忍と書いて刃の心
とても嬉しいので可及的速やかに設定を生やしました
「……ふむ、よかろう。七の忍全てがお前の力を認めた。「忍者」秋津茜よ、今貴様には三つの道の前に立っておる」
薄暗い、油を貼った皿に灯心を入れた灯台の明かりのみが照らす部屋の中に少女は立っていた。
「天を舞う竜の如き、即ち我が龍忍道」
「深淵に座す蛸の如き、即ち我が蛸忍道」
「闇に潜む狼の如き、即ち我が狼忍道」
しかして声は少女の他に七つ、その中から三つの声が少女へと問いを投げる。
「汝の縁は三つの道を作った、只なる忍の道もあろうが……我らとしてはいずれかの道を選ぶことを推奨する」
ここは職業「忍者」のみが訪れることができる「忍の巣」、そして少女……秋津茜は今、忍の巣即ち全ての忍者の頂点に座す七人の「星忍」が見つめる中、暗闇に立っていた。
NPC達は「七つの最強種」に関しての知識を十全に備えているわけではない、オルケストラに関しては非常に曖昧な記述のみが文献として残るのみであるしウェザエモンの存在はそれ以上にぼやけているはず。だが世界の最前線を勝手に突き進む知り合いを持つ秋津茜であるからこそ、
「龍」
「蛸」
「狼」
「蛇」
「士」
「兎」
「奏」
すなわち七人の星忍達が正しくユニークモンスターに対応した名を持っている事が理解できていた。
何故彼らがプレイヤーすら最近まで知らなかった情報を持ち得ているのか、それを知ることはできない。秋津茜のコミュニケーション能力をしてなお闇に声だけを存在させる七人の忍者達は必要なことだけを喋り、不必要な言葉には何も返さないからだ。
故に、【ライブラリ】のように世界観に関してそこまで執着していない秋津茜は早々に世界の秘密への追及を諦めて目の前に提示された条件を熟考…………するようなことは特になく、脊髄反射のごとく即答していた。
「龍忍道でお願いします!」
「………フッ」
「くっ………」
「蛸はダメか……」
「蛸はダメであろう、女子ぞ」
「蛸はな……」
「………世知辛い喃、蛸忍の」
「???」
「………気にせずとも良い、戯言よ」
今何か、壮絶に俗物な会話が聞こえた気がした秋津茜であったが気にしなくていいと言うのであれば気にしなくていいのだろう。そうしてしばらく待っていると、秋津茜の前に持ち主なく宙に浮かんだ巻物が一つゆっくりと落ちてくる。
思わず、といった様子で受け止めてしまった秋津茜であったが、特に問題はないようで「転職イベント」はつつがなく進行していく。
「その巻物に記されし術の悉くを習得せし時、再びここに来るが良い……その時こそ、貴様に「龍忍聖」の証を授けよう……故に。我ら七星の忍の名に於いて、今この時より忍者秋津茜を「龍忍」として認める」
異議無し、の声が六つ響く。老若男女様々な声がそれを最後に闇の中に溶けて消えて………ふと、秋津茜が周囲を見回せばもうそこにはなんの気配もない。
『隠し職業クエスト「星見の問答」をクリアしました』
『ジョブチェンジ! メイン職業が「龍忍」に変更されました』
『称号【双竜並び立つ】を獲得しました』
「えと、もう帰っていいんでしょうか……?」
止める声はない、ならばもう帰っていいと言うことなのだろう。星見の間、なる部屋より一礼の後に退出した秋津茜は長い長い廊下を歩き、階段を上り、壁に張り付いて隠し扉を回転。通常「忍者」のプレイヤー達がギルドとして利用する忍の巣へと戻る。背後で隠し扉がロックされた音がした。
「……………」
「…………」
視線が、刺さる。当然だろう、他のプレイヤーがどうやっても入れない隠し扉の中に入ったプレイヤー……それも、新大陸で一躍有名人になった「龍狩り」の少女である。最大分母の少ない忍者ジョブであるがそれでもプレイヤーの目はある、「龍狩り」の少女が開かずの隠し扉の先で何を見たのか………気にならないはずがない。
「あの、道具を買いたいんですけど……」
「御意に……」
「……ねぇ、秋津茜さん、でいいのよね?」
「はい?」
そんなことは知る由もない秋津茜はギルド内で主に忍者向けのアイテムを販売するNPCに話しかけていた。が、その裏で熾烈なアイコンタクトの末、同性ならば多少は話しかけ易かろうと言うことで選ばれたくノ一のプレイヤーが恐る恐るといった様子で声をかけた。
「もしよければ、あの中で何があったのか教えて欲しいのだけど……」
「あ………えーと、」
言い淀む姿に周囲のプレイヤー達からも「やはりか……」といった雰囲気が漂う。
だが、しばし考えた秋津茜は「サンラクも何やら仇討人なる職業の情報を明かしているようだし問題ないだろう」と結論づけて口を開いた。
「えーと、隠し上位職業? みたいなものに転職してました! 「龍忍」? って名前です!!」
「そ、それ詳しく教えてもらえるかな!?」
「あ、俺も知りたい!」
狐面で表情こそ伺えないが、その声色に秘匿の気配はない。ならば是非その秘密を聞きたいとこの場にいるプレイヤー達が集まり始める。とはいえ秋津茜も厳密に何が条件で隠し職業を見出したのか確信を持っているわけではない。
そんなこんなで、秋津茜が新大陸へと戻ったのは当初の予定より随分と遅れていたのだった………
◇
「遅い!」
「ごっ、ごめんなさいノワルリンドさん!!」
「全く……我の寛大さに感謝するがいい!!」
「はい……でもノワルリンドさん、なんだかこう………………ちやほやされてません?」
「ふン、この我の偉大さをもってすれば当然のことだ!!」
いやどうだろう、どっちかというと犬とか猫を可愛がる感じなのでは……と、スカルアヅチ城内に作られた「黒竜の間」で踏ん反り返る大型犬サイズの黒いドラゴンを見つつ秋津茜は思う。この間も(とはいえ竜災大戦よりそこまで時間が経過しているわけでもないが)、以前までの険悪さはどこへいったのかと問いたくなるような様子の笑みリアがノワルリンドの餌付けに挑戦していたし、ノワルリンドを討つために建てられたはずのスカルアヅチのマスコットのような存在になりつつある「盟友」の姿に秋津茜とてほんの少しだけ思うところがないわけでもないが……
「ノワルリンドさんが受け入れられてよかったです!!」
「……ふん」
それはそれ、これはこれ。元々敵としてデザインされていたノワルリンドがプレイヤー達に友好的に受け入れられていることに素直な喜びを見せれば、ノワルリンドはどこかバツの悪そうな顔で顔を背けた。
「そんなことよりもだ、秋津茜貴様用事とやらは終わったのだろう。いくら我とてこうも寝そべっていては鈍る、狩りにいくぞ!!」
「リヴァイアサンにでも行きますか?」
「馬鹿を言え、聞けば一面金属の身体を持つ魚など食いでがないわ。我が領土に残った眷属共にノワルリンドの凱旋を見せるのだ」
ノワルリンドが早期に受け入れられたのにはもういくつか理由があった。ずばり、竜災大戦によって新たに遭遇した新種族達……そして何より、沖に浮上した超超超巨大宇宙船「リヴァイアサン」の存在。身も蓋もなくいってしまえばイベントが終わったNPCなんぞに構っている場合ではなくなったのだ。
「沼地に帰るんですか?」
「……ふン、ここの居心地もまぁ悪くはない。顔を見せに行くだけのことよ」
「成る程、里帰りですね! 行きましょう!!」
それに、過酷な道のりの中で新たな力「龍忍」について確かめることもできる。特に反論もなく秋津茜はノワルリンドと共に初めて二者が遭遇した湿地帯へと向かうことにするのだった。
……
…………
………………
基本的に「忍法」は魔道書に相当する「巻物」を読み解くことで新たな魔法を習得する。そして習得の条件は基本的にプレイヤーのMP量などが条件になることが多い。では、例えばだが……………
現時点で最上位のレベルとステータスを持つ秋津茜が隠し上位職業向けの巻物を呼んだ場合どうなるのか。
「刃隠心得龍の巻! 【龍鱗腕】!!」
がいぃん! と秋津茜の素肌を晒した腕に食らいついた小型恐竜の口からありえない音が響く。あまりの「硬さ」に悲鳴混じりの声を上げながら小型恐竜が牙を離した秋津茜の腕には、鱗の模様をしたオーラのようなものが纏われていた。
「刃隠心得 龍の巻! 【龍気揚々】!!」
風が印を結んだ秋津茜を中心に渦を巻く、大気中の魔力を吸い寄せた秋津茜の身体から墨のような黒いオーラが発せられ、振るった短刀からは同質のエフェクトが宙に軌跡を描いた。
「秋津茜! 大きいのが来たぞ!」
「わ、名前忘れたけどトリケラトプスの!!」
ドラクルス・ディノケラスである。サラブレッドの馬を彷彿とさせるが実際は屈強な鹿の胴体に角竜の頭を持つモンスターであり、突進の威力もさることながら鬱蒼と茂る樹海においてステップを入れた不規則な挙動でプレイヤーに襲いかかる強敵だ。だが秋津茜の面で隠れた顔には笑みが浮かぶ。
「ノワルリンドさん! えーと、テンション上がってますか!?」
「てんしょん? なんだそれは! 知らん! だが戦意ならば満ちておるわ!」
「だったらやりましょう! 試したいこともありますし!!」
ノワルリンドから秋津茜の表情を伺うことはできない。だがNPCとてシャンフロシステム、その声色や素振りから秋津茜の感情を判断することなど造作もない。
「応!!」
「刃隠心得……奥義! 【超転身】!!」
ひときわ強い風が樹海を貫いて吹き抜ける。秋津茜の全身が光に包まれ、弾けた衣装を補うようにノワルリンドが秋津茜へと吸い込まれていく。樹海に吹き荒れる漆黒の竜巻の中で、竜と人とが魔によって一つになり………
「よーっし!! 行きますよノワルリンドさん!」
「彼奴めに我らの力を見せてやれ!!」
はたから見ればちょっと頭の調子を疑いそうになる一人芝居を繰り広げ、竜巻を食い破るかのように黒鱗青肌の竜魔人が飛び出した。
対するドラクルス・ディノケラスは膨れ上がった強い気配にもひるむことなく、突進を仕掛ける。ステップを入れながらも殆ど減速しない突撃は樹海において強いアドバンテージとなる……はずだった。
「それは偽物です!」
致命秘奥【ウツロウミカガミ】、ディノケラス自身が虚像を攻撃したのだと気づくよりも先に宙を飛ぶ秋津茜が動き出す。
「刃隠心得 龍の巻……【為龍添翼】! そして!!」
明らかに翼を持つこと前提な魔法により、ヘルメスブートのような空中ジャンプとは根本的に異なる「飛翔」を行なって大地に縛り付けられた角竜へと肉薄した竜魔人はその巨体を掴んで宙高く飛び上がる。
「刃隠心得 龍の巻・奥義!!!」
空中まで掴み持ち上げ運ばれたドラクルス・ディノケラスの巨躯を捻るように掴み抱えながら、その頭部を秋津茜自身諸共に地面へと向ける。そして、竜の翼をひときわ大きく羽ばたかせれば人とモンスター、二つの身体がスクリューの如く高速回転しながら地面へと落ちて………
「【撃龍錐】!!!」
さながらドリルのごとく、ドラクルス・ディノケラスの身体が地面へとねじ込むように叩きつけられた。
だが、これで終わりではない。
「まだ行ける……まだ繋げられる!!」
それはスポーツマンとしての欲求か、それともゲーマーとしての欲求か。奥義を繰り出してなお「次」を見出したことで秋津茜の身体はさらなるコンボを実現すべく勝手に動いていた。
撃龍錐を完了したことで掴んでいたディノケラスから距離を離しつつ、空中で身をひねって未だ息絶えてはいないディノケラスへと相対するように着地。投げ技のためにしまっていた兎花【桜】を構えた秋津茜は、翼を動かし地を這うように飛び駆ける。
「致命忍法……【満開咲閃】!!!」
墨色のエフェクトに、花びらが舞う。一直線に駆け抜けた刃の軌跡は違うことなくドラクルス・ディノケラスの心の臓を隔てる胸の肉へと命中、怒涛の連続攻撃を受けたディノケラスは、さしもの「竜化末期」であろうと耐え切れる筈もなく、その身を崩壊させた。
既に、当初戦っていたドラクルス・ディノトリアシクス達は散り散りに逃げてしまっている。角竜は地に伏し、この場における最強が誰であるかを証明できる第三者はいない。
だがそれでも、
「私たちの勝利ですっ!!」
突撃の勢いそのままに飛翔し樹海を突き抜けた竜魔人が背の高い木の上に着地する。
この場における最強が誰か、それは外でもない一人と一体だけが知っていた。
…………………………
……………………
………………
…………
……
余談ではあるが。
「如何用だ、龍忍秋津茜よ……」
「あはは、あの…………全部覚えちゃったんですけど、どうすれば………」
「!?」×7
新たな「龍忍」が生まれて、次の朝日も出ぬうちに新たな「龍忍聖」が誕生することになった事を知るものは殆どいない。
本人たってのご希望で匿名ということにさせていただきますが、なんとファンアートをいただきました
基本的に各所のエゴサはしてるマンなのですが、まさか直接プレゼントを頂くとは思いもよらず……まさしく忍殺されたモブの如き心境でございます。嬉しすぎて忍者関連の設定が新しく生えちゃいましたからね、どうしようこれ(でもなんとかなるしなんとかする)
・星忍
ユニークモンスターに対応する名を持つ彼らは全部で七人存在し、性別年齢諸々は謎に包まれている。
何故彼らがユニークモンスターについての知識を持っているのか、それを知るにはプレイヤーはまだ無知に過ぎる……というか秋津茜やサンラクは割と星忍の秘密について王手をかけてるけど肝心の王将が強過ぎるのでまだ不明。
七つの最強種と密接に関わった優秀な忍者へと通常の上位職「上忍」とは異なる隠し職業「○忍」に就職するために関わることになるNPCであり、その正体は謎のまま………の筈だったが秋津茜が速攻で龍の巻を全編読破しちゃったせいで星忍「龍のテイギョク」さんだけ速攻顔バレした。テイギョクさん壮絶に腑に落ちない顔してたよ
関係あるようで関係ないようであるかもしれない話だが、作者は忍者キャラならドルゲユキムラとかが好き。主役すぎないけどこいつがいないとハッピーエンドにはならなかった、って脇役には魅力があるのじゃ……
あとちょっとだけリアルな話をさせていただきます
頂いたイラストですがフリー素材ではありません。
匿名でのご希望のため名前は出せませんが著作権は硬梨菜にはないため、商業などの使用許可は全てお断りさせていただきます。なので作者に使用許可とか聞かれてもNOでしかアンサーを返せないです。
もし仮に無断使用されていた場合、作者が描いてくださった方への申し訳なさでヘソを曲げて更新を止めます、そして戦国で鍛えられた忍殺のワザマエを見せることになります。