課題をしている最中、ふと集中力が途切れた。昔からの癖で、集中が途切れると必ず、まずは首を左右に揺らす。そうして軽く肩のコリを解せば、次は腕を伸ばして本格性に凝り固まった部分を解す。
触れれば凝っているのか肩に硬い何かがあった。いや何かも何も、肩こりなのだが。
あーこれは、軽く解す位ではこの痛みは取れないなと悟る。現代病とも言うべき肩こりが酷い場合、軽く解す程度では逆に疲れを感じるものだ。
ふと同じ机を取り囲む面々を見ると、自分こと監督生が動いた事で釣られて集中が途切れた1年生組が、監督生と同じように伸びをしたり詰めていた息を吐いて一息ついていた。やはりみんな同じ姿勢で勉強をしていたからか、監督生と同じように肩に重さを感じているようだ。
「世界が変わっても、肩こりは無くならないのか……」
ポツリと呟けば、耳聡くそれを拾ったジャックがああ、と頷く。
「姿勢が悪いと肩が凝るって聞くが、姿勢が正しくても凝るもんだよな」
「まあ、ずっと同じ姿勢を取ってるもんね」
ジャックに続いてエペルも同意する。そんな彼らはしかし監督生ほどは凝っていないようで、軽く解せば肩の重みも取れたのだろう、監督生と違ってもう肩に違和感は感じていないようだ。
そんな彼らに対して、監督生の側にいるのがエースとデュースである。2人も監督生と同じく軽く解す程度では痛みは取れなかったのか、グリグリと肩に指を当てて指圧までしている。うんうん分るよ、肩が凝ってる時のセルフ指圧って気持ちいいけどあまり解れた感じしないよね。
対してほぼ影響が無かったのがセベクとグリムであった。軽く伸びをしただけでもうマッサージは終了らしい。なんとも羨ましい限りである。
「肩こりは酷い酷くないは個人差あるみたいだけど、体を伸ばすのはやっぱり一緒だね」
これだけ同じ姿勢だと、一息ついた時にでも全身動かしたくなるよね~と呟き……ふと、故郷のとある体操を思い出す。そういえば、あれはたった3分間の全身運動だったな、と思い出し、次の勉強会でみんなに披露してみようと唐突に思い至った監督生であった。
とはいえ監督生は、あの体操は身体で覚えたクチだった。メロディーさえあれば脳内で『次は○○の運動~!』というアナウンスも流れるが、メロディーが無いと「あれ?次はどんな体操だっけ?」と戸惑ってしまう。
なので、とりあえず音源を確保するためにオルトに相談してみた。監督生はあの曲の譜面を知らないので。
最初はモストロはアズールや、軽音部の3人に相談してみる事も考えたのだが…アズールに「異世界の音楽を再現してください」なんて相談してみたが最後、金の気配を感じるであろう彼が大事にしそうな予感があった。自分はただラジオ体操がしたいだけなのだ、それ以外の楽曲の提供などゴメンである。
軽音部の面々は大事にはしないであろうが…軽音部な訳だしピアノ演奏だけでなくベースやドラムも混じった演奏をしそうだったので却下した。別にアレンジされるのはいいが、監督生の中でラジオ体操=ピアノ演奏という図式が出来上がっている。一番最初の音源はやはりピアノが良かったのだ。
なので、最終的にイグニハイドの電脳技術に白羽の矢を立てた。最初はイデアに頼もうかとも思ったが、人付き合いがあまり得意でないイデアに軽々しく頼むのは気が引けたし(それに親しくしているとは言っても彼は2つ上の先輩である)、その点オルトならば校内で出会う事も多いわけだし相談しやすかったのだ。
そうして翌日、さっそくオルトに相談すれば、彼より快諾を貰い、その日のうちにピアノでの演奏データを無事ゲット出来た監督生であった。作成方法は至って簡単、監督生が鼻歌でメロディーを伝えれば、すぐさま音階を書き出した譜面をオルトが作成、それを演奏ソフトに打ち込むだけだった。時間にして1時間程度の早業だった。
それから少し時間が空き。本日オンボロ寮にて試験に向けた勉強が開催される事になった。以前は生徒でなかった為に居なかったが、今回は紆余曲折を経て1年に編入してきたオルトも含めた新1年生組全員集合である。
試験勉強はつつがなく行われた。時折分からない問題を誰かに尋ね、かと思ったら別の問題を誰かに尋ねられ。たまに居眠りしそうな者がいればしっかり目を覚まさせたりもしつつ、ある程度の勉強に目途が立った時。監督生はいつかの勉強会と同じように凝った体を伸ばす面々にこう提案した。
「ねえ、ちょっと軽い運動でもしない?」
「えー、運動って、今から外に出んの?」
もう日も暮れただろ、と答えたのはエースだった。本日は試験勉強会と題して1年生組みんなで集まってオンボロ寮に泊まり込みだ。夕飯を食べてから勉強会が始まったので、確かに外はもうとっぷり暮れている。
「ううん、室内で出来る運動だよ。自分の故郷にあった全身運動が出来る体操なんだ」
ある程度周りと距離を取れれば、誰でも出来るよ、と続ければ、興味を持ったらしいデュースが「僕はいいぞ」とまず同意してくれる。
「俺も、ちょっとした息抜きにならいいぜ」
ついでジャックも同意してくれ、グリムが「なあなあ子分、俺様でも出来るのか!?」と目をキラキラ輝かせる。
逆に反対の意を示したのはセベクであった。
「いや、運動などしている余裕はあるのか? 特にそこの3人は!」
そう、エース・デュース・グリムを名指しするセベクであったが、
「大丈夫大丈夫! これ、3分で出来る体操だから!」
3分くらいならそこまで勉強に支障はないでしょう?と続ければ、今度はエペルが目を丸くした。
「え、監督生サン…3分で全身を使う体操なんて、ホントにある、の?」
全身を使う運動で、そんな短い体操などこのツイステッドワンダーランドには存在しない。
純粋に驚くエペルに、自分の故郷ではメジャーな体操なんだと監督生は笑って答える。
「しかも音楽に乗って行うものだから、始まったと思ったらいつの間にか終わってるんだよね~」
3分なんてすぐだよ、すぐ!と続けると、『3分』というキーワードにピンときたのだろう、今度はオルトが目を輝かせた。
「ねえ監督生さん、3分ってもしかして!」
「うんそう、前にオルトくんにお願いしたアレだよ!」
そういえば音源を作ってもらった時に体操は披露していなかった監督生である。そんな訳でここに居る全員が知らない体操なのだと言えば、本当に軽い息抜き程度ならば、とセベクも、少々好奇心を刺激されたエースもまあやってやってもいいけど~、と同意をしてくれた。
そうと決まれば後は場所の確保だけだ。談話室の中心に置かれた勉強会用の机や椅子などは部屋の脇に寄せ、十分なスペースを確保したら、監督生はみんなの目の前に立つ。
「じゃ、始めよっか。自分はみんなの前でやるから、みんなは自分の真似をしてね?」
そう言って、監督生は口を開いた。
「ラジオ体操第一~!」
その声と共に懐かしいピアノのメロディが流れる。メロディの発生源はいつの間にやって来たのか、オンボロ寮に住まう太っちょゴーストが手に持ったミュージックプレイヤーだ。
「まずは背伸びの運動から!」
1、2、3、4、と声を出しながら、腕を上げ、横に移動させ、最後は下へと下ろす監督生。目の前に並ぶ皆も監督生に倣って腕を動かしている。
続いては腕と足の運動だ。両腕は肩くらいまでの高さまで上げ、同時に屈伸運動を行う。カクカクと膝を曲げ伸ばす動きにそういえば昔、バランスを崩してこけかけた事があったな、なんてしみじみ思い出す監督生。みんなは体幹がしっかりしているからか、いつかの監督生のようにバランスを崩す事は無かったが。
次は腕を回す運動。横から振り上げた腕を、そのまま下へとまるで円を描くように動かす。この時、意識して肩甲骨を動かすようにすると結構気持ちいいんだよね、なんて言いながら、グルグルと腕を動かす。しっかりお互いの間隔を取ったからか、誰かの腕が誰かにぶつかる、といったトラブルは無さそうだ。
その後は胸を反らす運動。普段は縮こまった胸筋を開くように、腕を開くと同時に胸を反らす。この辺りは勉強で凝った部分を動かすからか、エースやデュースがちょっとだけ顔を顰めていた。まあ、その痛みも大したことは無さそうだが。
お次は身体を横に曲げる運動だ。腰に手を当て、反対の手を持ち上げ反対側へ。腰回りの筋肉を伸ばすのだが、振り上げた腕の動きの勢いが強いとつい肩に負担がいってしまう。現に、今度はエペルが勢いをつけすぎて腕が吊ったような感覚を覚えたのだろう、顔をわずかに顰めていた。
左右が終われば次は身体を前後に曲げる運動だ。前に、後ろにと体を倒せば背筋と腹筋が伸びる。ジャックやセベクなんかは前屈で床まで届きそうだよな~、なんて思った監督生である。自分も前屈しているから見えないけど。
前後が終わればお次は身体をねじる運動だ。腕を振り回す形になるが、こちらも誰かに当たる事はなく、みんな己の体操に集中している様子だ。
そして腕を上下に伸ばす運動。1、2、3、4の掛け声に合わせて腕を肩・頭上・肩・下へと順番に動かしていると、思っていた以上に真剣な表情で体操を行うセベクと目が合った。そのあまりの真剣さに噴き出しそうになれば、それを察知したのだろうセベクに睨まれた。ゴメンて。
次は斜め前屈と胸を反らす運動だ。体感的に先ほどの胸を反らす運動よりもさらに胸が反っているように感じる監督生である。グリムもここまでしっかりついてきているのか気持ちよさそうに体を伸ばしている。
その後は身体を回す運動だ。腕を伸ばし、円を描くように体を動かせば、お腹周りの筋肉が刺激される。彼らは突然変わった曲調に少々戸惑っていたが、そんなもの、気にしたら負けである。監督生自身、なんでここだけ曲調が違うのか、理由を知らないので。
そろそろ終わりが近付く両足で跳ぶ運動。事前に床に足をつけておくようオルトに言っておいたので、彼も含めた全員でピョンピョンと軽快に跳躍する。一応音楽に合わせるように高さを調整してくれているのか、みんな高く飛びすぎて他の面々と飛ぶタイミングがズレる事は無かった。
そして、再び腕と足の運動。2度目の動きだからか特に問題なく運動を終える。
最後に深呼吸。最後まで腕を振り上げ、ゆっくりと下ろしながら深く息を吸い、肺の酸素を全て吐き出す。それを数度繰り返せば、音楽も終わってラジオ体操は終了だ。
「えっ、もう終わったのか!?」
最初に驚いたのはエースだった。次いでセベクも「あっという間だった…!」とちょっと感動している。
「3分ってこんなに短かったのか…それに、何か体が楽になった気分だな」
「うん。本当に、全身を使った運動、なんだね」
結構気持ぢえがった、かな?なんて呟くエペルは体操が終わったもののまだ軽く腕を回している。
「凄いな、こんな短時間でここまで体を動かせるなんて…!」
「うん、みんな全身の筋肉を使ってたよ! 監督生さんの故郷って凄い体操があるんだね!!」
デュースも短い時間での全身運動に満足げだし、オルトは生体スキャンによる科学的な見地で述べている。それだけこの体操は運動に適しているという事だ。
「ふなぁ! 俺様、最後までちゃんと出来たぞ子分!」
「うんうん、グリムもお疲れ様!」
嬉しそうに監督生の元へ飛んでくるグリムを労う監督生。そうして改めてみんなに向き直り、
「今のが自分の故郷では有名な『ラジオ体操』。その名の通り元々はラジオで放送されているもので、今でも毎日放送されている、自分の故郷の国民は知らない人が居ないであろう超有名な体操なんだよ!」
そう、ラジオ体操は戦後日本から放送が開始されたラジオ体操は今でも毎朝6時半に放送される超長寿番組だ。きっと誰もが小学生の体育や、夏休みの毎朝にやっているであろう有名な体操だ。どころか、社会人でも会社が採用している所もある運動でもあったりする。
「自分は子供の頃からやっていたから、音楽さえあればいつでも出来るよ! この体操、体育の前の準備運動にも採用されているから、良かったら皆もまたやってみてね?」
必要なら音源はいつでも渡すよ!と笑う監督生に、体操が始まった当初より感じていた疑問をぶつける。
「そういえば人間! ラジオ体操“第一”と言っていたな? なら、第二もあるのか?」
セベクの問いに「もちろん!」と監督生は頷く。が……
「確かラジオ体操は第三まであった…ハズ。でもゴメンね、第二までは自分もやった事あるけど、第一と比べて頻度はそんなに無いから、第二の方はあんまり正確には覚えてないんだ……」
曲調もガラリと変わるから、正直第二は披露できる自信が無いんだと困ったように答える監督生であった。
あんまり伝道者っぽくない内容ですが、一応布教(?)しているって事で。
ジャックとセベクは間違いなく姿勢正しく勉強して肩こりとは無縁そうですが、それだと話が進まないので全員勉強後は多少の肩こりを感じているって事で。
元ネタって程でもないですが、通ってる整体にて「ラジオ体操は全身運動だからすごくいいよ」って教えてもらったので、そこを意識しています。
話を書きながら以前某国でラジオ体操やってた話を思い出してました。ちょっと調べたらもう10年以上前の出来事だったんですね…(;^ω^)
2022年11月14日:twst夢100users入りタグ追加ありがとうございます!
---------- 以下読後推奨 ----------
監督生
身体動かしてちょっとすっきりした。この後も勉強頑張るぞ!ヽ(-´ω`- )ゞ
エース
なんで勉強の後に運動までやんなきゃなんねーの馬鹿じゃねーの?って思ってた。なお体操後の感想はま、まあ気分転換にはなったんじゃねーの?に変わる。
デュース
こんな簡単な動きなのに身体がすっきりしたぞ!すごいな監督生!と目を輝かせた。後に音源を貰って部活の準備運動にも取り入れた姿が目撃される。
ジャック
短い時間でこれだけ効果のある体操があるなんて、と純粋に関心した。部活時のデュースの準備運動では彼と一緒に音楽に合わせて体操する姿を目撃される。
エペル
ボクもデュース君やジャック君みたいにマジフト部に持ち込もうかな、と考えている。部員の多さや部長たちの許可を貰っておいた方がいいかもしれないから、今はまだ保留中だけど。
セベク
本当に3分で終わる体操だったと驚いた。でも何だかんだみんなと一緒に何かするのは楽しい。人間、次の勉強会でもまたやるぞ!!!
オルト
初めて聞いた鼻歌をデジタルサウンドに起こしたら、まさか体操に使うものだとは思わなかった。ボクはみんなみたいに肩が凝るって感覚はわからないけど、みんなと一緒に体操をするのは楽しかったよ!
グリム
魔獣なのでみんなの言う“凝る”感覚はあまりよくわかんないけど俺様にだって出来るんだゾ、とご満悦。だから子分、もっと誉めるんだゾ!!