西暦2076年、人類の97%が死滅した。
原因は2073年に始まる世界――否、宇宙的な異変である。
わずかな時間を尽くした学者の研究によれば、幾つもの並行宇宙が衝突したのだと云う。
地球全体を震度7クラスの地震が襲い、津波が倒壊した街を飲み込み、破局噴火が相次ぎ、ある山は底も見えぬ穴に変わり、ある海は干上がって塩にきらめく砂底を晒した。麦畑は焼け、水田はひび割れ、畑は砂塵に覆われ、人々は銃を取り、ミサイルは煙を引き、原発は放射性廃棄物を撒き散らし、人工衛星は次々と流れ星に姿を変えた。
天を見上げればもはや星座は意味をなさず、増えた月が玉突き事故を起こして砕け、太陽はまだらに輝き、かつて太陽系と呼ばれた惑星群は引力ででたらめに引き合って、軌道はもちろん数さえもわからなくなった。
それだけではない。
何処から湧き出した異形の群れが、生き残りを襲った。
半透明の不定形生物が少女を絡め取り、窒息死させた。
緑色の肌の矮人が、欠けた包丁を少年に振り下ろした。
巨躯を誇る大鬼が電柱を引き抜き、青年を叩き潰した。
青褪めた貴公子が微笑むと、淑女は恍惚に血を捧げた。
老いを知らぬ種族は老人を嘲笑い、木々の糧に変えた。
酔いどれの髭面が操る兵器が、誰も彼もを肉片にした。
皮の翼が空を支配し、灼熱の吐息が街を灰燼に沈めた。
それだけではない。
混沌。
混沌としか呼べない何かが、世界を蝕んだ。
それは人間も、人間でないものも、粘体生物も、緑肌矮人も、食人巨鬼も、吸精鬼も、古樹族も、奈落鍛冶も、飛天鱗甲でさえもおかまいなしだった。
それはあらゆる存在にとって、等しく災厄だった。
それに対抗するために、あらゆる種族が手を結んだ。
先頭に立ったのは、最も脆弱と思われた人間。
種族の中でも脆弱と思われる、たった一人の少女だった。
少女には、魔剣が託された。
不燃の粘体生物が炉を象り、古樹族が世界樹の薪を焚べ、飛天鱗甲がふいごに吐息を注ぎ、奈落鍛冶の槌が鍛え、緑肌矮人が呪いを込め、食人巨鬼の骨で柄を飾り、吸精鬼が魂を塗り込めた一振り。
少女には、あらゆる施術が施された。
血液には幾兆もの自己複製型ナノマシンが流し込まれ、骨格は7割が呪言を刻んだ炭素複合材に置き換えられ、神経細胞はある種の刺胞生物の遺伝子と組み替えて高速化され、皮膚や筋肉、内臓は可能な限り生体金属と交換、あるいは異種族のそれを移植した。少女の実質は、機械化人間よりも人工に満たされていた。
だが、少女は少女のままだった。
見た目の意味もある。
切削刃の如き、金の巻き髪も。
紫水晶の如き、碧い双眸も。
白磁器の如き、滑らかな肌も。
どれもこれも、少女のままだった。
だが、それ以上に魂が、少女の魂が少女のままだった。
――みなさま、決戦の準備はよろしくって?
お気に入りのドレスを纏い、
腰よりも幅広な刃の大剣を掲げ、
舞踏会に赴くような優美な足取りで、
世界を滅ぼす混沌に向け、斬り込んだ。
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――――――…………
――……
……
それから、千年の時が過ぎた。