VTuber事務所「エニーカラー」の株価が半減……「売れ残りグッズリスク」と構造的な課題
問題は卒業の数ではなく「理由」に
理由は多岐にわたるが、共通しているのは「予測不可能」であるという点だ。 ライフステージの変化やVtuber自身の興味関心の変遷に伴う前向きな理由での卒業も一定数存在することも事実だ。 しかし、タレントでもある卒業者が、いじめ、体調不良、精神的負担、適応障害といった、あえて禍根を残しかねない事由を公表しながら引退を余儀なくされるケースが目立つ。 上記には含まれていないが、卒業理由が非公開のタレントも同時期に数多く引退しており、活動期間が1年程度のVTuberも存在する。「再現性がある」はずのビジネスモデルにおいて、人が壊れるという「負の再現性」もまた現れていないだろうか。 株価が急落する前におけるエニーカラーのPER(株価収益率)は20~25倍程度で推移していた。簡単にいうと、エニーカラーの時価総額は現時点における20~25年分の利益総額とイコールである。 しかし、2017年末のVtuberブームから8年足らずであるにもかかわらず、稼ぎ頭は激しく入れ替わり、稼げるVTuberから他事務所や個人勢として転生する動きも目立ってきた。 つまり、足元のVTuber事務所の株価下落は、タレントの消耗を嫌気する市場の態度を冷徹に表したものであると考えられる。 足元のエニーカラーにおける予想PERは13倍台前後にまで落ち込んでいる。これは日本最大の通信会社であるNTTとほぼ同じ水準だ。エニーカラーはもはや有望なスタートアップのように何十年分の利益を先取りできるビジネスモデルとはならないと市場は認識しているのである。
VTuber事務所は令和のサンリオになれるのか?
サンリオ(8136)との比較が示唆的だ。 エニーカラーの第3四半期累計の営業利益成長率は54.2%増。サンリオの同期間(2026年3月期第3四半期累計)の営業利益成長率は51.8%増。成長率はほぼ同水準である。 ところがPERはエニーカラーの約12倍に対し、サンリオは約25倍だ。25年分の利益を先取りしている。時価総額ではエニーカラーの約2100億円に対し、サンリオは約1兆3600億円と6倍以上の差をつけている。 この差はどこから来るのか。サンリオのハローキティは1974年生まれだ。50年以上「引退」していない。適応障害にもならないし、深夜配信で体を壊すこともない。SNSで炎上することもなく、「方向性の違い」で事務所を辞めることもない。 サンリオの収益モデルの中核はライセンスビジネスだ。自社でグッズを製造するのではなく、IPをライセンスして他社に作らせる。だから在庫リスクがない。キャラクターは疲れない。 一方、エニーカラーはどうか。価値が「中の人」の心身に依存している。中の人は業務委託の個人事業主であり、労働基準法の保護が及ばない。深夜配信と誹謗中傷の中で消耗し、卒業していく。 海外の機関投資家が業績予測モデルを組むとすれば、5年後のキャッシュフローを確度高く予測できるのはサンリオということになる。エニーカラーは来年のトップライバーが誰になるかすら予測が難しい。 市場が割り引いているのは、利益の質と持続性なのである。