ミユサワのいる生活~最高のファンサ~①
モブ視点のプロ御沢ちゃん。実際に御幸先輩や沢村くんを応援しに球場に行きたい気持ちが溢れて生まれてしまったお話です。
病んでいた時期に癒しが欲しくて書いていたのですが、球場諸々がかわってすっかり詰んでしまいました。
球団チーム名は考えていたものと某チーム名が偶然かぶったのでライバル球団もあわせてみました。
前作、『……なめんなよ?』にたくさんの反応ありがとうございます。
近々続きをあげられるはずなので、良かったら読んでくださると嬉しいです。
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私には、応援しているプロ野球選手の推しがふたりいる。
ひとりが地元の球団"くまちゃんず"――こと、北海道ダイヤモンドベアーズの御幸一也捕手で、もうひとりは同球団の沢村栄純投手だ。
このふたりは高校からのバッテリーで、御幸選手が一学年上の先輩。ふたりとも高校卒業後にドラフト一位指名でうちの球団に来てくれたのだけど、沢村投手は所謂はずれ一位というもの。六球団競合の降谷暁投手をとりにいって、しっかりはずしてしまったのだ。
うちの球団、本っ当にクジに弱い。最近Bクラス続きだから競合したら有利と思いきや、クジになるとてんでだめ。やっぱりあの世代は地元の選手がどちらか欲しかったみたいで、本郷正宗投手と迷った挙げ句、降谷投手にいったということだったけれど、本郷くんもかなりの複数球団が競合していたから、どちらにしても無理だっただろう。
だって、監督がクジ引きの練習をしてしまうくらいに、クジ運がまるでないのだ。いやいやクジ引きの練習ってなんだよいみがわからないよね。なんて笑ったものだけど、正直全然笑えない。
それで、ハズレ一位の一本釣りで来てくれたのが沢村投手だ。今ではすっかり私の推しとなった"栄ちゃん"だけど、正直に言ってしまうと、ドラフト当時私は降谷くんに来て欲しかった。
豪速球右腕であのバッティングは、海を渡ってアナハイムの球団に行ってしまった私の神推し二刀流選手にまる被りな気がしたからだ。
だから降谷くんのことは青道高校の頃からそっと応援していたし、『北海道だし、とりにいくよね……うん、絶対いく!』って思っていた。で、その謎の確信通りに指名はしたけど、見ての通り。……まぁ降谷くんが複数競合しないわけがないし、うちがクジで引き当てられるわけもないから、そこまで期待はしていなかったとは言えやっぱりショックだった。競合の末、降谷くんを見事に獲得したのはうちのライバルでもある南の球団、福岡ブラックウイングス。ここはうちと相反するかのようにクジ運が良すぎる。常勝球団で不利なはずなのに何故いつも引き当てられるのか本当に謎だ。
そんなちょっぴり寂しくも残念な気持ちのドラフトだったとはいえ、うちに来てくれたからには応援しないなんてこと絶対にありえない。ようこそベアーズへ! 全力で応援するから、がんばれ沢村くん! という気持ちで私もちゃんとお迎えした。タオルもちゃんと買ったし誰であろうがくまちゃんずの仲間だ。一方周りのくまファン仲間は『ギャー! あの"おしおしの栄ちゃん"が、うちにきた!? 球団ナイス過ぎる最高ありがとうー!』ってめちゃくちゃ興奮していたのを今でも覚えている。本当にめちゃくちゃ喜んでいて、沢村くんの人気にびっくりしたものだ。
それもそうだろう。沢村くんは変則左腕で青道高校のエース。変化球とコントロールの良さが魅力の投手だが、かなりのクセ球使いで球速はそこまでないはずなのに兎に角凡打になる。降谷くんファンの私でさえ知っているくらい有名なこと。いくら攻守にわたり豊作な世代のドラフトだったとはいえ、この沢村くんを一本釣り出来たことは正直驚きだった。でもいつだかの記事で見たのだけれど、降谷くんとれなかったら沢村くんにいくって球団はちゃんと決めていたらしい。
だから、栄ちゃんがうちに来るのは野球の神様がさだめた運命だったのだと、私たちは勝手に思っている。
その持ち前の豪速球で三振を重ねる右の本格派な降谷くんに対して、片や沢村くんはあまり三振はなくゴロとかフライアウトが多いタイプ。淡々と投げる彼に対して沢村くんは兎に角フィールドでも賑やかで、『ガンガン打たせていくんで、バックのみなさんよろしくおねがいしますっ!』というマウンドでの口上が定番だ。
うちに今まで来てくれた投手にはいなかったタイプだったし、私もはじめは面白い投手だなぁくらいの感情だった。けれど、実際に試合で見て応援をしていくにつれ、沢村栄純という投手のそのマウンドでの立ち振舞いに、どんどん惹かれていった。
沢村くんはひとことで言えばチームのムードメーカー。容姿はつり目がちな一重の瞳が可愛らしいファニーフェイスで、人懐っこいせいもあり入団してすぐにチームに溶け込んだ。BBBBBとかくまの番組でも元気いっぱいでおちゃらけているし、さすが『北の第二の元気印』何て言われるだけはある。だけど、なんていうのかな……凄く引っ張る力を持っているというか。声が大きくてめちゃくちゃ元気なせいで、ただの賑やかしっぽく見えるかもしれないけれどそうじゃなくて。マウンドに立つと凄く凄く本当に頼もしい存在なのだ。
中でも私が一番ひかれたのは、エラーした味方がいても気にしないどころか、しっかり鼓舞できちゃうところで……。
あれは、忘れもしない入団三年目の昨季。沢村くんのプロ初完封がかかっていた緊迫した試合で一点リードの七回表、それまで被安打五無失点で抑え続けていた時のことだった。
先頭は二番打者、三塁線に少し強めに打たれた打球だったけれど、真正面に入った同期の三塁手がトンネル。その後カバーに入った左翼手も送球の際に慌てたのかファンブルしてしまいうまく処理が出来ず、その間に走者は一気に三塁まで到達。なんといきなりノーアウト三塁の大ピンチになってしまったのだ。ドーム内は、ぎゃあぁあーやら、ひー! やら、うわぁあーー! やらと取り敢えずもうめちゃくちゃに悲鳴があがった。けれどもその後直ぐにスタンドの皆が思わず叫んだがんばれーー! は最大級の声援だったと思う。声援をおくりながらも、ドキドキがとまらない。だって、あと少しでプロ初完封が達成できてしまうのだから。
けれども、そんな大ピンチに震える私たちとはうってかわって、その時の沢村くんは凄く落ち着いていた。勿論一瞬いつものようにギャンっと猫目(可愛い、何て言っている場合じゃない)になったけれど、直ぐに冷静さを取り戻していた。マウンドに出来た円陣の中、完全に顔面蒼白な同期三塁手の傍によって、『大丈夫だから心配するな!』って笑顔で声をかけたのだ。もうその時点で、うわぁちょっと沢村くん待って無理無理素敵すぎるーやばいーって、胸が熱くなって私の涙腺は緩みまくりだった。きっとそれは、くまファン皆が思ったことだろう。
暫しの間マウンドに出来ていた円陣が散って再び緊張の時が戻ってきた。緊張に震えるレフスタ。だが片や相手チームはこの『なんかキター!』な状況に勿論大興奮だ。大丈夫。絶対に抑えられるよ……ひとつずつ、がんばれ沢村くん。みんな。って、もう手に汗握りながら祈る気持ちでドキドキハラハラしながら見守っていた。
すると沢村くんは、その後のクリーンアップを内野フライでワンアウト。ピッチャーゴロで三塁ランナーを牽制しツーアウト、最後スリーアウト目は三球三振で仕留め、なんとホームを踏ませずこの超絶な大ピンチを凌ぎきったのだ。見事に同期くんの失策をフォローしたその姿がめちゃくちゃかっこよくて涙が出たし、ドーム内は栄ちゃんコールがいつまでも響き渡っていた。
おまけにその後直ぐにその同期くんが、相手スタンドへダメ押しツーランをぶちこんで、見事沢村くんはプロ初完封! もうひとりのヒーローは決勝点をあげた御幸選手でバッテリーヒロインだったけど、沢村くんは同期くんのダメ押しや、仲間の好守備に凄く感謝をしていて、そんなところにも心を打たれてしまった。あの時の試合はずっと心に残っているし、思い出すとやっぱり感極まって今でも涙が出てきてしまう。それからすっかり沢村くんが大好きになってしまって、今やすっかり『栄ちゃん』推しになってしまった……というわけだ。私だけではなく、くまファン皆が胸をうたれた試合だったと思う。だってその後暫くショップもオンラインも、栄ちゃんのレプユニとタオルが入荷待ちだったから。今ではその時の調子によって、『素晴らしきスーパーA純!』とか『今日はだめだめC純だな~』とか弄られちゃっているくらい、くまファンはみんな栄ちゃんの虜だ。
そんな栄ちゃんのそういうエースらしいところが大好きな私は、今ふたりいるくまちゃんずのダブルエースに加えて栄ちゃんもエースになってトリプルエースになってくれないかな……なんて、密かに願ったりしている。今季は既に七勝あげているし、きっとプロ初二桁もあるだろう。うんうん、楽しみだ。
さて、その試合で決勝点をあげた私のもうひとりの推し。元気いっぱいの沢村くんを毎試合巧みなリードで牽引しているのが御幸一也捕手。
御幸くんのことは、降谷くん同様に青道高校の頃から知っていたし、こっそり応援もしていた。やっぱり降谷くんとのミユフルバッテリーが兎に角大好きだったのもある。私はくまちゃんず以外、チームを応援するというよりは、選手個人を見ている感じだったから、降谷くんには御幸くんって思っていた。だから沢村くんがエースナンバーをつけるようになってからはやっぱり少し寂しい気持ちになってしまったのも覚えている。……今では『あぁああぁあ~~なんであの頃栄ちゃん見てなかったんだよおぉ~私のばかぁ~~!』って思い切り後悔の嵐で自分を殴り倒したいし、タイムマシーンで過去に戻りたいくらいだけれど。あの頃は降谷くんには絶対に御幸くんって思っていた。降谷くんが地元出身っていうのもあるけど、剛腕で二刀流で……でもいつかの番組かなにかで青道に来たエピソードを知ったのが一番大きかったかもしれない。球を受けてくれる仲間がいなかったなんて悲しすぎるし、泣いてしまった。だから御幸くんが特別なんだなって、そんなふたりの関係性にもひかれていたのだと思う。ライバル球団に行ってしまった今も、成宮くんとのダブルエースにエールをおくっている。……相変わらずの豪速球で最近は私の海の向こうの神推し天使くんに近い急速が出ているとか……くまじゃない時に頑張って降谷くん。と思いつつドームのスピードガンでちょっとまたピンク色に光り輝く『165』の文字は見てみたい気もするのでちょっぴり複雑なところだ。
そんな降谷くんの特別でもあった御幸一也捕手は、兎に角顔が良いからそれだけでもう青道の頃からめちゃくちゃ人気があったようで、うちに来てからもイケ捕イケ捕と言われまくっている。確かにかっこいいのは認めるけど、私にとっての御幸くんの一番の魅力はやっぱりあの強肩強打だ。扇の要で投手をリードし、みんなを纏める立場にありながら、打てるというのは本当に凄いし、盗塁を刺すあの強肩はたまらない。盗塁阻止率ナンバーワン捕手とか、もう本当にやばすぎてなんといったらいいか語彙がなくなってしまう……何度あの御幸バズーカに助けられたことか。うちは正捕手がいなくて、その時の調子や投手との相性を見て組ませたりするのだ。だから、沢村くんが投げる時は決まって御幸くんが受けているのだけれど、さすが青道高校時代の甲子園優勝バッテリー。当時私は見えていなかったけれど、ふたりには特別な何かがあるのだろう。沢村くんが投げた時だけは御幸くんは絶対に無双するという決まりのようなものがいつしか出来上がっていた。たとえ前日の試合で五タコだったとしても、沢村くんが投げた試合では猛打賞どころか固め打ちでおまけに決勝ホームランまでプレゼントしてしまったりするのだ。はじめは『いやいや、裏ローテだし』とか『エースはないだろ。無理だろ』とかくまファンも半信半疑だった。だが、本当に関係ない。沢村くんが投げればエースだろうが苦手なハツモノだろうが必ず打つし打点をあげる。だから今や"栄ちゃんにはみゆかず"という当たり前の構図ができあがってしまっている。くまちゃんずの試合では滅多に野次が飛ばないのだが、最近じゃ『こらーみゆかず! 栄ちゃん以外でもちゃんと打てー!』という野次が飛ぶのまで、当たり前になってしまった。
とまぁ長くなったが、私の推しである沢村栄純投手こと『栄ちゃん』と、御幸一也捕手こと『みゆかず』の『ミユサワバッテリー』は、くまちゃんずの中でもイチニを争う最高最強に素敵なバッテリーなのだ。
そんなみゆかずは今季でもうプロ五年目で、栄ちゃんもプロ四年目になった。ふたりともこれまで大きな怪我もなく比較的順調に来ていてほっとしている。
ふたりは本当に仲がよい。一緒にヒロインあがれば何故かみゆかずのカメラレンズに一緒に栄ちゃんがサインをしている。
このままの関係が続いていくんだと、私も信じてやまなかったし、くまファンみんな思っていただろう。
けれども、シーズンも半ばにはいった頃。
みゆかずが調子を落としたことをきっかけに、……――――それははじまった。
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あれは、……今から三ヶ月ほど前……交流戦に入る少し前のホーム六連戦でのこと。表の頭、火曜日初戦の先発は栄ちゃんで。前日からしっかり予告も出ていたし、私はその日それをめちゃくちゃ楽しみに仕事をしていた。
私の仕事は所謂受電業務。あがりは定時で六時。試合のプレイボールも六時だから、どうがんばっても開始には間に合わない。どれだけ頑張って急いで帰り支度をしても会社を出るのはその三分後とかで、そこからダッシュで最寄りの地下鉄の駅に走るのだけれど、大体ドームの自分の席(年パスがあるので)に着けるのは早くても六時四十五分頃だ。試合展開によっては、四回がはじまっていることも、……あったりする。サクサクは、いいのか悪いのかなんとも微妙な感じだ。
なるべく急ぎたいから地下鉄に飛び乗ってひと息ついてからパテレや速報で試合を追うのが大体なのだけど(パテレだけだとタイムラグがある!)、先発によってはしごおわ! したら即スマホを開くこともある。ほら、ルーキーくんの初登板! とかはやっぱりなるべく早く見たくなってしまって、そんな気持ちには勝てないのだ。
いつもお客様からの電話は五時で終わって、その後の一時間は基本的に業務の電話しか入ってこないから、受けても二本くらい。だから、大体毎日定時であがれるのだけれど、この日は運悪くその業務の電話に終業間近に捕まってしまい、……定時にはあがれなかった。数人いるオペレーターのなかで誰が鳴るかわからないので、この辺りはまさしく運だったりする。仲間たちが次々と帰って行くなか、笑顔で対応しながら心では泣いてみんなにお疲れ様と手をふる。案件はこれまた運悪く、ちょっと面倒くさい感じだった。内容を聴いて一度保留にし、管理者にエスカレをして……とそんな中でも私の頭にはくまの試合のことがちらついてしまう。あぁもう本当に根っからのくまバカだなと改めて実感するのだ。
結局今日だけでは終わらず、明日お客様への発信を承ることで案件はひとまず終話した。
……栄ちゃんだから、みゆかずの援護もあるし、まぁ大丈夫か。
先発は沢村栄純。先にも話した通り、たとえ栄ちゃんが打たれてもみゆかずがそれ以上に打ち返すので、そのあたりは全く心配していなかった。ただ何かアクシデントとかで栄ちゃんが早く降りてしまわないことが心配なくらいで。まぁそんなこと滅多にないし考えるべきではないか。そうだ! かえって誰かの初登板とかにぶつからなくてよかったかも、なんて思いながら私は電話を受けた後処理として履歴を打ち込むべくカタカタとキーボードを叩いていた。
お先に失礼します。お疲れ様でした。
打刻して管理者に挨拶をして、ブースを出る。時間は七時少し過ぎたところ。思ったより早くあがれてよかった。この分なら半になる前には席にも着けるだろう。さて、のんびり試合見ながら向かおうかな。もう年パス仲間ちゃんは先に着いて応援している頃だ。帰り支度をしながらいつもの様にパテレを開いたら、丁度三回表ツーアウト目をとったところだった。
あ、栄ちゃん投げている。よかった。
手で狐さんみたいなサインをつくって、バックの皆に笑いかけている姿を見てほっと安堵する。あぁ~いつもの栄ちゃんだぁ~ほんとめんこい涙出る。じゃなくて、と気を取り直して見たスコアは、……得点の表示にはゼロが並んでいる状態だ。点はとられていないし、とれてもいない。まぁ三回だしまだまだか。と思っていたらたまたま映った得点ボードの安打数が映し出された。
え、もう六本も打っているの? なのに無得点とは……。
これはいつもの残塁くまちゃんずが発動したと見える。まぁでも向こうはまだヒットなしか。ふんふんふん。把握して歩きながら今度はツイッターで仲間たちの呟きを確認すると、『ナイスA純!』とか『宝石のようなA純』とか言われており、ダイヤモンドの絵文字がめちゃくちゃに並んでいた。これを見るにも立ち上がりはめちゃくちゃ上々のようだ。これ、ヒット六本全部みゆかずだったりして、プププ……と思って、いやいや三回までに六打席まわるのがそもそも有り得ないだろ。と冗談で自身にボケツッコミしつつにやけながらちゃんと確認する。だって、みゆかずは栄ちゃんのためにそれくらいは打ってしまうのだ。
だから、いつかはやり遂げてしまうかもしれない。…………そう思っていたの、だが。
……あれ? 打って、ない……? え。
速報アプリの成績を見て、思わず目が点になった。今日はみゆかずクリーンアップの五番みたいだけれどヒットはない。いや、何度見ても安打もなにもゼロだ。だが打数にはしっかりと"1"が刻まれている。まだ1打席しかまわっていないし、選んだからとかでもない。いつも栄ちゃんの先発の日は1打席目必ず出塁するのにな……と少し寂しく思う。そして、その前の打者の成績を見て、んん!? と違和感に気がついた。
いやいやいや! っていうかこれ、ワンアウト満塁でみゆかずがゲッツーじゃん!
チャンスに強いみゆかずが、栄ちゃんが投げているのに……ゲッツー? ちょっと、頭が追いつかないんだけど、あれは栄ちゃんの仮面をかぶった誰か、とか?
あまりにあまりにもな結果に現実逃避までしかけてしまう。
なんだろう。どうしたんだろう……。
ぼんやりと画面を眺めていたら待っていた地下鉄がようやく来て乗り込む。
今までになかった状況にひどく胸がざわついたまま、私はドームへ向かうべく地下鉄に揺られていた。
なんだかよくわからない焦燥感にかられて、私は駅からドームまで走っていた。とはいえ結構離れているので全速力は無理! でも、いつもなら近くのコンビニでトイレを済ませレプユニにしっかり着替えてから向かうところ、まっすぐドームに向かった。あえて試合は見ないぞとそう決めて、スマホを見ずにただただ先を急いだ。
みゆかずがホームラン、……いやいやもうヒットでいいから、とにかくなんか打つことをひたすら願いながら。
ドームに着いて長い階段を駆けあがりファイブスター専用のゲートにまっすぐに向かう。時間は七時半少し過ぎたくらい。この時間ならどこから入ってもかわらないけど、席から近いのは正面のゲートよりもこっちなのだ。いつもなら参戦前にトイレに寄るけれど、不安感からなのかなんなのかそんな気もない。試合終了まではきっともつ! 最悪YMCAかイニング間で走ればいい。そう決めて先を急ぐ。幸いなことに、今季の席は階段を降りればすぐにトイレがあるから。
選手カラーに彩られた入り口を潜れば綺麗なライトグリーンの人工芝生のフィールドが目の前にひろがった。このなんとも言えない壮大な感覚だけは、今でも変わらず慣れなかった。直ぐ様正面の大型ビジョンに目をうつせば今は五回表ツーアウトでフルカウント。んん? 一点とられて、先制されたの!? フィールド上にはランナーが一、二塁、……三塁とたまって……。って、ギャーまじか! 突然目の前にあらわれた大ピンチ。私は階段の上から思わず叫んでいた。
「栄ちゃんがんばれーーーー!!!」
うわぁ、びっくりした! なんだなんだ? と言うように振りかえられるのももうなれたし気にはならない。そんなことより栄ちゃんだ。がんばれ……がんばれ……。祈る気持ちで見守れば、ふぅと肩で大きく息をつくのがみえた。直ぐ様スマホで球数を確認すると今のが六球目らしい。七球目、八球目、二球連続でファウルで逃げられてしまった。下位打線の様だけれど、今栄ちゃんと対峙しているのは兎に角粘る打者だ。
くっそー流石にしぶといなぁ。簡単には打ちとれないか。
ごくりとその緊張から喉がなる。そうして力いっぱい投げ込まれた九球目。外いっぱいのそれに、打者のバットが空を切る。ットラーイ! と言う球審の卍ポーズが決まったと同時に、わぁあぁあっという割れんばかりの大歓声があがって、栄ちゃんのあのいつものおしおしが聞こえてきた。
は、よかった……よかった頑張った栄ちゃん。びっくりしたよもう~……。
ほっとしたら体から力が抜けてしまって、ゲートの壁に背を預けるとふーっと大きく息をはきだした。
なんとか一失点で凌ぎきった。栄ちゃんえらい! 周りと一緒に手を叩いて拍手で労う。
いつも私がこの階段の上にきたタイミングは、大体誰かが打って走っていたり、ホームランを目にすることが多い。その時に、『あれしなくてよかった』だの、『ここ寄らなくて正解だった』だのと思うのだ。だから、こんな風に来て早々大ピンチにぶち当たることなんてほぼなかったので、マジでめちゃくちゃびっくりした……。
フィールドでは、マウンドをおりた栄ちゃんとみゆかずが笑顔で何か話しながら戻ってくるのが見えて、ふたりの様子に頬が緩んでしまう。もしかして、打てたのかな。お出迎えの仲間とグラブタッチをはじめたところで、っと、こうしちゃいられないなと。私もゆっくりと階段をおりた。
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「おつかれー。みゆかず打った!?」
「ううん。さっきはみのさん」
「しかも三球三振」
「は、三球三振!? うそでしょ……?」
……打ってないん、だ。
さっきのみゆかずと栄ちゃん、凄く穏やかな感じだったし打てたのかな……ってそう思っていたのに。
思わぬ返答に一瞬呆然とそこに立ち尽くしそうになって、はっと我にかえる。いかんいかん。こんなところにいたら邪魔になるわ。
おつかれーと言って足元をあけてくれたお仲間ちゃんふたりの前を通って私も自分の席につく。前から23列目で通路からは三つ目。大体三塁ベースの側のあたりがいつもの私たちのエリアで今季もそんな感じだ。私たちのメンバーは四人なのだけど、私の右隣はいつも大体空いている。その席の友人は少し遠方(ドームまで片道四時間は本人曰くご近所らしい)のひとなのだ。おやすみをとれるのがまちまちなので、きたい時にチケットがない……というのが嫌で年パスをもっているというのだけど、今日もお夜勤なようでしっかり応援をまかされてきている。私がバッグをおろすのに足元にシートをひろげたところで、前に座るおじさんがくるりと上半身を傾けて私の方を向いた。
「おう。ねーちゃん今日は遅かったな!」
ねーちゃん叫ばねえから、全然点入らないぞー。なんて、笑って私に声をかけてくれるおじさん。
「すみません残業でした。今から頑張ります」
私も笑って返した。
このおじさんだけではない。他にも何人か顔見知りの方たちがいる。名前もわからないから本当に顔見知り。大体同じエリアになるから席が毎年近いせいで話すようになるのだ。おじさんの奥さんはお菓子作りがうまくて、私たちにもわけてくれたりするのだが、これが本当に美味しくていつも癒しを頂いている。は! そういえば今日は私交換用のお菓子用意していないや。みゆかずが心配だったし、コンビニも寄らなかったんだ。今日が初戦だから前の日と同じもの……なんかもない。い、いつもの常備ののど飴で許してね、みんな。
そんな何年ものお付き合いをしていても名前をきくことはなくて、それでも特に困ることはない。私の呼び名なんか、ねーちゃんと呼ばれる以外は、着ていたレプユニが神推しの天使くんだったという理由で、なんと彼の苗字で呼ばれているのだ。はじめは『○○さ~ん』と呼ばれてびっくりしたけどもうなれた。まぁ……う、海に渡ったいまでも、○○さんと呼ばれるのは、なんとも少し恥ずかしいけれど、まぁ……困ることもないのでそのままだ。ちょっと恥ずかしいけれど……仕方ない。
レプユニを上に着て、持ってきた飲み物のボトルをドリンクホルダーにぶっ差して、栄ちゃんとみゆかずタオルを膝に置いて、ツインスティック持って…………よし。さぁ参戦開始だ。準備が終わると同時に、攻撃の演奏が始まった。ツインスティックをあわせて叩いてやる気満々でみんなを鼓舞した。
この回の先頭はベアーズが誇るスピードスター。いつもは一番だけれど今日は二番。登場曲にあわせてバッターズボックスに向かうスターくんのいつものルーティンを見守って、がんばれーー! といつものタイミングで声をかけた。
もう攻撃も三巡目になるのだ。よし、そろそろ打てるぞ頑張ろうみんな! と思っていた矢先のこと。いきなり右中間真っ二つフェンス直撃のスリーベースヒット! あと少しでホームランだったそれは、まぁフェンスがバカ高いドームだから仕方ない。ありゃ……今日も"外野フェンス選手"に阻まれてしまったか。なんて少し残念に思うのはいつものこと。でも、二塁から一気に加速する彼の走塁は本当に魅力的で、凄く華がある。三塁ベースまで走ってあっという間に到達すると華麗にスライディング。直ぐ様すっくと立ち上がってガッツポーズを決めれば、三塁側ホームスタンドのボルテージは一気に上昇した。
あぁ~もう最高本当にかっこいい! たまらないよ。
心臓がバクバクと速い鼓動を訴えてくる。興奮する気持ちを抱えつつスターくんの苗字をコールした。ツインスティックを叩くのも力が入ってしまう。これはまさしく拮抗した試合によくある展開。ピンチの後のチャンス到来だ!
一点先制したくらいでは流れを引き寄せられなかったということだろう。見ていれば一塁側ダグアウトから監督がでてきて、球審に近寄っていく。それまでも結構打たれていたし、ピンチを凌ぎながらなんとか無失点できた。という感じなのかな。よーし、先発投手を引きずりおろしたぞー! 一気にいくよみんなー!
選手の交代が告げられて、三三七拍子が大型ビジョンに流れれば、もうくまファンの気持ちは最高潮だ。
このやろう絶対に打ち崩してやるからな! というこの瞬間が、私は大好きなのだ。うちの打者はここからクリーンアップ。さぁ、攻撃攻撃!
突如訪れた最大のチャンスに闘翔会が選んだチャンステーマは"チキチキバンバン"
私は全力で声をあげて、手が痛くなるくらい、ツインスティックを叩いて皆を鼓舞した。
「……みゆかず、どうしちゃったんだろう」
「……らしくないよね」
「うん……」
私の呟きにふたりが同意した。私たちは試合中はほぼ食べ物を口にしない。あってものど飴やタブレットくらいなもので、唯一のお食事タイムだというのに皆ぼーっと前を見つめたまま。私もいつものように夕飯のおにぎりを食べる気力もなくて。思わず、はぁ……というため息が溢れた。
フィールドを見れば五回終了時イニング間のYMCAをベアーズガールが元気に踊っているのが見える。そこから視線をあげて目に入った得点表示に刻まれた"1"をぼんやりと眺めた。そう、ノーアウト三塁から獲れたのはたったの1点。三番のくまの神様である安打製造機様が仕掛けたセーフティースクイズでスターくんが難なくホームに滑り込み、ランナーなしから四番の若き主砲くんがツーベースと続くも、五番、六番と後が倒れスリーアウトチェンジ。
いや、まぁ相手だって必死なわけだし、くまらしいっちゃらしいのだが……やっぱり違和感と寂しさが胸になんとも言い難いモヤモヤしたものをうずまかせていた。
だって、今日は栄ちゃんが投げているのに、……と。
みゆかずは、結局これで三打席全て凡退。しかも、惜しいあたりとかでもなく完全なる凡打に三振。
あまりにもらしくない様子に、もう一回ため息をついてしまう。すると、前のおじさんが、首を捻ってうーんと唸った。
「御幸のやつ、悪いもんでも食ったんじゃねぇのか?」
「えっ、悪いものですか?」
悪いもの……悪いものと繰り返せば、いや、知らねえけど。となんともテキトウな答えが返ってきてそんなと思わず笑ってしまう。いやいや笑っている場合ではないけれど、ちょっと和んでしまった。
やっぱり心配だな……。確かみゆかずは栄ちゃんと同じマンションで、栄ちゃんがみゆかずのところでご飯を食べているから……みゆかずがそうなら、栄ちゃんも同じということになるけど、……っていやいや違うぞ。まともに考えるのもおかしい。変なもの食べたは流石に……。
「まぁ、こんな時もあるだろ。今まで御幸はめちゃくちゃ頑張ってくれていたからな」
さわの時に特に頑張りすぎてはいたが……こりゃ見守ってやるしかねぇわ。うんうんと頷くおじさんの言葉に、ストンとなにかつっかえていたモヤモヤが落ちた気がした。
そうか……そうだ。思えば今までがあまりにも滑稽すぎたのだ。いや、だってプロ四年目の栄ちゃんが、今まで何回マウンドにあがっていることか。まぁ一軍に定着し始めたのは昨季の夏くらいだけれど、リリーフだろうが先発だろうが関係ない。その栄ちゃんが投げる試合全てでみゆかずは打点を重ねてきたのだ。ランナーがいればしっかり返すし、いなければ自身がしっかりとチャンスメイクをする。そして、たまに力強い打球をスタンドにぶちこんで、栄ちゃんにバットでがんばれをおくるのだ。
ふたりの関係がこれで崩れたり……とか。と一瞬過ってふるふると首を振った。いや、ないない。それも絶対に有り得ない。私たちの沢村栄純は、援護がないことを責めたりしない。むしろ、たとえ最少失点だろうがとられた点の方を気にするし、攻撃のリズムを作れなかったからと、自身に責任を課すに決まっている。
私たちの、ベアーズの三人目のエース候補もまたそういう投手……なのだから。
とは言え、この状況は結構きついよなぁ……。
うーんどうしたものかなと思えば、またもやため息が溢れた。もう何度目だろうと思うけれど、全くとまる様子がない。今日は色々と原因がありすぎなのだ。
まぁ、大チャンスだったとは言え、直ぐに一点かえして追い付けたのはよかった。万が一この後とれなかったとしても延長になればこちらが有利だ。お相手さんは先発を降ろして既に継投にはいっているけれど、栄ちゃんの球数は五回投げ終えても八十球にも到達していない。
まだまだ投げられそうだし、降りても鉄壁のリリーフ陣をつぎこめる状況。
取り敢えずみんなの調子も悪くないからきっとチームは勝つとは思う。それはそうだけれど、……きついのは、気がかりなのは試合の後なのだ。
基本的には温厚なくまファンだけれど、やっぱり中には過激な者どももいるわけで。そういう奴らがこぞって色々と言ってきたりするのだ。特にルーキーから一軍に帯同していたみゆかずは、人好きする性格の栄ちゃんにくらべ、アンチも多い。栄ちゃんは、喩えはじめは栄ちゃんのことを全然好きじゃなかったとしても、ぐいぐい引っ張ってくるものだから、あっという間に虜にされてしまうのだ。そう、私がかつてそうされたように。
誰かが『ヒトタラシ』なんていっていたことがあったが、悪い意味ではなくピッタリだと思った。
片やみゆかずはその容姿が良すぎるせいもあり、妬まれることも多い。普段はファンの多さに鳴りを潜めているそのアンチがここぞとばかりに大きな顔をしてやってくるだろうことが容易に予想できてしまう…………だから。
きっと今日はメチャクチャ叩かれるんだろうな……。
まだ試合はこれから六イニング目がはじまるところだし、あと二回は打席がまわってくるだろう。けれども、今日はなんだかわからないけど、このあとも全然打てる気がしないのだ。ヒット、すら……。
ヒット、と再び繰り返して、大切なことを思い出した。
ああ、そっか……みゆかずの"栄ちゃん登板連続ヒット記録"が今日で途切れてしまうかもしれないんだ。
すっかり忘れていたけど、それもあったんだ。御幸一也の沢村栄純登板時連続安打記録。メディアにまで取り上げられているそれは、今日が確か節目の五十試合目で。……え、まさかみゆかず、このプレッシャーにやられているの? 一瞬そう思ったが、青道時代の活躍を思えばそんなことはないだろう。扇の要でキャプテンで主砲で四番。改めて思い返してもとんでもないキャリアだ。
仕方ないことだとは言え、記録のことを思うとだんだん悲しくなってきてしまった。フィールドで踊っていたベアーズガールはいつのまにかいなくなっており、レフスタの大型ビジョンに他球場情報が映し出された。今日はどこも投手戦で接戦のようだが、一試合だけ殴り合って二桁得点になっている……こういうのを見るとついつい一点でいいから分けてほしいと思ってしまうのは、ファン心理なのだろうか。ビジョンが元に戻り、ベアーズナインが六イニング目の守備につくためにダグアウトからバラバラに散っていった。それを眺めつつ、試合中はほぼ全く触らない携帯端末を手にとる。浮かない気持ちで、くまアカのタイムラインを確認した。
……うわ、もう叩かれはじめているわ。
好きな選手が叩かれてしまうのは凄く悲しいし腹が立つ。特にスルーの出来ない私は、見ているといてもたってもいられずつい応戦してしまうのだ。大人気ないとわかっていてもやっぱり許せない。
だからこれ以上みゆかずが叩かれているのを見ようものなら…………。
だめだ。今日はくまアカは見ないように避難しよう。心にきめた私は、ざっと仲間の呟きのみチェックし、くまアカからログアウトした。そして、もうひとつ使用している鍵アカのタイムラインを開くと、直ぐにスマホを閉じた。これで後からタイムラインが確認できるだろう。
こんなほぼ九割九分九厘ベアーズライフを送っている私だが、……実はオタクでもある。これは皆には内緒だ。
所謂"腐女子"というものに分類されるのかもしれないが、ベアーズ野球にハマるまでとは比べ物にならないくらい落ち着いてしまい、それが主なわけではない。今はジャンル移動した仲間たちと、日常会話で盛り上がったりする癒しの場、という感じが強い。
このアカにもプロ野球ファンの方がいて、その人とは結構仲良くさせて頂いている。そう、今戦っているお相手さんが彼女の推し球団だ。あれ? そう言えば、今日来ているんじゃなかったっけ。確か知り合いから誘われて三塁側フィールドシートにいるといっていた。ダグアウト撮りまくりだぁ~と喜んでいた彼女は、バズーカの一眼レフを扱うカメラ女子さんなのだ。
どうしているかな。楽しんでいるかな。彼女のツイートはいつも元気いっぱいで楽しいのだ。……うぅ、元気貰いたい。でも、試合中はスマホ触りたくない……触りたくない。………………けど!
……栄ちゃんみゆかず、みんなごめんっ。ちょっとだけだから!
みんなにごめんと心で手をあわせて、私は彼女のツイートを見るべくもう一度スマホでTwitterを開く。すると、彼女のホームにとぶまでもなく目当てのツイートが連続でタイムライン上に飛び込んできた。
『え!?は!?!?!?』
『は、………え?』
『ど、どうしよ、ねぇ、どうしよ……ちょっと凄くやばい』
『どうしよどうしよ……ちょっと今とんでもない会話きいちゃった、かもしれない!!!!』
『いや、聞き間違い?でもはっきり言ったよね!?
え、なに?どういうこと、待って!?』
『無理無理無理あたまがおいつかないよ誰か助けて……むり……』
次々と表示されとまらないそれ。しまいには天使の絵文字で昇天している。なんだか酷く慌てているようだけどどうしたのだろう。え、会話って? 疑問に思った私は、率直に訊いてみた。
『おつかれさま!今日フィールドシートって言っていたよね。楽しんでるか?どうした?なにかあった?』
マウンドの栄ちゃんをちゃんと見守りながら、素早く文字を打ち送信。すると、はやっ! 秒で返信が返ってきた。
『あー!っおつかれありがとう楽しんでる!!!てか、ねえちょっ!とどうしよう、めちゃくちゃ言いたいけど言っていいかが全くもってわからない!!んだけど!!!』
返事をみて思わず苦笑する。ビックリマークの位置がおかしいし、多さも半端じゃない。こりゃ相当テンパっているようだぞ。
『待って。よし、取り敢えず落ち着こう!言えないとは?なんかだめなの?DMならいいとか?』
凄い慌てような彼女を落ち着くようにドウドウと諭す。言っていいかわからない? んー。タイムラインだからだめなのかな? そう思ったのでそのまま返信。するとまたすぐに返事がきた。
『うーっ。か、鍵だし、大丈夫かな……念のために伏せ字にするからどういうことかは察して!あ、あのね、い、いま、ね……!!!』
相当言いたいようだ。なんだろう。伏せ字? 相槌を送信して、返事を待つ。なんだか緊張してきたんだけど、今さらだけど、悪いことじゃないよね……?
『その……た、多分なんだけど、』
うんうん。
変な緊張でスマホを握る手が震えてきた。あぁちゃんと悪いことじゃないか確認するべきだった。なんだ? なんなんだよう……ドキドキしながら待った私に漸く送られてきた返事。
それは、ちょっと、ちょっと信じられない内容、……だった。
『……mykzがswに、ご、ご褒美のききき、キッスを……お、おねだりして、た……』
…………………は?
……え?
「…………はぁぁあぁああっ!?!?!?」
広いドーム内に、私の驚愕が響きわたった。
ん?ちぬ