デリヘルで働いてた頃、1番困惑した指名の話をする。
ホテルに着いたら、客がスーツケースを持って待ってた。
「何が入ってるんですか。」
「着てほしいものがあって。」
開けたら制服が入ってた。
女子高生のものじゃなかった。
看護師の制服だった。
「なんでですか。」
「娘が看護師になったから。」
「娘さんの制服ですか。」
「娘が就職祝いに買ってもらいたいと言ったから買った。でも娘がいらないって言って置いていったから。」
「なんで持ってきたんですか。」
「せっかく買ったから、誰かに着てほしかった。」
「なんで娘さんに着てほしくないんですか。」
少し間があって答えた。
「娘とは10年間、連絡を取ってない。」
「なんで就職祝いを買ったんですか。」
「風の噂で看護師になったと聞いたから。」
10年間連絡を取ってない娘の、就職祝いの制服を買ってたらしかった。
渡す方法がないから、持ってきたらしかった。
「着てほしくないです。」
断った。
「なんでですか。」
「娘さんに渡してください。」
「渡せないから持ってきた。」
「渡せない理由はなんですか。」
男が黙った。
「離婚した時に、もう連絡するなと言われたから。」
「娘さんから言われたんですか。」
「元妻から。娘にも伝わってると思う。」
「娘さんは何歳ですか。」
「今年24歳。」
「24歳は自分で判断できる年齢ですよ。お母さんの言葉より、お父さんからの連絡を待ってるかもしれない。」
男が黙った。
「制服、持って帰ってください。渡してみてください。」
男が立ち上がった。
制服をスーツケースに戻した。
「ありがとうございました。」
お金を置いて出ていった。
3ヶ月後、また指名が来た。
ホテルに着いたら、スーツケースがなかった。
「制服、渡せましたか。」
男が少し笑った。
「渡せた。」
「娘さんはなんて言いましたか。」
「泣いてた。」
「怒ってましたか。」
「怒ってなかった。『ずっと待ってた』って言われた。」
10年間、娘も待ってたらしかった。
その夜、仕事の話は一切しなかった。
娘さんと電話した話を、2時間聞いた。
帰り際に男が言った。
「来月、娘と会う。」
「よかったです。」
「あなたが断ってくれなかったら、ここに来なかった。」
制服を断ったことが、父娘を繋いだらしかった。