「なあ子分、今日は子分スペシャルが食べたいんだゾ!」
食堂にて。昼食を食べ終わったらしい監督生達1-Aの4人組が雑談に興じる中、聞こえてきたのはグリムのそんな声だった。
「なんだ、結局“子分スペシャル”で定着したんだ」
「あれなー確かにグリムめちゃくちゃハマッてたよな」
「んー、自分的には“子分スペシャル”って言われると変な感じなんだけど…いいよ、今日はクルーウェル先生にグッボーイ貰ったしね、作ってあげる!」
「やったー!なんだゾ!」
いつも一緒のハーツラビュルの二人は“子分スペシャル”なる未知の料理がどんなものなのか知っているらしい。そのまま盛り上がる彼らの側に、差し込んだのは一つの人影。
「小エビちゃん、なぁにぃソレー?」
バア、と彼らを覗き込むように会話に入って来たのはフロイド・リーチであった。今は1人なのか、周囲にアズール・ジェイド両名の姿は無い。
「ゲッ、フロイド先輩…!」
ヤバイ、とでも言うように顔を顰めるエースの隣で、監督生は気にも留めず「フロイド先輩、こんにちは」なんて穏やかに挨拶をする。ちなみにデュースとグリムもエースと似たような反応だった為、カニちゃんサバちゃんアザラシちゃんは後で締めると決め、しかし今は疑問を解消する事にする。
「“子分スペシャル”って何なの?」
「あー、うちの故郷の料理をなんちゃって再現したやつですよ。ただ…」
そこで意味深に言葉を止めた監督生は、少し声潜めてこう言った。
――少なくとも、NRC生は頼まないですよ?
監督生の意味深な言葉と共に、予鈴のチャイムの音が食堂に響いた……
フロイドは激怒した。必ず、かの秘密主義の小エビが秘匿する謎を解き明かさねばならぬと決意した。フロイドには小エビの事情などわからぬ。フロイドは、オクタヴィネルの一寮生である。学生らしく一応は勉学に励み(?)つつ幼馴染からの要請があれば契約不覆行者を締め上げたし要請が無くても気まぐれに他生徒たちを締め上げた。けれどもお気に入りの小エビの言動に対しては、人一倍に敏感であった。
――いや、別に怒っている訳ではないが、やはり秘密にされれば気になるもので。
午後から急に不機嫌になった幼馴染に、しかしタコちゃんと片割れは「まあフロイドですし」と気にも留めないのであった。
そんな訳で本日のラウンジも(フロイド的には)無事閉店し――本日のラウンジのシフトに入っていた寮生たちが怯えていた様子だったが、フロイドにはどうでもいい事である――仕事が終わるが早いか、彼は一目散にオンボロ寮に向かった。
フロイドはオンボロ寮生2人(1人と1匹)の食事がいつも何時に行われているか知らない。が、まあ既に晩ごはんを食べた後であろうと監督生に作ってもらえばいいかと、彼はオンボロ寮の玄関扉を蹴り開ける。
「小エビちゃ~ん」
「ふなぁ!?」
扉を蹴り開けた衝撃音に驚いたのか、まず最初に聞こえたのはグリムの悲鳴であった。次いで、
「あ、フロ……先輩、なんでそんな不機嫌なんです?」
フロイドの醸す不機嫌な様子に監督生の声が震える。グリムに至っては完全にフロイドの雰囲気に呑まれたようで、可哀想にその小さな体を震わせた。
「え~? 俺、別に不機嫌じゃねーよ?」
「どっ、どこがなんだぞ」
ビクビクと怯えるグリムだが、しかしフロイドは気にしない。それよりも疑問を解消する方が先決だ。…昼休みには出来なかった訳だし。
「それより小エビちゃん、俺にも小エビちゃんスペシャルっての作ってよ」
フロイドの言葉にある程度予想がついていたのか、震えていた監督生はすぐさまいつもの調子を取り戻す。
「…あ~、やっぱり気になってましたか。中途半端に話が終わってましたしね…今日グリムに作ってあげたのはもう材料が無いので全く同じものを提供するのは無理ですが、それでもよろしければ」
そう提案すれば、「それでいいよぉ」との返事が。ここでごねなくて良かったと内心胸をなでおろした監督生は冷蔵庫の中身を反芻しつつどう作ろうかと思案する。
食材は明日の朝食か夕食に使おうと取っておいたものを使えば何とかなるはずだ。楽しみにしていたグリムには悪いが、そこはソレ、フロイドが襲来した理由で納得してもらうとして。この料理は種類が大事だ、1品2品では華が無いからあれを入れよう、これを入れようなんて考えつつ、一応一言注意をしておく。
「あ、先輩。コレ作るのって、少々時間がかかるんですが、文句は言わないでくださいね?」
「んー、いいよぉ~」
でも、変なもん出したら締めるから。なんてちょっと機嫌を持ち直したらしいフロイドに言われ、しかしまだ天秤は不機嫌な様子に傾いている彼の様子に思わず「ひゃいっ!」と声が裏返る監督生であった。
グリムことアザラシちゃん“で”遊ぶ事しばらく。ラウンジの営業終了と同時にオンボロ寮に来たため、フロイドの空腹はそれなりであったが、キッチンから漂ってくるいい匂いに切れ散らかす事なく耐えていると。
「お待たせしましたー」
ようやく完成したらしい監督生は、白いプレートを手に戻って来た。
テーブルに置かれたプレートに、思わずフロイドは「え、なにコレ」なんて呟く。
「グリム曰くの“子分スペシャル”、自分の故郷では“お子様ランチ”って呼ばれていた料理ですね」
監督生が持ってきた白磁のプレートには、トマトソースが絡められたパスタや一口サイズのハンバーグ、魚のフライなどが所狭しと乗せられていた。
内容は先述のパスタにミニハンバーグ、魚のフライは見た感じマヒマヒ(監督生の感覚ではシイラである)のようだ。それから、何かの上に乗せているのか山型になった卵にキャベツやレタスといった葉物野菜も乗っている。それらが少量ずつ、ワンプレートに収められていたのだ。そして、山型の卵の上には何故か肉球の描かれた旗が立てられていた。
「お子様って何? 俺の事稚魚扱いしてる?」
「してないですよ頼んだのは先輩でしょう?」
理不尽にキレるならコレは没収しますよ、と脅され――しかし監督生の表情は苦笑を浮かべている事から、本気で没収する気は無いらしく。じゃあいっか、今はまだ締めないであげる、とフロイドはプレート上の料理に手を伸ばした。
味は言うなれば普通。日々モストロラウンジで料理を作るフロイドにしてみれば家庭料理の域を出ない味だが、別に不味いわけでも無く。これが小エビちゃんの料理の味かぁ、なんて味わいながら、監督生の補足に耳を傾ける。
「自分の故郷では子供向けの定番料理なんです。と言っても、別に作り方は特別ではなく、子供が好きそうな料理を少量ずつ盛ったものなので、味付けは大人に提供されるものとそう変わりませんよ。ようは、子供でもいろんな料理を楽しめるように考案されたものですね」
その説明になるほどと納得する。今回はフロイドが相手の為か全体的な量はそれなりにあるが、確かに一品一品は少量で、ワンプレートで色んな味が楽しめそうだ。
「とはいえ、“お子様ランチ”は我が国特有のものらしいです。…正確には子供向けに考案された、少量で様々な味を楽しめるメニュー、と言いますか」
この辺りはうろ覚えです、すみませんと苦笑する監督生。「確かに俺、こんなにいろんな料理が乗ったのって見た事ないかも」なんて返しつつ、しかしフロイドは食べる手を止めない。
「とはいえグリムは“お子様”ランチという名称を嫌がり“子分スペシャル”なんて呼んでる訳なんですけど。…もう分かりますよね? 昼休みに自分が言った意味を」
そうだ、確かに監督生は言っていた。「少なくとも、NRC生は頼まないですよ?」と。なるほど、確かに子供扱いなんてされた日にはプライドの高いNRC生ならばキレちらかすだろう。フロイドだって稚魚扱いされればキレる。何ならそんなヤツは締めてやる。
「この料理、お子様ランチと名前がついているように、基本的には小学生…エレメンタリースクールに通うくらいまでの年齢層をターゲットにしたものになります。レストランのメニューでも大体11、12歳位までの子供だけが注文出来る、なんて記載もよく見かけるのですが、大人だって注文したいと思うことが多々あるようで。特に我が国に旅行に来た外国人観光客の方などが注文したがった、といった話をよく聞きます。そういう事もあり、店舗によっては年齢制限無く注文出来る所もあれば、メニュー名もお子様ランチに対して大人様ランチ、と名付けている所もあるみたいです」
話をしながら、そういえば昔、某お店で一人では食べ切れなさそうな量を提供する“お殿様ランチ”なるメニューを見たな、なんて思い出す監督生。確か自分が見たアレは、メインはカレーで、トッピングにコロッケやらハンバーグ等が乗せられていたが…故郷の文化、とりわけ“お殿様”が何たるかを説明する必要があり、結果肝心の“お子様ランチ”の話から逸れる事になりそうだとその件に関しては口を噤んだのだった。
「そんな訳なんで、自分はこの料理の名称を“お子様ランチ”と認識しているだけで、先輩がこの料理を食べた所で子供扱いをしている訳じゃ無いですよ」
まあ、NRCで提供されても名称で誰も注文しないだろうな、と思った訳です。そう言ってからから笑う監督生であった。
翌日。モストロのメニューに元々存在していた
ちなみに。このフロイド版お子様ランチは、翌日一年生で仲のいいメンバーと共にモストロラウンジを訪れた監督生達も注文していた。
この日彼らをモストロに誘った監督生は「フロイド先輩ならきっと今日はお子様ランチを再現すると思ってました」等と供述していたとか。
今回もタイトルが全て。名称出したら即ネタバレなのでそれが何なのかはここでは伏せます。
あれコレ前回も書いてるな???(笑)
伝道者系の話なようなそうじゃないような…自分では判断つかなかったのでとりあえずは伝道者タグは付けないでおきます。
NRC Crisis!は現在随意制作中です。気長にお待ち下さい。
いやまだ実験が終わった所なんでこれからようやくアンケート消化なんですが…(;・∀・)---------- 以下読後推奨 ----------
オンボロ寮のご飯担当監督生
なんちゃってお子様ランチだったけど先輩は満足だったようで良かった良かった。
ちなみにオムライスに立てた旗はグリムとの合作である。いや、お子様ランチなら旗は必須でしょう?
楽しみを奪われたグリム
フロイド“に”遊ばれるわ楽しみにしていたご飯を奪われるわ、踏んだり蹴ったりである
ふなー!子分、俺様にもまた子分スペシャルを作るんだゾー!!(いや今日食べたでしょ? by監督生)
食べて満足したフロイド
秘密主義(いや違いますよ!? by監督生)な小エビちゃんのご飯を食べられてホクホク。なんとなく気分が乗ったので自分でも作ってみたら、アズールにめちゃくちゃ怒られた。えー何でー?