light
The Works "甘いと辛いと(白杉)" is tagged "白杉" and "金カム腐".
甘いと辛いと(白杉)/Novel by もちやま

甘いと辛いと(白杉)

3,476 character(s)6 mins

現パロ記憶ありの甘め白杉日常。直接的な表現はありませんが、関係を匂わす程度のものはあり。奇しくも良い夫婦の日に間に合った。

1
white
horizontal


 前世の影響か否か、俺達はすき焼きが好きだ。
 あの頃と違って、肉も卵も安く手に入るし、なにしろ簡単ですぐ食える。アラサーに片足突っ込んだ俺は兎も角、現役でスポーツ選手やってる杉元はその気になれば格闘漫画のキャラクターみたいな量を食える。特に、大会を控えた一ヶ月間はヤバい。
 そういうのもあって、お互いのバイト代がほぼ飲食代に消える期間になると、かなりの確率ですき焼きを作る。今日も、空腹を抱えた俺らは激安スーパーでけっこうな量の材料を買い込み、二人で一つずつパンパンのビニール袋を提げていた。

「うう、シライシ……腹減りすぎて胃がひっくりかえりそうだ…やっぱ肉まんでも買っときゃよかった」
「ダメダメ。そう言って、前に菓子パン食べたら食欲に火がついちゃって足りなくなったじゃん。すぐウドン入れてやるから我慢しろな?」
「ううーっ…」

 ぎりぎりと歯噛みしながら眼を細め、杉元は俺のかかとを蹴った。けらけら笑いながら「あぶねっ」とよろける動き。調子に乗って2度3度蹴ってくる杉元の袋の中身がカチャカチャ音をたてた。あっちは酒とか野菜。俺の持ってる方は、ほぼ肉だ。
 やがて俺達が住んでるアパートが見えてきた。なせだか外灯のない階段は暗くなりはじめると危ないので、二人とも心なし小走りになる。そんな、あと何秒で真っ暗になる訳でもないのに、と思うと毎回ちょっと笑ってしまう。
 ポッケから鍵を取り出し、いつものようにガチャガチャやかましく開けると、いわゆるウチのニオイがした。安心感でほっとしてると、杉元に腿を蹴られた。

「狭ぇんだからさっさと上がれ」
「んもーそんなに急かさなくったって肉は逃げねえよ」
「あの頃と違って?」
「あの頃と違って」

 前世ジョーク、とでもいうのか。俺達はたまーにこういう下りで笑う。
 さて、と部屋の電気を一頻り点けて台所に立つと「あ、待って」とキャップを外しながら杉元が側に来た。

「今日は俺が割り下作りたい。シライシはテーブルとか開けといて」

 キャップに押し込まれていた、外跳ねの黒髪をガシガシ解しながら、杉元が鍋をコンロに置く。
 やや逆光になった光の中で、くっきりと浮かぶ鼻筋と唇の陰影。のっぺり顔の俺にはなさそうなそれを横目に見惚れつつ、俺はへいへいと居間に引っ込んだ。
 リモコンと雑誌を片付けて、ついでにテレビを付ける。テーブルを引いていくと、折りたたみマットレスにケツがぶつかって何とはなしにそれを見る。
 …飯食って、テレビ見て、酒をあらかた飲んだら……。
 杉元のあらぬ姿を想像し、俺はニヤ、と笑う。きっと漫画のスケベ親父みたいな顔をしているに違いない。

「シライシー、悪ィけど酒だけ冷蔵庫入れてくんね?手ぇ濡れててさ」

 台所からひょこっと杉元が顔をだす。
 勢い良く野菜を切っていたようだが、そうこうしてる内に一旦食欲が落ち着いてきたらしい。
 スケベ顔を悟られないように「あーうん」と適当に目なんか擦ってみたりして、俺は台所に向かった。

 鍋であたためた牛脂に、ぶつ切りの長ネギと豚コマをガンガン放り込む杉元。
 一掴みがえぐい。
 ほぼ半分をそこに入れた杉元がうきうきと菜ばしでかき混ぜているのを見ると、豚コマ大パックを4つ買っといて良かったな、なんて思う。
 そこに醤油をじょぼじょぼ、和風だしと酒を入れてから砂糖の入った缶を取り出す。
 ふんふふーんとご機嫌に、カレースプーンでざっくざっく砂糖を投入する。こんなにガタイも良くて、顔も鋭い感じの男前なのに、杉元はそのへんの女の子よりも甘党だ。それがなんつーか……かわいいっつーか、ギャップ萌え?っつーのかな。

「はぁー。もういっか。これ、白菜に火通ったら食」

 カッチ、とコンロの火を落としたのを見届けて、後から抱きつく。高い体温に炙られて、杉元の匂いがする。すき焼きの匂いも。
 がっちりした身体の感覚はみっしり肉が付いてて、生きてるなぁ……って感じ。かたいんだけどやわらかくて、高い体温が直ぐに伝わってくる。

「なんだよー。飯前にそういうテンション?」
「……うん」
「俺、腹減り過ぎて限界なんですけど」
「しってる」

 なんて言いつつ、本気で逃げたりはしない。腰のあたりを強めに押し付けてると「あのなあ」とやんわり腕を外されてしまった。

「腹が減っては戦はできねーんだよ。食べてからにしようぜ」

 な?と小さな子供にするように頭をポンと叩かれ、俺はクゥーンと鳴いた。
 まあ、バイト終わりで今日に限って賄いを食いそびれてるから俺だってそれなりに腹は減ってる。致してる最中に腹が鳴ったら、ムードもへったくれもない。………過去に一回あったけど。
 カセットコンロと箸を器用に持った杉元に続き、俺は両手鍋いっぱいに出来上がったすき焼きを持ってその後に続いた。
 テレビではアイドルと芸人がなにやら激辛のメニューを食べてひーひー騒いでいる。特に引っかかるものもなく見ながら「杉元って辛いの食えたっけ」となんとなく訊いてみる。

「嫌いじゃねえけど……あれくらいになるとそんなにだな」

 頂きます、と手を合わせて自分の丼に玉子を割り入れる。
 くつくつ煮える鍋からほぼ塊の肉を取り出し、それを玉子に絡めるのを見ながら「おれもー」と答えた。
 何かの必殺技みたいな名前の唐辛子を鍋に投入している映像に、大袈裟なガヤの声がかぶさる。最近はどこのチャンネルつけてもこんなだよな。
 生白い胸元を晒したアイドルを横目に箸を動かしていると「はち…」といつものやつ。見れば、ろくにバラしてもいなかったコマ肉の塊を押し込もうと悪戦苦闘する杉元が涙目でお椀から肉を上げ下げしている。
 猫舌の癖に、熱いもの冷まして食べるって事が下手くそだ。いや、それだけ腹減ってるんだってのはわかるんだけど。鍋の湯気に隠れるようにニヤついて、俺は卵を纏った肉を口に放った。

「そういやさぁ、明日子さんからのライン、返事どうする?」

 塊肉を諦め、長ネギを卵でくるくる冷やしながら杉元が言う。
 学校の長期の休みに婆ちゃんのやってる民宿の手伝いに行くから、良かったら来てくれという内容だ。
 暫く顔も出してなかったから、行くのは全然構わないし、俺も明日子ちゃんに会いたい。今年送られて来た、中学の制服を着て仁王立ちになった彼女を写真で見て、年々美しい女性に変わって行くな……としみじみ思った。実物はもっと綺麗になっていることだろう。
 比較的融通の利く仕事であるため、休みをとるのは難しくはない。ただ、なんとなく……

「雪が降ってから会いたいよな」

 俺の言葉に、杉元が頷く。
 そろそろ、彼女の住むあたりはそんな季節になる。何も苦労する時期を狙わなくたって……って気はするし、シーズンに入るから観光価格に色も付く。だけど、敢えてそんな時に会いたいんだ。雪の降りしきる空港の外で大手を振って俺達を迎える彼女に会うと、心の奥から“揃った”って思える。杉元も、多分そうだろう。
 鍋の中をじっ…と眺めながら、何か物思いに耽っている杉元。きっと、いつか囲んだすき焼きのことでも思い出してるんだろう。

「杉元………」

 ごくん、と口の中のものを飲み込んで、俺は腹の底から湧いてきた感情を持て余したまんまに声を出した。

「好きだよ。死ぬまで一緒に居てくれ」

 どっ、とタイミング良くテレビのわざとらしい笑い声が被る。スッと出た言葉に杉元の無言がちょっと痛い。
 怒られる子供みたいな心境でそうっと杉元を見ると、ぽかんとしていた表情で口を引き結んで

「いいぜ。仕方ねえな」

 って、花が開くみたいに笑った。
 いつもは男臭くニカッて笑うのに、ふわぁっと。顔面偏差値が限界突破してる。
 そんな顔をさせてるのが俺だと思うと、なんだか今更こっ恥ずかしくなってしまったので、俺は食べかけの取皿を流し込んだ。
 湯気の向こうで肉の塊を押し込んでる杉元も、なんとなく俺から目を逸らしている。もぐもぐ動く頬っぺたを見ていると堪らなくなってくるが、早々に布団を敷くためにも先ずは飯だ。 
 箸のペースを上げつつテーブルの下の足を崩して、対面の膝をつつく。一瞬だけ逃げたそれは、そのまんまかと思われたが、するすると俺の足を伝ってきた。あ、ダメ、それ以上はちょっと………。
 つい、とこっちを見た杉元は、悪戯をした子供のような顔で助平、と言った。


Comments

There is no comment yet
Potentially sensitive contents will not be featured in the list.
© pixiv
Popular illust tags
Popular novel tags