時刻は昼。
俺と灯織は事務所でお昼を済ませ、午後から予定されている撮影の現場へ灯織を送迎中だった。
P「──今日、雨降らなさそうだな」
灯織「そうですね、一応折りたたみ傘は持ってきていますが......」
この途切れそうで途切れない会話も、居心地の悪いものではなくなってきた。
P「灯織。今日の撮影の後さ、ちょっと時間あるか?」
灯織「?はい。撮影の後は特に何も無いですが......」
P「ならよかった。──少し、出かけないか?」
灯織「はい。大丈夫ですけど......どこに行くんですか?」
P「ははっ、楽しみにしておいてくれ」
バックミラーに映る灯織の顔は少し不思議そうな顔をしているが、そこまで疑われてはいないだろう。
実は今日、撮影場所近くの河川敷で花火大会があるらしく、なんとか約束を取り付けることができた。
P「それじゃ、撮影が終わったら迎えに行くから、連絡してくれ」
灯織「はい、行ってきます」
────────
灯織「(プロデューサーの言っていた予定ってなんだろう......どこに行くのかな)」
スタイリスト「あ!灯織ちゃ~ん!おはよ~」
灯織「あ、おはようございます......!今日はよろしくお願いします!」
スタイリスト「うんうん、今日もすばらしいほくろだね~。ほんっと、灯織ちゃんかわいいわ~。もう、妹に欲しいくらい!」
灯織「あはは......ありがとうございます」
スタイリスト「そーえば、灯織ちゃんって今日の撮影の後予定ある?」
灯織「あ、すみません......。今日は予定があって......」
スタイリスト「ありゃー残念...!流石に灯織ちゃんを当日誘うのは無理かー......!」
灯織「すみません......」
スタイリスト「あ!全然、気にしないで~。──うーん、ずばり!イルミネちゃんたちでしょ?」
灯織「?...あ、いえ......。ご期待に沿えず申し訳ないですが、プロデューサーとの予定です」
スタイリスト「ありゃそうなの?プロデューサーくんってことは仕事の話かな~」
スタイリスト「でも仕事か~。仕方ないとはいえ残念だったね~」
灯織「それはあの、どういう......?」
スタイリスト「あら灯織ちゃん、知らないの?今日、花火大会があるんだって~」
灯織「そうだったんですか、知らなかったです」
スタイリスト「それもちょうど今日の出の時間と近くてさ~、ちょうどいい感じなんだよね~」
スタイリスト「ねね、終わったらプロデューサーくんにお願いしてみなよ!彼優しそうだからきっと聞いてくれると思うんだよね~」
灯織「そうですね......教えて下さってありがとうございました。プロデューサーにお願いしてみます」
スタイリスト「うんうん!じゃ、また後でね~」
────────
灯織「本日はありがとうございました。失礼します」
灯織「(順調に進んでよかった......。プロデューサーに連絡しないと)」
灯織『お疲れ様です。たった今撮影が終わりました』
P『了解だ。今から迎えに行くよ』
灯織「(あ、そうだ。花火大会のこともお願いしないと)」
灯織『プロデューサー、この後────』
スタイリスト「灯織ちゃーん!あ!いた!」
灯織「ど、どうされたんですか?」
スタイリスト「聞いてよ~!最低最悪雨嵐だよ~!」
灯織「ど、どうかされたんですか......?」
スタイリスト「それがね~?別の現場のアシちゃんが体調崩しちゃったらしくてさ~、すぐにこれそうなのが私しか居ないっぽくて~!」
灯織「な、なるほど......。そうなると花火大会は......」
スタイリスト「うん~......と!いう訳で!めちゃ残念だけど、灯織ちゃんに全部託した!また今度会った時にどうだったか聞かせて~!じゃ、私もう行かないとだから、またね~お疲れ様~!!」
灯織「お、お疲れ様です......!」
P「はは......相変わらず嵐のような人だな」
灯織「わぁっ!!?もう、脅かさないでください......!」
P「すまんすまん。驚かせるつもりは無かったんだけど......」
灯織「......口元がにやけていますよ」
P「えっ!?い、いやいや......一応、ちゃんと連絡はしたからな!?」
灯織「ふふっ、冗談です。ところでプロデューサー、この後なんですけど───」
────────
車内が笑い声で満たされている。
今は助手席で笑う灯織とともに、花火大会会場に向かっている途中だ。
P「ははっ。まさか灯織から花火大会に誘われるとは思わなかったよ」
灯織「ふふっ、プロデューサーも内緒にしてたのがいけないんですよ?まさかしてた約束が花火大会のことだったなんて」
P「俺としては普段頑張ってる灯織にサプライズのつもりだったんだが......驚いたよ」
灯織「私が伝えた時、すごく驚いた顔をされてましたよね。あの時のプロデューサーの顔......ふふふ......!」
P「ほ、ほら、もうすぐ着くぞ」
────────
臨時駐車場になんとか車を停められたが、車から降りるとすでに花火が上がり始めているのが見えた。
勢いからしてまだ始まったばかりだろう。少し急ぎ気味で灯織と会場に向かう。
P「流石に開始には間に合わなかったか......もう始まっちゃってるな」
灯織「はい、でも開始時間を見るに、まだ始まったばかりみたいですよ」
会場に着く。
花火に近い前方はかなりの人で覆い尽くされていたが意外と後方は穴場になっていて、立ちっぱなしにはなるが人混みに混ざらなくても花火を見ることができそうだった。
P「灯織、見えてるか?」
灯織「はい。綺麗ですね......」
P「そうだなぁ......」
花火の勢いは次第に強くなってくる。もう灯織に声を掛けてもこの距離じゃ聞こえないだろう。
それにしても、小規模な花火大会だと思っていたが意外と勢いが凄い。
P「(灯織は楽しめているだろうか......)」
灯織の顔を見る。目が合った。
もちろん、俺の方に花火が上がっているわけではない。
互いに見つめあったまま少しの間硬直したが、互いに真顔の状況に耐えられなくなったのか灯織が顔を綻ばせる。
つられて俺も笑ってしまう。少しの間笑いあった後、さらに勢いの強くなった花火の音に目を引かれ、俺も灯織も花火の方に向き直った。
────────
灯織「今日は連れてきてくださってありがとうございました」
P「ははっ、楽しんでくれたようでよかったよ」
灯織「今年はまだ花火を見ることができてなかったので、今日はとても素敵な思い出になりました」
P「ああ、また今度見に来よう。そのときは、真乃とめぐるも一緒にな」
灯織「はい......!」
素敵や