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【現パロ槍弓】ちょっと不思議な槍弓~深夜の遠吠え~/Novel by イヌダ

【現パロ槍弓】ちょっと不思議な槍弓~深夜の遠吠え~

8,758 character(s)17 mins

初夜話書けない気晴らしに、あっついし怖い話書いて涼しくなりたいなーと思ってちょっとした実話ネタを槍弓(付き合っていない)で書いてみたけど怖がり要員不在でただの不思議な話になりました。まだネタはあるので気紛れでシリーズ化するかも。

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 深夜1時過ぎ、突然飼い犬が吠え始めた。

「マハどうした!」
 リビングにいたランサーは急いで犬が吠える場所へ向かう。マハは狼犬の血が入った白い大型犬だ。よく躾けられているので無駄吠えなどしない。普段は甘えんぼの大人しい犬だ。どこかの犬が夜鳴きしてもつられて吠えることもない。昔、別荘で庭先から入ってきた営業マンに容赦無く吠えたことがあるくらいだ。そのマハが夜中に吠えるなんてただ事ではない。
 駆けつけた寝室でマハは窓に向かって吠えていた。ランサーはカーテンを開けてベランダに誰もいないことを確認すると、外に出て不審者がいないか確認する。窓の外は大通りに面しているので深夜といえど外灯で明るい。人がいればすぐに分る。
 ランサーの住むマンションは7階建ての最上階で、マンションでワンフロアまるごと使っている。不審者がでるとしたら屋上から降りてくるか、下から上ってくるしかない。しかし近所のマンションの上階層で泥棒がでた事例があり、警察から「鍵をかけましょう」とお触れがまわってきたこともある。7階だからとはいえ油断はできない。
 しかし、いくら見回しても人影らしきモノはどこにも見えなかった。
「誰もいねぇなぁ……。お前、何に向かって吠えてたんだ?」
 そう尋ねるが無論マハが答えられるはずもない。既にマハは吠えるのを止めているが、何かが気にかかるのかまだ窓を睨んでいる。
(虫やネズミでもいるのか?)
 そう思って室内も見てみるが何も見当たらなかった。一体何なのだろうと首を傾げてその日は寝た。
 しかし次の晩も、その次の晩も、マハは同じ時間の同じ場所にむかって吠えるようになった。その都度確認するが誰も何もいなかった。
 それが一週間近く続き、不審に思ったランサーはとある人物に相談することにした。

「……ってことがあんだけどよ。どう思う?」
 相談されたのはランサーの幼馴染みかつ腐れ縁であるエミヤ・シロウことアーチャーだ。
 奇妙な相談にアーチャーは「ふむ」と口元に手をやり考え込む様子を見せた。「気のせいだ」と切って捨てずに真面目に考えてくれるのがありがたい。
 アーチャーとは小学校の頃からの付き合いだ。アーチャーは生粋の日本人のくせに褐色の肌に白髪という日本人離れした容姿をしている。自分は親がアイルランド人で青髪&赤目と日本では目立つ容姿をしていた。そのせいで教師連中からは『外国人』扱いされ、何かとワンセットにされることが多かった。当初はそれに反発して大喧嘩を繰り返していたけれど、いつの間にか連むようになって今に至る。今じゃこいつといる時間が誰よりも長い。
 こいつに相談したのは一番信頼している幼馴染ということに加え珍しい特技を持っているからだ。
「マハは賢い犬だ。何もなくて吠えるとは考えにくい。そこに"何か"がいたと考えるべきだろうな……」
「だよな」
「先日、君の部屋に行った時は何も視えなかったが……」
 そう、アーチャーは見えざるモノが視えるらしいのだ。
 らしいというのはランサーは視えないからだ。幽霊も妖精も視た事はないし特に信じてもいないが、自分が見えないからって否定する理由にはならない。アイルランドでは妖精注意なんて標識もあるくらいだし、目に見えるモノが全てではないということを知っている。そういうヤツもいるんだと受け入れている。
 アーチャーから言わせれば「君は視覚で認知しないだけで私よりよほど霊感は強いのだがな。君の魂は美しく輝いていて人も人ならざるモノも等しく惹きつける。君の勘がよく当たるのはそういう存在の助けもあるからだ。君の光に寄せられて雑多なモノも集まるが、君の光が強すぎて付けいる隙がないから気にしないでいい。視えない何かより人間のストーカーを心配した方がいい」とのことだ。
 さっぱりわからん。視えないし、気にしないで良いというなら気にしないまでだ。
 とはいえ、さすがに毎晩犬が何もない方向に吠えるのは奇妙だ。長年犬を飼っているがこんなの初めてである。階下から苦情が来るかもしれないので早めに解決したい。霊の仕業とは思わないが、繊細で目端のきくアーチャーなら何か分かるかもしれない。
「とにかく今晩君の部屋に行ってみよう」
 幼馴染はそう請け負っててくれた。

 講義が終わった後、二人で買物をしてランサーの家へ向かう。
 たくさんの食材を抱えて帰宅すると、マハが尻尾を振って出迎えてくれた。両親は本国へ戻っているので、今この部屋に住んでいるのはランサーだけだ。兄のキャスターも一応住んでいるが、仕事であちこち移動していてたまにしか戻ってこない。
 オレがマハとじゃれている間に、アーチャーはキッチンへ向かって食材を冷蔵庫にしまう。ろくに料理をしないランサーを見かねて料理上手のアーチャーが週一くらいの頻度で飯を作りに来てくれるので慣れたものだ。冷蔵庫の中身などランサーより把握しているかもしれない。いつもならアーチャーはそのまま調理を開始するが、今日の本命は別にある。
 ランサーは例の部屋へアーチャーを案内した。
 向かった先はランサーが寝室として使っている部屋だ。キングサイズのベッドとオーディオやCDに本を収納しているキャビネットと等身大の姿見が置かれ、壁はウォークインクローゼットになっている。大きな窓にはレースのカーテンが引かれている。アーチャーが泊まる時もこの部屋で雑魚寝するので初めて入る部屋ではない。
 アーチャーはゆっくりと部屋を見回す。部屋を見られるなど今更なのに今日は何故か居心地が悪かった。
「……何か視えるか?」
「いや、何も視えない。いつもながらキレイなものだ。……床以外はな」
 チロリと着替えが散らばる床を見ながら言われてしまった。
今日は寝坊して慌てて出かけたので着替えを脱ぎ散らかしたままだった。読んで放置している雑誌や本も乱雑に重ねられていた。ベッドの上には読みかけのレポート資料も広げられている。いつもならアーチャーが来る前は片付けるのだが今日はその暇がなかった。
「夕飯を作っている間に片付けたまえ」
「Sea, Mathair」
 母国語で「はい、母さん」と言ったら落ちていたGパンを投げつけられた。

 アーチャー手製の夕飯(今日はカツカレーだった)に舌鼓を打った後は、リビングで課題をしたり、テレビを見たりとだらだらと深夜まで起きていた。飼い犬のマハはアーチャーに構われてご満悦で寝そべっている。
 しかし深夜一時を過ぎた頃、マハはピクリと耳を立てて身を起こし、勢いよく寝室へと走った。そして誰もいない窓に向かってと吠えはじめた。
「ウゥゥ……ワンッワンッ!」
「おいマハ……」
「しッ……、様子を見よう」
 宥めようとしたランサーをアーチャーが人差し指を口にたてて制止した。二人で黙ってマハの様子を観察する。
 マハは背中の毛を逆立たせ、ぴんと足を突っ張り、鼻に皺を寄せて唸っている。吠える声は低く重い。完全に敵に向けて威嚇している様子だ。
 しかしその状態はそう長くは続かなかった。
 マハは数回吠えて満足したのか、ランサーの元へ戻り頭を擦り付け何事もなかった様子で甘えてくる。いつも途中で制止していたランサーは「もういいのか?」と拍子抜けした気分でマハの頭を撫でた。
 ずっとその様子を見ていたアーチャーは「なるほど……」と呟いた。
「何が『なるほど』なんだ?」
 それには答えず、アーチャーはどこか遠い目をして窓を見ていた。そのまま窓辺へ近づきカーテンを開けた。ベランダを見て何かを確認したように一つ頷いて、カーテンを閉めた。
 振り向いたアーチャーはまだ遠い目をしていた。ランサーの目に見えないモノを視る時によくする目だ。アーチャーの瞳には確かに自分が映っているはずなのに、何故か素通りしてどこか遠いところへ行ってしまったような気にさせられる。アーチャーの白い睫毛に縁取られた鉛色の瞳は密かなお気に入りなのだが、この目だけは嫌いだった。
「何が視えた?」
 苛立ちを隠さずに問いかけると、アーチャーはパチパチと目を瞬かせてこちらを見た。今度こそ目が合う。自分が映っていると感じてどこか安堵する。
「視えたというほど大したものではないが……」
 アーチャーはどう言おうか言葉を探したあと「まっくろ○ろすけ?」と答えた。
「は?」
 有名なアニメに出てくる妖怪もどきの名前を出されるとは思わずつい聞き返してしまった。アーチャーも子供のような言動に少々恥ずかしかったのか軽く咳払いした後に話を続けた。
「言った通りだ。私の目にはまっ○ろくろすけに似たピンポン玉サイズくらいの黒い何かが複数固まっているのが視えたんだ」
「ほぉ……」
 想像してみたらやたらメルヘンな絵面だった。アレならちょっと見てみたい気がする。
「とは言え、見かけは似ていてもアレは良くないものだ。幽霊のように意思のあるものではないが、霊の成れの果てというか、穢れが凝ったモノのようにも視えた。害意はなくとも悪い影響を与える。動物は敏感だ。マハは自分のテリトリーに異物が入ってきたと気付いて追い払おうとしたのだろう。実際、数回吠え立てただけで退散してしまった。人外にも役立つなんて優秀な番犬だな」
「そうだったのか!マハ~お前偉いなぁ~」
 ランサーはしゃがんでマハをぐしゃぐしゃと撫でてやった。褒められたマハは嬉しそうに尻尾を振った。
「でも何でそんなモノが来るようになったんだ?変な壺を買った憶えも拾った憶えもねぇぞ?」
全く心当たりがなかった。首を傾げるランサーにアーチャーは軽く首を振った。
「君のせいではないさ。先ほどベランダを見たら、近くに良くない筋ができていた。そこから漏れたのがこちらに入り込んでしまったのだろう」
「すじ?」
「霊の通り道みたいなものだ。その中でも、性質の悪いモノが通っていた」
「何でそんなのが出来たんだ?」
「最近大きな地震があっただろう?そういう時に良くないモノが吹き出ることがある。それが筋になってしまったのかもしれない」
「げぇ……」
 ランサーは可愛くないまっくろく○すけや不気味なクリーチャーがベランダを行進している姿を想像した。視えないとはいえそんなモノが通っていると言われれば気分は良くない。まだ幽霊のような人型のほうがマシだった。
「この部屋に何か影響が出てもおかしくないな。最近夢見が悪かったり、金縛りにあった憶えは?」
「いんや全然」
 毎晩爆睡しているランサーはぶんぶんと首を振った。
「ではラップ音などは?」
「RAP音?」
「何もないところで破裂音や生木の裂いたような音がする現象だ」
「あ……」
 そう言われると一つだけ心当たりがあった。
「地震が起きてからたまーに部屋の中でピシパシって音がすんだよ。家鳴りっつうの?地震のせいでどっか歪んでるのかと思ってた……」
「それはラップ音だ」
「マジかよ……」
「そもそも鉄筋造りのマンションで家鳴りなどするはずがないだろう」
 顔を強張らせたランサーにアーチャーは呆れた声を上げた。
「そういやマハが吠えるようになってから聞かねぇかも……」
「やれやれ、飼い主が鈍感な分、君が頑張ったわけだ」
 アーチャーは「ご主人を守った君は偉いな」とマハを労わるように撫でてやる。二人に褒められてご機嫌なマハはもっと褒めて!撫でて!とアーチャーに体を擦り付けていた。
「なぁ、寝る部屋変えた方がいいか?」
「いや、大丈夫だろう。筋は一時的なものだろうし、マハが室内に入らないよう見張ってくれている。すぐ無くなるさ」
 そう言われても現在あるのだから安心なぞできない。
(ヤクザ映画は好きだがホラー映画は苦手だぜ)
 知らずにいれば単なる犬の無駄吠えと家鳴りで済んだのに、今じゃ自分の部屋がホラー映画の舞台になった気分だ。見えない不気味なモノがいるより刃物を持って直接襲われる方がマシだ。腕に覚えがあっても視えない相手に発揮することはできないからだ。
 マハのモフモフとした毛並みに癒やされながら、ランサーは隣に座る幼馴染みをチラリと見た。
「なぁ、アーチャーさん」
「何かね、ランサーくん」
 こういう呼び方をする時はお願いごとがあるときだと、長年の付き合いで分っているアーチャーは素っ気無い声を出した。
「筋?とやらが消えるまでうちに泊まってくれませんかね」
「断る。その必要性を感じない。前にも言ったように、君に悪さができるモノなどそうそういないさ」
「悪さしなくても気味が悪い」
「君がそんな繊細な玉かね。オバケが怖い歳でもないだろう。気になるなら塩でも撒いておけ」
 甘えた声を出すランサーに害はないと切って捨てると「冷てぇ!」と肩で体当たりされた。ランサーは口を尖らせてこちらを見ていた。大の男が拗ねた顔をしても見苦しくないどころか可愛いと思ってしまうのだから、顔が良い男は得だといつもの感想を抱く。
「怖かねぇが生理的に駄目なんだよ。オレがゲテモノの類が嫌いなの知ってるだろ?ゾンビやスライムがベランダで行進してるかと思うと安眠できねぇ」
「いや、ゾンビやスライムがいるわけではないのだが……」
 どちらかというと和風の妖怪に近いとアーチャーは思ったが、グロテスクなのには変わりないので言わずにおいた。
「見えないから余計に想像が膨らむんだよ。なぁいいだろ?」
 アーチャーは身内には滅法甘い男だ。ついでに自分の顔に弱いこともよおおおく知っている。至近距離で見つめてやればアーチャーから「顔が近い……」と苦情がこぼれた。
(もう一押しだ)
「なぁアーチャー……」
 とどめとばかりにランサーは上目遣いでアーチャーを見つめた。鉛色の瞳に赤と青が映る。アーチャーは眉根を寄せて何かを耐えるような表情をしていた。
(何を我慢してんだか……)
 実害があればランサーが言うまでもなく泊り込んでくれる男だ。お互い一人暮らしで気ままな身分なのだから泊り込むのに不都合はない。しかも、週一で食事を作りにきてくれるほど世話好きだ。泊り込むのも今更だし、嫌な理由はない筈だ。
 なのに、時折こうして必要以上の接触はするまいと突き放すような物言いをする。いつもどこか人に対して一線を引くようなところがある。ツンデレ気質なのだと分っちゃいるが、それを自分に対しても発揮するのが腹立たしい。水臭いにも程がある。
(連絡するのはいつもオレからだしな)
 だんだん腹が立ってきて、ちょっとした悪戯心がわきあがる。
 アーチャーの肩を掴み真正面に向き合った。
「おい、あと三秒で頷け。さもなきゃ"ちゅー"するぞ。舌入れる濃厚なヤツな」
「は?何を言ってるんだね君はッ!?」
 慌てるアーチャーを余所にランサーは数を数え始めた。
「いーーち……」
「おいランサー!」
 アーチャーの顔を両手で掴み、一秒数えるごとに顔を近づけてやる。
「にーーい……」
「ちょ、近い!近い!ステイ!」
 胸に手を当てて抵抗するも筋力差で意味は無い。ぐぐぐと力を込めて容易くく距離は縮まる。
 いつもスカした顔をしているアーチャーが慌てるのが面白くて、冗談のつもりだったがホントにしてやろうかと興が乗る。
「さぁ~…」
「~~~わかった!わかったから!!」
 あと数センチというところでアーチャーが降参だと両手を広げて宣言した。
 ランサーはニヤリと笑ってアーチャーを開放してやる。ホッと気を抜いたアーチャーの頭を引き寄せて「あんがとな!」と目尻に触れるだけのキスを落とした。アーチャーは大きな溜息をついて受け入れる。ハグとバードキスは親愛の証だと、十年以上の付き合いで無理矢理慣らされていた。
 ご機嫌でハグしてくるランサーが憎らしい。どーせ食事は自分が作ることになるだろうと、アーチャーは悔し紛れに呟いた。
「……毎日精進料理にしてやる」
 肉好きランサーへの意趣返しなのだろうが、不味いモノを作ると言わないところがアーチャーらしい。
 可愛いらしすぎる悪態にランサーが大笑いして更にアーチャーを怒らせた。
 じゃれる二人にいつ混ざろうかと、マハは尻尾を振り振り眺めていた。

 そらから暫く、ランサーは毎日アーチャーの美味い飯にありつけてご機嫌だった。
 変な筋サマサマである。
 だが美味い話はそう長くは続かない。
 アーチャーの言う通り、一週間もたたずに筋とやらは消えてしまい、マハが吠えることは無くなった。
 当然、アーチャーとの同居も解消された。
 もうちょっと長く続いても良かったのに、と思ったのはアーチャーには内緒である。


Comments

  • ハルタ
    July 1, 2018
  • そー
    June 30, 2018
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