女子100メートル高校記録保持者の土井杏南、ロス五輪へ「1+1」を探す4年計画

2025年05月28日13時00分

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 2012年5月。埼玉県高校総体の陸上女子100メートルで、今なお残る11秒43の日本高校記録が樹立された。それから13年。同じ埼玉・熊谷スポーツ文化公園陸上競技場のスタートラインに、29歳となった高校記録保持者は立っていた。東日本実業団選手権の女子100メートル予選。土井杏南(JAL)は12秒78(向かい風0.1メートル)で敗退となったが、悲壮感はなく明るい表情で現状を説明してくれた。「今、岡山に拠点を移してもう一度、最初から(走りを)つくり直しています。まだまだ程遠い走りで今はこんなんですけど、4年計画で頑張ります」。彼女が再起を懸けて走り続けるのは、どうしても証明したいことがあるからだ。(時事通信運動部 青木貴紀)

ロンドン五輪出場の「天才少女」

 土井は埼玉・朝霞第一中時代に11秒61の中学新記録(当時)を樹立。早くから「天才少女」と称されて注目を集めた。埼玉栄高2年時の12年に、現在の自己記録となる11秒43の高校新記録を樹立。同年は日本選手権で2位に入り、16歳で迎えたロンドン五輪では400メートルリレーで第1走者を務め、日本陸上界で戦後最年少出場を果たした。

 その後は故障に苦しんだものの、19年に復調。日本選手権は11秒72で2位に入り、9月の全日本実業団選手権は11秒74で優勝を飾った。しかし、20年以降は再び故障が相次ぎ、思うように走れない苦悩の日々が続いた。「20年にコロナ禍に入って、そこからけがが続いて動きが悪くなった。どこかで抜け出さないといけないと思った」。自己記録更新、そしてさらに上の高みへ行くために環境を変えることを決断した。

どん底から復活できる

 24年5月に岡山へ拠点を移し、新天地での生活をスタート。岡山市にある環太平洋大の品田直宏監督に指導を求めた。筑波大出身の品田監督は現役時代、03年世界ユース選手権の走り幅跳びで金メダルを獲得し、短距離選手としても活躍。土井は環太平洋大の学生らと一緒に練習に励み、新たな発見の日々だという。

 「今までバウンディングとかジャンプ系のトレーニングをしたことがなかった。品田さんはやったことのない練習を教えてくれる。今でもできないことがすごく多いので、今がようやく陸上をやっているなって感じる」と目を輝かせる。

 故障に苦しみ、記録が低迷して陸上から離れかけたこともある。それでも、競技を続けてきたのは強い信念があるからだ。「このまま終わっちゃったら、私みたいに小さい頃から結果が出ている子がこうなるっていうのが嫌なんです。一回どん底を経験してもいけるんだぞ、っていうのを証明できるように頑張っている。自分が速く走ることも目的だけど、一回落ちてもまた上がれるんだよっていうのを見せたい」と熱っぽく語った。

「11秒0に」

 19年の復活で、既に多くの選手に希望や勇気を与えたに違いない。ただ、本人は納得していない。「あれはただ戻っただけ。昔は何をやっても速く走れた。私は1+1=2の答えが先に出て、足し算ができていない。なんで速いの?っていうのが正直、分からない。そこを今やっているから、ちょっと楽しいです。公式がこうだとやっぱり答えはこうなるよね、っていうのがつかめる楽しみはあります」

 どうしたら速く走れるのか。スプリンターが追い求める究極の「答え」を導き出す「公式」を探すために、トレーニングや食事などを試行錯誤する刺激的な日々だ。動きの感覚の良しあしもこれまではあまり分からなかったが、品田監督と練習中に確認し合うことで理解が深まり、「すごく心強い」と信頼を寄せる。

 日本の女子短距離界のレベルは、世界とは差が大きいのが現状だ。「私が今この立場で言うのはあれですけど、今は日本で一番速くて11秒3~4あたり。そこを私が一気に11秒0に引き上げられるように。必ず頑張るので」と言葉に力を込めた。視線の先にあるのは、28年ロサンゼルス五輪。再び世界の大舞台で走る姿を思い描き、新たな走りをつくり上げていく。

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