医者「はい。一時的なものなのですぐ治ると思いますが、とりあえず経過観察ですね」
P「なるほど......わかりました」
今朝、軽い頭痛がしたので病院にかかってみると頭痛はただ働きすぎ、と言われただけで予想だにしていない答えが返ってきた。
聞いたことない病気だ。何かプロデュースに影響が出るようなことがあるのだろうか。
医者「ははは、そう構えなくても大丈夫ですよ。この程度だと明日には治まると思います。再発する可能性はありますが」
P「え?」
何かとんでもないことをボソッと言われた気がする。
内容を確かめるために慌てて聞き返すが、はぐらかされてしまう。
医者「ご、ごほん!念のため、もう一度どういった症状なのかお伝えしますね」
P「お、お願いします」
医者「簡単に言うと、手が磁石のようになり特定の何かとくっついてしまう病気です。この特定の何かは人によってなので現状は分からないですが......今日ここまで大丈夫だったのを見るに、あまり心配されなくていいと思いますよ」
P「ほっ...そうですか、ありがとうございます。あの、もしその何かとくっついてしまった場合は......?」
医者「そうですね...しばらくしたら外れるようですが、何がカギになっているかは分からないので、色々試してみて下さい」
P「そ、そんな適当な─────!」
医者「まあ、あまり気にされなくても大丈夫だと思いますよ。人間の体に流れる電気なんて微弱なものですから。数日経過しても異常が見られた場合は──────」
一通り説明を聞いて、病院を後にした。
それにしても、この手の病気というのは一体どういうものなんだ...?処方箋なども無いようだったし、言われた通り経過観察するしかないのか......。
これ以上悩んでも仕方ないので、今日の仕事に脳を切り替える。
ちなみに事務所に行く途中で色々なものに手をかざしてみたりしたが、得られたものは周囲からの奇妙なものを見るような視線だけだった。
事務所のドアを開けると、ソファに座っていた果穂と目が合った。
果穂「プロデューサーさんっ!おはようございますっ!」
P「おはよう、果穂!今日も元気だな。今は何してたんだ?」
そう、果穂の元に寄って声を掛けたときだった。
無意識に右手が動いた。どうやら座っていた果穂も同様のようで、膝の上に置かれていた左手が動き出す。
そして、五秒としないうちに手と手がくっついてしまった。
果穂「えっ......?プロデューサーさん......?」
何が起きたのか分からず同様している果穂とは別に、俺は完全に納得してしまった。
P「な、なるほど......っ!こういうことか......っ!!果穂、実は──────」
不思議そうにくっついた手を見ていた果穂に、事情をすべて話した。
すべてを話し終えるころには、果穂の眼はシイタケでも埋め込んだようにキラキラと輝いていた。
果穂「マグネットマンみたいですごいですー!!」
P「ま、マグネットマン...ロックマンの......?って、それよりも果穂、嫌じゃないか?」
唐突にロックマンに出てくるボスキャラの名前が聞こえてきた気がしたが、ここは関係ないのでスルー。
痛みとかは特に無いが、中々離れそうにもない。無理やり引っ張るのは得策ではないだろうし、策を練るためにも果穂の意思を聞く。
果穂「はい!......でも」
P「でも?何か気になることがあるのか?」
果穂「......ちょっとだけ、どきどきします...っ、えへへ...」
P「....ははっ。すまん、何とか外す方法を探すからな」
くっついた手はホントに磁石でくっついているようで、引き離すというよりずらしていけば少しずつだが動くことに気が付いた。
このままいけば外れるかもしれない。
しかし、そこで予想外の事態が起こった。
手をずらすと、それまでぴったりくっついていた指がずれ指と指の間、つまり指間腔に重なることになる。
そこで、もう一つ誤算が起きた。
ぴったりくっついていたのは、もちろん指先まで。磁石のようになっているのは、指先までだったのだ。
磁力を帯びた指はそのまま相手の手の甲に吸いつくように折りたたまれ、そのままガッチリと手と手が組みあってしまいさらに離れなくなってしまった。
P「す、すまん......もっと離れなくなっちゃったな......」
果穂「わ...わ......!」
先ほどまでとは違い、今度はいよいよ離れ無さそうになってきたことに絶望する。
眼の前の果穂もさすがにこれには少し抵抗があるのか、体をよじらせていた。
果穂「あ、あの...!これって、恋人繋ぎってやつですか......!」
な、なんだって?
P「えっ!!?いや......違うと思う...ぞ?」
いきなりのことで驚いたが、とりあえず否定する。
恋人繋ぎって......こんな正面から組み合うものでもないだろうし。
果穂「あ、そうなんですか......」
心なしか少し残念そうな顔をする果穂。
しばらくこのまま出ないと行けないということが確かに彼女をネガティブな気持ちにさせてしまっているかもしれない......。
しかし、感情論でどうにかなるほど簡単には外れてくれそうもなく万策尽きたと思われたが、ついに時が来た。
P「そうだ、果穂。このあと用事があったりしないのか?」
果穂「あ!そうでした!まおちゃんと遊ぶ約束があったんですけど......って、あれ?」
果穂が友達と遊ぶ用事を思い出したその時、手と手が離れた。
P「離れた......」
果穂「ど、どうしてなんでしょう......」
P「わからない......が、とりあえず離れたならよかった。迷惑かけてすまんが、これなら用事にも間に合いそうだな」
果穂「はい!......あの、プロデューサーさんっ!」
P「なんだ?」
果穂「あの...また、握ってくれますか?」
P「え?」
果穂「あ、あたし!行ってきます!」
最後に意味深な言葉を残して出て行ってしまった。
しかし、これはマズイ。果穂がたまたま外れたからよかったものの、他の人でくっついたままになってしまったら......!
と、とりあえずノートPCを持って外に出よう。
事務所のドアに手を掛けると、力を入れる前に向こうからドアを引かれる。
急に引っ張られたような形になって体制を崩すが、何とか体制を立て直した。
「えっ!?ごめんなさいっ、大丈夫ですか~?......って、あんた。どうしたの?ノートパソコンなんか抱えて」
声の主は扉の影から黒い髪を覗かせた。冬優子だ。
とりあえず冬優子に怪我なんかはなさそうだが、このままだとマズイ!
P「あっ、ふ、冬優子、おはよう!ちょっと出てくるから、何かあったらチェインしてくれ!」
自分でもおかしいと感じるくらいに、両手を後ろに回して背を見せずに玄関の方にカニ歩きで向かう。
もちろん冬優子がそんな俺を見逃すわけもなく、不思議そうな、しかし何か面白いものを見つけたような顔で近づいてくる。
冬優子「あんた、なんか隠してるでしょ。そんな変な動きして」
P「えっ、い、いや、なんでもないぞ!だからあんまり近寄らないでくれると助かる!」
冬優子「何よ近寄らないでって、しかも手はずっと後ろに隠してるし......なーんか後ろめたいことがあるんでしょ?怒らないから言ってみなさいよ」
P「わ、わかった!説明する!とりあえずそこから動かないでくれ!」
余りの必死な形相に、流石に冬優子も歩みを止める。
ただ、あの症状が発症する距離もわからないので早くここを立ち去らないといけない。
冬優子「はいはい、わかったわよ......と見せかけて隙ありっ!」
膠着状態が始まったかと思いきや、ダッシュで飛び込んできた冬優子になすすべなく捕まってしまう。
何とか抵抗しようとするが、ノートPCを抱えているのもあってうまく引きはがせない。
そしてひと悶着あった結果、くっついてしまった。手と手が。
しかも今度は果穂の時より酷い。お互いの指を絡めて手のひらを重ねるようなつなぎ方。そう、恋人繋ぎだ。
P「......満足か?」
冬優子「......ええ。満足したから早く解放して頂戴......」
P「無理なんだ...外れる条件が分からないから」
冬優子「そう......はぁ......」
冬優子はくっついていない方の手を頭に当てて大きなため息をつく。どうやら現状を理解してきたようだ。
冬優子「それにしても、何だってこんな危なっかしい場所であんたと手を繋いでなきゃいけないのよ......ほんっと、ムードもへったくれもない......」
P「はは...すまん」
冬優子「なんであんたが謝んのよ。ふゆが話聞いてればよかったこの事態は防げたんだから」
ちなみに今はもう玄関の前ではなく、ソファに隣り合わせで座っている。
はたからみればカップルのそれだが、表情は完全に破局間際のそれだ。
この状況をなんとか打開しようと策を練っていると、冬優子が口を開いた。
冬優子「で、外れる時はどうやって外れたの?」
P「え?」
冬優子「えっ、じゃないわよ。さっきから聞いてると、一回は外れたことがあるんでしょ?その時のことを説明しなさいよ」
P「あ、ああ。そうだな、最初は────」
外れた時の状況を詳細に説明しても結局具体的な解決策は思い浮かばず、とりあえずその再現をしてみよう。と言う話になった。
冬優子「じゃあ行くわよ」
P「おし、来い」
冬優子「あ!そういえばこの後愛依と遊ぶ約束してたのよ!......どう?」
P「......ダメだな。外れそうな気配もない」
冬優子「あーもう!なんなのよ!なんでふゆがこんな目に合わなくちゃいけないのよ!」
ついに我慢の限界が来たのか、暴れ出す冬優子。
まるで出会った時を思い出すような情緒だなと思っていると、手が繋がっていることもおかまいなしに手を振り回す冬優子に体を引っ張られた。
P「冬優子、暴れると......うわっ!」
冬優子「きゃっ......!」
なだめようとしていた途中に引っ張られ、冬優子側に体勢を崩してしまう。
すると、手押し相撲の要領で冬優子を押し倒してしまった。何とか頭の後ろに手を回して衝撃を吸収できたものの、結果として冬優子と息がかかるほどの距離まで近づいてしまっている。
P「冬優子、だいじょうぶ...か?」
当の本人は、衝撃に驚いているのか目をつぶっている。
両手を胸の前に持ってきていてまるで小動物のよう......両手?
P「ふ、冬優子!」
手が外れていることを伝えようと声を掛けると、冬優子は眼をつぶったまま体を強張らせた。
まだ気づいていないのだろうか。早く伝えてあげようと冬優子の手を掴む。
冬優子「きゃぁっ!!な、なな何!?あんたどさくさに紛れて何するつもり!?」
P「な、何って、目を開けてくれ!ほら!外れてる!!」
冬優子「えっ?────」
────────
冬優子「もー......ホント疲れたわ...」
P「はは...」
冬優子「『はは...』じゃないわよ。あんた、他のアイドルに数日間は近づかないように連絡しておきなさい」
P「そうだな、とりあえず明日また病院にかかってみるよ」
冬優子「それが賢明だわ......。とりあえず今日接触したのははふゆと小宮果穂だけなのよね?」
P「ああ、そうだな」
冬優子「で、ふゆたち以外にはこの症状はでなかったってなると......知り合いだけが対象とか、そんな感じなのかしら」
P「うーん......参ったな」
冬優子「とりあえず目的のものは渡したし、ふゆは帰るわ。精々気を付けなさい」
P「送って行こうか?」
冬優子「あんた、運転も症状が治まるまでは控えておいたほうがいいわよ。手つながったまま運転できないでしょ」
P「た、確かに...。了解だ。冬優子も気を付けて帰ってくれ」
冬優子「はいはい」
────────
冬優子「ほんと、今日はひどい目にあったわ......」
冬優子が事務所の扉を開けると、一人の女性と出会う。
愛依「あっ...」
冬優子「あら、愛依じゃない。言っとくけど今は中に入らない方がいいわよ」
愛依「冬優子ちゃん......終わった?」
冬優子「終わった、って...何が」
愛依「や、実はさっき中ちょっと見ちゃったんだけどさ......プロデューサーが冬優子ちゃんを押し倒してて......その......あいたっ!」
冬優子「...あんた、バカなことばっかり言ってると殴るわよ」
愛依「もう殴ってるって~!」