P「夏葉、それって......首輪か?」
事務所のソファに座っている夏葉に声を掛ける。
夏葉は紙袋から緑色の...おそらく首輪に見えるそれを取り出して眺めていた。
夏葉「ええ、この前立ち寄ったお店でデザインが気に入ったから買ったの。散歩に出かける時にしか付けないけれど、今着けているものがかなり古くなってきていたから」
そういって首輪を見せてくれた。
夏葉の家の...カトレア、だったか。あの子によく似合いそうな首輪だ。
P「それにしても、少し大きいんだな?」
夏葉「もちろん、着けるときにサイズは調整するから大丈夫よ」
それもそうか。
夏葉「ところで、この後レッスンの予定なのだけれど、これは置いて行ってもいいかしら?後で事務所に寄る予定もあることだし」
P「ああ、もちろんいいぞ」
夏葉「ありがとう、プロデューサー。それじゃあここに置いておくわね」
丁寧に首輪を紙袋に入れると、窓際の花の横に置いた。
それと同時にポケットに入れていたスマホが小さく振動する。通知を確認し、簡単に返事を送信して席を立つ。
P「それじゃあ送っていくよ」
事務所の扉を閉め、カギを手に持っているが掛けないことに夏葉が疑問を浮かべた顔でこちらを見てくる。
夏葉「プロデューサー、いくら近いと言えど戸締りはしないとダメよ?」
P「ああ、実は咲耶がすぐそこまで来てるんだ。すぐ戻ってくるし、留守を任せようと思って」
夏葉「そうだったのね。あら、噂をすれば」
夏葉が階段の下を見ながら「お疲れ様」と挨拶をするので階段の下が見える位置まで移動すると、踊り場のところに咲耶が立っていた。ちょうど階段を上がってきていたのだろう。
咲耶「おや、夏葉にプロデューサー。お疲れ様」
P「咲耶!ちょうどいいところに」
P「これから夏葉をレッスンスタジオまで送ってくるから、少しの間留守番を頼む」
咲耶「了解した。あなたがいない間、留守を務めてみせよう」
咲耶「──ただいま」
咲耶「さて、プロデューサーが帰ってくるまで何をしていようか...」
そう呟きながら、吸い込まれるように窓際に来てしまった。霧子の育てている花の魅力に引き寄せられてしまったかな。
いくつか並べられている花の中の一つに声をかける。
咲耶「おはよう、エケベリアさん。......ふふっ」
声は聞こえないが、少しでも霧子と同じように花と心を通わせられたのではと思うと、つい笑みがこぼれてしまう。
咲耶「おや...?」
順に花たちに目を通していくと、紙袋が目に入る。
誰かの忘れ物かな。後でプロデューサーに伝えておかないと。
咲耶「......」
なぜか、この紙袋から目が離せない。......一体何が入っているんだろう。
咲耶「冷蔵が必要な食べ物が入っていたらいけないし......」
半ば自分に言い聞かせるようにして紙袋の中身を確認すると、中には緑色の────。
咲耶「これは......チョーカー?いや、首輪かな......首輪にしては大きい気もするけれど。マメ丸のものにしては大きすぎるし、カトレアのものにしても...これは首を通り抜けてしまうんじゃないかな」
となると人用なのかな。──そういえば、この前の雑誌で似たデザインのチョーカーを付けていた人が居たような...。
実際には全く異なるデザインなのだが、この時の彼女は付けてみたいという欲がほとんどを占めており、それを判断できる状態では無かった。
咲耶「............」
周りに誰もいないことを確認する。プロデューサーは後どれくらいで戻ってくるだろうか。
自然とこれを持っている手が首元に伸びる。他人の物を身に着けることに罪悪感が湧いてくるが、どうしても着けてみたいという好奇心が勝ってしまう。
咲耶「す、すまない...」
誰も見ていない中で、どう見ても首輪なそれを付ける背徳感に早くなる鼓動を感じながら、ついには輪を首に回して、留め具を付けてしまった。
どのような様になっているのか確認しようと、何か鏡のようなものを探し始めた瞬間にふと、外に目が行ってしまう。
いや、外というよりも、事務所の窓ガラスにうっすらと映る自分を見た。
そこには、緑色の首輪を付け、茹でダコのように赤くなっている自身の姿と、扉を開けてこちらを見ているプロデューサーの姿が映っていた。
咲耶「あっ、ぷ、プロデューサー、お帰り!」
P「ああ、ただいま......咲耶、それって」
咲耶「あ、ああ、すまない、すぐ外すよ!───あ、あれ?すまない、中々難しくてっ」
血の気が引く。
プロデューサーに気づかれたことによって、急に冷静さを取り戻したとともに、とんでもない姿を見られてしまったことを自覚した。
なんとか体裁を取り繕うためにまずはこれを外さないと、と留め具に手を掛けるも、プロデューサーに見つかった緊張と焦りから上手く外すことができない。
首輪に悪戦苦闘しながらもプロデューサーにこれ以上恥ずかしい姿を見られたくないと、どんどん体が縮こまって、しまいには座り込んでしまったところで、プロデューサーが駆け寄ってきた。
────────
P「咲耶、それって」
夏葉を送って帰ってくると、咲耶が夏葉の首輪を着けていた。
いや、何をしてるんだ...?間違えて...とかもないだろうし。
咲耶「あ、ああ、すまない、すぐ外すよ!───あ、あれ?すまない、中々難しくてっ」
この恥ずかしがりようからして、何かがあったということだけはわかる。
しかし、こうして俺が固まっているだけで咲耶がどんどん小さくなっていく。
もしかして首輪が外れないんじゃないか────?
P「咲耶、もしかしてそれ...外れないのか?」
咲耶「そ、その、手が絡まってしまってね...す、すまない。ほんの好奇心だったんだけれど──」
P「わ、わかった。俺が外すから動かないでくれ」
へたり込んでしまった咲耶の首元に手を伸ばすと、少し怖いのか咲耶は目をきゅっとつぶってしまった。
その隙に首輪を外す。調整がされていない首輪は、咲耶の細い首から外すのは余裕だった。
P「ほら、外れたからもう大丈夫だぞ」
咲耶「あ、ありがとう、プロデューサー......」
P「それでその...聞いてもいいか?」
へたり込んだままの咲耶をなんとかソファまで誘導し、さすがに聞かない訳にもいかないので何があったのかを聞く。
咲耶「実は────」
な、なるほど。そんなことが......。
大方予想通りだったが、咲耶が好奇心に負けるなんて珍しいな。
P「別に壊したりしたわけじゃないんだ、ちゃんと謝罪すれば夏葉もカトレアも許してくれるさ」
咲耶「ああ......その、プロデューサー......」
P「どうしたんだ?」
咲耶「こんなことを言うのは身勝手だと分かっている上でのお願いなのだけれど、その、夏葉以外の他の子にはこのことは無い所にしていてもらえない...かな」
P「ああ、了解だ」
ありがとう、と咲耶が深くお辞儀する。
夏葉も少し驚くだろうが、きっと笑って許してくれるだろう。
咲耶「ところで」
P「?」
咲耶「その...私が着けていた姿をあなたはちゃんと見てくれたかい?」
P「あー...その......うん」
咲耶「............その、感想を聞いてもいいかな?」
P「えっ!?」
あら~~~~~~~~~~♡