複雑なメッセンジャー
連邦議会下院選の候補者だったケント氏は白人至上主義者と関係があり、ナチスの同調者のインタビューを受けたこともある。CNNが以前報じた。本人は過激主義から距離を置こうとしていたが、そうした関係は2022年及び24年のワシントン州での選挙戦で不利に働いたかもしれない。
ケント氏は複数の陰謀論を口にしてもいた。具体的には、後に所属することになる情報機関が21年1月6日に発生した連邦議会議事堂襲撃事件の画策と指揮に関与していたという内容などだ。国家テロ対策センターのトップへの任命は昨年7月に議会で承認されたが、共和党のトム・ティリス上院議員(ノースカロライナ州選出)は承認に賛成しなかった。
ケント氏の17日の辞表は、イスラエルへの言及の多かったことでもかなりの注目を集めた。
ケント氏は、イスラエルが米国に「圧力をかけて」イランでの戦争に向かわせたと語っている。その主張自体は、ルビオ国務長官が戦争の初期段階で発言した内容と比べればそこまで滑稽なものではない(米国による最初の攻撃の後、ルビオ氏はイランが差し迫った脅威だと主張。理由について、イスラエルはイランを攻撃するつもりであり、そうなればイランは報復として米国の標的を攻撃するからだと述べた。米政権はその後、このタイプの正当化からは距離を取った)。
だがケント氏はそこで止まらない。辞表の中でイスラエルによる「米国での強力なロビー活動」も引き合いに出し、「高位のイスラエル当局者たち」がイランのもたらす脅威についての「誤情報キャンペーン」を行っていると非難。イスラエルが米国を「イラク戦争」に引きずり込んでいると訴えた。同時にシリア内戦も、「イスラエルが作り出した戦争」だと主張した(ケント氏の妻はこの内戦で19年に死亡している)。
言ってみればそれは、元FOXニュース司会者のタッカー・カールソン氏が最近口にしているような話と極めて似た内容に聞こえる。
ただ、そこがある種のポイントでもある。ケント氏の視点は、トランプ氏の支持層のより広範な心情を反映したものなのかもしれない。反イスラエル的、そして反ユダヤ主義的見解はここへ来て勢いを増しつつあるようだ。とりわけ若年層やインフルエンサー界隈(かいわい)ではそうで、彼らが右派における戦争支持の主張に冷や水を浴びせる可能性がある。
共和党による戦争支持は限定的
現状で世間一般の通念は以下の通りだ。歯に衣(きぬ)着せぬ一部の保守派が戦争に尻込みしてはいるものの、右派全体はトランプ氏と足並みを合わせている。
しかしこれは全体像ではない。実際のところ、戦争の初期段階でのCNN世論調査では共和党支持者の23%が軍事行動に踏み切る決定に反対していた。またCNNをはじめとする世論調査によれば、共和党側の戦争支持の大半は相当控え目な内容だった(多くの共和党支持者は戦争を支持しているものの、「強く」支持するとは回答していない)。これは戦争の代償が拡大するほど、懸念が高まる可能性を示唆する。
トランプ政権のバンス副大統領でさえ、戦争への全面的な支持は明確に控えている。
15日、イラン首都テヘランの爆撃現場を歩く人々/Majid Asgaripour/Wana News Agency/Reuters
ケント氏の辞表提出は、一部の有力な右派インフルエンサーの後に続くものだ。彼らはここまで、悪びれることなく戦争に異議を唱えてきた(それに合わせてしばしばイスラエル批判も展開してきた)。カールソン氏だけではない。前下院議員のマージョリー・テイラー・グリーン氏や、元FOX番組司会者のメーガン・ケリー氏などもそうだ。
これは以前にはまず見られなかった動きだ。恐らくエプスタイン文書の件でさえも、これほどの事態には至っていない(この問題の批判はトランプ氏個人というよりも同氏の政権に向けられている)。こうしたインフルエンサーらがお墨付きを与えることで、他の人々も同様の立場を取ることができるようになる。言論エリート層の見解が、支持基盤の全体に浸透していく可能性がある。