどん屋……、気の毒な★何が気の毒で?●いくで……

●一つ二つ三つ四つ五つ六つ七つ八つと、うどん屋いま何ドキや?★へぇ、
五つで■六つ、七つ、八つ、九つ……


【さげ】
 三文損しよった。


【プロパティ】
 時うどんの時:  九つ       現在の時計で表すとこのようにな
                   ります。九つは夜中の12時。五つ
       四つ    八つ    は宵の口の8時になります。

       五つ    七つ

          六つ

 時刻=日の出を「明け六つ」日の入りを「暮れ六つ」とし、それぞれの間
   を六等分する。よって、季節により昼夜の長さ、一刻の長さが変化。

   日の出    正午    日の入り   日変
   明六 五 四 九 八 七 暮六 五 四 九 八 七
   卯  辰 巳 午 未 申 酉  戌 亥 子 丑 寅
   たとえば春分・秋分ごろなら
   6時 8 10 12 14 16 18時 20 22 0 2 4時

   冬至には日の出7時、日の入り17時、夏至は逆に日の出5時、日の入
   り19時と、最大4時間の差が出る。
 朸(おうこ)=両端に物を掛けて荷う棒。てんびん棒。二重母音の「おう」
   は大阪では必ず「おお」と発音する。
 十六文=1両を4万円とすると1文=10円、16文=160円。
   江戸時代の貨幣換算:一両=四分=十六朱=四貫=四千文。
 かなん=困惑する。適わない→適わん→かなん。
 ずっこい=こすい。悪賢い。狡猾な。スコイともいう。
 あけへん=あきまへん・あかへん・あかん:駄目。「埒明かぬ」あかぬの
   約転。ビンのフタが開かないの開かんとは意味が違う。
 宵の口=日が暮れて間もないころ。宵は夜(日の入りから日の出まで)を
   三区分(宵・夜中・暁)したうちの夜の初め。
 おかいさん=粥。カユ→カイになる例としてカユイ→カイイ。また、お芋
   さん、飴ちゃん、など物に“さんちゃん”付けするのは大阪言葉の特
   徴。面白い言葉として、ご飯より柔らかく、お粥よりかたい飯を「お
   かいのあねさん」と呼ぶ。
 音源:桂枝雀 1983/01/23 枝雀寄席(ABC)


【作成メモ】  ●参 照 演 者:main=桂枝雀 sub=*  ●main高座記録日:1983/01/23  ●番  組  名:枝雀寄席(ABC)  ●ファイル公開日:1996/07/27  ●江戸落語相当:時蕎麦  ●更  新  日:2015/12/20  ●リクエスト数:rakugo03  ●注 意 事 項:内容を削除、追加、改訂している部分があります。           記録日のmain演者によるさげを採用しました。

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