「戦略論」としても自衛隊派遣はできない
松原氏は言う。
「揺れ続けるトランプ氏に対し明確な姿勢を貫いたのであれば、共同声明は出せなくて当然です。本来、この会談の最大のテーマは日本外交の柱である『自由で開かれたインド太平洋』について強固なコミットメントを再確認することでした。ところがアメリカの軍事力は物理的にも戦略的にも中東に照準を移動させています。同盟国としてトランプ氏に中国問題の危機を訴えて関心を引き戻すことができるのか。それこそが本質的な焦点でした」
しかし、会談ではイラン情勢やエネルギー問題について多くの時間を費やし、対中問題については「今後も日米で緊密に連携することを確認」するにとどまった模様だ。
イラン情勢を巡っては、トランプ氏は会談前から日本など複数の国を名指しし、ホルムズ海峡へ艦船を派遣するよう求めてきた。16日には「米国が何年も助け、恐ろしい外の脅威から守ってきた」「熱意をどれだけ示すかが重要だ」、さらには「海峡に経済を依存する国々には血の代償を払うよう、我々は強く促す」とまで述べて艦船派遣の圧力を強めた。
こうしたトランプ氏の姿勢をもとに、政府内では艦船派遣について慎重な検討が進められた。2016年に施行された安全保障関連法に定められる「存立危機事態」や「重要影響事態」への認定は難しく、自衛隊法82条に基づく「海上警備行動」でも武器を使用して防護できるのは日本関係船舶に限られるため、外国船舶の護衛はできないという制約がある。
首脳会談後、高市首相は記者団に対し、トランプ氏からの要求内容は明らかにしなかったものの、「日本の法律の範囲内でできることと、できないことを詳細に説明した」と述べた。松原氏は続ける。
「国内法の問題から自衛隊を出すのが難しいという原理原則論に留まらず、戦略論として今の日本に自衛隊をホルムズ海峡に送る余裕などありません。アメリカがイランにかかりきりになる中で中国軍が台湾周辺で活動を活発化させており、周辺警戒を手薄にすることはできないからです。高市さんは『できないことはできないと言う』と言っていましたが、『できない』理由付けとして対中国の戦略論まで踏み込んで説明できたのでしょうか」