【キャス弓】 猪口と徳利
熱燗でしっぽりやってるキャス弓です。∞番煎じのネタですが気にしなーい気にしなーい。
素敵企画「槍弓アドベント2018 #12月13日温かい飲み物アルコール編」に参加させてもらおうと書いてたんですけど私事でバッタバタしててupし忘れてました。
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キャスターのクー・フーリンは毎晩酒を飲む習慣がある。
大抵は寝る前に軽く、ときに酒の肴をつまみながらのんびり飲む。
飲む酒は何でも好きだが、最近は日本酒を好んで飲んでいる。マスターが日本人のために食堂で出される食事は和食が多い。それに合わせて日本酒を飲んでいたら嵌ってしまったのだ。冬木の特異点で手に入りやすいというのもある。
今日手に入れた日本酒には瓶の後ろに飲み方の説明が書かれていた。『冷酒』と『常温』の項目は普通の○で『熱燗』の項目に◎がついていた。『熱燗』とは字からして温めて飲むということだろう。これは温めて飲むのがオススメらしい。ならば温めようと真夜中のキッチンにお邪魔した。
適当な耐熱グラスを用意して並々と酒を注いで電子レンジに入れる。この時代はボタン一つで飲み物が温められる。ルーンで温めることもできるが火加減が難しい。その点、電子レンジはボタンを押すだけで自動で丁度良い温度にしてくれるのだ。ルーンより簡単で便利なのだから使わない手は無い。
「便利な時代になったもんだぜ」
ピッピッと手馴れた仕草で電子レンジを操作するケルトのドルイドが見れるなぞカルデアくらいなものだろう。
キッチンに来たからにはツマミが欲しい。電子レンジが働いている間に冷蔵庫を漁る。大きな魔猪の手作りベーコンの塊を見つけた。これならば少々頂いてもキッチンの番人に咎められることはないだろう。冷蔵庫から取り出して贅沢な厚切りにしているところで声をかけられた。
「誰かいるのか?」
キッチンの番人である赤い弓兵だ。
目を見開いて睨まれたのでどれだけ盛大な雷が落とされるかと思いきや、投げられた台詞は予想外でありつつもどこまでも弓兵らしい台詞だった。
「電子レンジなんぞで燗をするな!」
くわっと怒鳴られてしまった。どうやらベーコンはセーフで、"カン"の仕方が駄目らしい。
「カンをする?」
「酒を加熱することを"燗をする"もしくは"燗をつける"と言うのだ」
「へぇ」
エミヤは温め中のレンジを止めてグラスを取り出した。キッチンにぷんと日本酒の香りが広がる。
「レンジで温めるとせっかくの香りが飛んでしまうから止めたまえ。しかも耐熱グラスのコップなぞ使いおって……。これではすぐ冷めてしまうし、まんべんなく温まらない。レンジを使うならせめて平らな器を使え」
「お、おう……」
「ふむ、やはり香りが飛んでいるな。良い酒だろうにもったいない。君の工房には鍋があるだろう。ちゃんと徳利を使って湯煎したまえ」
「トックリ?」
「日本酒用の酒器だが?」
「そんなんオレが知るはずねぇだろ」
「む、君は熱燗を飲んだことは……」
「ない。今日が初めてさね」
「……」
弓兵の眉間に皺がギュッと寄った。知らない者から見ればただのしかめっ面だが、長い付き合いの者にはお節介をするかどうか迷っている顔だと分かる。こうなりゃあと一押しだ。
「なあ、"熱燗"のやりかた教えてくれよ」
ニカリと笑いかけてやれば「……いいだろう」とため息交じりに了承した。
キッチンに来たのは別の用事があっただろうに、この底抜けのお人好しで世話好きなサーヴァントはマスター以外にも奉仕精神を遺憾なく発揮してくれるのだ。
場所を変えて『熱燗講座』はキャスターの自室兼工房で開かれた。
エミヤは酒を入れる"徳利"と酒盃の"猪口"を投影した。徳利はひょうたんのような形をしており、中心がくびれていて注ぎ口が細く反り返っていた。猪口は親指と人差し指で囲める小ささだ。どちらも白い磁器で作られていて、猪口の縁に赤い線が引かれているところが少しだけ弓兵らしい。
「随分小さいな。これじゃ一口で飲み干しちまう」
「冷酒や常温で飲むなら一度に多く飲める幅広の酒盃でも構わないのだが、熱燗は冷めないよう少しずつ注いで飲むから小さいのだ」
「へぇ」
エミヤは徳利に酒を入れてその口にラップを巻いた。そして酒を入れた徳利を湯を張った鍋に浸す。湯量は徳利が半分隠れる程度。湯は沸騰したあとに火を止めている。
「熱燗の基本は湯煎だ。一度沸騰させた湯で温める。その際にこうして口にラップをすれば香り成分が飛ばないで済む」
「なるほど」
ラップなんぞ自分ではしないだろうが一応頷いておく。
「温い湯で温めると時間がかかりまた酒の香りが飛んでしまう。かといって熱すぎると風味を消してしまう。一度沸騰させた湯に浸して2・3分で温めるのがコツだ。……決して直火でやらないように」
「へーい」
アンサズではやはり駄目らしい。
「お酒が徳利の口まで上がってきたら、湯から引き上げて温度を確認する」
エミヤは酒の底をトントンと叩いて温度を確認する。
「ふむ、いいだろう。飲んでみたまえ」
徳利を掲げられたので猪口を差し出すと、傾けた注ぎ口からとくとくと気持ちの良い音をさせながら酒が注がれた。
猪口を口元に寄せるとかすかな湯気と共に酒の香りが鼻をくすぐった。
温度を確かめるため一口だけ嘗める。
熱すぎず、かといって温くもない。舌にぴりりとくる程よい熱さだ。
残りをくいっと一息に呷る。
熱い酒が喉を駆け抜け腑に落ちる。度数は低いのに胃の腑から熱が広がり体を温める。酒の香りが胃のほうから上がってくる。
常温や冷酒は飲んで消えてしまうような後味だが、熱燗は体全体にに馴染むような後味だ。
熱したことで香りが気化し鼻に抜けるのもイイ。
キャスターはハァと酒気を帯びた熱い息をもらした。
「美味い」
キャスターの直截な感想にエミヤは口元を少しだけ綻ばせた。
「一口に熱燗と言ってもいろいろだ。今では熱した日本酒を総称して『熱燗』と呼ぶが、本来は温度によって呼び方が変わる。温度の低い順から言うと、30度の日向燗、35度の人肌燗、40度のぬる燗、45度の上燗、50度の熱燗、55度以上の飛切燗の五種類だ」
「細けぇな……」
日本人の食に対する拘りは酒の温度にまで及ぶらしい。5度刻みで名前をつけるなどケルト人からすれば狂気の沙汰だ。最近はこいつが細かいんじゃなくて日本人という民族自体がマニア気質で細かいのかもしれないと思うようになった。
「今出したのは上燗といって45度程度だ。引き締まった香りを感じる温度だと言われている。この酒はやや辛口だが旨みがあるのでそれほど高くない温度が良いと思ってね」
「おう、丁度いいと思うぜ」
「一般的に甘口や旨みの強い酒は低め、辛口の酒は高めの温度のほうが向いていると言われている。温度によって香りの立ち方や味のふくらみ方が変わる。色々試して自分の好みを見つけるといいだろう」
「キリっとした辛口も好きだが、こういうじんわりするのも好きだぜ」
「それならばぬる燗か燗冷ましが良いかもしれん。燗冷まし一度高めにして香りを立たせてから少し冷まして飲むんだ。飲み比べてみるといい」
「そりゃぁいい。やってくれ」
「了解だ」
結局、あれだこれだと色々な温度で試すうちに、キャスターだけでなくエミヤもちびりちびりと飲み始めて、すっかりただの飲み会と化していった。
二人の足元にはキャスターが切った魔猪の厚切りベーコンとエミヤが即席で作った酒の肴の残骸と空瓶が転がっている。エミヤも普段は飲まないがそれなりに飲める。キャスターセレクトの酒は気に入ったらしく、珍しく飲んでいた。
「ふむ、君は酒の趣味は良いんだな」
「んだよ、含みのある言い方すんな」
「失礼、常々君は趣味が悪いと思っているのでね。他意は無いさ」
アーチャーが向けた視線の先には己の腰に回されたキャスターの手があった。
二人はベッドヘッドにもたれながら身を寄せ合って飲んでいた。キャスターはエミヤの腰を抱き自分へ引き寄せ、エミヤは軽くキャスターに身を預けている。この二人は所謂そういう仲なのだ。
二人は冬木からの腐れ縁と同陣営の仲間意識とその他諸々が混ざり合って今では閨を共にする関係となった。キャスターがエミヤを口説き落とした形で始まった二人だが、エミヤもそれなりにキャスターを好いているのでこの関係に不満は無い。
ただ、癖はあるが美男美女が勢ぞろいしているカルデア内でわざわざこんな平凡な守護者崩れを選ぶこともないだろう。エミヤは常々不思議でしょうがない。キャスターを信じていないというのではなく、自分の違和感が拭えないのだ。
「そりゃお前が分かってないだけさね。大体だな、納豆を食うヤツに人の好みを言う資格はねぇ」
「それとこれとは随分違うと思うがね」
鼻の良いクー・フーリンズは納豆の発酵臭を『便所のニオイがする』と言って毛嫌いしている。キャスターは発酵食品が好きなので食わず嫌いせずに試せばいいと思うのに頑として食べようとしない。
「日本食を好む君なら納豆も気に入ると思うのだが……」
「こうしてまた飲めるなら試してやってもいい」
「そんなことでいいのか?」
意外な面持ちでエミヤが聞くと、キャスターはジト目でエミヤを睨んだ。
「そんなことって言うがな、お前とオレが、二人っきりで、ゆっくり飲んだことあったか?」
「それくらい……」
エミヤは「あるだろう」と続けようとしたが、カルデアの記憶をいくら辿っても二人で飲んだ記憶がないことに気付いてしまった。宴会や数人で隣り合って飲んだことはあるがこうして二人きりで飲むのは初めてかもしれない。あるのは冬木の四日間くらいだ。
「冬木はノーカンだぞ」
キャスターに考えを読まれていたようだ。元々の勘の良さに知的が加わると分が悪い。
「お前さんとこうなってからこうして二人でのんびりしたことも殆ど無いだろうが」
キャスターは唇を尖らせてエミヤの肩口にぐりぐりと頭をなすりつけた。まるで犬が拗ねて構えと言ってるようでちょっと可愛い。でも言わぬが花だろう。かわりにそのその頭をそっと撫でた。
「その……すまない?」
「テメーはちょこまかと働き過ぎなんだよ。たまにはじっくりオレに付き合え」
疑問口調の謝罪に対する抗議か、はたまた撫で方が足らないとの不満か、キャスターはエミヤの手をかぷりと噛んだ。甘噛などホントの犬のようだとエミヤは喉の奥で笑う。
「ふふ、まるで都都逸だな」
「は?ドドイツ?」
「お座敷などでや酒席で芸子が行う余興の一つで、三味線で歌う即興小唄だ。その中で君が言った通りの唄がある」
エミヤは三本の弦が張られている楽器を投影した。木製で腕に抱えるほどのそれをシャランとかき鳴らした。
「猪口々々逢う夜を ひとつにまとめ 徳利話がしてみたい」
シャランと一節ごとに鳴らしながら出される低い美声。妙に甘く聞こえてキャスターの腰に響いた。
「先ほど君が言ったとおりの唄だろう?」
とろりと目元を緩めてこちらを見るエミヤの唇にむしゃぶりつきたい。けどこの空気を壊したくなくて、酒を一口嘗めて衝動を宥める。
「それが三味線か?」
「いや、これはセタールといって中東の楽器だ。三味線の嗜みはないがこれなら多少は弾けるのでね。同じく三本弦なので雰囲気は伝わるだろう?」
「お前にそんな芸があるとはな……。他にもどんなのがあるんだ?」
リクエストするとエミヤはシャランとかき鳴らした。
「赤い顔して お酒を飲んで 今朝の勘定で青くなる」
キャスターは「叔父貴みてぇだな!」と膝を叩いて笑った。かの英雄は大食漢かつ大酒飲みで有名である。
「なぁ、もっと色気あるのねぇのか?」
エミヤの腰をなでつつゆするキャスターにエミヤはちょっと考えてからシャランと鳴らした。
「飲めぬお前と 知りつつ注いで すけてやりたい下心」
この状況そのままともとれる小唄にキャスターはニヤリと笑って「オレの下心見たいか?」と問い、エミヤも「さあな?」と笑った。
「私ばかりに歌わせないで君も何か歌え」
「オレかぁ?」
「かの愛しいエメル姫には初対面で歌を捧げたと伝わっているが?」
「歌ねぇ……」
そう言われても歌心などない。エメル姫の胸元を見て丘に例えた程度なので推して知るべし。オレ含む英雄フェチのこいつはそれを知ってて言っているのだろう。性格が悪い。だがクー・フーリンは無理難題が好きな性質だ。
「ほろ酔い気分 なお飲むならば ミードより甘い お前の唇」
キャスターがとっておきの顔で歌うと、エミヤははぎゅっと眉間の皺を深くした。
「60点」
「辛口だな」
「甘口のつもりだがね」
「どの口が言う」
「この口だが?」
互いに笑いながら唇を寄せる。
すぐに絡まる舌と唾液。舌の上で温まる酒は別格だった。互いの胃の腑から上がる酒の呼気が絡まり酔いが深まりそうだ。
「確かに甘ぇな」
「だろう?」
酒と情で温められた舌はやけに甘かった。
(終っとけ)
こんなこと書いてますが家で熱燗するときはレンジ使ってます。
最後以外は実際にある都々逸です。ドンファン弓さんは何か楽器弾けるといいな!
都々逸素敵ですね…!中東の楽器が弾ける弓もいろいろ妄想を掻き立てられてすきです。