錬金術の授業にて、“それ”は起こった。
その日、監督生は錬金術の授業を誰とも組まずにいた。なんでも、その日作成するのは複数人の魔力を必要とするもので、常に魔力を注ぎ込みながら、同時にいくつもの材料を決められた時間以内に混ぜ合わせなければならないという、難易度の高いものであった。それだけなら監督生はいつものようにグリムと共に調合に参加出来るのだが……何でも、暫しの間仮死状態になれるこの薬は、非魔法士や魔力の少ない者には時折劇薬のような効果を発揮するそうで、今回の調薬に監督生の参加は厳禁を言い渡されたのだ。ちなみに、その薬の名は昇魂薬と言うらしい。
しかし監督生とてNRCの生徒だ、2人で1人の生徒である監督生とグリムが別々の授業に参加できるはずも無く――結果大釜には絶対に近寄らないという条件の下、監督生をみんなの補佐として必要な時に必要な材料を受け渡す役目を与えたのだった。
ちなみに授業を受ける際に1つ、生徒達に厳命させた注意事項がある。ただでさえ難しい調合であるというのに真面目に授業を受けないばかりか監督生憎しとふざけた事を行った生徒には、クルーウェルのBadBoyどころか殺人(もしくは殺人未遂)として法の下に裁きを下すとまで脅さ…もとい注意勧告がなされたのだ。それだけ今回の調合が危険を伴うものである事を知った生徒達は、本心はどうあれ本日はみな真面目に授業を受けている。
「監督生! マンドラゴラの根50g!!!」
「はいっ!」
「監督生人魚の涙100ml!!」
「ただいま!!」
「かんとくせー火の鳥の羽1枚! 急いで!!」
「オッケー!!!」
そんな事情もあり、今日の授業で監督生は各所にひっぱりだこだった。3チームに分かれて作業を行う生徒達に名を呼ばれては、すぐさまその材料を届ける。たったそれだけなのだが魔法薬学室を行ったり来たりするのは重労働だ。あっちこっち動き回る監督生は、しかし何だかんだみんなと一緒に授業を受けられた事が楽しい様子だった。そうしてある程度材料を配り終わり、後はみんなが薬を完成させればいいだけ、監督生の役目はほぼ終わった……はずだった。
『――ユウ、』
「えっ、何か足りなかった!?」
突然名前を呼ばれ、先刻まで皆に呼ばれまくっていた事もあって監督生は反射的に返事を返していた。だがしかし、周りを見渡しても監督生を呼んだものは誰も居ない様子。
「誰か監督生呼んだか?」
「こっちは呼んでないぞ」
「こっちもだ」
「つーか誰も監督生呼んでないよな?」
作業を行っていた生徒達もまた、監督生のように周囲を見回せば、集中が途切れた事にクルーウェルより激が飛ぶ。
「Bad boy共! お前たちは手を緩めるな! 集中しろ!!!」
そう言って、急に呼んでもいないのに反応した監督生にも鞭を向ける。
「お前もだ仔犬! お前の役目はもう終わっ……」
そこで、クルーウェルの言葉は途切れた。――だって、先ほどまで己の隣に立っていたはずの監督生が、音も無くその場に倒れこんでいたのだから。
「ッ仔犬!!!」
常にない緊張した様子のクルーウェルに生徒達の肩がビクリと跳ねる。何事かと戸惑う生徒達には「集中!!」とだけ返し、倒れた監督生を抱き上げれば――監督生は、
すぐさま監督生に魔法をかければ……予想通り、そして、最悪の事態が発生していた事を知る。
「仔犬ども! 俺は
後は任せたぞ、と魔法薬学室に入って来た先生を残し、クルーウェルは監督生を抱き上げ教室を後にした。
…後には、一体何が起こったのか…完全に置いてきぼりにされた生徒達と、突然メールにて簡単な説明と共に呼び出された教師が残されたのだった。
監督生を腕に抱いたクルーウェルは足早に保健室へと向かう。
今日作成する魔法薬は“昇魂”薬だった。これは、かつてとある恋人同士がその仲を引き裂かれそうになった時、この薬で仮死状態に陥った事で愛を勝ち取った、という言い伝えのある代物だった。
そして、仮死状態に陥る為の効果は――その名の通り、昇魂…体から魂を抜く、というものだった。
この薬は服薬すれば魂が抜ける。しかし、魔法士や魔力の高い者は、己の魔力がその魂を包み込む事で、無防備な己の内側…外敵に晒された己の魂を守る事が出来る。…言い換えれば、魔力が無い者は己を守る手段が無い、という事になる。
ただ、この薬が服薬以外で効果を発揮した報告は今まで無かった。調合中に気化した昇魂薬を吸引したり、誤って服薬するべき昇魂薬が皮膚に付着しても、魂が抜けた症例は今まで報告された事が無かったのだ。
この薬の歴史は古い。先刻の逸話は百年単位は昔の話であるのがその証拠だ。よってこの薬の研究は殆ど済んでいる、筈だった。
(クソッ、ツイステッドワンダーランドには存在するはずの無い“魔力無し”には服薬以外でも効果が現れるのか――!)
そう、クルーウェルの見立てでは、魔法薬に抵抗力を持たない監督生だからこそ、服薬以外では効果が現れない筈の昇魂薬が、気化した空気を吸引するだけで効果を発揮したものと考えられた。そして、最悪なのは……抜けた魂が、
体と魂には強い繋がりがある。普通、昇魂薬で魂が抜けた所ですぐさま死ぬ訳ではない。薬の効果は最長42時間であり、その時間が近付くにつれ、抜けた魂は勝手に体に戻って来るのだ。そこまでがこの昇魂薬の効果である。そして、魔力渦巻く
クルーウェルは蹴破る勢いで保健室の扉を開ける。驚いた保険医が椅子から転げ落ちたがそんな事を気にしていられない。それよりも緊急事態だ!
「この仔犬の魂が抜けた! 周囲に魂の姿は無い」
監督生をベッドに横たえながら告げるクルーウェルに、保険医も事の重大さに気付いたのかハッと息を呑む。それならば話は早いとばかりにクルーウェルは保険医を振り返る。
「幸い、細いながらもまだ体と魂の繋がりは切れていない。すぐにでも
と、クルーウェルの声に被さり第三者の声がした。…それも、先ほどまで自分が向いていた方向、そのベッドの上からだ。
慌てて振り返ると、其処には…何ごとも無かったかのように目を覚ました、監督生の姿があった。
「ここ、NRC…? 戻って来っちゃったんだ。いや、さすがにあのままじゃダメだったんだろうけど…いや、送り返すってちゃんと言ってたし、仕方ない仕方ない。でも…お父さんもお母さんも、元気そうでよかった…!」
そう、ブツブツと呟いている監督生に、クルーウェルはフルフルと肩を震わせ――次いで、ガシィッと音を立てんばかりの勢いで、監督生の肩を掴み、
「と…りあえず、お前の魂が抜けている間、何があったのか……報告してもらうぞ、仔犬!!!!」
物凄い剣幕で監督生に詰め寄る
タイトルが全て。でもホラー要素は無いです。見ようによってはホラーが無くも無いですか、怖さは全く無いのでホラーじゃないです(しつこい)
ここで何か語ろうにもネタバレになりそうなので、とりあえず今回は気になる方はお付き合いください、とだけ……
2022年11月14日:twst夢100users入りタグ追加ありがとうございます!
---------- 以下読後推奨 ----------
ちなみに霧烏さんは某山にはとんと縁が無いのでイタコさんに会った事がありません。なので口寄せがどんな感じなのかは想像+某シャーマン漫画の作者先生(少年漫画)の別作品+別のシャーマン漫画の作品(こちらは女性向け)を参考にしようとして、結果盛大に爆死した感じです。何せその辺のシーンが殆ど無いんでね!
それと、最初は監督生サイドとか書こうか考えていましたが、捏造両親の事もあるので今回は事件後のインタビューという形にしてみました。これで誤魔化せた、かな…?(←誤魔化しとか言うな)
ちょっとだけ帰省出来た監督生
まさかの口寄せで魂だけ一時帰郷が叶った。ちなみに、昇魂薬による仮死状態と口寄せが偶然同じタイミングで行われた為に叶った。まさに奇跡。
デイヴィス・流石に焦った・クルーウェル
大事な仔犬のまさかのピンチに肝が冷えた。今後は今まで以上に“魔力無し”への魔法薬等の影響に気を配る事になる。