【キャス弓】 議題:惚れ直しは浮気に含まれますか
ぐだ子「まず惚れ直しの定義から話し合いたいと思います」
・槍弓的要素もありますが、メインはキャス弓です。
・マスターぐだ子が割と好き勝手妄想するタイプの腐女子です。槍ニキとかキャスニキとか自由に呼んでます。
・視点が三者を行ったり来たりするので、
分かりにくいかもしれません。あえて誰目線とは書いてないです。「〇」が切り替え部分です。
・槍弓が好きな私とそれはそれとしてキャス弓も好きな私、ラブコメを書きたい私とシリアスな話を書きたい私が殴り合って出来たような話なので、割と何が来ても大丈夫な方向けです。
三月から書いては止まり、書いては止まり、という状態を繰り返し、そうこうしているうちに二部六章が来てしまい、十四日からの後編の結果次第では大いなる解釈違いを生む感じになり、このまま書き続けるかかなり悩んだんですが、逆にいえば今しか書けないなと思って仕上げました。CP違いってことになると悲しいんですがどうなんでしょうね。
槍弓は、対立しつつもお互いを認めている(といいなあ)という明確なイメージがあり、書く物にもよりますが、槍が弓を口説き落とす!というイメージがあるんですが、キャス弓はキャスがなんだかんだ考えて行動しそうなので、結果話が進まないような気がします。
ところで英霊って体温はあるんでしょうか。
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〇
「きれーなお兄さんがいる……」
寝起きの第一声に苦笑する。褒めてもらうのは結構なことだが、完全に寝ぼけている。しかも正気に戻ったら後悔しそうな方向に。サーヴァントなんだから意識の覚醒ぐらいはっきりとしそうなもんだが、余程疲れが溜まっていたんだろうか。辛うじて開けている瞼も今にも落ちそうだ。
「もちっと寝とけ」
小さな声で告げて顔の前に手をかざす。アーチャーは安心しきった様子で目を閉じた。時計を確認してオレももうひと眠りしよう、とベッドから落ちないようにアーチャーを抱え直した。
布団がずれる感覚に目を覚ます。静かに抜け出そうとしていたアーチャーが申し訳なさそうな顔を見せた。窓がないので朝かどうかは分からないが、ある程度は眠った気がする。
「すまない、起こしたか」
「構わねえよ。オレも起きるわ」
ガシガシと頭をかいて布団をはぐ。アーチャーは先程のことは覚えていないのか忘れているフリをしているのか、至って普通だ。
「君は寝起きが悪くないんだな」
「良くもねえけどな」
心地よく眠れている分覚醒しやすいだけだろう。君は、と区別されるのも微妙な気分だよなあと思いつつベッドから下りたら、アーチャーが目をむいた。
「服を着ろ服を!」
「ああ? お前しか見てねえのに」
上半身裸のまま伸びをしたら枕を投げつけられた。下は履いてるのに初心過ぎるだろう。アーチャーとは定期的に抱き合って寝ているので今更恥も何もないと思うんだが。しかも寝るといってもいかがわしい意味ではなく魔力供給のための添い寝だ。戦闘に家事にと働き過ぎなアーチャーがカルデアの廊下でフラフラしていたことがあり、オレから買って出た。オレとしてはもっと効率の良い方法を取ってもいいんだが、まあ抵抗感があるだろうと添い寝に留めている。カルデアの魔力にも限度があるのだから完全に枯渇する前にオレの所に来るようにと言い含めて、アーチャーは案外素直に応じている。
「見分けがつかない訳ではないが、裸で髪を下ろしていると一瞬どちらか分からない」
「あーはいはい」
愛しのアイツと混同したくない訳ね、と肩を竦めたくなる。口にしようものなら十倍の皮肉と共に返ってきそうなのでやめておくが。
「今日はメシの当番か?」
仕方なく礼装を編みながら問い掛ける。
「いいや。だが手伝うつもりだ」
「なんだ、アーチャーの担当じゃないなら別に起きなくても良かったな」
ベッドに戻る素振りを見せると何を言ってるんだ、とでも責めたそうな顔をされる。
「私の料理に慣れすぎじゃないかね? 魔力供給にもなるのだからきちんと食べろ」
「仕方ねえだろ。オレもアイツもお前の料理に胃袋掴まれてんだからよ」
「……後で一品ぐらいは追加で作ってやろう」
満更でもなさそうに返す。アーチャーはクー・フーリンのことを好んでいる。オレとは別のクー・フーリンの方を。
「って君、ベッドに戻るな」
「もうひと眠りしてくから行く」
「君は時々子供のようになるな」
てめえの好みがガキっぽい奴だからな。
「ほら、私の部屋に居座るんじゃない」
腕を引っ張られてズリズリとベッドの中央からずれていく。全力で抗うのも面倒でギリギリ縁の所まで行ってようやく身体を起こした。
「他のサーヴァントに余計な勘繰りをされたらマスターに心配をかけるだろう」
「オレがお前の部屋から出てきた所で、何か用があったのかな、ぐらいにしか思われんだろ」
「でも」
「つうか、例え恋仲だと思われたとしてもとやかく言う奴はいないだろ。問題あるか?」
「別に私だって君との仲を疑われるのはやぶさかではない」
「何?」
聞き逃せない一言が耳に入って咄嗟に腕を掴もうとしたが、アーチャーはするりと抜け出して扉を開ける。そのまま廊下に出て行く後ろ姿を追う。
「おいアーチャー」
「何だね」
「誤魔化そうとするんじゃねえ。ちゃんと聞こえてんだよ。どういう意味だ。君とってクー・フーリンとって意味か」
「うっかり呟いたことを大きく捉えるな。気にしなくていい」
「でも」
「私と仲が良いとは思われたくないかね」
「……は?」
魔力供給を言い出したのもオレからなのに、何故オレにとって不本意だという発想に至るのか。
「やあブーティカ、おはよう。今日もあいにくの曇天だな」
「っておい!」
何でだよ、と言い募る間もなくアーチャーはキッチンに入って、ひらひらと手を振る。いや、しょうがないな、みたいな顔されてもな?! キッチンに入り込んでまで追求する訳には行かず、食堂から恨みがましくアーチャーを見つめることしか出来ない。おまけだと告げて朝食にサーモンのマリネをつけてきた以外、アーチャーは頑なに口を開こうとしなかった。
〇
貴方は過去の聖杯戦争の記憶がありますか? はい・いいえ・答えたくない
はいと答えた方へ 過去の聖杯戦争で因縁の相手はいますか? はい・いいえ・答えたくない はいと答えた方は差し支えなければ相手を教えてください
「……なんだね、このふざけた問答は」
マスターが見せてきた用紙を数行読んで顔を上げる。
「サーヴァントと仲良くなるためのアンケートだよ」
マスターは楽しそうに笑っている。
「聖杯戦争に参加していたということは別のマスターに仕えていたことがあるということを意味する。まさか反乱を起こすものはいまいが、余計なことを思い出させることになりかねないぞ」
「いやあ、エミヤの相性の話を聞いて、考慮した方がいいなって思ってね」
金色のアーチャー、青いランサーと同じ編成にするなと言ったあれか。
「私はランサーとよく組まされていると思うんだが?」
金色のアーチャーはそもそもカルデアにいないので一緒も何もないが。
「だって槍ニキのこと好きなんじゃないの?」
「同じチームに入れるなと言っているのに何故真逆のことを考える」
サーヴァントに頭痛はないはずなんだが、思わず頭に手をやる。
「えっ違うの? よく目で追ってない?」
本気で不思議そうなマスターに溜息をつく。
「奴がチョロチョロと動くから目に入るだけだ。というか好きだなんだという話をランサーの耳に入れてみろ、槍を構えてくるに決まっている。私を座に返すつもりか」
「負けちゃうのエミヤ」
「勝つわたわけ」
ついマスターに対して語気を強めてしまった。
「槍ニキも満更でもなかったりしないのかなあ。普通に共闘してるじゃん」
「ないだろう。昔のよしみなんて感じないと思うぞ」
「エミヤは一生懸命思ってるのに……」
哀れみと期待のこもった視線を投げてくるマスターにやれやれ、とぼやく。解釈が歪み過ぎている。
「余計なことを吹き込んだのは誰だ? 特定のサーヴァントに毒されていないかね。そもそもマスターの言うように因縁の相手と良い仲に、ということなら私は金色のアーチャーとも縁を結ぶことになってしまう。止めてくれ」
向こうにも全力で拒否されるだろうし、私としても願い下げたい。曖昧な笑みを浮かべるマスターとの話を中断して、ご丁寧にもバインダーに挟まれたアンケートを取り上げ、マスターから用紙とペンを預かって記入していった。
「なんだ、結局書いてくれるの?」
「私のことを知っても特に面白みはないと思うがね」
Q1 答えたくない。 Q2 答えたくない。
「いややっぱり教えてくれる気ないよねえ」
回答を覗き込んでくるマスターに当たり前だ、と返す。マスターの心労を増やすつもりはない。
「それこそランサーなら素直に書くのではないかね」
同じクー・フーリンでもキャスターの方は一切腹の内を見せないだろうが。
「せっかく楽しめると思ったのになあ」
マスターの言い方に引っかかる。
「……アンケートの真の目的は」
「カップルのあぶり出し。あっ付き合うのがダメとかじゃなくて私が知りたいだけね。男女でも男同士でも女同士でも恋愛自由なクリーンな職場です」
仰々しくお辞儀をしてみせるマスターを見て、アンケートを記入する手を止める。行動の理由もどうかと思うが。
「ならば私に渡す意味はないのでは?」
「槍ニキとって思ってたんだよ」
「無理矢理くっつけるのは感心しないぞマスター。奴でも怒りのあまりうっかり君を槍に引っかけるぐらいのことはしてしまうかもしれない」
「思いやるのは槍ニキのことなんだよねーもう~」
話を聞く気がないな。そして心配しているのはマスターのことであり奴に意に染まない使い方をされるかもしれないゲイボルクのことだ。
「じゃあさ、同じクー・フーリンでもプロトとかキャスターとかオルタとかはどう?」
「プロトは大人しそうに見えて牙をむくし、オルタは言うまでもない。キャスターもしっかり報復してくるだろうし、彼らで遊ぶのは止めておけ」
「おもちゃにしていいのは私だけだーみたいな?」
「どうしてそう考えが偏る」
「いやあ、エミヤが話に付き合ってくれるからさ。私だって本気で嫌がりそうな人には言わないよ」
なるほど、受け答えをしたのが良くなかったのか。アンケートを返して身を翻す。
「部屋に戻る」
「あー待って待って! 最後に一つだけ! 槍ニキ含めてクー・フーリンの中でだったら誰が一番好き?」
誰、などと。つい思い浮かんでしまったクー・フーリンを頭から追い出す。
「……どれもクー・フーリンであることには違いあるまい」
「今一瞬間が」
「強いて言うならばキャスタークラスだろうな。冬木でも世話になったし、感情に振り回されることが少なくて穏やかに話せる」
余計なことを言われる前にマスターの言葉を遮る。ついでにいつもの魔力供給が見つかった時の言い訳にもなる。
「冬木ってどの冬木? 私の知ってる冬木? それとも別?」
「最後の質問だったのでは?」
あああ、とマスターが崩れ落ちる。大げさな。
「私に恋愛の機微は分かりかねるが、もっと可能性のある所を叩くべきでは。尤も、下手に手を出すと馬に蹴られそうだからオススメはしないが。というか蹴られる程度ならマシかもしれない。いくらなんでも宝具を持ち出すようなことはないと思うが」
「誰かオススメいる?」
「私には分かりかねると言っただろう」
「そっか……キャスニキとお幸せにね」
否定しても肯定しても盛り上がられそうなので苦笑するに留める。キャスターには悪いが……まあ例え耳に入ったとしてもマスターの戯言だと受け取ってくれるだろう。
〇
クー・フーリンズ、集合してください、という雑な集合に応えてみたら、アンケートをお願いします、と用紙を差し出された。
「なんのアンケートだよ」
嫌な予感がして紙を見る前に問えば、マスターはお、と声を上げた。
「鋭い。エミヤは読み始めてから気づいたのに」
「まじないでもかけてあんのか?」
ぱたぱたと紙を振って見せたら、横から槍なしのオレがいや、と答える。
「別に紙自体は変なもんじゃあない。しかしまあマスターがアイツの後にオレ達を呼ぶ時点で何をしたいのかはなんとなく分かるな。オレらはいいにしても他の奴等に変に首を突っ込むと面倒なことになるぜ」
「エミヤにも同じこと言われた」
「アイツ、全部答えたくない、に丸したんじゃねえの」
用紙を確認する。過去の聖杯戦争について延々と質問が続いていた。アーチャーが素直に答えるとは思えない。気にするなとか言って答えずに余計に気をもませたに違いない。
「ランサーならちゃんと答えてくれるだろうって言ってたよ」
「まあ隠すようなことは何もねえな」
はい、の項目に丸をつけていく。って好きな人もしくはサーヴァントはいますかってなんだよ。勢いで丸つける所だった。
「過去の因縁の相手ってエミヤだよね?」
横からマスターが口を出す。別に構わんがアンケートっておおっぴらに書くものだったか?
「まあな」
心臓を穿ったりとかいろいろとな。槍なしのオレから刺すような視線を感じる。周りには分からんのかもしれないがオレにはだだ洩れなんだよなあ。なんせクラスが違えど自分だ。
「実は今回の現界で好きになっちゃったーとか」
「ないない」
まあ実は冬木では恋人関係であったこともあるんだが。記録としては残っているし、それなりの情はあるものの惚れたはれたという感情はない。味方陣営なのに勿体ねえなと思わないでもないものの、ま、敵としている方がその気になるのかもしれない。
「良かったあ。エミヤ、キャスニキのこと気に入ってるみたいだったから、三角関係になっちゃうかと思った」
は?と全員で動きを止める。いや、全員じゃねえ。オルタは興味なさそうにアンケートを折り畳んでるな。なんで折ってんだ?
「あーアーチャーが何か言った訳じゃなくマスターが誘導しただろ」
槍なしのオレが呆れたように言う。万が一事実だったとして、アーチャーは吐露しないだろうしな。
「えー分かっちゃう? 愛? 愛なの? でもクー・フーリンの中で一番好きなのがキャスニキって言ってたのは本当だよ」
「オレの名前を出しときゃ後腐れがないからだろ」
興味がなさそうなフリをして喜色が滲み出ている。繕えてねえぞ。
「キャスニキ的にはどうなの?」
「どうもこうも、アーチャーは別に恋だの愛だのってつもりで言ったんじゃねえだろ。どっちかっていうと槍のオレのことが気になってんじゃねえの」
「え、知的になった頼りになる仕事人×実は昔から想いを秘めてた守護者、ありだと思ったのに」
「マスター基準でありなしを決めるのはやめろ。後、想いを秘めてたってことはねえな」
あ?と思ってマスターと槍なしのオレを見るがマスターは何も気づいてない。槍なしのオレに気まずそうな表情が浮かんだのは本当に一瞬で、珍しく口を滑らせたんだなと確信する。表情がなければアーチャーは案外黙っておけない奴だとか、別の考え方をしたのかもしれないとも思う。でも想いを秘めていたことがないと断言できるのは知っているからだ。今までひょっとしたら冬木の記録があるのではと思っていたのは間違いじゃないらしい。しかも多分ランサークラスのオレと同じ記録だろう。いくら因縁があるとはいえ何度も恋人関係になっているとは思えない。
「お前も秘密主義者かよ」
アンケートを覗いてみると案の定全て答えたくない、に丸がついていた。エミヤとおそろいじゃんとマスターにからかわれてのらりくらりと話をかわしている姿からはもう何も読み取れなかった。
〇
「クー・フーリンの中でオレが一番マシだって?」
夜、部屋に訪ねてきたアーチャーにからかいまじりに問い掛けたら顔をしかめて、マシとは言っていない、低く見積もるなと律義な訂正が入った。
「ランサーの名前を挙げようものならマスターがますます暴走するだろう」
おっと上げて落としてきやがる。
「ご苦労なこって」
アーチャーは黒いパジャマ姿に着替える。冬木の頃と似た格好は当時を知っているからこそのものなのか無意識で同じようなものにしているのか。聞いたことはない。
「君たちも被害にあったのか」
「被害って」
まあ嵐のようなものではあったな。しかしどちらかと言うと槍のオレに記録を持っていることを悟られたらしいことの方が面倒だ。アイツも記録を持っているようだったから油断させておきたかったんだが。正規のランサーなんぞ敵として厄介すぎる。
「お前さん、答えたくない、に丸つけたんだろ。逆に興味をそそってたぞ。オレの方から適当に答えておいてやろうか」
ベッドに誘い込みながら聞き出そうとするが、アーチャーはいや、と首を振った。
「君だって答えなかったのでは?」
「マスターから聞いたのか」
「いいや、単なる想像だ」
アーチャーが布団に潜り込んで来たので、僅かに大きい身体を抱き込む。過去に出会った時とアーチャーの大きさは変わっていないだろうから変化しているのはオレの身体の方だ。筋力が落ちた分、見た目にも多少影響している。
「記録があろうとなかろうと。今の関係が変わる訳ではあるまい」
「どうだかなあ」
少なくとも以前のことを知らなければこうやって魔力供給をすることはなかっただろう。
「本当は槍のオレの名前を挙げたかったんじゃねえの」
「ランサーと喧嘩になるぞ」
ふふ、とアーチャーが笑う。
「アイツが突っかかってこなかったら?」
「ランサーが大人しかったら張り合いがないな。というか随分と気にするがランサーの名を挙げた方が良かったのか?」
「いや、オレでいい」
むしろオレでないと嫉妬する。抱き込む腕に力を入れたらアーチャーがもぞもぞと身じろぎする。
「今日は随分とくっつくな?」
「せっかく来たんだ。目一杯魔力持ってけ」
「君の負担にならないか」
「伊達にキャスタークラスやってないんでね。休んだ方がいいだろ。目も閉じろ」
見えなければ気配は「ランサー」とそう変わらないはずだ。
「切羽詰まってもらいに来た訳ではないから……」
必須ではないのに来たのか。気まずそうな様子に何のために? と問おうとして、言ったら逃げるだろうなと思って口を止める。槍持ちのオレならまだるっこしいことを考えたりせずに直接聞くんだろうが。
「君は優しいなあ」
オレの言いかけたことを察したのだろう。目を瞑りながら言う声は愛しさよりも寂しさが滲んでいるようで胸が苦しくなる。記録があろうとなかろうと、アーチャーが求めるのはランサーなんだろう。だが、オレにしておけばいいのになんて殊勝なことは考えない。もしアーチャーが槍持ちのオレを好むというなら無理にでもオレの方に振り向かせるだけだ。少なくとも、今アーチャーを腕に抱いているのはオレだ。
〇
カルデアという今までにない形での現界をして戸惑ったことはいくつもあったが、筆頭がクー・フーリンが複数のクラスで召喚されている、ということだ。ランサークラスの彼には馴染みがあったが、召喚後にカルデアを巡っている時にランサークラスとキャスタークラスの彼に「「お、お前も来たのか」」と左右両側から話しかけられた時にはどうしようかと思った。よくよく見れば髪の色が僅かに違うし年齢も異なっているようだったが。ランサークラスの方は冬木で会ったランサーと同じように見えた。強いて挙げるならば冬木の時よりも若干若々しいというか元気があるように見えたが、私の気のせいかもしれないし環境のせいかもしれない。
キャスタークラスの方は静かな森を思わせた。マスターが話しかけている様子を見る限り、頼りにされているのだろうということは分かったが、ランサー程内心が見えない。知的という本人の言は半分冗談のつもりだろうが、実際彼のルーン魔術は横で見ていて興味深かった。フードに隠された表情は読みにくかったが、むしろランサーとよりも話しやすかったぐらいだ。ランサーとはどう接していいのか分からなかったからというのもある。他の現界で幾度も顔を合わせているが、同じマスターを持つ仲間としての接し方なんぞ心得ていない。ランサーが記録を持っているのか分からなかったのも気まずさの一因だ。ランサーとはかつて恋人関係だったことがある、ようだ。記録として残っているのが確かならば。摩耗していたり記録を持たないまま現界していたりするならばともかく、記録があるということは事実なんだろう。魔力供給だけするような関係ならばむしろ割り切れたのかもしれないが、記録には甘ったるい行動も残っている。自分から動いたものも、ランサーから仕掛けられたものも。かつて恋人だったという事実だけ持ったまま顔を合わせるのは奇妙な気分だった。
カルデアのランサーを好ましく思わないのかと言えば嘘になる。ただ、戦闘時におけるしなやかさだったりさっぱりとした性格であったりという、あくまで戦士として良いという話だ。此度の現界は此度のもの、と割り切ればいいのかもしれないが、これも浮気になるのだろうか。慕うという意味ではむしろ。
「なーに考えごとしてんだ?」
「キャスター」
思わず驚いて声を上げる。キャスター、と言うと別の時空の別のキャスターも思い浮かんでしまうのだが、今更真名で呼ぶのは気恥ずかしい上に紛らわしい。そしてうっかりランサー等と呼ぼうものなら、どうせ槍は持ってねえよと拗ねるに決まっている。断じて今カルデアにいるランサーと混同している訳ではないのだが、どうにも過去に会ったランサーと重ねてしまうのだ。ランサーにもキャスターにも失礼だろうと思いつつも。
「珍しいな、君が私の部屋に来るなんて」
いつだって快く出迎えてくれるが、普段ならば私が訪れることでしか添い寝は始まらない。
「ま、ちょっとな」
ベッドに腰かけて私の肩に頭を擦りつけて来るのがくすぐったい。素直に甘えてくるのも珍しいが、キャスターとしてならば時々こういった姿を見せた。
「全く君はかっこいいんだか、かわいらしいんだか良く分からないな」
「ほう。ちなみにどっちが好みだ」
「さてな。今の君は犬のようだとは思うが」
じっと見つめられるのを見返す。怒るような男ではないはずだがどうしたのだろう、と思っていたらニタリと笑みを浮かべる。
「どっちかって言うと狼なんだわ」
不穏なことを言って押し倒して来るが、力はあくまでも加減されている。
「随分と優しい狼さんじゃないか」
笑いながら止めようとした腕を掴まれる。
「なあ、アーチャー。聞きたいことがあるんだが」
のしかかりながらも聞いて来る口調はあくまで優しい。ああ、やはり私は他の誰でもない、この男を好いているのだなと思う。
「なんだね」
瞳を伏せるのさえサマになる。逡巡するような様子なのをやはり珍しいなと思いながら待った。
〇
アーチャーはじっとオレの言葉を待っていた。冬木の、クー・フーリンランサーとのことは覚えているのか。何度も聞こうとしたことを問いかけてやはり口を閉じた。怖気づいている訳ではない。聞いた上で一体何を引き出そうと言うのか。迷っているオレの代わりに口を開いたのはアーチャーの方だった。
「私は、ランサーと付き合っていたことがある」
「あ?」
単なる唐突な話に対する疑問の声だったのだが、アーチャーは批難されたと受け取ったのか肩を竦める。
「君にとっては不快かもしれないが」
「まあ、多少は」
オレの記録としても残っているが、アーチャーが想うのはランサーの方だろうからな。過去のランサーに思いを馳せるならばともかく、カルデアのランサーのことを慕われたくはない。
「カルデアではないどこかの時空の話だし、混同はしていない。ここのランサーに記録があるかどうかを聞いたこともない。あったとしても私はランサーに対して懸想はしていない。向こうも当然私に対する良い感情は持ち合わせていないだろう。私は戦闘においては信頼しているが……本人に言うなよ」
釘を刺されるが、言ってやる訳がない。というか、何か勘違いをしていないだろうか。
「待て、不愉快ってどういう意味で言っている」
「不愉快というか、不快だろうと。自分が私と付き合っていたとなれば気分の良いものではないだろうと思ったんだが?」
溜息を吐きそうになるのを飲み込んで、アーチャーの身を起こして肩を掴む。
「いいか。オレが言っているのは『ランサー』とそういう仲だったのが面白くねえって意味だ」
「だから」
「自分に妬く程つまらねえこともないがな」
は、という言葉を漏らしたままアーチャーは口を開けている。口づけで塞いでやろうか、と考えているうちにアーチャーの肩に乗せていた手が熱くなってきていることに気づく。顔色では分かりにくいが照れているらしい。
「その、まるで、君が私のことを大切に思っているかのように聞こえるんだが?」
「その認識で合ってるが?」
アーチャーの体温はなお高い。
「いや、君が? そんな素振りなかっただろう」
「オレは槍持ちとは違って無理矢理どうこうしようとは思わないんでね。機会を伺ってただけだ」
「ランサーもちゃんと状況は読むと思うが……とりあえず待ってくれ。予想外過ぎた」
オレを押し退けようとする手を摑まえる。
「考える必要なんざねえだろ。お前がオレをどう思ってるのかってことさえ分かればよ」
「どうもこうも……」
アーチャーのよく回る口は止まってしまったらしい。ランサー相手ならば皮肉の一つでも飛ばしたろうにな、とまた考えてしまう。
「なあ、なんで過去の話なんかしたんだ?」
「君がランサーと私の関係を気にしているようだったから……」
「オレに弁解しておきたかった?」
振り解くことなど容易かろうに、オレはアーチャーの手を握ったままでいられている。
「別に恋人同士ではないのだから、弁解の必要など」
「ねえけどな。でも、オレが気にするだろうと思って言ったんだろ? オレのことを慮ってくれたワケだ」
「だとしたら何か問題があるか」
開き直ることにしたらしい。ふんっと顎を突き上げる様子も愛しい。
「問題なんざねえよ。ただオレが嬉しいだけさね」
隠し切れない喜色を滲ませて笑ったら、アーチャーは今度ははっきりと分かる程顔を赤くした。
〇
「どうした、マスター」
廊下に面した扉の前で佇むマスターを見かけて声を掛ける。アーチャーの部屋のはずだが、マスターが入るのを躊躇う理由があるだろうか。マスターは驚いたようにびくりと肩を震わせた。
「なんだあ?」
「キャスニキがエミヤの部屋に入って行ったの」
「つまみでも頼みに来たんじゃねえの?」
「でも、三十分ぐらい出て来ないんだよ!?」
「いや、三十分も見張ってたのかよ」
思わずツッコむ。マスターだって忙しいはずだが。
「何してるのか気になっちゃって。ねえ、何だと思う?」
「大したことはしてねえと思うぞ」
そう言えば三十分程前、恐らくアーチャーの部屋に行く直前だったのだろう、難しい顔をした槍なしのオレを見掛けた。多分アーチャーを口説き落しに行ったって所だろう。
「気になるんなら、声掛けりゃいいじゃねえか」
「邪魔しちゃわないかな。えっというか、部屋から出られる感じなのかな?」
「動けねえような状況にはなってねえよ多分。まあ、開けたら槍なしのオレには睨まれるかもな」
横槍を入れたら、マスターよりもとなりにいるオレに飛び火しそうだが。
「あっキャスニキもエミヤのこと好きな感じなんだ?」
あ?とガラの悪い声を上げてしまう。
「も、ってなんだ」
「エミヤはキャスニキのこと好きだよね? エミヤ、嘘つかないでしょ?」
クー・フーリンの中なら誰が良いか、とか言ってたやつか。
「いや、アイツは嘘というか、煙に巻くようなことは……いや、マスターにはつかねえかな」
必要とあればマスターでも騙す、という印象があったが、カルデアでは穏やかに感じる。案外真実かもしれん。
「槍ニキはエミヤ取られちゃっていいの?」
「取られるも何も、此度の現界ではオレのじゃねえ」
「こたびの現界では、ねえ」
「いちいち拡大解釈すんじゃねえよ」
楽しそうなマスターに苦笑する。
「ねえ、いつ出て来ると思う? 朝かな?」
「マスターが期待してるようなことはねえと思うぞ。アイツら、やたらプラトニックというか、モダモダやってる感じだからよ」
「あーそういうのもあり。想いが通じれば満足ってパターンでも大事にし過ぎて手を出せないみたいなパターンでも。でも、クー・フーリンズって動くの早そうなのに」
「敏捷性落ちてるからじゃねえの」
シュンッと聞き慣れた音がしてマスターと顔を上げる。不穏な笑顔の槍なしのオレが立っていた。
「あ、出て来た」
「あのなあ、好き勝手に言ってんじゃねえよ」
「あれ、扉越しなのに声聞こえてた?」
お、雲行きがやべえなと思って後ろに下がろうとしたら、いつのまにか背後にアーチャーが回っている。
「外の状況分かるようにしといたんでな」
「ひそんで部屋に籠るようなことをしていた、と」
この状況でまだ妄想出来るのか、マスター。
「はいはい、好きに考えろよ。実際、恋人同士なんでな」
自慢げな槍なしのオレに、アーチャーからの照れ隠しだろう拳がオレの肩越しに飛んでいた。